386:骨弓の価値
いきなり十五層へエレベーターで時短したところで毎回のスケルトンとこんにちはする。角を忘れずに取り外すと戦闘開始だ。一分にも満たない戦闘時間だが最初の一戦目としては軽い運動として丁度いい。あっという間にスケルトンには帰りの燃料となってもらう。
「この戦闘が有ると十五層に来たって感じがして良いですね」
「このまま十六層十七層まで潜るので出来るだけ省エネでいこう」
ボス部屋前まで順番にモンスターを狩るとそのまま真っ直ぐ通り抜けて十六層への階段へと向かう。前々回は気まぐれの寄り道でスキルオーブを出してくれたが、そんな幸運は二度続くことは確率的に考えてまず無い。その分十五層で戦うモンスターは少なくなるが、どうせ十六層ではわんさか湧いている。そっちのほうがまだドロップの可能性としては高いのだから文句は言わないでおく。
「そういえばスケルトンは【魔法耐性】をくれましたが骨ネクロと骨弓は何をくれるんでしょう? 」
「骨ネクロはともかく骨弓は気になるな。調べてくればよかったかな。せっかくの休みなのに料理に明け暮れて他の事をしなかった。もっとちゃんと調べないといけないな」
「まぁ今回十六層は通り過ぎるだけですし、落としたらラッキー程度のものでしょうけど。出たら出た時のお楽しみにしておきますか。十六層にしか居ないモンスターですし、何かレアなスキルをドロップするかもしれませんよ」
「抜けるまでに結構戦うからな。期待して行くか期待して行かないかの差だし、また一個何かが出てどっちが覚えるか、それとも売るか、悩むのもコストがかかる話だが。レアと言えばゴブリンシャーマンは何をくれるんだろうな。あれもボス部屋以外で見たことが無い」
「落とすまで戦い続けます? 今ならボス待ちの行列も無いですからボスが湧いたなりすぐに倒して確認という事も出来ますよ」
「その辺含めて次回以降だな。今回は考えずに行こう」
ゴブリンシャーマンのドロップと骨弓のドロップ調査。メモに書いておく。メモに書いておくという作業によって絶対後日メモを見返す機会が訪れるので無駄ではない。
十六層への階段前のスケルトンを難なく処理し、十六層の階段をそのまま下りる。下りたところは骨グループが居ることは確定なのでその準備だ。ついでに骨弓の矢の威力がどれだけ耐性スキルで緩和されているかも試そう。
「骨弓どれだけ無力化できるようになったか楽しみではある」
「完全に無力化されてたら可哀想ですけど」
「なぁに、そのための六千万だ。贅沢すぎる仕込みではあるがうまくいけば実質三体相手するだけで済む。これから何度も通る事になるんだし楽さを金で買ったと思えばまたそれを元手に増やすこともできるさ」
十六層の階段を下りた先にはやはり骨グループ。骨弓が早速矢を放ってくる。盾で弾き飛ばすが、明らかに威力が落ちている。装備品にも【魔法耐性】の効果は及ぶらしい。これは楽になったな。いつも通りスケルトンと骨ネクロ相手して最後に骨弓で良さそうだ。
芽生さんも試しに矢を槍で弾き返して、その手ごたえの無さに少し驚いている。骨グループは三十秒とかからず黒い粒子へと還った。
「これは効き目十分ですね。敵が一種類減ったようなもんです」
「金をかけた分安全になったという所か。さぁ、十七層を目指して地図を片手に探索と行きますか」
六千万。普通からしたら……いや、探索者にとっても決して安い金額ではないはずだ。これは【物理耐性】のほうはもっと効果があるかもしれない。もしかしたらスケルトンの斬撃をまともに受けても傷一つつかない可能性だってある。
魔法スキルが効果なく実質封じられてるこの人工ダンジョンでは有り難いスキルだな、耐性スキル。これなら【物理耐性】まで手に入れたいところだが……さて誰がくれるのか。今度調べておこう、メモっておく。
十六層をそのまま地図を基に彷徨うことなく真っ直ぐ進んでいく。道中の小部屋はきっちり倒して今日の稼ぎを増やしていく。いくら十七層探索がメインだとは言え、収入が多いに越したことはないからな。
骨弓が早速矢を射ってくる。それほどスピードの出ない、ステータスブースト中なら目で追って避けれる程度の速さの矢をもう一度盾で受ける。衝撃はほとんどなく、当たったという感触はほとんどない。おそらく【魔法耐性】のおかげだろう。次は肉体で受けてみよう。
骨弓を後回しにしスケルトンを一刀で核まで割り潰した後、骨弓に正面から立ち向かう。骨弓は再び矢をつがえて射ってくる。今度は正面から腹で受ける。ズンッという衝撃が走るがそれだけだ。思ったよりも大丈夫らしい。威力減衰のほどを肉体で確認できたところで骨弓を処分して終わり。
「また自分で試すような事を……で、どんな感じでしたか? 」
「バトルゴートの体当たりのほうがよほど気合が入ってる」
「今後は骨弓は居るだけの存在になるって事ですか。骨弓君のここにいる価値が一気にゼロになりましたね」
「逆だ。居るだけで魔結晶をくれるんだからむしろ価値が爆上がりよ」
ただそこに居てくれて倒すだけで魔結晶をくれる。射ってくる矢に威力は無く、他に攻撃手段もない。骨弓君がワイルドボアレベルまで脅威が下がったということだ。
もしかしたら矢を受け続けて平然として立っていたら、へそを曲げて泣きながら弓で殴りに来る可能性はあるかもしれないが、それを確認するためにじっと待っているのは時間の無駄だし、そもそもスケルトンは泣けない。
曲がり角でスケルトン、小部屋で骨ネクロと骨弓、骨骨だらけだ。肉っ気が無いのが寂しいところだがここを抜ければ肉の可能性が大いに上がる。査定がいくらになるかまでは知らないが、少なくともオーク肉より安い事は無いだろう。
まだ抜けても居ないのに十七層の事を考える皮算用をしつつ、もはや慣れ切ったいつものパターンで骨達をバラバラにして核を突いていく。体も温まってきた。もうちょっとペースを上げて戦闘に臨めるかな。
前回は色々迷って道を探しながらの行軍だったが今回は道がはっきりわかっているし、道中のモンスターのリポップ地点もおおよそ地図に描き込んである。油断はしない。出合い頭に食パンを咥えたスケルトンと衝突する心配もない。出会って三秒で撃破。戦闘時間がどんどん短くなっていけばその分歩くだけの時間が長くなる。それだけ早く進めるという事だ。
脅威が一つ減ったことでより素早く次へ向かう事が出来るようになったおかげでドロップ品はザクザクと溜まっていく。骨も真珠も中々の豊漁だ。これは十六層だけでかなりの収入になりそうだな。むしろ十六層をメインに金稼ぎを行っていくのが最も効率がいいかもしれない。
前回に比べて二割位進む速度が速くなったかな。個人的には四十分ぐらいで抜けてしまいたいところだ。十七層に下りれば小休止も出来るだろう。落ち着いて進もう。
前回見た感じの十七層ではモンスター密度はそんなに濃いようには見えなかった。もしかしたら何処かに屯っているかもしれないが、まだ攻略パターンを構築できていない以上ある程度数が少ないうちに慣れておくのがベストだろう。そういう意味では最初に戦ったバトルゴートは良い試金石になりそうだ。
次が楽しみだ……という所で半分、十六層の南北連絡通路まで来た。後三十分ほど戦えば十七層への階段が見えてくる計算だ。物欲センサーの発露によって骨弓を実質無害化できたのは進捗を早くするものとして非常に大きい。やはり金をかけただけの効果はあったな。
これで骨弓が何かスキルオーブをドロップすれば……とは思うがそうそう易々と落ちるものではない事は解っている。そもそも二つこんな短期間で落ちたのが奇跡みたいなもんだ。こんな幸運はしばらく訪れないだろう。
これはしばらく黙っておいたほうが良いだろうな。二人して【魔法耐性】覚えてるというのはいくら何でもやりすぎだ。かといって売る事も出来ないだろうし丁度良かったと言えばそうなるのか。
「魔法耐性の事はしばらく黙っておこう。こんな短期間に二つもドロップして覚えたなんて事になったらいくらなんでも怪しまれ過ぎる」
「それはそうですね。余所のパーティーと共闘でもしない限りはバレる心配はないんじゃないですか? 例の十五層まで連れていくかもしれない人たちだって十六層まではいかないと思いますし」
「そうだな。何時になるか解らないが……そろそろ人選も決まってるんじゃないかな。決まったら連絡が来ると思うよ」
「早めに決まってくれるといいですね。予定を入れやすくなりますから」
十六層をそのまま黙々と進む。骨グループに幾度も出会うがその度に最後まで無視される骨弓がちょっと可哀想だが、これが一番早く殲滅できるので骨弓君には悪いが君は最後だ。仲間が黒い粒子に還っていくのをしっかり眺めた後で最後に相手してあげよう。
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