376:じ、十層とか余裕だし
九層をそのままのペースでモンスターを倒しながら十層への階段へ抜ける。ここ最近は多くても四体のモンスターと戦うという形だったために数が多い敵との遭遇戦は手間取るかと思ったが、勘を取り戻したらしく危なげなく潜り抜けて来た。
そのまま順調にモンスター狩りを続けて十層の階段までやってきた。準備運動としては中々の手ごたえ。十層に向かう前に水分を補充。軽い息継ぎだ。
「九層も楽になりましたね。これも日ごろの戦闘の成果ですか」
「そういう事だな。スケルトンでしっかり経験値的なあれを稼いだって事だろう。ここであれだけ楽できるなら十層も問題なく超えられるだろうよ」
粉ジュースを積極的に使って行こう。これもいろんな飲料水を放り込むようになった今、必要度合いは低い。わざわざコップに水を注いで粉を溶かして飲んでいる。味は違うが成分は同じ。ちょっとだけカロリーを補充できるのと舌が飽きないのがこれのいい所ではあるが、最初から調整された味にはちょっと勝てない上に、粉が溶けない事がある。
今日から少しずつ消費して保管庫から失くしていこう。捨てるのは俺の主義に反する。買った以上ちゃんと全部飲み干すぞ。保管庫の肥やしと言えば……
「そういえばこんなものを買ってみた」
保管庫からスリングショットを取り出し芽生さんに見せる。
「これで撃ってる事にすればパチンコ玉がその辺に転がってても言い訳はしやすいかなと」
「悪くないんじゃないですか、今まで何故そうしてこなかったのかという疑問は残りますが」
思い付かなかったしスライムが勝手に溶かしてくれると思ってた。ただそれだけだったりする。
「そんなわけで、これからはパチンコ玉もちょくちょく使いつつ探索をしていこうと思う。それ以外の弾は見なかったことにする。きっとメイビーその内出番はあるだろう」
中玉とか大玉は……あぁでも活躍しないとはまだ決まってないし……悩むからそのままにしておこう。バードショットはまとまって一つの弾として認識されてるから保管庫の端っこにあっても邪魔じゃない。
粉ジュースの話に戻ろう。味が八種類ぐらいあるのでそれだけでリストを八行埋めてしまう。これはリストの視認性を落としてしまう。早々に立ち去ってもらおう。
「さて、行きますか十層」
「行くか。心配する事はないはずだ。俺たちはもう余裕をもって十層をクリアできる」
十層への階段を下りる。十層は相変わらず騒がしい。ジャイアントアントかワイルドボアの足音がせわしなく聞こえてくる。階段を下り切ると早速来たようだ。
親指、八、四。一匹は酸姿勢。パチンコ玉で牽制して尻を破壊。酸を撃たせないようにしてから手前に襲ってくる三匹を順番に倒す。噛まれてもダメージが無い事は前に実験済みだ。そこからさらに強くなっているはずだから戸惑う必要もない。
三匹順番に切り刻んだ後で酸を撃とうとしていた一匹の息の根を雷撃で止める。これで一発目クリアだ。芽生さんのほうも問題なく終わった模様。ドロップをこっちへ投げてくるので空中で収納、手慣れてきたな。
そのまま十一層側の階段へ歩きつつ、一分半に一度ぐらいの密度の戦闘を潜り抜ける。一回の戦闘時間はそれほど長くない。全部まとまって襲ってきてくれるなら二十秒もかからない。こういう密度の高い戦闘は久しぶりだ。正直スリルが伴っていてワクワクする。
親指、十、五。ここではおそらく最大数である十匹編成。全部を近接で相手するのは辛いのでスキルを混ぜ込んで対応する。雷撃を二発手前に位置する相手に飛ばして確実に数を減らし、ドロップを拾う際も出来るだけ歩かなくて済むように配慮する。遠くのモンスターを倒すと拾いに行く間に新しいグループにエンカウントして連戦になりかねない。それは疲れるので出来るだけ回避するための行動を取る。
人さし指、八、五。ワイルドボアも森の中から一生懸命走ってくる。かわいい。足元で全部消し炭にするとドロップを拾ってすぐ先へ行けるのが十層ワイルドボアのいい所だ。
やはりある程度の密度があるほうが探索が儲かる。十層は少し忙しないと言えばそうだが、儲けとしては中々悪くない。これで酸が飛んでこなければ十層で延々狩りを続けることができるだろう。だが酸はダメだ。
あれは所謂貫通攻撃じゃないだろうか。もう一発受けてみないと正直なところは解らないが、おそらくまた同じように皮膚を焼かれるだろう。ヒールポーションで治る範囲の傷とはいえ……検証に今度また焼かれてみるか。もしかしたらダメージを受けなくなっているかもしれない。
しかしここで試す度胸は無い。十二層で試してみるとしよう。もしかしたらダメージを無視できるほどに弱くなっている可能性はまだ捨てきれない。
人さし指、六、三。足元でバリッ。ドロップ回収。前へ進む。とても楽。
芽生さんは……表面上問題なさそう。好き放題槍を振り回しては確実に一発で止めを刺している。安心だな。
親指、七、三。芽生さん側に四居るので任せることにする。近くまで引き寄せた後で一閃。ドロップ拾いも楽になって前へ進めて一石二鳥。
親指、九、五。完全にパターン入ったわ。酸が飛んでくるがたまに保管庫で拾ってそのまま投げ返す。ジャイアントアントは自分の酸で焼かれる。かわいそう。
段々階段に近づいてきた。戦闘は一貫してこちら有利。これは余裕で潜り抜けられるな。気を抜くわけではないが……前も同じこと考えてなかったかな。まぁいいや。
親指、九、五。二匹まとめて襲われたので片方に噛ませてもう片方を斬る。ジャイアントアントが俺の皮膚に歯をたてるが傷をつける事敵わず。これは以前調査済みだぜ。ジャイアントアントは酸以外で俺にダメージを与えられない。
安心して噛みついているほうの脳天に直刀を突き刺す。近くで死んでくれるとドロップが拾いやすくてとてもいい。次に来るジャイアントアントも同じく頭から一直線に突き刺してすぐに黒い粒子に還る。
残り二体。片方は酸を飛ばそうとしている。保管庫で収納、射出。ジャイアントアントが自分の酸で焼かれて狼狽えているうちにもう片方を処理。最後に酸で焼いたほうを仕留める。
「よく噛ませられますね。まだちょっと怖いんですけど」
「甘噛みみたいなもんだから大丈夫大丈夫。これでもっと安心してジャイアントアントを狩れるようになった」
「試したくないなぁ……」
芽生さんはちょっとまだ拒否感があるらしい。次は酸を浴びてみるか。また手で良いよな。ヒールポーションを一本消費する事になるだろうが実験に被害はつきものだ。何処まで威力が下がったか、または下がらなかったかは解らないがやってみよう。
親指、八、四。十層最後のエンカウントもジャイアントアントだった。試すならここだ。俺に向かって酸を吐いてきてくれることを願うが、残念ながらそうはならなかった。四匹を順番に切り倒すとそこで十層の戦闘は終わった。酸は十一層で実験しよう。
そのまま階段を下りて十一層に入り、周りを確認してから小休止。四十分密度の濃い戦闘をしたところでおやつの時間だ。缶入りポテチを食べながら周りの警戒をしつつ少し雑談する。
「他の層を巡るのとあまり変わらなくなってきましたねえ。もしかして骨弓のせいでしょうか」
「十六層で矢を避けるのが酸を避けるのと同じと考えると相手が多い事以外は同じかも」
「さて……お肉の時間ですよお肉」
「お肉よりお骨のほうが儲かるんだけどね。ダシを取るか身を取るか」
「人骨からダシが出ても生理的にちょっと」
「ですよねー。まぁ十一層は通り過ぎるだけで、予定通り十二層から本格的にやっていこう」
人骨と言えば二足歩行の豚は他人の範疇に入るのかどうかは気になるが、まぁ芽生さん的には豚だという事なんだろう。あまり突っ込まないでおく。
水分を取りカロリーを取り、ちょっとすっきりしたところで十一層を歩く。早速オーク三体だ。なんかすごく久しぶりの気がするオークだ。やぁ久しぶり、今日はお肉分けてもらいに来たよ。早速切り分けるね。ちょっとお腹出してくれないかな? ちょっとでいいんだちょっとで。……あ、切っても良い? 本当? ありがとう。
寸劇を頭の中で演じながらオークを倒すと、ちょうどお肉をドロップしてくれた。別に寸劇効果ではないはずだ。だが出だしの好調さにこの後のドロップのテンポの良さを期待せずにはいられなかった。
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