417:先行き相談~まだ見ぬ階層に向けて~
引き続きダンジョンハイエナ関連の動画を探す。戦闘している動画をいくつかと、ダンジョンハイエナがバトルゴートと喧嘩している動画が見受けられた。どうやらダンジョンハイエナはあのバトルゴートの毛の滑り具合をものともせず噛みつくだけの力があるらしい。
バトルゴートも一方的にやられるわけではなく、横へ回り込んで角で刺し返したりすることもあるらしいが、大抵の場合ダンジョンハイエナが勝つようだ。ダンジョンハイエナ側が集団である事もあるだろうが、両者の間にはそこそこの力の差があるらしい。
力尽きたバトルゴートはダンジョンハイエナに捕食されている。食われたらしい部分が黒い粒子として散らばる。どうやらダンジョンモンスター同士の争いではドロップ品は出ないらしい。これも不思議なことだ。
ダンジョンハイエナ側もバトルゴートを捕食し黒い粒子を補充しているように見えなくもないが、これもバトルゴートやレッドカウが草を食むのと同じで単なる動物的習性なのかもしれない。もしこれで本当に強くなるなら、ダンジョンハイエナにはかなりの幅で強弱が存在する事になる。
これだけ強靭な顎なら立派な牙やあごの骨がドロップするのかとも思うが、そういう訳ではなく落とすのはヒールポーションランク3と魔結晶だけ。素材じみたものは落とさない。
一旦動画から目を離し、相談を始める。勿論内容は十九層、二十層をどうやってくぐりぬけるかだ。
「さすがに二十層まで潜るとなると、階層ごとに小休止を挟んでいく必要がありそうかな。十層があの密度だったことも考えると二十層も結構密度が高いかもしれない」
「草原の真ん中で鍋を囲むというのもオツなものかもしれませんが食事に集中して警戒を怠るという事もありますし。手軽にカロリーバーで行きますか」
「なんか手軽に美味しく食べられる方法を考えておくか。片手で食べれる……朝食セットのサンドイッチでも作っていけば手軽に小腹を満せるし何とかなるな。飯の問題は解決できそうだ」
ふむ……ホットサンドという選択肢が今になって出てきたな。かといってホットサンドメーカーを買ったとしても使うかどうかはまた別の話。普通にトーストして具を挟んで終わりにしておくのでも全く問題ない。
「で、予定的には次回で二十一層まで潜るつもりですか」
「二十層のモンスターの湧き具合にもよるけど、行けるなら行ってしまいたいなぁ。それで一つ肩の荷が下りるわけだし」
「じゃぁ早いとこダンジョン庁から模範回答集貰わないといけないですね」
「次の次、ぐらいになるかな。受け取り次第連絡はするのでその後だな。それまでは深く潜らずに羽根集めでもするかなあ」
続いて十九層と二十層の差についてしらべる。やはり二十層のほうがモンスター密度は濃く出来ているらしい。そしてダンジョンハイエナも三匹から四匹の塊で襲ってくるようだ。雷撃がどのくらい効果的かにもよるが、場合によっては射出も組み合わせて行くことになるのは間違いないようだ。
この動画のダンジョンだと、二十層の広さは十九層とあまり違いは無いようだ。つまり十七層から二十層までひたすら広い草原をドローンを飛ばしながら探索していくことになる。
「ちゃんとドローン出し入れする暇のある程度の湧き具合だと良いんだけどな。十層みたいに落ち着く暇もないような場所でない事を願いたいんだが……行ってみない事には解らんな」
動画が撮影されているダンジョンの広さにもよるのだろうが、視界内に常に二、三グループのモンスターが見えている事を考えると二十層では連戦になる事も考えておかなければならない。特にダンジョンハイエナは体力と集中力を消耗させられそうなので連戦になるとこっちが不利だ。
「小西ダンジョンはモンスター密度が高いのが売り……か。一回で行けるかなぁ」
「行ってみてダメなら帰りましょう。それで良いと思います」
「そうだな。うっかり十九層の探索で手間取って到達できないなんて事もあり得るからな」
「やっぱり下調べは大事ですね。次回はもっとうまく立ち回れるようにしましょう」
「十九層から二十層への階段を見つけて、その時点で時間と自分の体力と相談して、そこからもう一歩頑張ってみるって事で良いかな」
ちょっとした休みの時間が出来ることになるか。九層を巡るか、それとも羽根を集めるか。ソロでどこまで九層に潜るかチャレンジしても良いが、どっちが満足感を得られるかでしかない。
「最近、ソロ狩りのレパートリーが急速に狭まった気がする」
「清州へ行くか、茂君へ行くか、四層へ行くか、九層をぶらつくか、それ以外は……十五層を一人で回ってみるとかどうです」
「そこは急に難易度が上がった気がするな。そこまで無理して金稼ぎ……というものを目指すわけでもないから、やっぱり社会的に貢献できそうな仕事をやりたい」
「じゃぁ茂君でしょうね。一番誰もやら無さそうな相手ですし」
「他人の嫌がる事は進んでやりましょうってか。実入りはともかくそう言われると悪い仕事じゃないな」
「私は二、三日空いててもそれなりにやる事はありますが、洋一さんはダンジョン潜る気満々ですよね」
「何なら今から一泊潜っても良いぐらいの気概はある。どうせ書類を受け取るために小西ダンジョンには向かわねばならんのだし、ついでだな」
当日受け取ってじゃあ行ってきますではなく、書類を読み込んでどういう方向性の質問をすればいいかを吟味する必要があるし、質問する以上出されたものをそのまま伝えるのでは情緒も無い。何より友達にいきなり直球を投げるのは失礼に値する。その心構えをするためにも知るべきは知っておく必要がある。
「ま、とりあえずしばらくは開店休業かな。ダンジョン庁から文章が回ってきたら本格的に潜る。それまでは……適当に日銭を稼ごう。十六層を回るのと十七層を回るの、どっちが美味しいかも調べたいし、あのハイエナ相手にするために少し強くなっておきたいし」
「やる事が無いではない、といったところですかね。私としては……布団が欲しいです。やっぱり自分のが欲しいですね。一晩眠って実感しました、こいつはやばいです」
「だろ? もう戻れなくなりそうだろ? 枕だけでは我慢しきれないだろ? 」
「最近大きな買い物もしてませんし、ここらでドーンと、経費では落ちませんが大きな買い物をするのも良いと思ってます。その為に羽根集めを頑張ってもらわないと」
「ならまた一泊して一晩かけて羽根集めか……あぁでも今は結衣さん達居るから大っぴらにはやりにくいかもな……エコバッグに分けていそいそと運ぶか」
「賑やかさが嬉しくもあり悲しくもありってところですか。結局保管庫を隠しておくとそういう行動規制がかかるあたり、小西ダンジョンに人が増えるのも困りものかもしれませんね」
「さすがにテントの中までは入り込まないだろうし、表に外出中と貼り出しておけば居ないと解ってくれるだろう」
探索者の暗黙のマナーとして、他所のテントには入り込まない、一言声をかけて返事が無ければ諦める、といったものがある。その為にテントの前に外出中だの地上へ行ってますだの仮眠中だのを主張する事になっている。お互い活動時間が被る事はあんまりない。その点で言えば小西ダンジョンでは人が少ない分お互いの行動を阻害しないように活動できている。
「うーん。とりあえず明日は茂君で一泊だな。八キログラムぐらいは目指したい。今在庫が……五キログラムあるな。合わせて十三キログラムか。確か三割から四割位を布団用に利用すると言っていたから夏布団なら五枚分ぐらい行けそうだ」
「それが一番話が早いなら是非それで。出来上がるまでは……自宅の布団で我慢します」
「じゃ、そういう事で。とりあえず打合せする事は……思いつく限りではこのぐらいかな。この後どうする? 必要なら最寄りまで車で送っていくけど」
「いえ、なんか元気いっぱいなので自力で帰ります。特に荷物も多い訳ではありませんし。お願いするなら布団の受け取りをする時ぐらいですね」
芽生さんの中では布団を作るという事がもう確定路線らしい。お金の使い方に口を挟むつもりはないので好きにしてもらおうと思う。しいて言うなら納品と注文の時に一緒に行くぐらいか。
「よし、とりあえず今日は解散だ。ゆっくり休みを満喫してしまうとしよう。この後予定も無いし、どうもワーカーホリック気味だから暇つぶしに悩むぐらいにはダンジョンに潜りたいと考えている」
「前に教えてもらった布団屋さんでお話をつけようとは思ってますが、身内割引か身内横入りが使えそうなら使いたいのですが」
「じゃあ納品に行く時に一緒についてくるか。それでなんとか顔つなぎって事にしてもらえるか相談しよう」
「そうしてくれると助かります。じゃぁ私はこれで。一晩お世話になりました」
玄関まで丁寧に送りだす。一応お客様だからな。お客様扱いするような人が来たことは……最後に来たのは両親の死んだとき以来じゃないかな。人里離れた訳でもないのに孤島化しているように感じるな。
「忘れ物は無いよな? もしあったら次ダンジョンで会う時に渡すわ」
「無いと思います。ではこれで」
軽く会釈をすると芽生さんは帰っていった。さて、やってない片づけをして布団を軽く干してシーツも洗って昼食と夜食の確保をしたら……一晩ダンジョン潜るか。でもその前に寝なおそう。もう少し寝てても良いと体が訴えている。
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