419:一泊二日茂オプ有
飯後の休憩を終わり、また茂君に会う事二回。時間的にはもう三回ぐらい会える事になる。朝一ギリギリで上に上がる必要はないので、そろそろいいかな? と思うぐらいまでは頑張ろうと思う。休憩して仕事して休憩して仕事する。慣れた作業で苦痛は無い。
ワイルドボアの肉も革も中々に溜まってきた。ダーククロウの羽根は体感で今十一キログラムぐらいある。エコバッグに詰め込んでいるのでハッキリとした重さは解らないが、一回一キログラムぐらいのペースで狩れているし、一泊ゆるゆる探索としては悪くない。
しかし、そろそろ眠気が近づきつつある。ここらで一回長めの休憩を取って体調を管理するのも大事だ。別に時間に追われている訳ではないので、好きなタイミングで仮眠に入る事は出来る。ここで寝ておくか。二時間ほどアラームをかけて仮眠を取る。
身体に疲れはほとんどない。実質茂君まで歩く時間だけが運動といった感じだ。体力を消耗しているかと言えばそれほど消耗していないだろう。これは単純に脳が睡眠を欲している証拠だ。枕を取り出してしっかりと眠る準備をする。
アラームは二時間にセット。ここでちょっと長い休憩を取ろう。もう若くはないんだ、半徹夜みたいなことをして体のどこかをいわせるのはちょっと避けたい。約一名分の布団の材料には十分に集まったが、ここでもう一押ししておくためにも羽根貯蓄は定期的に行っていくつもりだ。
値上がりが見えてる以上、今のうちに貯めておいて値上がりのタイミングで納品するという選択もある。ちょっとずるいがそれも儲けるための戦術と言える。明らかなタイミングで大量を持ち込むのは値上げのタイミングを待って納品してる事がバレバレなので、小出しで納品しつつしっかり貯めていくという形で行こうと思う。
さて……眠って起きて、また一回行って。それから朝食にするかな。まずは回復に一眠りしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
起きた。おはようございます。二時間で眠気はばっちり、そしてお腹もバッチリ空いている。しかし、食事前の一運動といこう。ハンガーノックを起こすほど動いていないし、食前の運動が脂肪の燃焼には良いと何処かで聞いたことがある。
とことこと六層を歩きながらバチッとしながらバシュっと投網して帰ってくる。戻った頃には良い感じにお腹が空いている。よし、これで気持ちよく朝食を食べることができるぞ。
何時もの朝食セットを作ってもぐもぐしていると、六層方向から新浜パーティーがこちらに向かって帰ってくる。どうやら下まで潜ってエレベーターで上がって帰ってきたようだ。
こっちに向けて手を振っているので、空いている手を振り返す。もう片方の手は今目玉焼きを作っている。……まずいな、目玉焼きを見られたらここで卵を割ったのかと勘違いされるかもしれない……いや、向こうもエレベーター使える事知ってるんだからそこをごまかす必要はないか。
「おはようございます……七層で目玉焼きでっか? 」
「私の朝食はトーストに目玉焼きですからね。出来れば地上でもダンジョンでも同じものが食べたいところでして。今日はそこに肉を挟みますけど」
「のんびりしてますなー。こっちはこの通りですわ」
戦果のほどを見せつけに来る。う~ん……雑感で百万というところか。人数割りするとそう多くはないだろうが、十三層でしっかり稼いできたならそのぐらいにはなるだろう。
「お疲れ様です。受付嬢が喜んでましたよ。おかげで黒字になりそうだとかで」
「それは何よりですな。こっちも一層から七層の移動時間をそのまま探索に当てられるんで大助かりですわ」
ウルフ肉を一パック取り出すと、目玉焼きの次に焼いていく。軽く両面に焼き目を入れるとそこに醤油を一たらし。そして目玉焼きと一緒にトーストで挟む。トースターがここにあれば食パンと他の物を一緒に焼けて時短になるんだが……やはりホットサンドメーカーで時短を目指すのも有りか?あれなら中身を軽めに焼いて置いてから丸ごと温められる。
今後気楽に食事を楽しむために、肉とチーズというシンプルなホットサンドも悪くない。やっぱり買って保管庫に入れとくか、そんなに高いものでもないし。メモっておこう。
「安村さんはこれから上がりですか? 何ならご一緒します? 」
「いや、私はもう少し粘ります。一晩泊まり込みとは言えそんなに稼いでるわけでもないですし、朝食食べて朝一で帰るってのも変な話ですからね」
「確かに。じゃ、我々は仕分けがあるんでこれで」
自分のテントへ帰っていった。一緒に帰っても問題ないが、そうすると大量の羽根を抱えたまま移動して家まで帰る事になり、色々と面倒事が増える。どこかのタイミングで羽根を隠してしまいたい。その為に一緒に行動するのはためらわれる。ごめんな。
チラッとテントのほうに目をやり、ここまでのがんばりが山となっているのを確認する。さてどう運んだらバレずに移動できるかな……今のうちに四袋分ぐらいは保管庫に消してしまってもバレないだろう。
食事を終えるといつも通りコーヒーを飲んで、完全に目を覚ましたところでもう一回行って帰ってくる。あと二回ぐらい行って帰ればほどほど良い時間だな。
アラームが鳴り時間が来て再度六層に向かう。都合二回繰り返し、帰り支度を始める。とうに開場時間は過ぎているのでそろそろ上から七層へ向けて歩いて下りてくる人が居てもおかしくない。
ざっくり計算すると、茂君一回と足元のワイルドボア達二十数匹で同じぐらいの値段になる。今回はその半分の収入が無かったことになる。ちょっともったいない気がするが、元々六層は力量にあった階層ではない。
この六層自体俺にとっては弱い者いじめみたいなところがある。本来ならたとえソロであっても九層あたりをグルグル回るのが標準からそれ以下になるぐらいだ。十層の数が多すぎて通り抜けられない問題はさておき、ここで自分の狩場を主張したり周回するのはマナー違反であると言える。
小西ダンジョンはこれから人口が増えるだろうと予測できるダンジョンになっている。エレベーターの件が公開されれば七層は通り道なので当然人が増えることになり、十四層も十五層周辺向けのキャンプ地として人口が増える。七層で下層のドロップアイテムを買い求める企業や人だってでてくるんじゃないか。
そうなった場合俺は六層と七層を往復してうろつくだけの怪しい人物になり、保管庫の事も隠すことは非常に難しくなるだろう。
まだ人がいないからそれが出来るだけで、人が増えたらダーククロウの処理は他の人も行うようになるだろうし、そうなったら布団の山本へ行って狩場と自分の戦力の都合で仕入れるのが難しくなりました、とハッキリ報告をしてしまうほうが良いだろう。
最後の一回、と六層へ向かうと、階段の辺りでパーティーとすれ違った。見覚えのない顔なので七層目当てに来た他所のダンジョン客らしい。人とすれ違うという事はその後ろのモンスターは狩られ尽くしたと考えるのが普通であり、予想通りワイルドボアはほとんど湧いていなかった。
茂君が茂っていたのが助かった点だが、ちょっと歯切れの悪い幕切れになってしまったな。まぁ一晩分しっかり稼いだのでいいか。
七層に戻るとエコバッグをまとめ荷物を片付け、両手でうんとこしょと持ち上げる。さすがに全部持てはしないのでいくつかは保管庫にしまい込んだ。精々四袋ぐらい抱えていれば見た目的には誰かに見られてても問題ないだろう。
周りを見るとさっきすれ違ったパーティーがコンロを囲んで小休止しているらしい。そのまま住み着いてくれると人口が増えて嬉しいところだが、荷物の少なさから見て今日からここに住みます、的なことにはならないだろう。
六層側の階段からエレベーターへ。ふと思いついて、スケルトンの代わりにワイルドボアの魔結晶をいくつか入れてみる。十個になったところで一層へのランプが付いた。どうやらワイルドボアの魔結晶十個でスケルトンの魔結晶三つ分と同じエネルギーを持つことができるということか。査定の金額から考えると、ほぼ同じ金額だと言えるので、粒の大小にはあまり変わりはないのだろう。
ワイルドボアの魔結晶を十個手に入れるには二回茂君に通う事が必要だから……四回通えば往復分の魔結晶を自前で調達できるな。次も使うかどうかは解らないが覚えておこう。
エレベーターの中で荷物をまとめ、両手に羽根以外を持つ。背中のバッグには羽根を目いっぱい詰めて偽装もできた。一層に上がり、待ち伏せは……居ないな。よし、クリアだ。あとは地上に出て査定を終わらせるだけで今日の行程は無事終わる。
一層ではスライムに目もくれず真っ直ぐに外へ向かう。この道順で出入口に戻るのはエレベーターの存在を知る人しか居ないのでまず出会う事はない。安心して出入口に向かう。何時もスライムを狩っている人……俺より潮干狩りおじさんやってるような人を横目に初代潮干狩りおじさんが退ダン手続きをする。
「お疲れ様です。いつもよりゆっくりでしたね」
「キリが良いところまで頑張りたかったもので」
二、三いつもの言葉を交わすと査定へ。仕分けしてあるので査定も早く、五分かからずに結果が帰ってきた。十八万七千七百八十五円。
一泊二日としてはまあそれなりだ。多くは無いが少ないとも言えない。だがこれにダーククロウの羽根の卸価格を加えると倍以上の収入という事になるので、見えてる数字よりも実際にはもっと儲けている。ただ、使った精神力と体力に見合っているかどうかは……ちょっと考えたくないな。
その気になれば仮眠込みで四層でひたすらグルグル回りながら己のスキルと限界を磨きつつ走り回るという事も出来るだろうが、それなら九層を回ったほうがより効率的だろう。今度は九層で己の限界にチャレンジしてみるか。
念のために支払い時に何か言伝を頼まれたりはしてないか確認するが、今のところはないらしい。やはりお役所仕事、昨日今日でハイできましたという訳にはいかないようだ。これは思ったより時間が空くかもしれないな。その間に十九層へ潜ってトライアルを仕掛けるとしよう。
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