40:潮干狩りパラダイス
本日二本目です
一層に戻ると、そこはスライムでみつしりと満たされていた。
……いったい何が起きた?ほんの三十分の間にスライムが大増殖するような理由でもあったと……
……あいつか?あの研究者もどきか?そういえば姿が見えない。まさかスライムいじりすぎて食われてしまったのか?それとも一目散に逃げだしたのか……
とりあえず処理しないと前にも進めない。何百匹いるんだ?これ。これは帰る時間を大幅にオーバーしそうだ。全力でやらないと十八時までに帰れねーな。
仕方なく熊手に持ち替えるとさっそくスライムの壁から引きはがしながら一匹ずつ確実に処理をしていく。しかし減ってる気が全くしない。ここまでみつしりと詰まってるのを見るのは初めてだ。
俺は喜び勇んでスライム狩りを開始することにした。これだけ一杯スライムが湧いているという事はこの視界内のスライムは俺のものだと主張してもいいはずだ。
ようし、気合入れてスライム狩るぞ。
しばらくすると二層から上がってきた人が来た。
「なんじゃこのスライム!?おっさんが増やしたのか?」
「いや、俺も一層に上がってきてこの密度にびっくり喜んでいるところだ」
「まさか……あなたは伝説の潮干狩りおじさん!?」
「どうもそう呼ばれているらしいな。さすがに多すぎるから手伝ってもらっていいか?」
「俺スライム狩りはあまり得意じゃないんだが……」
俺は予備の熊手をバッグから取り出す。念のため二個持っておいて本当に良かった。
「大丈夫、俺の熊手を貸すから今からやる方法をまねて減らしていってほしい。でないと門限に間に合いそうにないぞ」
「わ、解った。まずはお手並み拝見という奴だな」
「理解してくれて助かる。軽く押さえつけて、熊手で核だけ引き抜いて足で踏んづければいいだけだ。これをできるだけ高効率で行っていこう」
「おう、まずは任せた。そんで任された」
コンセンサスが取れたところで俺はスライムに集中する。スライムを壁から引きはがしては核を取り、踏みつぶす。いつもやっていることだ。
集中力を研ぎ澄ましてスライムを見定めると、最短コースで次のスライムを見つけては処理。
スライムをセンターに入れて核。 グッ、プツッ、コロン、パン。
スライムをセンターに入れて核。 グッ、プツッ、コロン、パン。
いつもの効果音とともにスライムを出来るだけ早く処理する。探し回らなくていい分スライムを処理する速度も上がる。これは記録更新もやぶさかではないな。
どうやらやり方のコツをつかんだらしく、途中参加した戦友たちも順調にスライムを処理してくれている。
いつもならドロップ対象が減る分あまり周りに人がいてほしくないのだが、状況が状況である。とにかくスライムを殲滅することに集中しよう。ただしドロップはきっちり回収していく。分速十匹ぐらいだろうか。これなら一時間に七百匹はいけるな。記録更新は確実だ。
高速でスライムのドロップの山が積まれて行く。ドロップは後で拾う事にして、とにかくスライムの数が多すぎる。拾う暇もないぐらいに詰め込まれたスライムは時間がたつにつれちょっとずつその数を減らしていく。
臨時相方は大丈夫だろうか、とそちらを見るとだんだん興に乗ってきたのか、引きつった笑顔でスライムを処理していく。この速度なら一時間ぐらいで全部行けそうだ。
二人でひたすらスライムを処理しているうちに二層から上がってきた人たちが状況を理解し、徐々に戦闘に参加してくれている。有り難い。
「なんだこの量は。とりあえず手伝ったほうがいいのか?」
「あぁ、頼む。出口までにどれぐらいスライムが詰まってるかもまだ解らないから、とにかく数をこなしていくしかないと思うんだ」
「解ったぜ。俺はそんなに早くはできないと思うが戦闘に参加する」
これで人数は確保できた。果たして体力が尽きるか時間切れになるか、それとも無事に脱出できるかは解らないが、やるべきことはやっていこう。それが探索者の務めじゃないだろうか。
「これってレイドバトルになるのかな?」
「だったら山分けだが、その前にこれ減ってるのか?奥からどんどん出てきてる気がするんだが」
「とにかくこの道をふさいでる分でもなんとかしないと帰り道がないからな」
「こんな過疎ダンジョンでレイドバトル、しかもスライム相手にやるとは思ってなかったぜ」
「おじさんを信じよう。どう見てもあの人俺ら三人分ぐらいのペースで処理してるからな。希望はある」
「とりあえずただ働きは俺の主義じゃない。ドロップは山にして適当に集めておく係が必要だな」
「なら俺がやろう。俺は一番殲滅速度が遅いようだし、そっちで貢献することにするわ」
「任せた」
話す余裕はあるようだ。そういえばこれ、ほかの人の戦い方を見てみるチャンスじゃないか?
俺は自分の作業をこなしつつ、ほかの人のスライムの倒し方を学ぶことにした。
剣で真っ二つにした後核を踏む人。熊手を貸して俺と同じようにする人。ひたすら踏みつぶして核を踏むのを期待している人。色々戦い方はあるもんだ。
後ろではスライムゼリーと魔結晶が山積みされて行く。もう何匹処理したのか数えてない。
ただ、少しずつ壁が崩れて出口に戻る道が確保しつつあるのは成果と言えるのではないか。
◇◆◇◆◇◆◇
一時間少々で階段付近のスライムはほぼ駆逐できた。正直ここまで早く終えられるとは思ってなかったが、これも人数がいるおかげである。
「そろそろ出口に向かっても良さそうじゃないか?」
「ハァハァ……さすがに疲れてきたぞ」
「潮干狩りおじさんを見てみろ、汗一つかいてないぞ」
「なんて強靭な精神力と体力なんだ。しかし、どうしてこんなにスライムが大繁殖してたんだ?」
そうか、この人たちはあの研究者を見てないのか。
「俺に心当たりがある。後で説明する。とりあえず出口に向かって走る体力は残ってるか?」
「潮干狩りおじさんが増やしたわけではないんだよな?」
「そんな養殖に成功してたら俺は論文でも書いて特許料を取るぞ」
「ダンジョンあふれの一種という可能性は?」
「わからん。だが異常事態であることは確かだ。外に出れたらギルドに報告だな」
「ところで、ドロップの配分はどうする?」
とりあえずスライム処理を優先していたため、ドロップは誰が何個出したかなんて計算したりはしていない。ここは俺が提案をしておく。
「山分けでいいんじゃないか?」
「本当にいいのか?潮干狩りおじさんがどう考えても一番スライムを処理してたんだぞ」
「いいよ。俺一人では処理しきれなかったかもしれないし、手伝ってくれたみんなに悪いし。なにより、こんな規模の戦闘で疲れてるところに報酬で揉めたくない」
「アンタいい人だな……ますます気に入ったよ。外に出たら一杯おごらせてくれ」
「有り難い申し出だが俺は酒があまり飲めないんだ。それより中華がいいな」
「あの店か、あそこは確かに美味い。打ち上げはそこでやろう」
そこからさらに十五分漸く道が開いた。ドロップを各自のバッグに詰められるだけ詰めると、一直線に出口へ向かう。どうやら、大発生していたのは二層への階段付近だけで、他の所はそう増えているわけではなかったようだ。
局所的に増えたとなると、ますますあの自称研究者が怪しいな。これもギルドに報告しておかなければならないな。
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