422:いざ二十一層へ
応接室を後にして一階に下りる。一階には……やはりというかなんというか、平田さんと横田さんが居た。どうやら朝一査定に来たらしい。
「おはようございます。夜の分の査定ですか」
「これは安村さん。これからご出勤ですか。我々はとりあえず今日で一旦休みですわ。もう一回トライして十五層から直接帰ってきて一旦地上に出てお休みってところです」
「私たちは今から深層探索ですよ。今日一日で巡り切れるかは解りませんが、潜れるところまで潜ってしまおうと思いまして。良ければ戻りは一緒に行きますか? 少なくとも七層まで行かれるんでしょう? 」
「そのほうが魔結晶の節約になりますからな。良ければ是非ご一緒に」
「ではご相伴にあずかります」
どうせ行き先は同じなのだ、一緒に行っても行かなくても変わらないなら一緒に行って電気代を節約していこう。
入ダン手続きを宿泊予定で行い、ダンジョンの中に入る。今日もスライムは時々雷撃で焼く程度にしていく。今の時間は他の探索者も居るし、その取り分をもぎ取っていく理由はない。
「そちらは進捗はどうですか、順調に進んでいますか」
「順調に進んでくれれば今日中に……ってとこですね。十九層から二十一層まで近い位置に階段がある事を願うだけです」
「つまり十八層までは終わったって事ですか。あと半分ですね」
「いやぁ、ここからがまだ未知のゾーンなので気を使わなきゃいけない所だと思ってますよ」
「ダンジョンハイエナってそんなに危ない相手なんですか? 」
芽生さんが疑問を投げかける。たしかに動画を見る限りではそこまで苦戦する相手には見えなかった。やはり情報不足で何か特殊な動きをしてきたりするんだろうか。
エレベーター行き御一行はそのまま一層の奥、エレベーターの前に着き、角を取り出して起動。魔結晶を放り込むと七層行きのボタンを押ししばし待つ。話題は十九層以降だ。
「とにかく素早いのがネックですが……お二人なら何とかなるんでは? 」
「一対一ならいいんですが……二十層だと多分それ以上出てきますよね。その時どうしようかなって」
「えーと……小西ダンジョンの難易度を考えると四体ぐらいまとめて来ても不思議はないですね。十九層なら他のモンスターも三体以上出てくるかもしれません。一対一にどう持ち込むかが肝になるかもしれませんね」
同じことを考えているようだ。やはりスキルをフル活用して足止めをしつつその間に一匹ずつ処理していくしかないな。お互いのスキルが上手く作用してくれることを祈ろう。ダメだったら戦術を構築するまで十九層でしばし足踏みする事になるだろうが、それでも確かな一歩だ。
「まぁ……色々と考えておきますが、実践よりもいい経験は無いですからね。まずは何回か戦ってみてそれから考えましょう」
「それが一番ええと思いますよ。気張ってください」
七層に着いた。ここで二人とはお別れだ。二人が下りると再びドアを閉め、十五層のボタンを押す。二十一層にもエレベーター欲しいな。ただその場合、十五層から二十一層へ下りたことが無い人が二十一層へ直接行けるようになるって事にもなるな。その辺はダンジョン的に好ましい事なんだろうか。
そこは俺が考える所じゃないな。ダンジョンマスターに希望だけ出して受けてもらえるかどうかは彼次第か。
……いや、二十一層へたどり着いてからの事を考えるのはまだ尚早だな。道中をなめている気がする。今は十九層二十層を踏破する事に集中しよう。
「とりあえず十八層まではある程度の距離も方角も解っている。その分ドローンの使用回数は減らせるので最悪二十層から歩いて戻る事になっても何とかなるだろう。十九層と二十層がよほどいやらしいマップじゃない限りは何とかなるな。前回は結構使ってたからな。もっと省エネに回れると思う。バッテリー買い足したつもりだったが、より安定を目指すならもっと数を持ち込んで対処する事も考えるべきだった。いっその事十個ぐらい買い足しても良かったな」
「貧乏性ですねえ。もっと豪快に使っても経費で落とせるんですから」
「う~ん、今から調達してリトライするのもあれだし、今日は行ける所まで行こう。ダメだったらまた次がある、いつでも来られるんだから無理に今日通過する必要もないか」
「肩の力を抜いていきましょう。案外気楽に行けるかもしれませんよ」
「そうなる事を願うしかないな」
十五層に着いた。早速エレベーターホールにいるスケルトンをいつもの処置で倒すと帰り道半分の魔結晶は確保できた。十六層に行くまでにスケルトンは二十体近くいるのでその辺の補充は問題ない。それに十六層でもたくさんいるのだ。エレベーター問題は気にしなくて良いだろう。
いつも通りボス部屋の前を通過しつつ、十六層への階段をゆっくり焦らず進んでいく。もはや戦い慣れて戦闘パターンも解り切った骨ども相手に苦戦はせず、歩きぬけるついでに倒していくような感じでもって先へ進んでいく。
十六層への階段にたどり着いたときにはもうエレベーター二往復分ぐらいの魔結晶が溜まっている。これをそのまま保管庫に入れておいて茂君を倒すときにも有効活用しよう。
十六層の階段を下りると、下りたところに骨グループ。さっくりと倒して今日も最短経路で通り抜ける。ここは本格的に回るとかなりの収入になる事が見えている。何せ誰かしら何か落とすのだ。狩れば狩るほど収入が増えるし経験値的な物も溜まっていく。
本当はここでしっかり力をつけるのが良いのだろうか。力不足を感じた時に是非そうしようと思う。質より数だ。バトルゴートを百匹倒すよりもスケルトン達を三百匹倒すほうが多分早く強くなれる。バトルゴートを百匹倒す時間も考えると十六層は稼ぎ効率がいい。
小部屋もしっかり回りつつ巡回ルートを設定する事で、かなりの稼ぎを見出すことができるのではないだろうか。その内手が空いたらまた一日でいくら稼げるか試してみよう。いやその前に十七層以降とも比べる必要があるな。ちゃんと下に潜っても稼いで帰ってこられるのか。
三叉路を抜けて北側の回廊へ。最短で回っているのでそれほど稼ぎは無い。稼ぎは考えないがいつもそこそこ良い稼ぎが帰ってきているところを考えるに、収入は悪くないという事だろう。
「ここも歩きなれた道になりましたねえ」
「地図作りに何回か歩いて、十七層へ行くために通り抜けて。大体モンスターがどこにいるかも頭に入ってきた。地図無しで迷わず来れるころにはこの階層は卒業だろうな」
「せっかく覚えたのにもったいない事をするような気がします」
「日帰りであっさりかつ確実に稼ぎたいときには大活躍するさ。一層からすぐ来れるし」
実際朝九時にダンジョン開いてほぼ十時に仕事が開始できる十六層である。これがエレベーターなしの場合、精々三層か四層あたりを移動しているのが通常だ。そこからたとえば九層まで移動するには、たとえ休憩時間を抜きにしても更に二時間半を要する。
この一時間半の移動時間の差でどれだけ探索できるかを考えるとチートもいいところだ。仮にエレベーターが七層までしかなかったとしても、まるっと六層分の移動時間を短縮できる。七層までに必要な魔結晶が五千円分ぐらいだと見積もっても喜んで乗る人は多いだろう。そのぐらいCランク以上の探索者の時給は高い。
「エレベーター情報が公開されたら激混みになるんだろうなぁ。なんせ地上からのアクセス一時間で絶好の狩場だし」
「儲けるなら今の内って奴ですね。どうします? 二十一層まで潜るの延期します? 」
「もうエレベーターは普通に使えるって報告しちゃったし、延期したところで道中の戦闘回数が増えるか減るかの差でしかないと思う。十七層までは開放するって話だけど、気になるのはその先だし」
十七層への階段前で最後の骨グループをあっさり倒すと、そのまま十七層へ。準備運動にはちょうど良い感じになった。強くなってる証拠だろう。
「結構手早く進めるようになったな。これも日々の鍛錬のおかげか」
「このマップ物理オンリーみたいなところありますからね。成長の結果が一番わかりやすいんじゃないですか」
「ここからはスキルも使って行くからな。とりあえず十八層まで頑張ってたどり着くか。バッテリー省エネで」
「方位磁石を頼りにしていくって事ですか? 私そこまで方向感覚良くありませんよ」
「時間を決めて進んで、そこからドローンで確認して細かく使って行けばいい。時間的な距離は大体わかってるしな」
「とりあえずマップの事は任せます。モンスターのほうは任されます」
「そんなにモンスター密度のあるマップじゃないし、直通する方向は解ってるし、気軽にいこう。ここで気を張ってたら十九層までに疲れてしまう」
気軽に行ける十七層。それをスローガンに進んでいこう。
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