361:どんとこい十六層 4/5
十四層を後にし、十五層にまた下りる。下りたところにいつものスケルトン三体……だが、芽生さんがものすごい勢いで二体を破壊する。これもう芽生さん一人で良いんじゃないかな。
「気合が入ってるのは良いけど、途中で力尽きないでね」
「はーい」
半分上の空のようだ。どうやら俺にヘイトを向けないようにモンスターでイライラ解消をしようというらしい。こっちに向かうよりは建設的だが、ほどほどでお願いしますよ本当に。
率先して芽生さんが突っ込んでいく。ならこっちはサポートに回ろう。撃ち漏らしを処理するようにして効率よくモンスターを葬っていく。骨ネクロダッシュも芽生さんのほうが早くたどり着き、一発で上から下まで槍の切っ先で切り落とすと同時に核も破壊している。
ただやみくもに振り回している訳ではない事がそこから読み取れた。冷静さは失ってないな。なら大丈夫か、このまま進もう。
いつもより早い時間でボス部屋前まで到達し、スケルトン四体……この階層では最も多いグループを相手にする。と言ってもこっちが一体スケルトンを処理する間に芽生さんは二体殴り潰しているので二体とも相手に出来るかどうかは微妙なところだが、俺が二体目の剣を受けてる間に後ろから核を潰したらしく、戦果は一対二ぐらいになっている。
そのままの勢いで十六層への階段に向かう。残りの通路のスケルトン達も可哀想に、全力でぶん殴り続ける芽生さんの全力の暴力により黒い粒子へ還されていく。ちょっとかわいそう。
階段手前のスケルトン三体もあっという間にバラバラにされて行く。これもう芽生さん一人でいいんじゃないかな。
階段を下りる前に一呼吸おく。これから進んでいく道の確認だ。
「今回は二案ある。地図上で言うここから前回通らなかった三叉路の最後の道へ行って、そこから階段を探す。多分その先はまた道が増えたり曲がったり、ややこしい構造になっていると思う。もしくは、前回埋めきれなかった回廊の内側部分を埋めきる。どちらにしようかね」
「言われてみれば、この三叉路から階層全体が上下に分断されてるようにも見えますね。下側に階段があったから上側にあるだろうという予想ですか」
「そういう予想。当たらずとも遠からずだと思うんだよね。ここの手前側に小部屋らしいものはもうほとんど見当たらないが念のためそこを見回っておくか、それとも新しい地図のほうへ行くか。新しいほうへ行くほうが地図一杯埋められてまだやりがいがあるが、しかし何時までも埋まらない数マスの地図というのはこれはこれで気になる……」
これは予想だが、回廊部分だけを考えてみると全体地図は漢字の「呂」のような形をしているんじゃないか。件の三叉路から更に北方向へいけばまた同じような迷路になっているだろう。ちなみに十五層は「鼎」のような形に近い。目の部分がボス部屋だ。今は右上のあたりに居る。
「じゃぁ洋一さんのやりたいほうで。私のやる事はあんまり変わりませんし、地図さえしっかり描けていれば問題なく帰れるはずですしねえ」
「それでは、細かいところを埋めていこうと思う。一回通った道がほとんどだからどの辺にモンスターがいるかは大体把握できているはずだ。さっそく潜るか。入って早速戦闘のはずだから」
「いつもの骨グループね。骨ネクロは任せて」
十六層に潜るとやはり、下りた先の小部屋にはスケルトン二体、骨ネクロ一体、骨弓一体の通称骨グループだ。スケルトン二体をこっちで相手してその間に骨弓と骨ネクロを芽生さんに任せる。
スケルトンも、俺がもう一歩成長出来たら一撃で切り落とせそうな気がする。今のところ二手かかる。熊手と直刀で肋骨を掻き切って空いたところに直刀でトドメ。盾を構えてなければ肩から腰にかけて一撃で切り落とすこともできるんだが、盾を構えられていてはそれもうまくいかない。ままならんな。
力づくで盾ごと殴り破ろうとしたことはあるが、途中で刃が止まってしまって逆に一撃喰らいそうになった事がある。それ以来試すのは止めている。ガードが高い時はガードを崩してから。基本中の基本を忘れずに戦っていこう。同時に二体来てもそれぞれを往なしながら戦うのにも慣れた。十六層での戦い方も様になってきたと思う。後は地図だけだな。
スケルトン二体引き付けてる間に芽生さんは無事に骨ネクロを叩き潰し骨弓の矢を避けつつ骨弓も倒した。その間にこっちもスケルトンを一体無事に突き崩すことが出来た。後一体。一対一なら何の問題も無く相手のガードを崩してその隙に切り伏せることができる。骨グループは全て黒い粒子に還っていった。
「初回は無事に終わった。さぁどういけば近いかな」
地図を見ながら未踏破部分への最短ルートを相談する。とりあえず手近な所から埋めていきたい。
「右に折れてまっすぐ、三本目を右に曲がって道なりに四ブロック進んで左で最短ですかね」
「じゃ、それでいこう」
さすがに四時間以上時間を空ければモンスターもリポップが終わっており、予想されている地点で戦闘をしつつ、すでに歩いた道を確認しながら進む。しかし、地図が無いと進めないマップというのは難儀なものだな。これを全部頭に入れるのはもう難しそうだ。ゲーム現役時代は全階層頭に叩き込んで攻略ぐらいはしてたんだけどなぁ……
細やかな未踏破地点まで隅々まで埋める理由は二つ。残りの小さな区画に階段がある可能性が排除できないという事と、埋まってないと落ち着かないからだ。特に落ち着かないというのは探索において大事だ。
頭の横に引っかかっている出来事に体が引きずられて戦闘に違和感を生じ、そこから凡ミスにつながる。そういう可能性をできるだけ排除したい。なので優先的に細かいところを埋めることにした。そうすることで次回の探索が気持ちよくできるというのはメリットにもなる。
道中の骨グループやスケルトンを気にして戦いつつ、予定通りの場所にたどり着いた。そして奥まで行き、小部屋と行き止まりであることを確認した。
「これで気は済みましたか」
「後二か所。戻って右に戻って二ブロック、そこから右への通路はまだ奥まで見通してない。そこも埋めよう。ついでだしこっち側の未踏破は全部抑えてしまいたい」
「りょーかい。何もないとは思うんですけどー……何もない事を確認する事が大事、でしたっけ? 」
「そういうこと。そういう意味では五層から八層の空き地部分と九層から十二層中央部も確認したいところではあるが……まぁ、あっちは誰か気が向いた人がやれば良いだろう。俺たちは今回十六層を越えて十七層に行く理由があるからな。ちゃんと真面目にやってますよというポーズは必要だし。その為には十六層の地図をほぼ完成させて提出しておく必要があると思うんだよね」
「まじめにやっておくフリ……ですか。確かに最短で目指すとは約束しませんでしたけど」
ただ通り抜けるだけなら階段だけ見つけて通り過ぎればそれでよしなのだが、現状階段が見つけられてない以上仕方がない事だ。大人しく一つずつ埋めていくしかない。
「他の階層みたいに解りやすく地図が出来ていればそれも良いが、こういう迷路も楽しいっちゃ楽しい。探索しているって気分にならない? 」
「飽きるまでは……ですかね。さすがに同じところをグルグル回るのは精神的にきつくはありませんが、こうなんかくるものがあります」
「気持ちは解らんでもない。もうちょっとだから頑張ろう。後二か所さえ潰せば後は広くて階段のある可能性のあるほうにいけるから」
とりあえず道中に記してある戦闘ポイントで戦えてはいるので歩くだけ、という事は無い。その分飽きは来にくいと思う。芽生さんの動きからも退屈さは……今のところ見えていない。が、実際のところ地図埋めにこだわっているのは俺のわがままな部分もあるので少しばかりは退屈しているかもな。もうちょっと辛抱してもらいたいところだ。
その後、まだ未踏破だった二か所の地点を無事に踏み終え、十六層の地図がおそらく半分ほど、人に見せられるような形になった。さぁ、残り半分頑張っていきますか。さて、ここから回廊に出て件の三叉路まで戻るとするか。道中のモンスターは問題なく殴り倒して行っている。
しかし、ゲームでは楽しいマップ埋めだが実際にやってみると面倒事のほうが多いな。ゲームでは逃げるという選択肢が存在し、定期的に逃げる事で戦術的に撤退する事は可能だったがこっちは逃げるにしても逃げた先にも敵が居る。逃げたからって敵が減る事が無いのだから、その場で戦ってしまうしかない。
ダメージを受ければ怪我もするし、怪我を治せばポーションも減る。ここでポーションの直接調達は出来ないから、ポーションの数が命の数だ。二人ともダメージを受けてその上で倒す、という戦闘スタイルではないので被弾とダメージの蓄積がイコールで結ばれる。となれば致命的なダメージを受けないようにはどう戦えばいいのか……という考えの末が今の立ち回りだ。
まだまだ探索する範囲が残っている十六層で、さすがにちょっと辛さを感じ始めている。早く階段が見つかればこのもやもや感もスッキリするんだろうか。
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