375:寝起きの良さの維持と久しぶり九層
今更ですが、この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
が、こうだと良いなぁという願望は多少入り混じっています。
おはようございます、安村です。三時間キッチリ睡眠をとって体の調子も心の調子も万全だ。ありがとうダーククロウ。洗濯されても君の香りは中々落ちて行かないらしい。もう少し出番はあるみたいだよ。念のため目薬を差して目をパチパチすると完全に体調を取り戻した感覚を覚える。
隣のテントをガサガサと揺らし、タオルを中に放り込む。タオルは予備も沢山あるし、家に帰るたびに洗濯しているのでいつもきれいなタオルが供給できている。
コーヒーを二杯分沸かしながらいつものストレッチだ。体調がいいとはいえ、いきなり体を動かすのは色々と危険な領域に入りつつある昨今、このストレッチは欠かせない。ラジオ体操風に体を動かすと、程よい体のアイドリングが行われていく。今日も元気に探索できそうだな。
しばらくして芽生さんが起きて来たのでタオルを受け取りコーヒーを渡す。う~んと伸びをしながらコーヒーを受け取った芽生さんは機嫌が良さそうだ。
「なんか機嫌いいね」
「久しぶりに自分で洗った布団で寝ましたから。やっぱり私も布団買おうかなぁ」
「じゃあ頑張って茂君倒さないとな。二往復ぐらいすればその分の材料は溜まるが……布団屋の製作の順番もあるだろうから少し時間がかかるかもしれないよ」
「それでも気持ちよく眠れることには違いないですからね。自宅でもマイ羽毛布団で眠って快適な朝を迎えたいんですよ」
やはり、彼女も布団の魔力に襲われ始めたか。これはソロで潜る時に頑張って集めてやる必要があるな。どんどん十七層以降に潜らない理由が増えていく。それで良いのかと思う所はあるが、快眠に打ち勝てる理由が今のところない。大事な相棒の為にもソロで稼ぐ時は出来るだけ茂君を狩るようにしよう。二時間で湧き切る事も確認できたしな。
コーヒーを飲み終えたところで荷物を片付け、出立の準備は整った。時刻は午後三時。八層に下りて三時半、そこから八層を巡って四十分。十層を四十分。十一層でまた四十分。十二層にたどり着くには休憩時間も含めて五時半過ぎという所だろうか。
そこから途中休憩をしながら二時間ほど十二層を巡ってオークがスキルオーブを落とすかを検証しながら回って終わるのが大体午後八時。十三層を抜けて十四層にたどり着くころには夕食というより夜食の時間になりそうだ。
予定は大体組んだ。後は疲れを考慮しつつ適度に休憩を入れて行けばもっと遅くなるが、夕食はパスタだ。せっかく仕入れたキノコもふんだんに使って焼きパスタと行こう。ペペロンチーノにキノコを添えて、もしお好みなら肉も入れよう。十四層までいく算段はつけた。後は行動あるのみだな。
「さぁ、今からの行動だが、十二層まで一気に下りて十二層をグルグル回ってスキルオーブが出ないかどうかを確かめながら行こうと思う。出なかったら出なかったでそれでよし。次にチャンスが巡ってくると思おう。収入もそれなりに増えるしな」
「オーク肉もまだまだ食事として改良の余地がありますからね。ストックを増やして中華屋に卸すなり自分で料理するなり使い道は色々ありますねえ」
「脂の量がな……何か脂を有効活用するレシピを考えて調べておくよ」
「中華屋さんみたいに角煮じゃダメなんですか? 」
「あれは結構手間がかかるし、タレの配合なんかが結構難しいと思うんだよな。その為に現金収入を減らして料理を考案するというのも……むしろ中華屋で味わえば良いいんじゃないか? とも思うから無しで。代わりにウルフ肉で何かこれだ! というものを探していきたい」
料理にそこまで熱中している訳ではない。ただ、できるだけ楽をしてキャンプ飯を楽しみたいだけなのだ。その為のシーズニング、そのための自宅調理のアツアツ保管庫料理だ。十五層から十四層直行で飯を食うなら有りだが、寸胴鍋を持ち込んで食事をするのは小寺さん達が十四層にたどり着いている関係で持ち歩くことはないだろうと思っている。
今まで通りスキレットと小鍋で作れる範囲で……何故かオークカツ丼を作るという事を思いついた。揚げ物は後片付けが面倒なので自宅もあまりやらない主義だが、一度家で試してみるのもいいかもしれないな。ダンジョン内では油の処理が問題になる。一度自宅で考えてみよう。うまくいったら揚げたてをそのまま保管庫へ入れてここで食べる事も出来るかもしれない。
しいて問題が有るとすればカツを揚げて美味しく食べるためには朝起きて調理しなければいけない事だろうか。準備だけして寝かせておいて朝揚げる、という事も不可能ではないが手間がかかるな。やっぱなしだな。意外と悩むなオーク肉。素直に出荷したほうがいいかもしれん。
「考えてみたがやっぱり豚は出荷だな」
「そんな~」
「手軽に扱うには値段もカロリーも料理方法も色々問題がありすぎる。今日の分は……十個ストックして後は全部査定に出す。ついでにさっき拾ったボア肉もストック十個を残して査定に出す」
「ウルフ肉はどうするんです? 前に一杯取りましたよね」
「ウルフ肉は四十個ぐらいあるので日々の食事に細々と使って行こうと思う。食事のネタにも気軽に使えるし便利なドロップ品だな。十四層でもきっちり使って行こうと思う。で、そろそろ準備はいい? 」
「ん……行きますか」
コーヒーぐいっと呷るとテント周りを綺麗にし、準備万端と言った感じにする。湯沸かしセットもテント内に片づけてからワンクッション置いて保管庫へ。さぁ、出立だ。
「まずは気楽に九層で準備運動して十層抜けて休憩、十一層抜けて十二層へ真っ直ぐ行こう。その後休憩して二周ぐらいして十三層に下りる、ぐらいのペースで行こうと思うんだが」
「良いと思います。無理もしなさそうですし、適度に休憩挟めばこのぐらいの狩りのペースは維持できると思います」
コンセンサスが取れたところでシェルターへ……自転車、無し。予定内だが歩くか。ポールを立てておいて本当に良かった。こんなところで中途半端にうろうろしたくない。モンスターも出ないし歩くだけっていうのは金銭的価値を何ら生み出さない、言ってしまえば無駄な時間だ。無駄な時間は出来るだけ省きたい。
エレベーターを所望したのも十五層まで下りてくるための無駄な時間を省くためでもある。二十一層にたどり着いたときにもう一度交渉してみよう。一、七、十五、二十一、と四か所選べるとより探索が捗る。メモっておこう。
考え事をしてる間に八層へ着いた。八層も割と歩いて通り過ぎるだけの地域だ。ワイルドボアの濃さも五層とそう変わりがない。ただダーククロウの密度は五層と変わらない。そして五層に比べれば短いマップなのでここもスキルオーブの狙い目だな。
俺が狙う必要は……狙うなら【魔法耐性】をもう一つ欲しいな。だったら十三層以降で狙うほうが好都合だろう。ここは通り過ぎるだけにしておこう。
「ここ、スキルオーブの穴場と言えば穴場ですよね。通り抜ける間に出たらラッキーみたいな」
「そんな感じだな。狙って拾うためにはちょっとモンスターの密度が低すぎる」
ちょろっとだけ居るワイルドボアとダーククロウを通りすがりに倒しながら何事もなく八層を通り抜けた。九層からは待ちに待ったアトラクションエリアだ。今日は中級者コースを選択してそこそこの密度のモンスターを倒していくぞ。
「中級者コース二名、入りまーす」
「入りまーす……ってここで運動しても大丈夫なんですか? 」
「大丈夫、元気は有り余っているし。食べた分は運動しておかないと後に残るからな」
「それもそうですね。中級者コース行きましょう」
九層中級者コースを半周する。久しぶりの十層前の肩慣らしとしては良い感じのポジションだ。四匹から六匹ぐらいの編成のモンスターと戦いながら体を温めていく。
親指、六、三。ハンドサインで戦闘をするのも随分久しぶりな気がする。お互いステータスブーストが更に一段階上がったおかげでとても戦いやすい。
以前に比べてお互いより早く、よりサクサクと戦闘を終わらせる。これは九層ならもう一段階内側へ向かって戦うだけでも十分な収入を得られるかもしれん。だが今回はやめとこう、下まで行くという行程をもう決めたから寄り道は無しだ。このまま肩慣らしを続けて行こう。
親指、五、二。一足飛びで近寄るとそのまま両断。やはりこうじゃないとな。近づいてきたジャイアントアントに雷撃を食らわせて黒い粒子に還すと、落ちたドロップを拾う。
そのままサクサクと手ごたえがそれほどあるわけでもない道を選ぶ。
「これなら上級者コースにチャレンジしてみても良かったですかね」
「上級者コースか……意図して向かう理由がなければ行かないかな。例えばジャイアントアントの牙がどうしても数を集めなきゃいけないような場面があるとか、キュアポーションが必要とか」
「十層を一周するのはまだ厳しそうですか? 」
「小西ダンジョンで十層一周したら鬼殺しよりも誇れる称号が欲しいところだな。湧きペースの緩急を自分でコントロールできる分同じぐらいの湧きが期待できる部分で九層を回るほうが安全だと思う」
十層の外側であれなら一体森の中は一体どうなっているんだろうか。気にはなるしこれぞ探索という雰囲気はあるが、命の危険を感じる。そういう危ない事には手を出さないでおこう。
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