395:クエスト ~エレベーターを起動せよ~
みなさんのおかげで はじめて にっかん 1いになりました
ありがとうございます
「おや、知り合いかね? だったら色々とやりやすくていいね。私が小西ダンジョンのギルドマスターの坂野です」
「初めまして、清州ダンジョンから派遣されて参りました、代表の新浜です。それからこちらはメンバーの平田、村田、横田、多村です」
「田が付く方が多いですな。こちらが今回先導役を務める……説明はいいんでしたな。早速話し合いから始めますか」
「お久しぶりです、結衣さん。相変わらずギルドにこき使われてますね」
握手する。ちょっと強めに握り返されてきた。痛いというほどではないがなんだかお怒りの御様子。
「えぇ、お久しぶりです。最近お会いしてないので愛想をつかされたのか探索をサボってるのかやきもきしてましたがそういう訳では無さそうですね」
なるほど、ご無沙汰だった理由について問いただされているのか。そういえばあれから地上でデートするという約束をしたまま結局果たせないでいたな。
「こっちはこっちで色々依頼とかありまして。ちょっと小西ダンジョンに籠る必要があるんですよ」
「じゃあま、そういう事にしておきます」
握る手が柔らかくなった。どうやら許されたようだ。
「なんだい、二人は良い関係かい? 相棒ちゃんも居るのに隅におけないねえ」
「そうなんですわ。安村さんこれで結構プレイボーイで」
平田さんが小指を立てながらギルマスに話しかけている。
「おいそこの関西弁とギルドマスター。変な方向に話をもっていかないでくれないか」
ちゃんと注意しておく。
「さて、話をちゃんと整理してまとめて、それから潜る事にしましょうか。念のため、一から話を始めましょう」
横田さんが音頭を取り話し合いが始まる。こういう時頼りになるなぁ。
「では安村さん、申し訳ないが一から説明を頼むよ。私が話すと細かいところがぼんやりするといけないからね」
「わかりました。念のため確認ですが、そちらは何処まで話を聞いている段階で派遣されてきたのですか? 」
まず、事前情報の確認からだ。そうしないとまずどこから話を始めなければいけないかが変わるからな。完全に一から話すか、二から話すか、移動予定と行動予定が大きく変わってしまう。
「こちらの手持ちの情報を整理しますと、小西ダンジョンにエレベーターが設置されたという事、エレベーターは一層と七層と十五層を行き来する事が出来るという事。使用するためには鬼殺しの称号、つまりゴブリンキングを倒したことが有るという事、ゴブリンキングの角を所持している事で使用が可能になる、という事です。その点に齟齬はありますか? 」
情報まとめメインは横田さんの仕事らしい。他のメンバーはうんうん頷きながら調整役を任せているようだ。横からワイワイ言い出すよりはシンプルに話が進んでとてもいい。
「そこまで理解されているなら話は早いですね。エレベーターが作動できる事は事実です。証拠は私たちのパーティーになります。先日、日帰りで十五層に籠って帰ってきました。入退ダンの時間と査定にかけたドロップ品が証拠になると思います」
そう言い切ると、ギルマスは自分の席のパソコンで何やら調べ物を始めた。どうやら言葉の裏を取ろうとしているらしい。そっちは任せた。
「で、実際にゴブリンキングの角と鬼殺しの称号があればエレベーターが動くのか? という実証実験をするのが今回のクエストとなります……ですよね? 」
「そーだよー……っと、確認が取れた。確かに日帰りだけど十三層から十七層のドロップ品を持ち帰っているね」
パソコンを確認しながらギルマスが正しい事を証明する。画面を見せるのは機密なのでダメだそうだが、口頭で間違っていない事を確認できた。
「わざわざ十七層のドロップを査定に提出せずに後日時間をずらして行うというアリバイトリックみたいなやり方をする理由は無いのでそれを根拠とさせてもらいますが、それで証拠になりますか? 」
「安村さんがわざわざ私たちを騙す理由がありませんし、それならそもそもこの話は立ち上がりませんので、あくまで確認のためという事ですね。わかりました。それでこれからの実働予定についてですが」
横田さんは落ち着いて話を次の段階へ進める。
「このエレベーターを起動するための確認については三つ段階があります。一つ目はゴブリンキングの角を所持していれば誰でもエレベーターを使う事が出来るのか。二番目に、小西ダンジョン産でなくとも反応するのか。三番目は、鬼殺しの実績そのものがダンジョンと結びついているかどうか、です」
「一つ目と二つ目については解りますが、三つ目についてはどういう意味です? 」
ダンジョンマスターの事は伏せて確認をしておく必要があるから言い回しには少し気を使わなきゃいけないな。えーと……
「あくまで鬼殺しと表明しているのは探索者側の理屈なので、ダンジョンがそれを把握、確認できるかどうか、つまりダンジョン間の相互作用が働いているのかどうかです。もし相互作用がないのならば、他のダンジョンで鬼殺しを達成できてもこのエレベーターは使えない事になるでしょう? 」
「なるほど、鬼殺しなのかどうかはゴブリンキングの角だけでは証明にならない可能性があるという事ですか」
横田さんはちょっと額をつついて考えるしぐさをする。
「最も楽な方法でエレベーターが利用できる場合、小西ダンジョン産のゴブリンキングの角を転売して、他の探索者が七層や十五層にたどりつくことも可能になってしまいますからね」
「なるほど、鬼殺しであるというものが角に起因するものか、それとも戦闘の結果に起因するものなのかも判別しないといけないということですか」
「ダンジョンがその辺をどう意図しているかまでは解りかねますので、そこの確認も必要でしょう? 」
ダンジョンマスター同士の仲が良ければ相互共通仕様みたいなものもあるかもしれないが、そこまでは解らないからなぁ。
「表面上ではどのダンジョンのドロップ品も同じだと考えがちですが実はシリアルナンバー的なものが存在している可能性があると」
「その場合、皆さんがお持ちになっているゴブリンキングの角は清州ダンジョン産という……刻印が刻んであるわけではないでしょうがそれがエレベーターに対して働きかけてしまう場合、エレベーターの稼働の為には使用する事が出来なくなります。その場合条件を満たすために十五層まで潜ってボスを再度倒してもらい、小西ダンジョンでも鬼殺しになっていただく必要があると考えます」
「つまり、行ってみないと解らないが最短だと一層十五層をエレベーターで往復するだけ、最長だと一層から十五層まで歩き通してボス戦、という事ですか」
「そういう事になると思います。なので場合によっては丸一日かけて小西ダンジョンへ潜ってもらう可能性があるということです。その辺の装備は大丈夫でしょうか」
最悪潜るけどその為の装備があるかどうかの確認をする。準備が無い場合はまた後日になるか、今からいろいろ揃えていく必要が出てくる。
「しかし、安村さんも変なこと要求したし、ダンジョンマスターも応えたよね。十四層じゃなくて十五層にエレベーターを設置してもらったあたりも含めてだけど。もう少し冷静に考えても良かったのでは? 」
ギルドマスターが突然爆弾を放り投げて来た。ダンジョンマスターの件は黙っているのでは?
「それ、話していい内容なんですか? 極秘事項では? 」
「んー、でもさ。安村さんがなんでエレベーターについて詳しいのか、どういう経緯でエレベーターについて知る事になったのか。その辺を説明するためには極秘事項であってもこのパーティーには公にしておかなきゃいけない情報じゃないかい? 」
確かに言うとおりだが、出来れば伏せておいたほうが良い情報じゃなかったのか。気を使った甲斐は無かったようだ。
「一番の謎はそこなんですよね。なんで安村さんがエレベーターについてここまで細かい説明が出来たのか。そこをはっきり確認しても良いですか? 」
横田さんに詰められる。これは正直に経緯を白状する必要があるな。
「えーと……許可が出たので話しますが、そのダンジョンにおいて最初に鬼殺しになった人にはダンジョンマスターと謁見する権利と何か要求する権利が発生したみたいなんです。それでとっさに思い付いたのが道中の移動距離をカットできるエレベーターだった……という経緯がありまして」
「それはそれは。鬼殺しおめでとうございます。で、そのことをちゃんとギルドに報告して……多分ギルマスがダンジョン庁の会議でその情報を公開して、回りまわって私たちにクエストとして下りて来た……と」
「まぁ、そんな感じでしょうね。知り合いで共有できる情報だったのは幸運だったと言えますね」
「小西のギルマスさん、この件はさすがに他言無用ですよね」
「まぁねー。気軽に言っちゃったけどダンジョンマスターの存在そのものが隠匿されてるから、うっかり口外すると懲罰制度に基づいてDランクまで落とすことになるねー」
ギルマスが口外するのはありで我々が口外するのが無しというのは不公平な気がするが、立場上の違いってものだろう。元々口外するつもりはなかったが、結衣さん達には余計な負担を持たせることになってしまったな。
「そんな訳で、俺達以外でも使えるようになると小西ダンジョンの利便性が一気に解決する可能性が高くなる……ぶっちゃけた言い方をすれば小西ダンジョンにも人が増える。そして人が増えたほうがダンジョンマスターも嬉しい、という流れになってまして」
「ダンジョンって……なんでしょうね。今更な疑問な気がしますが」
結衣さんがちょっと悩んでから答える。
「その答えを聞きに行くには俺が二十一層まで潜る、というギルドクエストを押し付けられてまして。今のところ十七層までしか潜れていませんが」
「あ、十七層と言えばこの間のお土産、他のダンジョンでも生えてる植物らしいよ。植生にも違いは無いらしいね」
「そうですか。もし必要ならまた摘んできますよ。さすがに根っこから引き抜いて地上に植え替えるというのは出来ませんが」
「【採掘】だっけ?手に入ったら使ってみる気、あるかい? 」
「ないですねー。一層から下層まで片っ端から手に入りそうな植物なりなんなり採取して回る事になるでしょうし、そこまでこき使われたくないです」
「だよねー。あれはあくまでサンプルという事にしておくよ。また何かあったら頼むかもしれないけどまぁよろしく」
話が大分脱線したな。元に戻そう。
「で、ダンジョンに潜る話なんですが、準備のほう大丈夫ですか? 主に食事と休憩についてですが」
「一応二休憩分ぐらいは持ち込む予定でしたので、そっちのほうは大丈夫です。早速確認しに行きますか」
新浜パーティーがお互い目を合わせて確認をする。全員準備のほうは大丈夫なようだ。
「じゃあ、早速向かいますか。ここで話し合いしてて進むものでもありませんし、行ってみて確かめて、それから行動しましょう。一層のエレベーターは歩いて三十分ぐらいの所なのでスライムでもプチプチ潰しながら行きましょう」
「スライムを潰すのは相変わらずなんですね……」
一層の道中のスライムは倒す。これはこの依頼をこなすために必要な決定事項だ。反論は許す。けどやっちゃう。
「ではギルマス、ちょっと確認のために一層まで来てもらっていいですか? 」
「え、私が? なんのために? 」
「ここにいるのは全員が鬼殺しです。鬼殺し以外の人物がゴブリンキングの角を所持した時にエレベーターを見ることが出来るかどうか、という事象を確認するためには一人、必要になるんですよ」
「なるほど……一層まででいいかい?あそこなら歩いてるだけなら安全だから」
「えぇ、それで充分です」
応接室を出てダンジョンに入る。受付嬢もそういえば以前見たような人たちだなぁという顔をしている。
「六名、宿泊の可能性があります。後一層までギルマス借ります」
「えっと……確か以前お会いしましたよね? 」
よく覚えてるな、これも仕事の内か。受付にとっては探索者の顔を覚えるのも大事らしい。
「えぇ、前に一度宿泊で。今回はどうなるか解りませんがまた潜ってきます」
「そうですか、ご安全に」
「ご安全に」
さて、どうなるか解らないダンジョン探索に出かけるとするか。





