388:十七層 2/2
総合評価十一万超えました。ありがとうございます。
ドローンから見える風景は地面に生えている草の濃淡を除けばほんのいくつかのオブジェクトが見えるだけだ。モンスターの分布状況はどうやら濃淡があるわけではなく、ある程度均一であるらしい。
どっちを向いてもバトルゴートだらけ……という展開を考えていたが、どうやら草原にも草が禿げている一角があり、そこにカメラを向けてズームすると……いた、赤い……牛? 二足歩行の牛だ。これがレッドカウだろう。二頭いる。もうちょっと近づいてみるか。
ズームをきかせたまま徐々に近づいて行くと、二足歩行の牛は傍らに金棒を置き手を器用に使いながら草をブチブチと抜いては口に持って行っている。かなりの大食漢のようだ。周囲十メートルぐらい草が無いのはそのせいかもしれない。大きさは……そんなに大きくはない。おそらくだが俺と同じぐらいだろう。
何故ミノタウロスではなくレッドカウなのか、理由が分かった気がする。ミノタウロスと呼ぶには体が小さい。迫力がない。地獄に居るという牛鬼という存在を思い出したが、あれももっと背丈があるイメージがある。つまり、色々と中途半端なのだ。現実の牛が立ち上がってもここまで小さくないだろう。ゴブリンキングのほうがよほど迫力があった。
実際に近寄ったらもっと違う感想が出るかもしれないが、これ本当にアクティブモンスターなのか?と思うぐらいくつろいでいる。ドローンに反応しないだけかもしれないし、近づいたらさらに赤くなって襲ってくるかもしれない。
レッドカウが右手に持っている金棒、あれは当たると相当痛そうだ。避けるか受け止めるか判断に悩む。さすがに弾いて対応する……という訳にはいかないだろうな。確実に避けて当てる。そういう戦法で行こう。
芽生さんにもスマホの動画を見せて確認する。
「あそこまで三十分ぐらいかかりますかねえ。あれがお肉ですか」
「ちょうど目印……みたいに草が禿げてるし、草が無いところにはレッドカウが居るのかもしれない。しかし、あれ二頭でこれだけ喰ったのかな。どんな胃袋してるんだ」
「この草が美味しいお肉の素……なんですかね」
「牛の真似してるだけじゃないかな。多分行為自体に意味はないんじゃないかと思う」
「ともかく向かってみますか。一対一ですし練習するにはちょうど良いかと」
牛の方向へ行くまでに数匹のバトルゴートで肩慣らしをしつつ、レッドカウが居た方向へ向かう。途中に良い感じの岩があったのでそれを地図に記入し、そこまでに歩いた時間を書き込むと、いつもの半径五十メートル付近にまでたどり着いた。
すると、それまで草を抜いて食べていたレッドカウがこちらに反応する。金棒をもって立ち上がりあぁん? てめえら俺に何か用か? みたいな感じでこちらを睨みつける。モンスターって大体五十メートルが戦闘範囲なんだな。一つ学習した。
しいて言うならミニミノタウロスなんだろう。身体能力に全振りしたようなプチマッチョな牛さんがこちらに向けて走り込んでくる。人型だからか、スケルトンのような動きを想定しつつ待ち構える。
「来るぞ」
「来ますね。まず回避専念で行きましょう。攻撃パターンさえわかれば隙も見つかるはずです」
レッドカウは手に持った金棒……金棒と言ってもぶっといアレではなく、どっちかというと細い金砕棒のようなものを全力で振り回して飛びかかってくる。腕力のおかげか、かなりの速さだ。だが、見切れないほど速い訳ではない。軌道を読んで回避する。すると、避けた先から追撃が来た。これはなかなか楽しい戦いになりそうだ。
一分ほど連続してこちらが回避に専念すると、レッドカウが息切れを起こす。あまり長時間振り回していられるほどスタミナがあるわけではないようだ。急に人間臭さが出てきたな。ここがチャンスと懐に飛び込んで腹を真一文字に切る。そこから黒い粒子が噴出し、レッドカウは膝をつく。膝を突いたということは頭が目の前にあるという事。そのまま首を落とし、トドメとさせていただく。
レッドカウは無事に黒い粒子に還った。さすがに一分間避け続けるのはこっちにも多少の疲れが感じられるが、このぐらいならなんとかなるな。持っててよかったステータスブースト。だが、一つ残念なことに落としたのは肉ではなく魔結晶だった。大きさはバトルゴートのものとほぼ変わらない。多分価格も同じだろう。
芽生さんのほうもひらひらと避けながらレッドカウの息切れを待っている様子。ウォーターカッターでいくらかダメージを与えたのか、レッドカウの表面には切り傷が見られる。やがてレッドカウが膝をつく。燃料切れか、それとも草の食べ過ぎで胃が大変なことになっているのか。
どちらにせよこれで勝負は決まったな。芽生さんがセイヤッと槍を打ち込む。レッドカウの急所に決まったのか、一発で黒い粒子に還っていく。後に残ったのは魔結晶。二連続魔結晶か。肉に当たるまではもうちょっと頑張ってみるか。
「肉。肉何処。これは肉ですか」
「それは魔結晶だ。次をまた探すからちょいまち」
再びドローンで周囲を観察すると、草が禿げている場所をもう一か所見つけた。どうやら十七層ではバトルゴートがメインでレッドカウはたまに出てくる程度の湧き具合らしい。これはとっとと階段を見つけて十八層に向かったほうがいいかもしれないな。
一応周りも観察しているからいくつかオブジェクトを発見してはいる。あまりドローンに頼る探し方をしたくは無いのだが、草が中々長く生い茂っている事もあるので視野が開けない。五層よりはマシ……いや五層よりひどいかもしれない。
流石に階段はまだ見つからない。遠くまでドローンを飛ばして観察する事は可能だが、今ドローンを無くすと本格的に迷子になる可能性があるので、頭上で飛ばすだけに留めている。たかが頭上でも見える風景の差は歴然だ。次のレッドカウは……あっちだな。草が禿げていてその周囲に赤いのが見える。
「こっちだ、距離は……歩いて十分ぐらいか」
「あっちだこっちだでは解り辛いですね。なんかもうちょい言い方とか工夫とかないんですか」
「えっと……方位磁石が正しいとすれば南東方向になるな」
「だとすると、私たちが来た階段は北方向になるわけですか」
「そうなる。結構歩いたからな、一旦戻って他の方角を探ってみるという選択肢もあるぞ」
「とりあえずお肉ですお肉。最低二つ持ち帰らないと私の気がすみません。気合入れて探しましょう」
そこから暫く、方角を見失わないようにしつつもレッドカウを探す。草が禿げてくるとレッドカウに警戒し、草のそこそこ長いところではバトルゴートを探す。バトルゴート十匹に対してレッドカウが二匹ぐらい。圧倒的にバトルゴートのほうが出会う確率は高い。バッテリーも一本消費した。残り二本。バッテリーはもっと買い入れておこう。帰ったら買い足す、メモっておこう。
レッドカウとの戦いも毎回一分かける、というわけではなく、振り回す金棒を回避してすぐに攻撃に反転することでより短い戦闘で済むようになったし、バトルゴートも含めて直刀に直接雷魔法を付与する事で確実に仕留められるようになった。
七匹目でようやく肉が一個出た。あたりが悪かったのか、それともこのぐらいのドロップ率なのかは解らないが、とにかくやっとのことで現物ドロップだ。白いサシの入った、上等な牛肉の塊であることが解る。大きさはオーク肉やウルフ肉に比べて少し大きい。ステーキ一枚分って感じだ。お高級な精肉店で見たことがある分厚くて値段がいつもより二桁高い肉といい勝負をしている気がする。
「やっと出ましたね……苦労しました。あと一個頑張りましょう」
「そろそろ帰り道を探すほうが先かな。とにかく一つは出たことだし、十七層が思ったより広かった。帰り道を見失わないようにしないと」
「そういえば……ここどこでしょう? 」
「ほら、やっぱり帰り道が解らない。これでドローンのバッテリーが尽きてたら最悪だったぞ」
「残量のほうは大丈夫なんですか? 」
「歩いてきた距離からすると、ギリギリかな。最後の一個が残ってくれるかどうか」
地図代わりに書き込んでいるメモを見ながら歩いてきた距離と方角をざっくり計算する。ここから北北西に三十分ほど歩いてもう一度ドローンを飛ばせば階段が見える事だろう。
とりあえず南西ルートは外れという事にしておこう。次に来た時は他の方角を探すか。方位磁石を頼りに帰り道すがら視界に湧くバトルゴートとレッドカウを退治しつつ三十分。改めてドローンを飛ばし階段が北東にある事を確認。そのまま十分歩くとようやく階段が見えて来た。これで第一回十七層探索は完了だ。
ちなみに肉だが、もう一個無事に出てくれたよ。帰り道すがらにレッドカウが居てくれて助かった。とにかく目標の肉二個は手に入った。これで一つクエスト完了だ。この肉をどうするかはまだ考えていない。
次回はバッテリーをもっと数多く持って来よう。十七層でこれだから更に三階層奥に潜る分を考えると十倍ぐらいあってもよさそうだ。
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