400:すんなり
四百話ですって
戦闘は無事終わったが新たな疑問が発生した。【水魔法】で生成した水はあまりに味がしないので純水だと思っていたが、今ゴブリンキングに雷撃を浴びせて気づいたことがある。
純水はそもそも電気を通さない。でも実際には感電し、予想よりもダメージが入った。これは純水ではないという事になるが、ならあの味気の無さは何だろう。ミネラル分とかそういうものが含まれているならばもっとそれに即した味というものを感じることができるはずだ。二十一層に潜ったらこの疑問も解決するんだろうか。
ダンジョンマスターに聞いておくべき項目が一つ増えた、という所か。とりあえずメモっておこう。
あちこちに散らばっているドロップ品を一つ一つ回収しながらバッグに詰めていく。他のみんなはさすがに緊張の糸が解けたらしくその場でくつろいでいる。その間にドロップを回収させてもらおう。
結構あちこちに散らばっているが、これぐらいはしないと観戦料としては安いものだ。ヒールポーションも使いどころは無かったし、出費は無かった。やはりダメージをいかに喰らわないかというのはどこのパーティーでも大事らしい。
色々と勉強になった戦いだった。ゴブリンキングも【保管庫】を使わずに戦えるようになりたいものだな。もし他所のダンジョンに派遣されるようなケースが有ったら今の戦いは参考になる。やはり物理と【雷魔法】を適度に扱いつつ、ゴブリンの数に対してはさっき使ったまとめて感電という手があれば楽に戦えるな。
「安村さんのおかげで楽に倒せました。ありがとうございました」
「いえいえ、横からお邪魔をしました」
「二発の【雷魔法】のおかげで怪我も無く無事に終わりましたし」
「お腹空いた……」
スキルも併用して戦っていた結衣さんが音を上げる。とりあえずカロリーバーをバッグから出して渡す。おそらく喉も乾いているだろうが、パサパサで申し訳ないと思いつつも、帰り道の分のカロリーは補充しておくに限る。
「よく【風魔法】拾えましたね。ちょっとびっくりです」
「安村さんの助言を受けてちょっと遠征しまして。他の探索者が少なそうなところでひたすら狩ってたら出たんですよ。で、とりあえず私が覚えるという事に」
「なるほど、おめでとうございます」
「しかし、まだ手持ちが残ってるんですか、このカロリーバー」
「全ての味で店にある分買い占めたのでまだ家にストックがかなりあって、賞味期限までに食べきれるかどうか怪しいところですけどね」
「スライム騒ぎも一区切りついたんで徐々に店頭在庫も回復しつつあるようですよ。他の味も徐々にですが作り始める余裕が出てるそうです」
とするとカロリーバー特需はそろそろ終わる所か。他の地方にも出回り始めるだろう。三勢食品にも迷惑をかけたがそれ以上に会社に利益が出たようなのでそこはまあ許してもらおう。社員に出会ったら一発二発殴られる覚悟はしないとな。
ドロップアイテムを拾い終わり、バッグに詰め込む。相変わらず散らばってはいるが、そこそこの収入にはなりそうだ。何より、結衣さん達はゴブリンキングの魔結晶を査定にかけるだろう。それだけでも結構な金額になるはずだ。
ゴブリンシャーマンはやはり確定で魔結晶を落とす。何回かボス戦に挑めば特殊ドロップが見れるかもしれないとは前に考えたがさすがに今回いきなりという事はないらしい。
流石に数が数なのでソードゴブリンも魔結晶をくれたしこれはこれで中々だ。そして……
「これが小西産ですか。見た目は変わりませんね」
ゴブリンキングの角をこねくり回しながら違いを確認する。試しに俺も清州産のゴブリンキングの角をしげしげと観察してみたが、違いが判らない。これ、複数ダンジョンで入手していた場合どう判別するんだろうな。やっぱり産地を書いて付箋でも張り付けて管理するしかないのかな。
とりあえず混じるといけないので小西産と書いたメモを一枚ちぎると角に刺して一目でわかるようにする。清州産のほうも同じ状態にして持ち帰る事になった。次回使う予定があるかは解らないが、少なくとも無駄にはならないだろう。
「一服したら七層に戻りますか。荷物も七層ですしここに居座ってても仕方ないでしょう。それとも、十五層でクールダウンでもしていきます? 」
「夕方までには報告を上げたほうが一日で仕事が終わって楽ですからね。まずは戻りますか」
そのまま歩いて扉を開けると、門番役のスケルトンは湧き直していた。短い時間でよく補充されたとは思うがこっちは六人で向こうは四人だ。一対一の殴り合いでも二人余る。横田さんと二人後ろから戦っている様を眺める形になった。暇。
そのままエレベーターへ向かっていつもの骨ネクロダッシュ大会をみんなで決めるとスケルトン三体のグループ三つを倒しエレベーターホールへ。
「そういえば、俺が清州産のゴブリンキングの角をはめ込むとどうなるんでしょう? 」
「試してみますか」
小西産鬼殺しの俺が清州産のゴブリンキングの角をはめてみる。が、反応なし。
「やっぱり両方小西産じゃないとダメって事ですかね」
「そうかもしれません。後、来る時にギルマスを無理やりエレベーターのほうへ引っ張り込んだらどうなるかも検証しておくべきでしたね」
「多分、かわいそうなことになると思いますが……検証項目としては必要だったかもしれません」
「ま、エレベーターの起動条件に多少抜けがあったとして、後日ほかの探索者が検証報告をしてくれるんちゃいますか。うちらとしては小西産の角で小西で鬼殺しになればエレベーターが無事使えた事さえ報告すればそれでええと思います」
新しいゴブリンキングの角でエレベーターを早速試してみる。エレベーターに全員乗ると台座に小西産のほうをはめ込むとちゃんと電気が入る。
「お、やっぱり小西産だと反応しますね。台座に嵌めたらちゃんと起動しましたよ」
「これで産地偽装ができん事が証明できますな」
「しかし、どこで違いを出しているのかが気になりますね」
「ダンジョンの不思議って事で良いんじゃないですか? 」
台座の下の穴に魔結晶を入れる。七層のボタンが付いたところでボタンを押し七層へ。五分ほど待ち、七層へたどり着く。ちゃんと台座から角を外したのを確認すると出る。角の外し忘れはしないようにちゃんとヨシ! しなければならない。
ほんの二時間ぶりぐらいの七層だ。相変わらず人の気配は無い。そろそろ住み着くパーティーが居ても良い頃なんだがなぁ。観光で見に来て帰るだけの人が結構いるみたいだが、ここを拠点にしていくにはやはり交通の便が悪すぎるのか。
「相変わらず人の気配がしませんね。テントはいくつかありますが……」
「時間が時間ですので仮眠してるか下にいるかかじゃないですかね。ほら自転車も無いですし」
「なるほど、自転車の移動具合で人の移動もある程度観測できるわけですか。清州にもエレベーターがあればもっと機材とか色々持ち込めるんでしょうね」
「清州で同じことをするには……何層まで潜る必要があるんでしょう? 」
ふと疑問を口に出してみる。小西は多分十七層まで行っている俺たちが最深層探索者だろうが、清州ダンジョンだとどうなのだろう?
「清州は十五層までは地図が公表されているんですよね。それ以降はどうなってるんでしょう? 」
「私たちは少なくとも二十一層までたどり着いていないので解らないのですが、各パーティーで地図を持ちあって情報を交換しあったりしてますね。公式には……二十一層までたどり着いているかどうかは解りません。確定してるのは高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンですね。あそこは二十一層までの地図がバッチリわかってますし、ダンジョン庁のダンジョン作戦群がより深く潜ってますから」
そういえばそんなニュース見た覚えあるな。あの時は何層まで潜ったって話なんだったかな。自分にはまだまだ関係ないと思って聞き流していたが、聞いておけばよかった。
「じゃ、休憩用のメシ取ってきます」
「あ、お手伝いしますよ。待ってるだけってのも暇ですし」
横田さんが付いていこうかと申し出てくれるが、それは困る。茂君をついでに狩りたいのだ。保管庫を見られるわけにはいかない。
「いえ、ボス戦で見えない疲れがたまっているかもしれませんし、休んでてください」
「そうですか、ではお任せします」
すぐに引き下がってくれた。有り難い。急いで行って来よう。走って六層をトレイン。木の手前でまとめて処理。本来はやっちゃいけない行為だが時間の事もある。ここはかき集めてまとめてチェインライトニング。ドロップを拾ってはまたワイルドボアをかき集めて走り、またチェインライトニング。そして茂君に投網。
これで五万近く予備収入を得たことになる。少なくも確実な短時間中収入。ボア肉を集めるという口実で来ているので茂君まで狩ってドロップをコッソリ持ち帰っているとは思うまい。怪しまれないように走って帰る。
急いで戻った七層ではみんながテント前で思い思い荷物を持ち直したり水を飲んだりまったりモードだった。結衣さんだけは料理の準備をして待っていた。手に入ったボア肉は五パック。手持ちからもう一パック足して六パックにしておく。
「とりあえず人数分は確保できましたが……まだ飯には早いですかね? 」
「いや、しっかり動いたしスキルも使ったしステータスブーストもしたしエネルギー切れ起こすぐらいならここで胃に入れておいたほうが良いですね」
「じゃあ何か作りますか……何作ろうかな。バッグの中の調味料考えると塩胡椒と醤油ぐらいしかないですけど」
「味気無いですがさっきと同じ肉と行きましょうか。もうちょっと考えて来るべきでしたね」
今になって保管庫から色々出すわけにもいかないからな。焼肉のたれを複数種類常備しておくほうが良かったかもしれない。かといってバッグから出すにしろ既にある程度ドロップ品が入ってしまっている。そんなものを持ち歩いているのかというものは取り出しづらい。ここは不便を許容してもらおう。
◇◆◇◆◇◆◇
食事も終え、休憩も終え、時刻は午後三時半。七層を歩いてエレベーターに乗って地上に戻って四時半という所だろうか。一日でのクエスト達成は出来るな。とりあえずエコバッグに荷物を整理して詰め直すと、両手いっぱいとまではいかないがそれなりの量になっている。横田さんが半分受け持ってくれたのでいつもほど重くはない。
「報告もありますし戻りますか。無事に終わったのと今日の給料を取りに行かないと」
「私たちは時間の都合上報告は明日になりますかね。小西ギルドでまとめて報告できれば楽なのですが一応報告書の形でまとめてから報告してくださいと言われてますので」
「私も文章で報告したほうが良いんですかね。口頭で報告して終わりにしようと思っていたんですが」
「その辺はギルドによるんじゃないですか? 最終的にはどっちかで報告が行われていればダンジョン庁には報告の形であがるとは思うのですが」
「最終的に文章で報告するのはギルマスの仕事だろうからどこまでサポートしてあげるかでしょうね」
「そういう点では小西のギルマスは意外と出来る人……なのか? 」
わちゃわちゃ話をしながら徒歩で七層エレベーターへ。乗り込むと角を嵌め込み燃料を入れて一層のボタンをポチ。後は五分待つだけで一層へ到着だ。
一層へ到着するといつもの夢の空間が目の前に広がる。しかし、今は依頼を達成する事が先だ。行きと同じく道なりに雷撃で焼いていく。少々のドロップも今日の収入の賑わいだ。せこく稼いで行こう。結衣さんの目が輝きを失いつつあるので時々熊手で潮干狩りするととても喜ぶ。
結局三十分ゆっくり時間をかけて潮干狩りしながら地上へ戻る事になった。結局一泊せず帰ってきたな。
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