416:悩みは後回しにしたほうが良い事も稀によくある
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表立って使えないスキル、という意味では行使手段の中にあまり入れておきたくない射出だが、射出で全対応していくというのも不可能ではない。十層みたいに大量に出てきたら……いや、十層ぐらいならまだ行ける範囲か。
ぶっちゃけると【保管庫】をフル活用すれば二十一層への到達は遠い話ではない。明日にでもちょっと行ってくると言ってフラフラ出かけて帰ってくる力は充分あると思う。
ただ、そうやって誤魔化しを積み重ねていくほど表向きに見えている自分との乖離は続いていく。そうなった時にどうすればいいかを考えておく必要はあるな。何時、スキル保持を公開するか。いつ、誰に、どうやって。
「そろそろ隠し切れなくなってくるかもな、【保管庫】。そうなった時にどうするか真面目に考える時期が来たかもしれない」
パソコンから一旦視線を外し、天井を見る。シミの数を数えながらボーっとそれについて考える。
考えが纏まっている訳ではないので、思いついたことを言葉に乗せて伝える程度のものでしかないが、他人に相談したからこそ自分の考えがまとまる事だってある。言ってしまうほうが良い方向に転がる事だってあるはずだ。
「ドロップ品を深くまで潜って大量に持って帰ってくる。それも十八層まで、全てを持ち帰ってくる。薄々小西ダンジョンとしても気づいていても良いかもしれん。というか、ギルマス辺りはもう気づいていても不思議はない。ダーククロウの魔結晶は査定にかけても羽根は査定にかけてない。そのアンバランスさとか」
「じゃぁ、二十一層潜ったタイミングでばらしちゃいます? それともその後おいおいってところですか? 」
芽生さんはパソコンから視線を離さずに自分が気になる情報を調べているらしい。主に飯関連の動画を探し始めた。
「そうだなあ、でもできれば後二年は隠したいなあ。でもばらして堂々と使って行くのもありだしなあ。行動の自由を保障された上で使えるのが一番楽なんだけど」
「それって、私の為でもあったりします? 存在を知ったまま秘匿して一緒にダンジョン潜ってるってバレたらまずいと」
「それもある。悪い評判は立たないほうが良いしな。なんで俺とコンビを組んでたのか……とか邪推されるの嫌だろ? 」
レアスキル保持者のコンビ相手は二十歳年下。その心をつかんだ方法とは!? みたいな。そういうゴシップネタもコラムの中にはあった。小西ダンジョンはただでさえ話題が少ない。引っかかる人はそれなりに居るかもしれない。
「最悪わたしがワイドショーのネタになるんですか。見る分には良いですけど見られる分には最悪ですね。でも、【保管庫】スキル保持者は可能な限り微笑ましく見守るって条項ありましたよね」
「その通りではある。でも、それで守られるのは最悪俺だけ、ということにならないか? あくまでスキルを持ってるのは俺であって芽生さんじゃない。それにあの文面が有効だと言えるのはCランク以上の探索者に限られるし、一般メディアがそれを知っているかどうかについては疑問が残る」
「確かにそうですね。あくまでパーティーメンバーですから私まで守ってもらえる保証は無いですね。やっぱり私ワイドショー行きですか。希少スキル保持者を誑かした魔性の女扱いになるんですか」
ただ考えただけで答えが出るものでもないので、やはり第三者の意見が必要なんだろう。けど相談できる人が居るわけでもないし、その人を巻き込んでの悩みになる。これ以上知っている人を増やすというのも悪手になりえる。
「ダンジョンスローライフを続けて行きたいのは確かだ。最近大分いろいろ忙しくはあるけど。その為には保管庫スキルの隠ぺいは必須だ。そこまではいいとしよう」
「二十一層までたどり着いて、ダンジョンマスターから聞き出せる限界の事を聞き出して、それを報告して。その後どうするか、ですね」
「あのギルマスを信用してみるかどうかだな。多分そこにかかっている……いやまてよ。その手は大分使えるかもしれない。二十層で保管庫拾いました。覚えました。便利です。これでなんとか誤魔化せないか」
「そんな高価になりそうなもの覚えずに持って帰ってくる、なによりエレベーターあるんですからそれで帰ってくればオークションにかける事も出来たのでは? と突っ込まれたらどう返しますか」
「つい好奇心で覚えてしまったとかじゃだめかな。なんかいい方法はないかなぁ……」
またしても考え込む。ふと、ダンジョンマスターの名前を使わせてもらう事を思いつく。
「ダンジョンマスターが友好の証にくれた……これでどうだろう? 」
ダンジョンマスターなら何とかしてしまっても問題はないのではないか。
「随分太っ腹なダンジョンマスターですね。エレベーターまでつけてくれたダンジョンマスターならそれもあるかもしれません。でもそれならエレベーターの発電原理を教えてもらうほうが世の中のためになるんじゃないですか? それに【保管庫】まで渡されたならますます自由な行動が制限されて行くと思いますが」
「これもだめかー。いい案だと思ったんだけどなー」
「それを機に専属探索者として何処か大手のダンジョンに所属して最先端を戦い抜くハメになるのが関の山だと思います。スローライフからは遠のきますよ。特捜最前線ですよ」
芽生さんのダメ出しが激しい。だが確かにそれは一番やりたくないパターンだな。尤も、レアスキル持ちだからとホイホイ深く潜らせていくなんてことはしないだろうし簡単に失いたくもないだろうから順番に潜らせていくような形になるだろう。
「結局バレるまで先送りするのがマシかー」
「バレ方にも最良のバレかたと最悪のバレ方がありますからね。できるだけ最良を引き寄せられるようにするしかないですね」
「最良は……出来るだけ劇的な苦戦状況をスキルで助けてその流れでバレる……というお決まりの奴だな」
「最悪は万引きしたのがバレてとかですかね。できるだけしょーもない罪状でバレるのがポイントです」
確かに保管庫がある以上万引きも密輸もし放題だ。何せ実際に盗んだ物や運んだ物が出てこない以上立証のしようがない。しかし、ガムひとつ万引きして保管庫がばれて逮捕、なんてしょうも無さすぎる未来は御免だ。
「嫌な行動指針だな。普段人数少ないところで活動してるんだから今のところ最良のケースを引き寄せる可能性はほぼ無いと言っていいな」
「人前で大っぴらに公表するなら、もっと小西ダンジョンが栄えてくれないと条件が揃いませんね」
「劇的な苦戦状況といえば、スライム大量発生時も似たようなものだったな」
「そういえばそうでしたねえ。もうすでに一回こなしちゃって私にバレてるって事ですか。二回も同じ手段で達成しようというのはいささか困難ですね」
「なんかいい方法無いか……思いつかないな。思いつかない以上、自らバラしていくという案は没にするしかないな。聞かれた時にそうですよ、とサラッと答えてスルーするのが一番スマートな気がするな」
やはりバラしていくというスタイルは無しということになった。これからもコソコソと大胆に使って行こう。そういえば保管庫を隠すためにリヤカーも用意してもらったんだだからそれも無駄にさせてしまう。もうちょっとだけ、そうもうちょっとだけ隠させてもらおう。
「よし、保管庫の事はまた横に置いておこう。今は前だけ見て進もう。十九層二十層の情報をとっとと集めてしまおう。そんでもってごまかせるものはごまかしたまま行こう」
「そのほうが心の健康に良さそうですね。下手な考え休むに似たりでしたが、とりあえず前に進むために……追加で動画探しますか」
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