403:即日配達
今日も気持ちのいい朝だ。ダーククロウありがとう。昨日の夕飯を軽めにして早く寝たおかげで胃もたれも起こさず、すっきりした目覚めを感じられている。本格的に暑くなってきたらまた味わいは減るのかもしれないな、何か考えておこう。
昨日のサラダの残りといつものご機嫌な朝食をまとめて挟んでサラダサンドにして食べる。ホットサンドメーカーを買おうかと考えた事もあったが、トースターで十分だ。ホットサンドメーカーを使ってどうしても食べたい食事が出来たときにでも考えよう。
ホットサンドメーカーか。肉まん潰して焼いたりぐらいしか今のところ思い付く要素が無いし、キャンプではなくダンジョンでわざわざ手間をかける理由は無いな。無駄遣いはしないに限る。今日の昼飯も昨日の内にコンビニで買っておいたカレーライスだ。なんかスパイスがいつもと違うらしい、楽しみである。
早速容器が曲がり始める限界まで温めると触れずに保管庫に入れる。これで食べるころには程よい暖かさになっている事だろう。後は水分があれば十分だな。
昨日に引き続き今日も小西だ。元々二日間潜る可能性があったとして空けておいた予定をダンジョンで埋める。どうせダンジョンに行くのだから一泊するかどうかの違いではあったが……まあ休みにしたところでタスクも溜まっていないし、溜めるならお金のほうがいいだろうというところだ。
いつも通り探索する装備をして出かける。電車に乗り、いつもの通り出かける。同じ時間に同じ服装の探索者。最近は装備に対してギョッとされたり子供に話しかけられる事も、儲かるのか聞かれる事も無くなった。俺は社会人として立派に溶け込んでいられているんだという実感を感じている。
電車を降りバスに乗ると、探索者らしき人が二人乗っている。片方は顔見知りだ。手を挙げると手を挙げ返してくれた。ダンジョンで肩を並べて探索するという事は無いが、すれ違ったり軽い会話を交わしたりする仲だ。ただ名前は知らない。だが同じダンジョンに通う仲間として親近感はある。
そのままバスに揺られ小西ダンジョン前のバス停で降りる。いつものプレハブ庁舎に向かおうとしたが、いつもと違う光景が見られた。昨日見た車が停まっている。駐車場が無いのでとりあえず荷下ろしをしている、という感じだろう。昨日の今日で行動に移すとは部隊展開が早いな。
「おはようございます、結衣さん」
「おはようございます安村さん。早速荷物の運び入れに来ましたよ」
「駐車場が無いから不便でしょうここ。この後どうするんです? 」
「とりあえず荷物は全部私の車に乗ってるので、他のメンバーに荷物を任せて私は車を置きに行って清州のギルドで昨日の報告、それから再度こっちに来る感じですね。私一人だけ後で七層で合流する予定です。さすがにゴブリンキングの角が一本しかないので歩いて七層まで抜けることになりますが」
「駐車場、欲しいですね」
「そうですね。もっと人が増えれば……これから人を増やして駐車場を確保するための交渉の手段として使うために我々が頑張るしかなさそうですね」
「それまでは我慢ですね」
二人してため息をつく。とりあえず荷物を全部下した結衣さんは車に乗って帰っていった。ここまで来て帰ってまた来るという二度手間になっているが、ゴブリンキングの角をもう一本確保して二パーティーで別行動を取る事も視野に入れているかもしれないな。昨日のボス戦を見る限りできない事ではないと感じる。
荷物は残りの四人が分担して運び込むようだ。七層まで行くならご一緒できるな。
「良ければ一緒に行きませんか。燃料も半分で済みますし、私の魔結晶を使って下りて行きましょう」
「ご相伴に与っても良いですか。さすがに片道分だけだと心許ないですし、今日中に十五層まで下りるかどうかは解りませんし」
「皆さんの実力なら問題なくいけるとは思いますが、ケチれるところはケチっていきましょう」
全員まとめて入ダン手続きに入る。受付嬢は二日連続でまとめて来たので、少し疑問に思ってるようだ。
「昨日も来られましたよね。今日もご一緒なんですか? 」
「私は日帰りで。他のメンバーは……」
「私たちは宿泊でお願いします。後、遅れてリーダーが到着すると思いますので彼女も宿泊の予定だと伝えておきます」
「解りました。ご安全に」
無事入ダン手続きを終えて、いつも通りつぷんとした感触を越えて、一層の奥へ。荷物が荷物なので俺が先導をして足元で邪魔になりそうなスライムを雷撃で吹き飛ばしつつ進む。結衣さんが居たらきっとまた残念そうな顔をしながら見守っているところだろう。
エレベーターの場所に着くと、お互いのゴブリンキングの角を出し、エレベーターを出現させる。俺のゴブリンキングの角をカチッとはめてエレベーターを起動させる。燃料であるスケルトンの魔結晶を三個ポイ。七層へのボタンをポチ。ドアを閉めるとガタンという一瞬の衝撃と共にエレベーターは動き始めた。
「これ、どういう原理……というかどこを走っているんでしょうね」
村田さんがみんなが思っている事を口にする。
正直解らない。外も見えないし今どの辺を移動しているかもわからない。そもそも、各階層を繋いで移動しているのかどうかも解らない。途中で止まったとして、そこで途中下車できるかどうかも不明だな。
「何にせよ七層までたどり着けるという事実がありますから、細かい事は気にしないで良いんじゃないですかね。どうせ燃料を必要量入れないとボタンすら押せませんし」
「スケルトンの魔結晶じゃなくても他の魔結晶を必要量入れたらどうなるんだろう。試しに今度やってみるのもいいかもしれないね」
多村さんが魔結晶をケチるための案を色々思案しているようだ。
「買い取り価格から察するに、スライム換算だと六十個以上必要になると思いますが、それをそろえるならスケルトン倒すほうが早くありません? 」
変な方向に思想が行かないように多少誘導する。
「もしかしたら十七層以降で出てくる赤い魔結晶なら一つで事足りるかもしれませんよ? ギルドの買い取り価格基準なので確約は出来ませんが」
「なるほど……そないなのを試してみるのも大事かもしれまへんな」
とりあえず今はスケルトンの魔結晶で確実に到着してくれるんだが、今はそれに従うのがいいのではないか。
「安村さんは七層で何しはるんです? 」
「六層と八層でワイルドボアとダーククロウ駆除ですかね。ダーククロウの羽根のギルド以外の納品先を確保したんで、ギルドに卸すよりも高値で買ってくれているんですよ」
「お、自前の流通ルートを確保しましたか。儲かってるようで何よりですな」
「まぁ微々たるものですが、より世の中にドロップ品を拡散させれば探索者ももっと増えると思うんですよ。それは探索者全体に対して利益にもなるかなって」
「結構色々考えとるんですな。ちなみになんぼぐらいになるんです? 」
「えっと……ギルド査定の三倍ぐらいですかね。納品先でも結構話題になってるらしくて、無理しない範囲でいっぱい持ってきて欲しいと言われてます」
実際、一回潜って五キログラムというのはそう高い金額とはいえないが、やはり需要があってそれを満たすために探索するというのはモチベーションアップに必要なことだ。勿論金は稼げるほうが心と懐の健康に良い。
なんやかんや話をしているうちに七層に着いた。荷物を搬出し角を外し、エレベーターの電源を落とすと早速六層へ向かう。さぁ待っててくれよ茂君。俺が一発で仕留めてやるからな。朝一の時間帯なのでよほど肉を集めるために七層でキャンプして六層に通っている人がいるとしても、ダーククロウをまとめて倒せるのは観測できる限り俺だけだ。つまり、今のところは独り占めできている。
ダンジョンの奥に潜るほうは進捗はまだ徐々にしか進まないが、期限を切られてないのとやはり二人で潜らないと危険度が高い事もあって週に一回か二回のペースで十七層以降に潜る事になるだろう。
今日は茂君をたくさん狩る事が目的だ。精々羽根をかき集めさせてもらおう。今日は七層に新浜パーティーが居るので保管庫にそのまま放り込むことはできない。バッグにエコバッグを忍ばせ、そこに羽根を詰め込んでいこう。ほんのちょっと品質が落ちるかもしれないが、そこは狩場の状況が変化して綺麗な状態で運んでくることが難しくなってきたことをちゃんと説明しよう。
新浜パーティーはそのまま七層の中央部へ向かっていった。俺は茂君に会いに行くかな。今日も茂ってくれていると嬉しいが。
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