381:物欲センサー 4/4
十四層を後にし十三層に上がった。ここをぐるりと大きく周回するルートは完全に頭に入っている。小部屋を時々覗いてはカタついている骨ネクロを倒しながら、道なりに進んで曲がり角や道の真ん中にいるスケルトンを倒していく。
スケルトンと骨ネクロの出現割合は四対一ぐらいか。スケルトンがメインなので、十五層でスケルトンからスキルオーブが出たことを考えるとスケルトンを倒すほうが目的に合致する。
三時間ただひたすら巡る。順路は決まっている。よってここから先はモンスター退治以外に何も気にすることはない狩場と化す。相手は基本的に必ず何かを落としてくれる美味しい相手だ。倒せば倒すほど利益が目に見えて増えていくのはとてもうれしい。
骨ネクロにダッシュしながらわーい五千円札が落ちてるぞーと群がるように素早く倒す。真珠が落ちる。この真珠が一粒五千円。買い取り価格がわりかし高いのはそのまま宝飾品として通用させられるためらしい。アコヤ貝の養殖真珠と何が違うかは素人の俺には解らない。それに、もしかしたらこれも魔結晶の違う形の一つかもしれない。
真珠としてドロップするからには何かそれ相応の理由があるんだろう。そうでなければ骨ネクロも魔結晶を落とすはずだ。気が向いたら帰って使用用途について調べてみるとするか。
◇◆◇◆◇◆◇
一時間が経過した。スケルトンを八十体、骨ネクロを三十体ほど倒して一周して開始地点まで戻ってきた。この間、骨が数本と剣が一本出た以外は特筆するようなことはない。いつもの狩りという感じで戻ってきてしまった、という表現のほうが正しいのかもしれない。ちょうど通りかかった小部屋の骨ネクロをサックリ倒すと小休止を取る。
尻をパッパッとさすり、物欲オーラが出ていない事を確認する。芽生さんが俺の仕草を見ると自分も真似をし始めた。どうやらスキルオーブ出ろと念じていたのは俺だけじゃなかったらしい。
「出ませんね」
「そうそうすぐに出るならみんな躍起になって探したりはしないって事じゃないかな。ドロップ率が決まってるわけでもないし、ひたすら倒し続ける以外に探す方法は無いと思うよ」
「では無心で戦いましょう。明鏡止水の境地に達するのです。そうすれば気まぐれなダンジョンマスターがスキルオーブを引き寄せてくれるかもしれません」
「そういえば、次の食事どうするかまだ考えてなかったな。食事のメニューを考えながら戦うとするか」
「食欲で物欲を書き換える訳ですか。じゃぁ私はどんなメニューが出てくるか考えながら戦うとします」
物欲より食欲。そういう事になった。さて、パックライスをメインにして何を作ろうかな。保管庫を時々眺めながら移動して、頭の中でどんなメニューが出来るかを考えながら戦う事になった。さて、何喰おうかな……今の俺は何腹かな……ウルフ肉が続いているしボア肉も悪くないな。そうなると……
◇◆◇◆◇◆◇
更に三十分。スケ剣が二本出た。ゴブ剣の本数とスケ剣の本数が同じになった。これだけの本数があれば困る事はないだろう。次の賄い飯はボア肉のバジル風味にすることに決めた。ボア肉の脂もサッパリさせることができるだろう。
まだスキルオーブは出ていない。もしかしたら他人がもう出してしまったかもしれない。そんな不安が頭をよぎる。しかし、出したのが小寺パーティーならこの間大木さんが教えてくれたであろうし、相沢パーティーが出していたら……多分自慢しに来てるだろうな。そんな気がする。
まだ可能性は高い。ここで倒したスケルトンの数も相当な数に上っている。出るならそろそろだろうと当たりを付けられるものの、アイテムドロップ狙いというのは結構ストレスになるもんだな。スケルトンをボキボキと折りたたみながらドロップに一喜一憂する。
魔結晶だけ。魔結晶だけ。魔結晶だけ、骨と魔結晶。走り込んで真珠二つ。魔結晶だけ、魔結晶だけ、魔結晶だけ。
魔結晶だけ、魔結晶だけ、魔結晶だけ。
魔結晶だけ、魔結晶だけ、魔結晶だけ。
思えばスケルトンって魔結晶と骨しかくれないんだよな。剣は別として、それでも一定の収入を保証してくれるありがたい存在だ。これでスキルオーブもくれたらこれ以上無いぐらいの美味しさだ。
◇◆◇◆◇◆◇
更に一時間後。精神的な疲れが見え始めたところでスキルオーブは無事に姿を見せてくれた。手に持って確認する。
「【魔法耐性】を習得しますか? Y/N 残り二千八百七十九」
魔法耐性二個目だ。今日の目的みたいなものは達成されたような感じがする。肉体的には小休止してるから余裕があるとは言え、ドロップを毎回確認しながら戦うのは疲れて辟易してきたところだった。
そういえば各階層毎モンスター毎にスキルオーブの出やすさが違うんだから、スキルオーブそのものの出やすさみたいなものは違っててもおかしくはないんだよな。
つまり耐性系のスキルがどのぐらいの出やすさなのかを考えてみるのも良い。十五層であれだけシンプルに出てきたんだから耐性系のスキルは意外と出やすいのかもしれない。ならばスキルオーブのテーブルも結構回りやすいのかもしれない。
「出ましたか。二時間半と……今までの積み重ねの分。大体何体倒したんですかね」
「二千ぐらいじゃないか? 他のスキルに比べて出やすいスキルなのかもしれん」
「あれですか、ダンジョンの意志的なものを考えると、耐性スキルをバッチリとってからボスに挑め。そうすれば楽に攻略できるじゃろう……的なものですか」
「それかもしれない。順番としては逆になってしまったな」
「とりあえず覚えましょう。覚えた後の変化をチェックしたいです」
保管庫から【魔法耐性】を出すと芽生さんに渡す。芽生さんは受け取って早速「イエス! 」と高らかに宣言。早速光り始めた。俺も今拾ったほうを覚える。
「イエスだ」
身体に沈み込んでいくスキルオーブ。発光する身体。暖かい感触。スキルオーブもなんだか久しぶりに拾った気がする。これで覚えるのは三つ目、芽生さんは二つ目だ。スキルを複数覚えると相乗効果が起きたりするんだろうか? などと考えてる間に発光は終わり元に戻る。
「これ、今更だけどコモンスキルとかレアスキルとかあるんだろうな。もちろん保管庫は超レアだとして」
「つまり、市場価格だけを参考にするべきではないと? 」
「十三層まで潜って取りに来て運んで取引する、という工程を抜けないと市場に流れないから、まず自分で使ってその余りを市場に流していると考えたら、深い階層で出るスキルほど高額になる。地上まで急いで運ばないといけないからな」
保管庫で時間を引き延ばしたりできない限り、拾った瞬間売るかどうか決めて売るなら決死隊の覚悟で出入口までスキルオーブを急いで運ばないといけない。
「なるほど……つまり、高いからといって耐性系スキルがそこまで効果があるかどうかはまた別の話かもしれない、と? 」
「そういう視点から見ると、この出やすさはコモンスキルに該当する気がする。二人分出ちゃったってのもあるけど、他のスキルよりも時間がかかってない」
「それは階層が違うから……いやでも、私たちが十三層で活動した時間を考えれば確かに短いスパンで出た可能性はありますね」
「何にせよ、これでボス再戦の道筋は着いたな。もう一回角と魔結晶をくれるかは解らないけど今度は保管庫無しで戦ってみたい。今日は……なんか安心したら疲れてきたな。帰るか」
「そうしますか。無理に戦う必要もこれで無くなりましたし。帰りは歩きですか? 」
「帰りは楽しよう。俺も精神的に疲れた。稼ぎの時間はそれなりに少なくなったがいつもと大体……うん、ちゃんとこの階層に来た分は稼げた。十分だろう。それ以上の収穫があったことだし」
Uターンして十四層に帰る。帰りの茂君は一回分無くなったが、またソロで来ればいいや。エレベーター用燃料の使用許可も下りたのでこれで俺の自己満足を全うできるようになった。茂君で羽根を集めるときは朝一で出かけて夜ギリギリで帰還する事も出来る。これで効率が二回分上がる。魔結晶を消費する分を考えても黒字になるので悪くない。
ちょうど階段からの中間点だったのでそのまま三十分ペースを崩さずに探索を続けていく。本当なら今にでもボスに再挑戦したいところだが、焦って探索して怪我をしてはいけない。また次回だ。今日は既に三回目の探索に入っているので目に見えない疲れが溜まりつつあるかもしれない。それに……腹が減った。
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