401:クエスト完了……?
「一日で終えられたんですね。お疲れ様でした」
退ダン手続きをする。無事帰ってきたので一安心という所だろう。さて、ギルマスの所に行かねば。
「ギルマスってまだ居ますかね。依頼内容の報告したいんですけど」
「今日はまだ帰る時間じゃないでしょうから居ると思いますよ。査定受けてからでも十分間に合うかと思います」
「そうですか、じゃあちょっと行ってきますね」
まずはバッグの中身の査定だ。今日はエコバッグに仕分けてないので、仕分けてから提出しよう。
「ゴブリンキングの魔結晶、査定に出します? 」
「そうですね、持ってても使う訳でもないですし、出してしまいましょう。スケルトンの魔結晶の補充分は安村さんがそのままお持ちください」
「解りました。じゃあそれ以外を査定お願いしてきます」
査定カウンターで仕分けられたドロップ品を渡す。
「今日も仕分けられてますね。ありがとうございます」
「いえいえ、今日は六等分でお願いします」
「解りました、少々お待ちを」
数としては少ないので五分ほどで査定は終わり、金額がはじき出された。一人当たり四万七千五百十二円。半日仕事をした割には少ないが、これに日当の二十万が含まれるので実入りとしては中々のものになったな。
受け取ったレシートをみんなに渡しに行き、支払いカウンターで現金を受け取ると、今度は自分の分だけの査定を行う。茂君二回分の査定をやってもらい、三万七千九百八十円になった。そっちのレシートもうけとると、そのまま二階のギルマスの部屋へ向かう。
ノックをして中に入るとパットゴルフが盛り上がっているところだった。
「お、お帰り。一日で済んだんだね。おかげでギルドが払う日当も一日分で済みそうだ」
「ただいまです。人数が人数ですし、初挑戦でもなかったので比較的余裕をもって倒せましたよ」
パターを手から離し、自分の席に座る。お仕事モードに入ったらしい。
「じゃあ、報告を聞こうか。ボス戦については……いいや。報告に来たって事は無事に角を手に入れたんだろう? 」
「そうなります。そして、新しく得た角でエレベーターの動作を行えることも確認しました。なのでエレベーターを使える条件は、鬼殺しになる事と小西ダンジョン産のゴブリンキングの角を所持する事、少なくともこの二点になりますね。後は鬼殺しじゃない人を無理やりエレベーターに引き込むとどうなってしまうのかというのをギルマスで試しておくべきでした、というぐらいですかね」
「その場合どうなるんだろう? 腕だけ引き込まれて岩の間に挟まってしまうんだろうか。是非私じゃない人でそのうち試してみておいてよ」
報告を聞くと少しパソコンを叩いて、何かしらの入力をしている。一区切り終わると、質問を投げかけて来た。
「他所ダンジョンからの探索者流入をあてにこの情報を流す……というのは問題なさそうかい? 」
「こちらの活動も問題がない範囲で十五層まで連れて行く程度なら、まぁ覚悟はしていますが。でも小西ダンジョンはそんなに広くないし地図も揃ってますので自力で潜ってボスまで行く、という人が多いと嬉しいんですけどね」
そういう建前にしておくが、個人的には六層は空いていて欲しい。ダーククロウの狩場をゆっくり占拠したいからな。
「人が増えたら税収も増える。税収が十分に増えたら人手も増やせるから小西ダンジョンも二十四時間営業に出来るかもしれないね」
「二十四時間営業にしてもここまで来る足が無いと思いますが」
「それもそうだったね……まぁそれはさておき、これで小西ダンジョンは他のダンジョンに無い売りが出来たことになるね。実際に報告を上げて公表されるにはもう少し時間がかかるだろうけども確実に発表されるし、その検証をしてくれた君らには実績の形で反映させてもらうからそこは約束するよ。清州ダンジョンのギルマスにもそれは間違いなく伝えておくよ」
ちゃんと実績というものは積み重ねられるらしい。
「あ、そういえば安村さんはBランク探索者になるのにはあんまり興味が無かったんだっけ。一応昇級考慮には入れておくけど……」
「それなんですが、二十二層以降のモンスターにもちょっと興味が湧いてきまして。貰えるものは貰おうかなとも考えています」
「ははっ、そうかね。まあBランクになるまでは結構時間がかかるだろうけど間違いなくその一助にはなると思うよ。こちらとしては気長に探索者を続けてくれると嬉しいね」
ギルマス自身は小西ダンジョンで高ランク探索者が増えてくれることを願っているらしい。
「では、我々は清州ダンジョンでも報告書を出すことにします。一応向こうで受諾したクエストという事になりますので」
「そのほうがいいね。もし問い合わせがあってもこっちでも間違いなく……間違いなくと言えば、これどうやってクエスト終了を証明すればいいんだろうね? 」
「……言われてみればそうですね。証明するためにまた小西ダンジョンへ来てエレベーターを起動してボスを倒して帰る……これをもう一回やれという事になるんでしょうか? 」
横田さんが悩みだす。確かに行ってきましたという証拠は出しづらい。ボスとエレベーターというそれぞれ独立した事象をまとめて報告するには……
「ボスを倒した証拠としてゴブリンキングの魔結晶を査定にかけたんですが、それをボスを倒した証拠とする事は出来ませんか? 」
「その手は使えるね。わざわざ査定にかけないという意味はほとんどないからね。エレベーター使用については……そうだね、短時間で十五層まで潜って帰ってくるというのは物理的に難しいからその入退ダン時間を証明とするのはどうかね。それが一番手間がかからないと思うのだが」
「そう言っていただけるとこちらも報告書作りが捗ります。その件簡単に公式文書にしてもらう事は可能ですか? それを添えて提出すれば情報の行き交いが少なくて済むと思いますが」
「わかった、すぐに手配しよう。後は何か相談するような事はあるかね? 」
クエスト達成がはっきりできるならこれで今日のお仕事は終わりだ。お手当貰って帰ろう。
「後は私の日当ぐらいですかね」
「拘るね。支払いカウンターにすぐさま出すように伝えよう。じゃあ書類作って皆さんに渡すので話し合いはこの辺までという事で」
「はい、お疲れ様でした」
話し合いを終えて一階に戻る。支払いの用意が出来たらカウンターから呼ばれるだろうから、しばし待合室で休憩だ。いつも通り冷えた水をもらって飲む。さすがにここまでキンキンに冷えた水を持ち歩くのは難しいし、なんだかリフレッシュした気分にもなる。なによりタダだ。
「安村さん、下世話なお話になりますが一回潜っていくらぐらい稼いでますか? エレベーターを使用する場合の参考になるかと思いまして」
多村さんが質問してくる。確かに気になる所だろう。お金の話をした瞬間全員がこっちを見る。支払い嬢もこっちを見る。そっちは仕事してくれ。
「えっと……泊まりで朝一で帰ってきてこのぐらいですかね」
人指し指を一本差し出す。多村さんに指にコップをはめられた。あんたもそれやるのか。流行りか?
「……移動時間分を丸々探索に当てられるという事ですしそのぐらいですか。我々は五人ですから……このぐらいってことですか」
指を四本差し出してくる。とりあえず飲み終わったコップを被せ返しておく。
「そうなりますかね。ただ五人で探索する分二人で探索するより早く巡る事が出来るかもしれませんから、もう一本いけるかもしれませんよ」
指を立ててあげる。指が四本とコップが一つになった。
「一晩でそれだけ儲けられるなら小西ダンジョンに来たいという探索者は結構いるかもしれませんね。ただ小西ダンジョンは狭いので探索者の人数キャパに多少無理が出てくるかもしれませんが」
「十一層から十七層にかけて幅広く散らばるんなら良い感じに探索できるんちゃいますかね」
「やっぱり小西ダンジョンにはまだまだ夢が詰まってるな。真剣に移籍する事を考えるパーティーも居るかもしれん……この情報はちょっと黙っておくか」
結衣さん達も自分の懐事情には敏感らしい。五人集まって相談し始めた。
「どうする、しばらく小西ダンジョンに潜ってみるというのは。清州のギルマスには悪いけど収入には代え難いよね」
「準備次第ですね。スケルトンの魔結晶を自分達用にも残しておくべきでした」
「安村さんに譲ってもらえばええんちゃいますか」
「う~ん……帰り時間がはっきりしてる分時間の使い方は組み立てやすいな」
「装備もろもろどうやって移動させるか……たしか近くに車を停めておけるところはないから最低限のものを少しずつ持ち込むとか」
しばらく放っておくか。日当支払いの声がかかるまでしばらくカロリーバーでも齧りながら休憩するか。どうやら本格的に数日潜り込むかもしれないようだ。共に潜り合った仲とはいえ余所のパーティー、俺が首を突っ込んだりかき乱すのはよろしくない。そのまま端々聞こえてくる単語を楽しみながらじっくりと待とう。
十分ぐらいして支払いカウンターから呼び声がかかる。のこのこと出頭すると今日の給料二十万円が無事に支払われた。そのまま振り込みにしてもらう。ついでにさっきのレシートも振り込み。
さて、今日やる事は全部終わったが……あっちのパーティーはまだ相談をしている。どうやら至って真剣に論議が行われている様子だ。このまま声を掛けずに帰るのもあれなので落ち着くまでもう一杯水を飲もう。
「安村さん、ちょっといいですか」
三杯目の水にかかったところで結衣さんに声を掛けられる。どうやら一段落した様子だ。結論が出たのかな。
「どうしました、お話は終わりましたか」
「スケルトンの魔結晶を三つ、譲ってもらってもいいですか? 七層を一時キャンプにして十五層まで自力で歩いて行って七層へ戻るというルートを通って見て、清州ダンジョンと比べてみたいんです」
「予備が有るので六つでも構わないんですが解りました。三つお譲りします」
「ありがとうございます。ちょっと清州から荷物を持ち込んでしばらく色々試してみようかと思います。名目上は……そうですね、小西ダンジョンにエレベーターが設置された事による環境の変化とか、清州ダンジョンに比べてどこにどういう利点があるかの調査とかそんな感じで、清州のギルマスに報告して誤魔化そうかと」
暫く逗留して稼いで帰るという事になったらしい。これで七層も少し賑やかになるか。
「その間にみっちり稼ぐつもりですね? 」
「えぇ、情報は鮮度が命ですから。どうせ封鎖してもどこかから漏れるでしょうしその間にみっちりと」
どうやら新浜パーティーはしばらく小西に居座るらしい。どのくらいの期間かは解らないがダンジョン内で顔を合わす事もあるだろう。その時は狩場の取り合いにならないように譲り合いの精神を忘れないようにしよう。
「じゃ、私はこれで」
帰ろうとすると袖を引っ張られる。結衣さんが袖をつかんだまま離してくれない。くいくいと袖を引っ張ってみるが、引っ張り返される。
にんやりとした笑顔のまま結衣さんの手がそのまま腕まで上がってきた。
「今からいろいろ買いに出かけるんです。付き合って、くれますよね? 」
追加クエストが発生してしまったらしい。
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