374:小休止
いいね十三万件突破ありがとうございます。
もうちょっとずつ精進していきます。
六層はいつも通りの光景でなんだか安心する。どうやら先に六層で狩りをしていた宿泊探索者も居ないらしい。もしかしたら宿泊者が居たかもしれないが、わざわざ六層で狩りをすることはなかったようだ。
オラオラとメンチを切りつつ体当たりしてくるワイルドボアにもはや愛おしさを覚える。別に省エネで動く必要もないので腰に負担がかからないよう雷撃とウォーターカッターで吹き飛ばしながらドロップを範囲収納で拾う。腰を曲げずに掃除機をかけるようにずざざざーとドロップを回収する。やはり六層はそれなりに美味しい。
次々とこちらへ向かってくるワイルドボアが雷撃と水圧の暴力でドロップに変わっていく。ポロポロと落ちる肉と魔結晶を拾い集めると何も言わずに一本目の木へ向かい、止まっているダーククロウを撃ち落とす。
九匹分の羽根を集めきるとまたワイルドボア。そして茂君。手慣れた動作で茂君を一発で仕留めると、そこには大量のダーククロウの羽根と魔結晶。六層はもはや恒例行事になったな。六層を通過の間におよそ二万七千円分のドロップ品と羽根が一キログラムほど手に入る。
羽根の卸し代金も含めるとおよそ五万五千円。九層あたりを回っていると三十分ほどで回収できる金額になるが、羽根という固有ドロップの関係上仕方ない。むしろただ歩いているだけで五万円もらえると思えばそう苦労はない。
「羽根はこれでどのくらい集まりましたか? 」
「五キロと四百グラム。帰りも合わせると七キログラム行くかどうかあたりになるかな」
保管庫は便利だ。何グラムあるかどうかも計測してくれる。羽根の枚数ではなく重さで換算してくれる辺りが特にありがたい。俺の無意識下で羽根は重さ計算だという事にしてくれているのだろう。もし羽根を枚数で数えると俺が認識していたら、枚数がここに表示されていたんだと思う。
茂らない君までワイルドボアを蹴散らしながらたどり着くと、一羽だけダーククロウが止まっている。珍しい事もあるもんだ。
「茂らない君にダーククロウが居ますよ。珍しいですね」
「えい」
雷撃でダーククロウを落とす。何もドロップしなかった。
「あ~あ、貴重な恵みが」
「これでいいんだよ。また蹴りを入れて生えるように祈ろう」
茂らない君にまた蹴りを一発入れて階段へ向かう。次に来る時は二羽になっているといいね。最後のワイルドボアを片付けにかかる。十三匹居たワイルドボアは近寄るたびに水圧と雷撃の餌食になっていった。何事もなく……いや、今更何事かあっても大いに困るのだが、七層への階段を下りる。自転車は無かった。
歩いてシェルターまでたどり着いてノートを確認。一行だけ増えていた。
「田中君、お土産よろしく」 旅に出てから土産要求してどうするんだ。誰だ書いたの。大木さんかも。
それ以外には何も書きこまれてはいなかった。さすがに昨日の今日で増えたりはしないよな。何か急激に変わるような出来事があるわけでもなし。平和でいい事だ。
ついでに布団が戻っているのも目視で確認。最近洗濯してないような気がするので後でお願いするか。
自分のテントに戻ったが昨日の今日なので変わりがない。さて早速昼食に取り掛かるか。少々時間は早いが飯食って寝て気持ちよく探索をする。それに勝るものは無い。
「アンケート取りまーす。パスタとポテトどっちがいいですかー? 」
「ポテトに一票ー! 」
「ポテト賛成多数のためポテトになりました」
厳正なる投票の結果ジャーマンポテトを昼食に取る事になった。細切れにしたウルフ肉を適度に火入れした後ジャガイモを取り出し混ぜ込みながらそしてシーズニングをかける。お手軽でこれで中々美味しいらしい。実際は食べてみてのお楽しみだな。玉葱は無しだ。
まだ暖かいパックライスを取り出すとジャーマンポテトと一緒に出す。後は適当にキノコと野菜をオリーブ油で炒めて添え物にする。
「というわけでジャーマンポテトでーす」
「わーい、いただきます~」
何時もの食事が始まる。やはり一人で食べるより多人数で食べたほうが美味しく感じるな。多分七割位はシーズニングの美味しさでできているだろうけど、残りの三割を埋めてくれる相棒に感謝しよう。
「キノコを持ち歩くようにしましたか」
「冷蔵庫に入れておかないといけない食材以外は保管庫に放り込んでおいても良いような気がしたので。とりあえず個数制限とか重量制限があったとしても、まだ引っかかってないという事はまだまだいけるんじゃないかな」
自分で口に出して気づいたが、保管庫にはまだ個数・種類制限や重さ制限の限界まで詰め込むという動作をしたことがない。以前紙皿を放り込もうとした時にチャンスがあった気がするが……過ぎたことは仕方がない。少なくとも覚えたての頃にこち亀全巻が入ったことから、二百や三百の種類は余裕で入るという事は間違いない。
今ですら百種類近くの色々なものが入っている。もっとかな。正確に何を持ってるかを書き出すのはそれだけで一日が終わりそうな色々なものが入っては出ている。年に一度ぐらいは大掃除ではないが、リストをスッキリさせるための時間が必要になるだろうな。
しっかりと味がなじんでいるジャーマンポテトとウルフ肉をはむはむと食べながら、保管庫のリストを色々と眺める。指先で辿ったりせず、目線を送りつつ頭で考える事で新しく入れ替えた順にリストが流れていくのはとても便利な仕様だと思う。リストの一番古いほうを参照してみると、粉ジュースやカロリーゼリーなんかが入っていた。
ふとカロリーゼリーを取り出し、これも昼食のついでだと一緒に胃に入れてしまう事にした。
「ジャーマンポテトにカロリーゼリーって美味しいんですか? 」
流石にこっちの頭の中や保管庫のリストまでは覗けないのだろう、芽生さんが質問してくる。
「保管庫を古い順に眺めてたらかなり古いところにあったのでつい。賞味期限は切れてないし、ちょっと小腹を満たすにはちょうど良いかと思って」
「持ち物管理も大変ですね。またたい焼きとか入ってませんよね? 」
「さすがに生ものはつい最近入れた物以外は……ちょっと探してみる」
質問されるとなんだか不安になってきた。急いでリストを斜め読みしつつ、食事をする口は動かす。同時にやらなきゃいけないのは辛いところだな。カロリーバーのあんまり食べない味もかなり下のほうに来ている。その中間あたりになると……これは色々考えないといけないな。
「大掃除が必要かもしれん。なんだか不安になってきた」
「後で頑張ってください。定期的な荷物の整理もポーターのお仕事ですし」
気軽に言ってくれるなぁ。まぁ、手伝えと言ったところで出した荷物を順番に並べてもらうぐらいしかやってもらう事がない。世界で数人いるとはいえ、手伝わせ方が存在しない機能というのも考え物だ。
「そういえば、自作のほうの枕なんだが、休憩ついでに布団と一緒に洗濯してもらっていいかな」
「そういえば最近洗濯してませんでしたね。やっておきますよ」
「よろしくお願いする。その間にコーヒー淹れて保管庫の整理の算段してるわ」
芽生さんは寝床の用意を先に済ませると俺から枕を受け取り、シェルターのほうへ。さっそくたらいを持ち出し自前の水魔法で洗濯を始めた。以前と比べると洗練された動きに見える。多分自宅で時々やってるんだろうな。地上での使用のだるさも以前ほど感じなくなっているに違いない。
コーヒーを飲みながらのんびりと洗濯風景を見つつ、保管庫のリストを片っ端から精査する。最近使ってないものと、そのうち使うかもしれないもの、これはもう使わないだろうというものとをざっくりと分けて、家に帰った後保管庫から抜き出すものをリストアップしていく。使うかどうか解らない物はそのまま入れておく。
これはもう使わないだろうなというものは確実に外していく。マチェットとかグラディウスはもう出番がないだろう。指さし確認リストからも外してあるし、これらの武器よりはスケルトンの剣のほうが確実に武器としての質は上のはずだ。
後は粉ジュースの出番がないな。色々飲料を詰め込み始めたおかげでわざわざ水に味をつけるという行為が……あぁ、でもカロリーと水を同時に取りたいときは役に立つかもしれない。微妙判定にして残しておこう。
これは片手間で整理できる物ではないな。やはり家でゆっくりやろう。あくせくしていると乾燥処置が終わったらしいシーツも綺麗になって布団がまたフカフカの状態でシェルターに設置されたらしい。
「さすがに汚れが凄かったですね。二回洗いましたよ。それと、はい枕。綺麗にしておきました」
「助かる。これでまた気持ちよく眠る事が出来るな」
「たまに自分でも使うものですからね。出来れば綺麗なまま使いたいところです」
「じゃ、とりあえず仮眠して……三時間ぐらいかな。また時間が来たら起こすよ」
「はーい、おやすみなさーい」
芽生さんは先に自分のテントに潜り込んでいった。俺も寝るか。コーヒーを飲み干しすぐに寝床に入る。新しい枕は洗った洗剤のほのかな香りと帰って来たダーククロウの香りに包まれてすぐに眠気が来た。これはぐっすり行けそうだ。
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