385:黒い粒子とは何か
おはようございます。今日はいい天気です。寝ざめもバッチリです。ダーククロウさんありがとう。早速いつもの朝食を食べたあとストレッチを行う。ルーティンは欠かさない。
昨日は寝る前にスレとニュースを色々眺めていたが、どうやらスキルオーブドロップの話がかなり広まったらしく、過疎ダンジョンでのスキルオーブドロップ報告が少しずつ上がってきたようだ。
ドロップ検証スレの人間はいくらかのグループに分かれて活動しており、オフ会がてら潜って確かめようという人も結構いるらしい。スキルオーブが出た瞬間を動画に納めることに成功したパーティーがスキルオーブをその場で使ってその光景を眺める動画が再生回数を稼いだり、急いでギルドに持ち込んで換金したりと、俺が考えていたように移動しながらラッキーストライクを狙う探索者は確かに居るらしい。
元々個人探索者はその辺のフットワークは軽かったようだ。いろんなスキルオーブのドロップ情報が集まったおかげで、どの階層でどのスキルがドロップするかも傾向がつかめて来たらしい。
ダンジョンの理解が深まるのは良い事だ。このままみんなに色々と試して貰って、出来上がった果実を賞味するほうに回ろう。
さて、今日は十七層に行こうと思う。レッドカウに会ってみたいというのと、出来れば肉を手に入れたいという食欲全開の理由ではあるが、ちゃんとダンジョンに潜って深層探索をしているぞという証拠として地図を少しずつ作りながら前に進んでいくポーズは必要だからな。
いずれは二十一層まで潜りこむことになるわけだが、さすがに二日三日連続して潜るのは無理がある。少しずつでいい、前へ進もう。
昨日作った料理のメモと作り置きしておいた料理を保管庫に放り込む。まずはローストビ……ボア肉だな。良い感じに冷えているのでそのままお出しできるな。タレは現地で和えたほうが美味しいだろう。それと後は調理するだけの状態にまでしておいたチーズとボア肉のアヒージョ。なんかアヒージョばかり作っているイメージがあるが美味しいは正義だ、昨日食べて美味しかったので味のほうは大丈夫だと思う。
念のためカオマンガイの材料とにんじんを薄皮状にピーラーで作っておいたものを放り込み、三食分ぐらいの食事にはなった。三回休憩するような事になっても大丈夫だろう。パックライスもしっかり温めて放り込んだ。
なんか、ダンジョンで食事をすることがメインになりつつある気がするが、これはこれで気力を確保するために大事なことだ。なら問題ないな。うん、よし。
保管庫に放り込んでおいた探索道具を身につけ……
万能熊手二つ、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
インナースーツ、ヨシ!
防刃ツナギ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
枕、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
お泊まりセット、ヨシ!
冷えた水、コーラ、その他飲料、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
ドローン、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
特に飯の準備は念入りにやった。ドローンは確実にある。この二つといつもの装備があれば最低限十七層を巡る事に問題は無さそうだ。お泊まりセットも半分以上は十四層に置きっぱなしだ。
これで準備は……なんか不安になってきたのでもう一回チェックする。そして念のため中華そばの袋麺を二つ放り込んでおく。最悪これで食事のクオリティをごまかそう。
準備が出来たところで出発だ。いつもの電車とバスで出かけたらバスで芽生さんとばったり。
「おはようございます。趣味は決まりましたか」
「おはよう。とりあえずしばらくはダンジョン料理という事になるかな」
「結局ダンジョン……でもまぁいいです。それは私が美味しそうな料理を楽しみに出来るという事ですよね」
「とりあえず今日のは作って味見もしたから同じように作れれば問題ないと思う。それなりに楽しみにしてて」
そのままダンジョンまでたどり着き、ちょうどいい時間で入ダンが始まる。
「宿泊で。奥まで潜ってきますよ」
「無理せず帰ってきてくださいね。ご安全に」
「ご安全に」
一層へ入り、スライムを横目にエレベーターのほうまでまっすぐ進む。
「今日は十七層だ。目標は次への階段探しと……肉だな」
「いよいよ牛肉ですか。そういえば、牛なのに何故レッドカウなんでしょう? ミノタウロスとかでも良かったんじゃないですかね」
「出会ってみればわかるさ。とりあえず二人分、できれば中華屋に卸す分も欲しいな。しかし、十七層まで潜るとなると……それなりに往復時間がかかる。まずは広さを確認する必要があるかも」
「モンスターの分布具合も知りたいですしね。五層みたいにちょろっとしか居ないとかかもしれませんよ」
「それはあんまり嬉しくないな。歩くだけよりも戦いながら歩くほうが気がまぎれて楽だ」
一層を抜けてエレベーターホールへたどり着く。ここまではいつも通りだ。いつも通りでなければ困る。またスライム大繁殖するようなイベントは大歓迎だが、探索予定の腰を折られるのはちょっとよろしくない。
エレベーターを起動し、中に乗り込むと燃料を入れ十五層のボタンを押す。十五層まで下りたらそのまま十六層、十七層までまっすぐ行く。道は分かっているのでおそらく一時間ほどあればたどり着けるだろう。その後からが本格的な探索だ。
「しかし、エレベーター様様ですね。あの時とっさにエレベーターと言い出した洋一さんは天才かもしれません」
「もっと賢い人だったら転移できるスキルが欲しいって言ってたと思うよ」
「転移ですか……確かにそのほうがもっと便利ですね。でも転移した場合、転移後の私たちは果たして私たちと呼べるのでしょうか」
「量子テレポーテーションにおける魂の同一性の話か。それを言ったらスキルオーブという未知の存在を体に埋め込んだ際の人間としての非常識さなんかも含めて話をせねばならんくなるだろうな」
「既に我々はダンジョンの一部となっている……ですか。確かに人間は無から水を出せませんし雷も打ち出せませんよね」
芽生さんが頭を悩ませながら水をぴゅーっとだしている。機械の中で水を出すのはいかがなものか。
「それについてだが、無から生成しているわけではないかもしれない」
「と、おっしゃいますと? 何か消費しているとか」
「おそらくカロリーも消費しているだろうけど、主に消費しているのは黒い粒子だと思う」
「じゃぁ、スキルを取得する事で私たちの体には黒い粒子がある程度埋め込まれているという考えですか? 」
しかし、暇つぶしには良い話題だな。スキルとは何か。黒い粒子とは何か。
「黒い粒子を生成できるか、もしくは体内に黒い粒子をため込んで、更に体外からも取り込む器官みたいなものが出来ているのかもしれない。そうであると仮定すると、地上でスキルが使いづらいのも地上には黒い粒子がほぼまったく存在しないから体内の黒い粒子を消費するしかなくなるので効率が悪い、と説明づけることができる」
「黒い粒子ってなんなんでしょうね、いわゆる魔素って事で良いんでしょうか」
「そういう事になるな。という事は、地上でもバリバリに保管庫を利用している俺は魔素の塊みたいなものか。俺を結晶化したらかなり儲かるかもしれないな」
「あれ、ということはモンスターも魔素の塊って事ですよね。その結晶をダンジョン外で持ち出すという事はいずれ地上が魔素で埋め尽くされて行くということになりませんか」
「魔結晶に限らず、ダンジョンのドロップ品は全部魔素からできていて、それを身に着けるなり食する事でダンジョンから魔素を持ち出し続けている……か」
そうすることで得られるダンジョンのメリットとは何か。魔素を地上に送り出すことが目的なのか。何のために? 考えは何処までもねじれていく。
「とりあえずまず証明する必要があるのは魔素の存在だな。もしかしたらもう証明されていて俺たちが知らないだけかもしれないし。その辺はダンジョン庁と打ち合わせが必要だろうな」
「気になる事は数多けれどもやる事はモンスター退治と地図埋めですからね。地道にやっていきますか」
結論としていつも通りやろうという事が決まったところで十五層にたどり着いた。さぁ戦闘と探索の始まりだ。今日も無理せずやっていこう。
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