377:久しぶりのオーク
十一層を通り抜け十二層に向かう。道中はそこそこ数が出る辺りを基準にしている。十二層と出るモンスターがあまり変わらないのもあるが、普通に稼いで帰りたいという気持ちも心にはあった。十層であまり消耗していない上にさっき休憩した事もあり、活力はみなぎっている。
「おし、気合入れて十二層まで行くか。体力はまだまだいけそうだしなんだかいい事があるような気がする」
「昨日の今日でスキルオーブがポンポン出ることはまず無いとは思いますが、出ないという確証も無いですからね。気軽にオークを肉に変えていきましょう」
芽生さんも乗り気だ。いつもの通りに出て来てくれるなら十一層だけでオーク肉を八個は確保できる。保管庫のストックを補充するので全部を査定に出すわけではないが、それでも中々の収入にはなる。ジャイアントアントの頻度は落ちるが、一匹当たりの期待値はジャイアントアントよりオークのほうが大きい。ぜひとも高額ドロップをバリバリと落としてほしいものだ。
小指、三、二。オークがブラブラと現れる。こちらを見つけると棍棒を振りかぶりながら追いかけてくるが、雷撃で痺れさせ一旦肩の力を抜いてもらう。ほらもっと落ち着いて事に当たれば良いんだよ、と肩から腰までバッサリと斬る。オークは一刀で黒い粒子に還った。
続くオークにも丁寧に接し、攻撃動作に入りきる前に懐に潜り込むとそのまま横薙ぎに上下にお別れしてもらった。スケルトンに比べれば倒し方が雑で済むのは有り難い。これで毎回肉か魔結晶をくれればこれ以上言う事は無いのだが。
魔結晶を回収し次のモンスターにエンカウントするまでしばし歩く。三分に一回ぐらいはエンカウントするので緩急が付いてちょうど良い感じに戦闘が出来る。
親指、八、四。一匹は酸発射体勢。よし、喰らってみるならここだな。手前の二匹を全速力で倒すと、奥から酸を撃ってきた。これをわざと右手の先だけで受ける。相変わらず熱く、そして痛い。でも前よりはちょっと痛みが弱い気がする。う~ん、強くなったのは間違いない、のか? とにかく酸ダメージで肌が少し赤くなった。これはポーションが無くても大丈夫そうだな。後で水で洗おう。
残りの二匹も討伐すると、芽生さんが文句を言いたそうな顔をしてこちらへ詰め寄ってくる。
「今の、避けれましたよね? わざとですか? 」
「初めて被弾してから三段階ぐらい強くなったから酸ダメージにも強くなったのかなって試してみたくて。結果はまぁこんなもん」
手袋を外して保管庫の中の水を直接出して洗浄、手の荒れ具合は……水で流したら少し赤くなっている程度だ。ポーションが必要というほどではないだろう。
「また自分で人体実験を……で、結果がそれですか」
「痛みは以前ほどじゃない。そして見た感じダメージも小さくなってる。この酸はこっちの防御力をある程度貫通して攻撃してくると考えたほうがいい。避けるのがベストオブベストだな」
やはり自分で実験するのが安全でいい。女の子に痕が残ったりするのも良くないしな。
「もしかして、ちょくちょく強くなるたびにダメージを受けるかどうかこいつで試してみよう……とか考えてないですよね? 」
「さすがにそこまでは考えてない。ただ、この辺でダメージを受けるにあたって解りやすいのがオークの打撃力とジャイアントアントの酸ぐらいしかないじゃない? 骨弓の矢は明らかに魔法だと解るから別として」
「たしかに、それは、そうですが」
「ちゃんと回復用のポーションもある事だし、避けるなら避けるにせよどのくらいのマージンを持っておけば大丈夫か、というギリギリのラインを見出すほうが探索効率も上がる。そういう意味では酸でどのくらいダメージを受けるのかは参考としてとても分かりやすいじゃない」
少し考えて、芽生さんはとんでもないことを言い出した。
「洋一さん、そういう趣味があるわけではないですよね? 痛いのが好き、とか」
「痛いのは嫌いだ。お腹も空くし疲れる。だから何処までが痛くないかを調べておく必要があると思うんだよ。ちなみにこの後オークで今度は打撃力チェックをする予定だ。もしオークの打撃が効果がないようなら相手の攻撃を躱すというモーションが不要になる。それはオークを手早く処理する事が出来るようになるという意味になる」
「う~ん、納得出来るような、出来ないような」
「少なくともピンチになるような形で攻撃を受けるつもりはないから安心してくれればいいさ。さあ次のモンスターを探しに行こう」
ちょっと誤魔化すような形で先へ進む。納得はしないだろうが、効率化のためだ、許せ。
親指、六、三。酸は喰らわないが吉、という事がはっきり分かった以上この先酸をわざと受ける事はないだろう。発射姿勢になっているジャイアントアントに酸を飛ばされたら投げ返して足止め、その間に近寄ってくる分を倒す。
そうと決まれば戦闘パターンはほぼ固定された。結局いつもの通りに戻ったというだけだ。機械的にモンスターの止めを刺しにかかる。偶には雷撃も混ぜ込みながら一番少ない消耗で倒せるプランを編み込んでいく。
小指、三、二。オークの出番だ。さっきの話の中の耐久力試験を早速してみよう。オークにわざと殴られに行くようなふりをする。盾できっちり防げることは確認済みだ。その衝撃がどのくらいになっているか、それを肉体で計測する。
まず一体目のオークをさっさと倒し、残りの一体で試験をする。オークは振りかぶった棍棒をおそらく全力でぶつけに来ている。避けるのは簡単だがあえて防ぐ。衝撃は……うむ、ほとんどないな。足元が少しだけ沈み込むような感覚はあるが問題なく受けられる。次は肉体だ。オークによって第二撃が繰り出される。盾を外すようにして腕で受ける。バチィィンと肌と触れ合う音が響く。
思い切りビンタをされたような衝撃が腕に走る。が、そこまでだった。多分また赤くなってるような気がするが、骨にまでビリっと衝撃がきただけでそこまでだった。これは頭をやられると不味いかも? といった程度で済んでいるようだ。つまり急所さえ避ければいける。それがわかれば儲けもんだ。
安心してオークを両断すると肉が落ちた。これでまた探索が一つ楽になったという事が確認できた。念のため腕を出して喰らったところを確認する。お肌は棍棒の形に赤くなっていた。
「結構な衝撃に見えたんですが、それだけですか」
「これだけだな。頭に受けたらかなり来るだろうけど体で殴られる程度には問題がないらしい」
「強くなりましたねえ。私が棍棒受けた時は青あざまで出来てたのに」
「今なら軽い跡で済むんじゃない。是非とも受けて欲しいとは言わないけど」
「とりあえず洋一さんで試せてお得だったとでも思っておきます」
お肌に関してはあまり腫れたりさせたくないらしい。こっちの状況を把握すると次を探しに前へ行こうとしている。とりあえず耐久試験はもういいな。後はひたすら来るモンスターをこなそう。
親指、五、三。静かに何事もなかったかのように処理される。
小指、三、一。芽生さん二体回るが問題なく順番に撃破。ドロップ無し。
親指、六、三。キュアポーションをくれた。有り難い。
小指、三、二。肉と魔結晶をくれた。こいつは美味しい。
◇◆◇◆◇◆◇
心配するような事は何事もなく、被弾もなく、困難も無く。何事も起きないまま十二層への階段へたどりついた。しいて言えばヒールポーション2はもう一本ぐらい欲しかったか。一本であがりが四万円変わる。オークのメインの価値は肉だが金銭的に見るとヒールポーションの割合も大きい。十二層では一杯出てくれることを期待しよう。
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