406:十七層リベンジ 1/3
気持ちのいい朝だ。ありがとうダーククロウ。段々感謝が薄れてきている気がしないでもないが、感謝している事に間違いはない。もう一度言おう、ありがとうダーククロウ。
昨日は夜ふかしをしなかったので今朝の目覚めもバッチリだ。顔を洗って更にバッチリだ。着替える前にゴキゲンな朝食を取り、今日のお弁当の仕込みを始める。仕込みと言ってもあらかじめサラダを切ったりレンジで軽く温めて柔らかくしておいたりとそれほど手間のかかる作業ではない。
一通りの準備を済ませるが、まだ出かけるにはチョットハヤイ。ネットニュースを眺めつつ時間を潰す。この辺の時間の使い方もようやく形になりつつある。洗濯の終わったインナースーツとツナギを着て、装備をガチャガチャと身に着ける。インナースーツも最初は違和感があったが最近は慣れた。
万能熊手二つ、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
インナースーツ、ヨシ!
防刃ツナギ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
枕、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
お泊まりセット、ヨシ!
冷えた水、コーラ、その他飲料、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
ドローン、ヨシ!
バッテリー類、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
熊手も長い事使っている。そろそろ買い替えを考えても良い時期かもしれない。しかし、熊手だ。新しいものを買った所で性能はあまり変わらないだろう。俺専用のダンジョン素材を贅沢に使った熊手、なんてニッチにもほどがある製品を作る企業なんてないだろう。
熊手を指先で弄ってみるが、そろそろ持ち手と本体の接続部分にガタが来そうな雰囲気を醸し出している。予備の熊手もある事だし、そろそろお役御免かもしれない。……よし、片方は使用期限が切れたことにしてもう片方を身に着けることにしよう。
長いこと世話になったな。君の事は保管庫に永遠に放り込んでおくし、家に神棚があったならそこに供えても良いぐらいだ。それだけ長い事俺のダンジョン探索に貢献してくれた。ありがとう万能熊手。
準備が終わったところで出立だ。この時間ならちょうど開場時間に間に合うバスに乗れる。コンビニで何時ものコーヒーとおにぎりを買うと公共交通機関でダンジョンに通う。この道も通い慣れた道。まだ探索者を始めて半年も経っていないがこれもダンジョンに慣れた証拠だろう。
そういえば結衣さん達は第一陣で戻ってくる可能性がある。十五層から帰ってきて七層で荷物をまとめて一旦査定。査定が終わったらそのまま再び七層へ戻って再度十五層までトライ。そういう道筋で行くと予想される。朝一で出会うかもしれないな。
バスを降り【小西ダンジョン前】のバス停で既に芽生さんは待機状態だった。
「おはよう、本業のほうは順調? 」
「おはようございます。まあぼちぼちですね。講義中も集中できてこれがステータスのおかげだったとしたら、講義もダンジョンで行ったほうがより賢くなれるかもしれません」
「昨日から結衣さん達が七層に滞在してるらしいけど、挨拶していく? 」
「という事は朝一で査定に来るかもしれませんね。会ったら挨拶、タイミングが合えば一緒に七層まで下りる感じでしょうか」
「そうなるかもしれないね。その時はまたご一緒しよう。お互い燃料の節約になるし、今度は向こう持ちで七層まで運んでもらおう」
会話をしつつ開場時間になると、早速第一陣が査定に持ち込み始めたようだ。結衣さんと多村さんと村田さんがダンジョンから出てくる。
「朝一査定ご苦労様です。しっかり稼げましたか」
「おはようございます。とりあえず査定結果を待ってからですね。終わったらもう一回潜るんですが……ご一緒に七層まで帰りますか? 」
「半分燃料そっち持ちで良いですか? 私たちは十五層まで一気に下りますけど七層までの分だけで良いですので」
「構いませんよ、たっぷり取ってきたので。査定が終わるまで待っててください」
そのまま十五分ほど待機。査定と支払いを終えた三人が建物から出てくる。
「さぁ、行きましょうか。今からもっと稼ぐので急いで行きましょう」
結衣さんノリノリである。どうやら清州ダンジョンより稼げると確信を持ったらしい。入ダン手続きで今日は宿泊であることを伝える。いつものご安全にの言葉と共に一層に入る。
「そういえば、ちょっとガラの悪いパーティーに会いましたよ。余所者扱いされました」
相沢君達かな。他に思い当らない。
「他所のダンジョンから来たのか? 俺たちの邪魔だけはしないでくれよ。俺はもっと深くまで潜るんだ~みたいなことを言ってました」
相沢君達だな。他に思い当らない。エレベーターホールに着いたのでエレベーターを起動し七層分までの燃料は結衣さんに任せた。
「彼当たりは強いですけどパーティーの面倒見良いみたいですし、実害はないと思いますよ。何回か顔を合わせてますが言い方はともかく堅実な探索をしているイメージがあります」
「やっぱり人が増えると自分の食い扶持が減ると考えているんでしょうか。小西ダンジョンの規模と潜ってる人数を考えるとそんなに圧迫するような事は無いと思うのですが」
「どうなんでしょう? 収入より名誉が欲しいみたいな感じではあります」
「彼、鬼殺しなんですかね? 」
「多分まだじゃないんですか? 鬼殺しになったら自慢しに来ると思いますし」
「なるほど、実害が無いなら問題ないですね。適度に相手して放っておきましょう。清州ダンジョンにもああいうタイプは居ますから」
彼、俺が十七層に潜ってる事を知ったらどういう顔をするだろうか。楽しみでもあり、ちょっと怖いところもある。正直そういう言い合いはあまり好きではない。出来れば平穏にお互い邪魔をしない範囲で探索を行いたいものだ。
「そういえば今更なんですが、【風魔法】どこで拾いました? 」
「清州ダンジョンの五層で、階段に行かない方面でワイルドボア倒してたら出ました。案外穴場でそこそこ数も湧いていたので頑張りましたよ」
そういえば清州の五層は階段に向かわなければモンスターが湧いている地域がちらほらとあったんだったな。根気のいる作業だったに違いない。
「本当はもっと別のスキルが良かったんですけど、【風魔法】って【土魔法】の次に人気が無いので、売るぐらいなら使ってしまおうという事になりまして。まだまだ戦力にするには練習不足ですけどジャイアントアントぐらいならスパッと切れるように目下練習中です」
「慣れるまで頑張ってください……ただ眩暈を起こすぐらいまで使って、それを乗り越えて限界まで使い続けると多分より扱いが上手くなると思います。後は……妄想力ですかね」
「妄想力ですか。覚えておきます」
七層に着いた。結衣さん達とはここでお別れだ。どれだけ食料や水を持ち込んでいるかは解らないが、俺達より先輩なのだからそこまで気にすることはないだろう。何より横田さんが【水魔法】を使えるんだから少なくとも一番の重量物は軽くしておけるはずだ。その為の水タンクの搬入だったと思うし。
「それでは、そちらも頑張ってください。ご安全に」
七層で別れた後、更に燃料を投入し十五層へのボタンを押す。
「清州ダンジョンから来た鬼殺しって結衣さん達だったんですね。世間って狭いですね」
「いいように使われてるのが結衣さん達って事じゃないかな。もしかしたら今後そうならないかもしれないけど」
「デートしなくてよかったんですか? せっかくのダンジョンデートですよ」
「一昨日買い物に付き合ったのでとりあえずそれで一回という事で。それにしばらくここに潜りこんで稼ぐらしいから会う機会はいくらでもあるさ」
「そうですか……あれ、なら保管庫も大っぴらに使う訳には行きませんね」
芽生さんが大事なところに気づいてくれた。ドロップ品どうすっかな。
「そこが悩みどころなんだよな。十四層のテントの中にドロップ品をまとめて置いておくほうが良いかな。こんなところで置き引きする探索者も居ないし」
「それが一番いいかもしれませんね。なんなら先に十四層へ潜って荷物を最小限にしてくるフリだけするというのはどうですか」
「それも良いけど十五層を往復する手間がかかるし、テントの中をだれも覗かないという前提で行動するなら、置いてあっても置いてなくても同じだと思うんだよ。観測者が現れるまではテントの中にキャンプ装備が有るか無いかは解らない。ただ、テントから俺が運び出すという行為によって、あぁテントの中には一式置いてあったんだな、という事象が成り立つ」
「シュレディンガーの猫的な奴ですね。他人を信用する前提なら中身が保管庫にあってもテントにあっても同じ、と」
「そこでわざわざテントの中を覗き込んで観測されて詰め寄られた場合は……なんかうまい言い訳を考えよう」
「私の時よりはうまい言い訳を考えられているよう期待します」
さくしゃからのおねがい
みなさんのごいけん、ごかんそう、いいね、ひょうか、ぶっくまーくなどから、ねんりょうがあふれでてきます。
つづきをがんばってかくためにも、みなさんひょうかよろしくおねがいします





