415:昨晩はお楽しみではありませんでした
朝チュンは無いよ
アラームをかけずに寝た。おかげで好きなだけ睡眠をとる事が出来た。気持ちよく目覚めると、もう胃の重たい感触は残っていない。寝ている間にすっかり消化してくれたようだ。消化吸収まで助けてくれたのだろうか。ますますありがとうダーククロウ。
時刻は……まだ日が昇っていないのでまだ夜中と言えば夜中だな。寝たのが早かった分起きたのも早い。多少の時差はできてもまぁしょうがないだろう。あのまま重い胃袋を抱えたまま眠るのを我慢するよりはとっとと寝てしまったほうが心の健康に良い。
芽生さんはまだ寝ているらしいがきっと晴れやかな顔して起きてくるだろうからそれまで寝かせておこう。その間に……もう一回シャワーでも浴びるか。まだ起きて来てないのをちゃんと確認して、風呂場にも誰も居ない事を確認。そしてもう一度シャワーを浴びてスッキリする。
目が覚めたところで牛乳を飲み、寝ていた内に失われたであろう水分を補充すると、適当にダンジョンニュースを閲覧し始める。
大きなニュースはここのところない。新しいダンジョンが現れたとか、既存ダンジョンが閉鎖されたとか、そういう話も無いようだ。平和が一番でよろしい。
ドロップ品の査定買い取り制度はおよそ半年に一度、価格改定を検討する事になっている。スライム騒ぎの件は緊急事態だったためあくまで特別処理だったらしい。探索者にとっては今年もその時期に来た、という受け止め方をするようだ。
ダンジョンドロップ品関連の近い筋の話として、ダーククロウの羽根、スケルトンの骨の査定価格の値上げとワイルドボアの革の値下げが行われるんじゃないかという話が出ている。革は肉のついでにかなりの数が出てるだろうからな。今は供給のほうが上回っているんだろう。骨は……各地でウルフ肉祭りが始まったのかな。
ダーククロウの羽根についてはやっとか、というイメージだ。そもそもギルドに卸してないので俺にはあまり関係が無いが、そうなると布団屋への卸しも値段に響く可能性はあるな。革はともかくダーククロウの羽根がいくらになるかは気になる所なので注視しなければならない。場合によっては大幅値上げもあり得るのでその分の買い取り価格の値上げもお願いできるかもしれない。
小西ダンジョンでもダーククロウ狩りが進むようになるかもしれない。俺の狩場も狭くなるな。一晩かけて張り付いて茂君を倒し続けてるなんて事も出来なくなるだろう。そうなったら俺は茂君を人に譲って大人しくしておくのがダンジョンパイセンとしての礼儀になるのか、それとも順番待ちになるのか。
なんだかんだで百万円近くの実入りを俺にもたらしてくれた。その分の恩義は感じているし、今のところ唯一社会的しがらみとの間を取り持ってくれている場所である。布団の山本が無ければ俺の世界はダンジョンとの往復だけで終わっていたのじゃないだろうか。……いや、それは職場と自宅の往復だけをしていた前職もあまり変わりはないか。
「おはようございます」
ハッキリとした声であいさつが聞こえて来た。お嬢様の御起床の模様だ。さぁ最高な布団の感想を聞かせてもらおう。
「おはよう。よく眠れたか……ってどうした」
枕を抱えたまま芽生さんが部屋に入ってくる。そして堂々と宣言した。
「私、ここに住みます。そして毎日あの布団を使います」
「それは色々と不味いし許可しないぞ。欲しかったら自分で買え」
「あんな気持ちいい眠りを体験したら普通の布団で眠れませんよ」
「大丈夫だ。眠たくなったら普通の布団でも眠れる。ダンジョンでは俺も普通に仮眠してるだろ」
「だってすごく自然に目が覚めたんですよ。しかも眠気無しで。カフェインキメ過ぎて頭がガンガンに冴えているみたいですよ。それに二度寝しようと思わない睡眠なんてこれ以上の気持ちよさは無いですよ」
これでまた一人ダーククロウ布団の魔力に囚われてしまったらしい。罪な奴め。
「で、また俺は茂君を複数回倒して布団用の羽根を集めに行かねばならんのか」
「頑張ってください、応援してます。保管庫で上質の羽根を産地直送できるのは洋一さんしか居ません。全ては洋一さんのそのスキルにかかってます」
「気軽に言ってくれるなぁ。とりあえず飯にするか。いつもの朝食セットになるがそれでいいか? 」
「昨日は食べ過ぎましたからね。あっさりシンプルなご飯のほうが美味しく食べられそうです」
了解が取れたことで何時もの朝食を作ってお出しする。昨晩の胃もたれも眠っている間に解消され、シンプルに胃に入っていく。が、念のためキャベツは添えておこう、消化に良い。
「いろんな意味を含めてですが男の人の家に泊まったのは初めてですね」
食事中のセリフではないと思う。が、適当に聞き流しておく。
「そういう時は手料理を御馳走しに来るものだぞ」
「私そこまで料理できませんからねえ。そもそも壮行会ですし、私はまだお客様ですから」
「へいへい……と、食べたら調べものだ。十九層に関する情報を集めよう。ダンジョンハイエナの攻略法があれば参考にしたい」
「素早いですから足止めできる手段が欲しいところですね。【雷魔法】がどのくらい効果あるか解りませんが、私の【水魔法】が当たるかどうかも未検証ですし」
「その辺の動画や文書があれば良いんだが……さすがに飯のタネは譲らない、みたいな人も少なくはないだろうし難しいかもな」
ネットニュースは一旦置き、Cランクネットワーク……これは俺が呼んでる通称だ。本当はちゃんと名前があるんだが長ったらしいし覚えにくい。覚えたとしてわざわざフルネームで呼ぶことも無いのだからこのままでいい。寿限無は高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンだけで十分だ。
芽生さんは遠慮なく俺の横にちょこんと座り、パソコンの画面を見ている。二人で検索ワードをああでもないこうでもないと言いつつ、検索ワードを絞り込んでいくことは出来た。
早速十九層、二十層の攻略動画や攻略に関して記述されているものを探す。動画で残っているものはいくつかあった。ダンジョンハイエナ相手に撮影しながら挑めるのはきっと腕のいい証拠なんだろう。そこまでの者にはまだなれないな。
「それハイエナじゃないですかね。上から三つ目の動画」
「どれ……そうらしいな、ちょっと見てみるか」
ダンジョンハイエナ二匹との戦闘だ。こっちは撮影者込みで……五人。一対二か。とりあえずの参考にはなるな。先頭のハイエナに向かってスキルが放たれる。おそらく【風魔法】だろう。見づらい刃が体を傷つける。だがまだ明確なダメージとは言い難く、スピードを落とさぬまま突っ込んでくる。相対する探索者がハイエナの噛みつきをギリギリのところで躱す。
そのままスピードを落としきれないハイエナが通り過ぎてもう一度向かってくる。また【風魔法】で牽制して相手のスピードを落とそうとする。二度目に噛みつかれそうになるが、さっきほどの助走距離が無い分ハイエナの動きも鈍いし【風魔法】のダメージも受けているようだ。探索者側が顎に向かって水平に切り込みを入れる。どうやら顎の力は強くても身体そのものにそれほどの強度は無いらしい。そのままスッパリと斬れてしまった。
ハイエナは耐久力はそんなに高くない。それは一回しかしてない戦闘でも見て取れた。やはり素早さをいかに封じるかを考えるほうが勝率は高そうだ。
他の人の動きを見る。噛みつかれているシーンが出ているが、どうやら俺の盾ぐらいだと噛み千切られる恐れがある事が解った。奴の顎の強さは並ではないらしい。インナー付きのツナギでも防ぎきれるかどうかは怪しいところだろう。
「感電させてスピードを落とすのは有効そうですね。ウォーターカッターがどこまで通用するかが気になる所ですが、近づく前に倒したいところです」
「手持ちを全部使い果たして勝てない相手という訳じゃないからな。射出で確実に勝てる相手である限りは問題ないと思ってる。なんなら全部こいつで対応しきってしまうのも手だ。戦ってる実感は少ないだろうけど、目的が踏破であるのか探索であるのか、それともまともな成長を見越しての戦いなのか。そこをどう自分で納得させるかだろうな」
次回の探索で十九層まで潜れるのは確実だ。おそらく二十層の階段まで見つける事も難しくないだろう。そうなると、より多数のダンジョンハイエナのグループと対戦する機会を得られるだろう。その時のために戦術を考えておかなきゃいけないな。
ここは射出を解禁してでも無理に突破するところかもしれない。十層だって最初はそうだった。なら二十層でもそうする事は……問題ないな。
【保管庫】か……こいつもいつまで隠し通せるかな。
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