397:休憩よもやま話
ほいほいと出来るだけ早く日課を終えて七層へ帰ってくると、結衣さん達は食事の準備を進めていた。
「ほーい差し入れですよー」
「ありがとうございます。安村さんもご一緒にどうぞ」
結衣さんはボア肉を六つ受け取ると早速焼き始める。こっちはこっちで焼きそばを作り始めた。袋麺を少し余分に持ってきておいて正解だったな。細かくしたウルフ肉と刻み野菜を投入して調理。濃い口ソースで味付けられた焼きそばが人数分とまではいかないが二人分以上出来上がる。添え物としてお出ししよう。
六人分の広さの机を提供する事は出来ないので、シェルターの長机を使わせてもらった。立ちながらの食事だがそれぞれ胃袋を満たす。今日のメインディッシュはとれたてボア肉の塩胡椒ステーキと野菜炒め、それと焼うどんらしい。麺類が被ってしまったな。
遠征軍なので調味料を色々持ち出してあれこれするつもりはなかったようだ。全員そろってカロリーバーと水だけ、という事は無かったようで安心だ。
「そういえば、私がお土産置きに来る時に居た彼はいないんですかね」
「田中君ですか? なんか旅行行ってるみたいですよ。本当に旅行なのか他のダンジョンに潜ってるのか、それとも別の理由があるのかまでは解りませんがしばらくしたら戻って来るそうです」
「旅行ですかー。わざわざ書き置き残していくなんて律義ですね」
田中君元気かなぁ。風邪とか引いてないかなぁ。いつもならこんなところで食事をしている時点で匂いを察知してテントからのそのそと出てきて、遠回しに飯をたかるのが彼の日課だったろうに。
「彼はいつも七層に居ますので、管理責任者代理みたいに扱われてますからね。ほら、前に来た時は紙皿だらけだったでしょう? それをノートに書き写してくれたのも彼でして」
「なるほど、そういう人清州にも居ますわ。言伝をちょっと頼んだりする間柄ですが、大体のパーティーに顔が利くしいつも七層におるんで自然と頼りになる人になっとります」
どうもどこのダンジョンにも似たような階層の主みたいな人は居るらしい。田中君が居ない事で今のところ不具合は出ていないが、その内自転車のメンテとかノートの交換とかボールペンの予備とか、細かいところから問題が出てくるに違いない。早く戻ってこないかな。
「この後は十五層まで下りてそのままボス戦……って流れでいいんですかね」
「ならボス戦に使わない荷物はここに置かせてもらっていいですか? 」
「いいですとも。テントの中に放り込んでおいてください。ドロップは私が拾っていくってのでもいいですので」
「これで文字通り重荷が一つおりますな」
「ところで、ボスって何処のダンジョンでも内容は同じなんですかね」
「清州ダンジョンの時はわんさかゴブリンとソードゴブリンが湧いてましたな」
「ゴブリンシャーマンも六体ほど居ました。あのファイアボールを潜り抜けながら戦うのは中々スリルがありました」
「それを乗り越えた後でのゴブリンキング戦は……いや、ある意味ゴブリンたちの相手をしてたほうが辛かったかな? 五対一の戦いは意外と戦いやすかったような」
自分達との違いを思い出す。そして、小西ダンジョンが清州ダンジョンよりモンスター密度が高い事も。
「多分ですけど、ゴブリンの数かゴブリンの質が清州ダンジョンよりも高いと思います。ゴブリンだけじゃなくてソードゴブリンがほとんどでしたし、ゴブリンシャーマンは八体居ました」
「さすがは小西ダンジョン、ってとこですか。油断するわけではありませんが、鬼殺しになった時よりも今は私たちも強くなってますから後れを取る事は無いと思います……ってまって、安村さん達はあれを二人で殲滅してゴブリンキングも倒したって事ですか」
横田さんが驚きつつ尋ねてくる。そういえば人数差が三人分あるのに同じ鬼殺しってことは、戦力乗数はこちらのほうが上なのではないかという話になるわけか。
「ダメージはそれなりに受けましたけどね。何とか勝てたってところです。今からもう一回勝てと言われたら……う~ん、どうなんだろう? 少なくともダメージソースは一つ潰せてると思うんですけど……」
「ダメージソースが一つ潰せたというのは? 」
結衣さんはダメージソースのほうに興味があるようだ。これから戦うんだから気になる所ではあるかもしれないな。
「【魔法耐性】を頑張って二個拾ったので二人で覚えたところです。おかげで十六層が一段と楽になりました」
「ただでさえ出にくいスキルオーブを二人分揃って頑張りましたーみたいに軽く言われましても……あぁ、例の法則なら好きなだけ自分たち専用で探索できる深い層はほぼ占有できる狩場ってことですか」
「大体は。ダンジョンマスターについて知らされたついでで言ってしまいますが、少なくとも小西ダンジョンについてはあの法則正しかったみたいです。作った本人が白状しました」
「作った本人が……つまりダンジョンマスターが認めたと」
「ついで話みたいな感じでしたからあまり誰が集めるとかは気にしてないんでしょうね。一つは本当に運が良く出たのですがもう一つは気合でひねり出したってところです」
「法則を知ってても結局力業って事ですかね。いやでも清州ダンジョンや他所のダンジョンでやるよりも、道順もモンスターの湧きどころも解ってるここでやったほうが……って事ですか」
「それも一つでしょうね。なんせお手製のリポップ地点確認済の地図もありますし。後は……他のパーティーが居ないというのが一番大きいんじゃないでしょうか。特に十三層あたりに潜ってる人がほとんど居ないという意味では」
「その様子だと、全層のスキルオーブを確認して回ってるという訳ではないようですが、今のところ出たのは? 」
「えーと……五、六、九、十一、十三、十五では確認されてますね。それ以外の層とモンスターまではちょっと全部把握してないので、他のパーティーがすでに取得しているかもしれませんし、まだかもしれません」
みんな手を止めてそれだけでも出し過ぎですよ……と言わんばかりの表情をしている。出ちゃったものは仕方ないじゃない。使ったものは仕方ないじゃない。
「とすると、【魔法耐性】はスケルトンからのドロップと。スキルオーブの有用性のわりにあまりお高いスキルではありませんでしたよね」
「モンスターが魔法攻撃してくるかどうかの頻度の差じゃないですかね。【物理耐性】のほうが相対的にお高くなってますし、おそらく十七、十八層でも出番は無いですから、ボスと十六層だけのためにそこまで高額の買い物は出来ないって事では? 」
「その分汎用性が高い【物理耐性】がお高いんだね。……ん、つまりジャイアントアントの酸は魔法攻撃ではない? 」
多村さんはそこに疑問が湧いたようだ。目の付け所がちょっといい。
「そうですね、体感した感じだと魔法攻撃ではないと思います。物理攻撃にある程度の貫通ダメージがあるってところでしょう。生身で違いを体験したのでその辺は何となくわかりました」
「わざと酸を受けたんですか……後遺症とかは? 」
「初回受けた時はポーションで洗い流しました。最近受けた時は赤く爛れただけみたいだったので水で洗い流して済ませました。まぁ、ボス戦にジャイアントアントは居ないでしょうからその点は安心ですね」
焼きそばをずぞぞぞ~っと食べながら説明する。他のメンツは若干引いている。実証実験ってそんなにしないものなのかなぁ?
「それが元で探索者引退なんて事になったらどうする気だったんですか。文月さんも居るのに……あぁ彼女の心労が偲ばれるわ」
結衣さんは少し怒っている。まぁ、わざと危ない事したらそういう感じにもなるか。
「最初は実力が足りなくて避け切れずに喰らいました。ちょっと予想よりもダメージは大きかったですが、初めてソードゴブリンに受けた心理的衝撃に比べたら大したもんじゃなかったですね。あれからステータス的に? 強くなったなら前よりもダメージは少ないはずだ、とあたりをつけて同じ個所に同じように食らってみたんですよ。結果はこの通り傷も残ってないので大丈夫でしょう」
手を見せてみる。うん、元通りいつもの俺の手だ。今になって腫れ上がったり肌が荒れたりはしていない。
「というわけで、ジャイアントアントの酸はこれからも回避に専念する、ということで事態は収まったわけです。手ならまだしも、目に喰らって失明なんてことは避けたいですしね。失明したらポーションのランクいくつが必要になるんだろう」
「外傷にしても内傷にしてもランク3で追いつくかどうかじゃないですかね。ランク3ならギリギリ自力で取りに行けるラインですよ」
「お、ということは十九層以降に出て来るとかいうダンジョンハイエナ……でしたっけ。そいつから取れるんですね」
「その通りです。ただ、中々に狂暴らしいですよ。素早いし、顎の力も強いし。魔結晶とポーションしか落とさないらしいですが」
特殊なドロップは無いらしい。いやヒールポ-ションのランク3が落ちるだけでも美味しいのか。
「ヒールポーションのランク3は買い取り価格十六万円だったりするのかなぁ」
「いえ、二十四万円ですね。ここから先は三倍買取だそうです」
「じゃあキュアの3が七十二万でヒールの4が二百十六万ですか。夢が広がるなぁ」
「その前にキュアの3を取れる相手に出会うためにBランクに上がらなきゃいけないんですけどね」
「Bランクで一本七十二万かあ……ギルマスの提案断らなきゃよかったかなぁ」
正直一本でその値段は美味しすぎる。税金引いても相当な金額だし、エレベーターで自動的に中間まで飛べる以上これ以上ないぐらい便利だ。
「ギルマスと何か約束でも? もしかして、依頼をクリアしたらBランク推挙を約束されたとか」
「いやね、二十一層到達したら何が欲しいって言われたんでとりあえず拘束されない生活って答えたんですよ。芽生さんの事もありますからギルドに縛られるような形にはなりたくなくて。そしたらBランクに推挙するって話も出たんですが」
「それを……断ったと? 」
「やっぱり受けようかな。戻ったらギルマスに聞いてみよう。そいでもって自由に潜れるかどうか確かめよう」
「安村さんが時々何処を目指して探索者をしてるのか気になりますね。名誉でも無さそうだしお金は……まぁ誰でも無いよりあったほうが良いですし。そのほかの理由は何かあったりしますか」
何処を目指す……かぁ。
「二年は今のまま探索者を続ける。その後は……その頃には探索者も増えてるだろうし、ドロップ品の需給だってもっと安定するかもしれない。魔結晶のエネルギー利用も進むだろうし、今美味しいと稼げる狩場は稼げなくなってるかもしれない。その時改めてどうするか決めようかなって。なのでとりあえず……」
「とりあえず? 」
「年のせいで胃もたれを起こし始める前に腹いっぱいレッドカウの肉を食べたい、かな。すき焼きでもステーキでもしゃぶしゃぶでももっと他の美味い喰い方でもいい。今は食い意地で続けてるようなものですね」
堂々と宣言する。俺は、肉が、喰いたい。
「らしいっちゃらしいですな。確かに腹いっぱい食えるぐらい楽しめる……あぁ、安村さんが今小西ダンジョンに執着する理由はそこにあるんですなぁ」
「そうですね。このエレベーターのおかげで二時間ほどで十七層までたどり着けますし、何なら日帰りで少しずつ持ち帰って後でまとめてわっと食べる事だってできます。日帰りでも充分な報酬にはありつけますし、エレベーターの燃料費は充分おつりが来ますし……むしろ皆さんがこっちに来ません? 」
「お、実利で探索者の引き抜きに来ましたな。確かに実際に使える側としてはメリットしかなさそうに見えますが、デメリットがありまっせ」
平田さんがデメリットを強調する。
「なんでしょう? 」
「ここに慣れたらもう他のダンジョンに潜るのが面倒でしゃあないって事ですわ。最近清州に来んのもそれもあるんちゃいます? 」
さくしゃからのおねがい
みなさんのごいけん、ごかんそう、いいね、ひょうか、ぶっくまーくなどから、ねんりょうがあふれでてきます。
つづきをがんばってかくためにも、みなさんひょうかよろしくおねがいします





