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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第五章:自由を求めて深層へ

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413:報告としゃぶしゃぶ

 ギルマスに手短に用件を話す。時間も結構遅いので長い報告するのはためらわれるし、こちらにも予定があるので簡潔に話す事にする。向こうも手早く終わってくれないかと思っているだろう。


「実は十九層までの階段を発見したのでそれの報告と、以前言っていたダンジョンマスターへの質問内容についてそろそろ質問集をもらおうと思いまして。どのくらいかかりますか」


 ギルマスは少し考えている。予想より早かったのか、それともゆっくり探索をしていると考えているのだろうか。


「なるほど、二十一層への道が見えてきたってことだね。リストの作成はお願いしてあるから急ぎでリストをまとめて早急に渡せるよう手配しておこう……今日はもう遅いから、連絡だけは取りつけておくよ」


 今日はもう仕事をしたくないという感じが伝わってくる。俺も同じ気持ちだ。この後しゃぶしゃぶが待っている。


「よろしくお願いします。尤も、十九層から厄介なモンスターが出てくるので多少遅れることはあるかもしれませんがなるべく早めにこなしてしまいたいですからね」

「そっちの進捗に合わせられるように、二、三日中には渡せるよう手配しよう。用件はそれだけかね」

「緊急の話はそれだけですね。後はダンジョンマスターから何をもらうかですがエレベーターは外せないでしょうね」

「そうだな。二十一層まで気軽に潜れるとなれば小西ダンジョンも高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンに並んで二十一層まで、しかも向こうより早く潜れる形になるからね。これは収入に期待が出来るね」


 ギルマスは何としても黒字化を達成させたいようだ。赤字ダンジョンと呼ばれ続けた小西ダンジョンが黒字化したとなればきっとうれしさもひとしおなんだろう。


「今回は私も何か貰えるんですかね。前回は洋一さんの欲望のままに要求してましたけど私も何か欲しいです」


 芽生さんから意見具申。そういえば前回はほぼ置いてきぼりだったもんな。なんか欲しいよな。


「そこも考えておくべき点だね。何か疑問とか物質的なものでもあるなら考慮に入れよう。ギルドから報酬を出してもいいし、ダンジョンマスターに要求しても良い。これだけ貢献してくれたんだ、ダンジョン庁からも何か褒章を出せると思うよ。何なら二十一階層以降の探索を見据えてBランク昇格の際にギルドから口添えをすることもできる」

「そうですねえ、非課税のお小遣いとかあるならそれに越したことはないですね」

「非課税かー。非課税は難しいだろうね。ダンジョン庁で出せる金額はある程度決まっているけど……」

「芽生さんなんかないの、ダンジョンで使える便利な物とか」

「そうですねー……今のところお金ですかね。お金で買える幸せはお金で済ませるのが一番楽ですから」


 ブレないなーこの娘。そこには信頼をおける。確かに金は重要だ。あまり実感は無いが……いや、不安定なものの収入をしっかり得られている事で色々と助かっている。


「質問集を要求するついでに報奨金みたいな形でいくらか渡せるようにこちらからも尽力しておくよ。二十一層まで潜れるとなったら小西ダンジョンとしての評判は中々の物になるだろうし、そこまでエレベーターが出来れば二十一層を拠点にしてその上に上がって探索をして稼いで帰ってくることもできるはずだろうからね」


 ギルマスが全力で皮算用をしているが、肝心の探索者を呼び込むという方法については考えてないらしい。どうするつもりなんだろう。まぁ、なんでもいいけど。


「解りました。ではこの後予定があるので失礼します。結構急ぎの用件なので」

「なんだい、ここまでの進捗を祝って打ち上げでも行くのかい? 」

「似たようなものです。では」


 手早く用件が終わったのでしゃぶしゃぶのために帰り道を急ぐ。芽生さんの着替えを待って再合流。


「さぁ、帰ろう。しゃぶしゃぶが我々を待っている。ちなみに直接来るの? それとも一旦帰ってから来る? 」

「一旦帰っても良いですが、面倒くさいですし何よりお腹が空いてるのでまっすぐ洋一さんの家まで行きます」

「解った。とりあえず帰りのバスを待つか」


 バスが来るまで十分待つ。自分一人なら自転車取り出して漕いで帰る所だが今日は芽生さん居るからな。大人しく来るのを待とう。やがてバスが来て乗り込む。疲れは……いつもならそれなりに来ているはずだが、美味い肉を前に脳汁が溢れているのかそれほど疲れを感じてはいない。


「ちなみに肉の在庫はどのくらいありますか」

「八個ある。さすがに全部は食いきれないだろうなあ。食べながら肉を切っていくという事で。後野菜も取らないとな。保管庫に今日の昼と夕方と食べる予定だったのが残ってるし、ある程度肉を食べた後で煮込んでしまおう。肉の出汁も出て美味しい野菜になるはずだ」

「楽しみですねえ。待つ時間が鬱陶しいぐらいです。早く着きませんかね」

「遅れて着くことはあっても早くなることは無いと思うよ」


 落ち着いて、落ち着いて……あぁ俺も楽しみだなぁしゃぶしゃぶ。今日は良い肉の日ではないが良い肉がある。家に帰れば良い肉が食える。それだけでも他の事はどうにでもなりそうなそんな気がしてくる。


 バスを降り電車に乗る。いつもはここでお別れだが今日は二人だ。なんだか新鮮でもある。帰宅ラッシュでもあるのでそこそこ混んでいる。荷物をそこそこ持ち込んでいるので周りに少し迷惑かもしれないが、そこは職業柄許してほしい。


 暫く電車に揺られながら、どういう順番で肉と野菜を出していくか、やはり出汁に昆布を入れるべきか、それともかつお出汁にするか。そんな事を考えていたら最寄り駅に着いた。


「降りるよ。最寄りはここだ」


 電車を降りて徒歩五分。我が家への到着だ。一戸建てだってことは以前打ち明けた覚えがあるのでそこに驚くことはないらしい。


「ギリ平成って感じのたたずまいですね。駅前五分で場所も良いですし」

「まぁ古い事に違いは無い。遠慮せず入ってくれ」

「お邪魔しまーす」


 玄関から応接間兼キッチンダイニングに入っていてもらう。その間に着替えて洗濯をしよう。今日はしっかりと働いた気がする。


 着替えを終わると芽生さんはTVの前のソファーでくつろいでいた。


「さて、仕込みから始めますか。まずどのくらい行く? 」

「お~待ってました。とりあえず三パックぐらい行きましょう」


 三パック、まとめて開けて薄切り肉を作る。塊から切り出すのは結構大変なんだな。機械で薄切りにしてくれる奴が欲しいところだ。貴重な肉なので慎重に刃を入れ薄切りにしていく。端っこは……端っこは仕方ない。ただの茹で肉として活用させてもらおう。


 ダイニングテーブルにカセットコンロの大きい奴を用意し、火にかける。何を出汁にするか悩んだ結果両方入れてしまえという事になったので、顆粒かつおだしと昆布でパパっと済ませてしまう事にした。野菜も一応用意し、必要な食器を並べ、湯が煮えるまで二人してじっと無言で待つ。


 やがて湯が沸き、良い感じの温度になってきたところで食事開始だ。まずは肉を頂く。それから野菜を入れて、更にその後で追い肉といこう。


「「いただきます」」


 肉をさっと湯にくぐらせて、赤いところが全部白黒くなるか、まだ赤身がちょっと残っているかのギリギリのラインで肉を引き上げる。しゃぶしゃぶをすると言っても肉は塊だったので、どでかい牛タンみたいな見た目になってしまっているが、これは間違いなくしゃぶった肉だ。


 まず何も付けずに食べる。濃厚な牛肉の香りがまず鼻に入る。そして噛む。噛む力はほとんど要らない。まだ柔らかい肉の感触と香り、そして口の中で空気と一緒に味わう。


 いい、とてもいい。ちゃんと出汁を取った茹で汁であることも加えて、なお良い。しゃぶしゃぶバイキングでは到底味わえない甘みと旨味がここにある。これは良い肉だ。解ってはいたが、良い肉だ。語彙力が失われて行く美味しさだ。


 無言でひたすら肉をしゃぶってしゃぶってしゃぶる。三枚ほど肉そのものを味わったところで味付けのポン酢とごまだれを用意する。それぞれ好きなものを選んで鍋を囲み続ける。


 あっという間に肉のほうは打ち止めになった。一旦ここで肉は中断し、アクを取ると持ち込んだものの使わなかった野菜類をまとめて鍋に放り込み、味付けを整えて煮えるまで待つ。煮えてる間に次の肉の用意だ。二パック程をまた薄切りにして食べる準備はばっちりにしておく。


「はぁ……幸せ……」


 肉の味に満足したのか一息ついている。やはりうまい肉を囲んで食べる事は楽しいらしい。


「これは現地で食わなくてよかったな。こうして落ち着いて飯を食っていられるのはとても気が楽で、味に集中できて、とてもいい」

「野菜にもこの肉のうまみが染み込んでいくはずです。楽しみですね」


 グツグツと煮え、柔らかくなっていく野菜を眺めながらまだかまだかと待つ。このお預けの時間も楽しめる。時々試しにと箸で突いて煮え具合を確認する。


「とりあえずあれだ。今日は二十一層行くまでの決起集会みたいなもんだな」

「美味しいご飯食べて景気づけですね」

「そんな所だ。今日のところは満足するまで食べようじゃないの」

「ご飯ください。パックライスで構わないので。今日はしっかり食べる事にします」


 鍋を囲んだ宴は続く。酒は無いがうまい飯はある。今はそれで充分じゃあないか。動けなくなるほど満腹になるまで鍋を楽しんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自宅で薄切り肉をつくるなら急速冷凍してから鰹節用のカンナを利用して削ると楽ですよ
[一言] 評価したら朝チュンワンチャンと聞いて
[一言] 夫婦か
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