358:結構高かった
若干文脈を変更しました。
アラームが鳴った。おはようございます。ちょっと汗をかいたが疲れがそれなりに溜まっていたのだろう。目がごろごろする。やはり目薬は大事だな。メモにちゃんと記して……よし、ちゃんとメモしてある。四十代からの疲れ目に利く奴をチョイスしよう。
インナーシュラフから出るとひんやりとした空気が俺を包み込む。この汗のかき方だと今日の探索が終わったら持ち帰って洗濯したほうが良さそうだな。若干重たくもなっている。寝袋から取り出して干しておけば多少は乾くかな。匂いとかも気になるし一度持ち帰る事を検討しよう。
隣のテントをガサガサと揺らし、早速目覚めのコーヒー二杯分の湯を沸かしにかかりつつ、体を軽く動かす。肩を回すとゴリゴリと鳴り続けて止まらない。止まるまで鳴らし続けるときっと関節を痛めるだろうからほどほどにしておく。
身体がほぐれたところでコーヒーを淹れ、ゆっくり飲む。ふぅ~と深呼吸をすると、眠気は完全に飛んだ。さて、【魔法耐性】はおいくらかな……
……
「おはようございます。どうしたんですか固まって」
「おはよう。【魔法耐性】の価格を見てたんだが」
「どうしたんですか、価格がどうか……」
芽生さんも探索・オブ・ジ・イヤーのスキルオーブ最新動向価格を見て一瞬体が止まる。そのお値段三千万円。良いお値段だ。どうやらスキルオーブをドロップするモンスターへ出会うまでの難易度と、そこに希少性が加わりこのお値段らしい。
隣に並んでる、複数の属性をいくつも同時に行使できる【生活魔法】の五千万については思ったよりも安い気がする。煮炊き洗濯入浴戦闘等様々に応用できるのにこの値段という事は、こっちはそこそこ数が出るのかなと予想する。もしかしたら九層十層でも出るのかもしれないな。Dランクでも取れる魔法としては充分高額だろう。
ちなみに【物理耐性】は一億するらしい。たしかにこっちのほうが出番は多いし欲しがる探索者はいくらでも居るだろう。
「どうしよう芽生さんや、三千万円だってさ」
「どうしましょう洋一さんや、二人で割って税抜きにしても千三百五十万円ですよ」
「売るか使うか……悩むな。もうちょっと探索進めて二個出たら使う。そういうことにしとかない? 」
「そうですね……悩む時間が取れるんですから忘れて放っておいても良いぐらいですね」
そう、普通なら今すぐギルドに飛んで帰って売却手続きをするか、即座に使って効果のほどを確かめるかの二択を迫られるが、スキルオーブが【保管庫】の影響を受けて使用期限の四十八時間すらも百分の一、つまり百倍の時間猶予を与えてくれるのは確認済みなのだ。
「それにほら、もっと値上がりする可能性もあるから今すぐ売らなきゃいけない道理は無いしな」
「資産運用のポイントは適度に寝かせて待つ、ですか。それで良いと思います」
「十六層でスケルトンが同じものを落としてくれるかもしれないし、【魔法耐性】さえあればボス戦に再度挑むことになってもゴブリンシャーマンのアレをまた喰らわなくても済む。喰らったとしても前みたいに服をダメにする必要はなくなるかもしれない」
その為だけに三千万? という所はある。魔法を使ってくる相手が他には……骨弓の矢ぐらいか。アレも多分魔法だろう。そうすると相手を一人無力化できるので十六層での活動は非常に便利になるのだが……骨弓って矢を射る以外になんか攻撃仕掛けて来るんだろうか? 弓で殴りに来るとか。
何にせよ一人だけ持ってても仕方がないスキルではあるな。揃って二つあれば両方覚えるなり両方時間差をつけて売るなり選択肢が増えるんだがそこまで待つ……いや、現状を考えると狩り放題でスキルが必ず出るという確証もあるのだから出るまで待つというのも手だ。
「よし、もう少し保留にしておこう。悩み始めると探索に支障が出るし」
「そうしましょう。保管庫に入れておけば無くしませんし、洋一さんが死なない限り大丈夫ですし、そもそも洋一さんが死んだ時点で私の楽々探索ライフもそこまでですし、今更新しいパーティーを組むとしても今以上に快適なダンジョンライフを送れるとも思いませんし」
めちゃくちゃ物騒なことを言われているが、言っている事は間違いない。決めた。次に何かオーブが出るまで考えない。そうしよう。
「さて、軽く頭の体操を終えたところで準備は良いかね? 」
「ちょっとまって……準備は良いです。さぁ行きましょう」
グイッとコーヒーを飲み干すと槍を片手に準備は万端だと言わんばかりのポーズをキメている。さぁ、二周目の十六層地図作りだ。今度は何処を通ろうかな。とりあえず十六層に下りてから考えよう。
と、十四層に自分たち以外のテントがある事に気づいた。恐る恐る近寄ってみる。
「外出中 小寺」
小寺パーティーも十四層にたどり着いたらしい。これで十四層仲間が増えた。やったね安村ちゃん。これで寂しい十四層生活ともおさらばだ。しかし、その分スキルオーブライバルが増えたとも言える。十三層をもっと巡っておくべきかな?
しかし、すでに小寺さん達がスキルオーブを取得しているかもしれない。そう考えるとまず顔を合わせてそれから考えるほうが良いだろう。
「小寺さん達ですか。これでこの辺で見かけるパーティーは三つになりましたね」
「もうちょっと人が増えたら、というか鬼殺しが増えたらまたシェルターとか机とか設置するか? 」
「アレ経費では落ちませんし、今度こそバレますよ? 」
芽生さんが釘を刺してくる。保管庫がバレることを考えると変なことに気を回さないほうがよさそうだ。小寺さん達より先に来ていて設備が整っていたら犯人は俺以外ありえないだろう。なによりあの十層を潜ってそんなものを持ち込む変人は居ないはずだ。
「それもそうだな。今持ち込んでいる分だけでも充分多いし……これ以上はもういいな。もっと鬼殺しが増えて……って他所の鬼殺しでもエレベーターが見えるかどうかってのも確かめないといけないな。それで人口がぐっと増えたらこっそり混ぜ込むぐらいがいいかもしれない」
「のんびりで良いんじゃないですかねえ。とりあえず身の回りで絶対に必要だろうと思われる物は大体持ち込んでますし」
そう言われると現状で七層と同じぐらいの物資は持ち込めているな。よし、現状維持で問題なし。そういう事にしておこう。
十四層の現状も確認できたし改めて探索に出かけるとしよう。十五層への階段へ向かう。十五層の階段を下りると早速スケルトン三体。こいつらはいつもの挨拶みたいなものだ。やぁさっきぶりと挨拶代わりに直刀でぶん殴る。
これも一段階ステータスブーストが成長すれば一々肋骨を外しに向かわなくても倒せるようになるんだろうか。時期が来ればわかるだろう。それまではひたすら使い続けて戦い続けることにしよう。
通い慣れた十五層のボス部屋の前まで一気に歩みを進めていく。倒していく数も種類も覚えた。十六層までには最低二十一体のスケルトンと五体の骨ネクロを相手にしなければいけない。
帰り道も同じだ。つまりスキルオーブを狙うには、巡回でもしない限りほぼ出る可能性はないだろう。今度はフリじゃないぞ。その五体だけで毎回出るなら他の階層で数の少ないモンスターは……あの数の少なさで五層でスキルオーブ拾ってたな、俺。もしかして低確率を拾っていく才能でもあるのか。
そう言われると【保管庫】が出た時点で既に持ってたとも言えるな。あのダンジョンマスターですら面白いスキルと言っていたし、この先何らかのいろんな事件や事故なんかに遭遇していくんだろう。そういうのは遠慮したいところだ。毎日適当にダンジョンを探索してその収穫で暮らしていきたい。
一財産築いて地主になって不労所得で暮らす……という未来もあるかもしれないが、その為にも今は稼いで行かないとな。
ボス部屋前のスケルトン四体をしめやかに爆散させると十六層への階段へ向かう。行く先の道にはスケルトン三体のグループが最低三つ。良ければ四つ。運が良ければ骨のドロップもあるだろう。荷物に嬉しさが詰まっていくな。
スケルトン三グループを丁重に黒い粒子を還していくと階段だ。二度目の十六層トライアルが始まる。次は……さっきの曲がりくねったほうの道へ向かってみようか。細かいところを埋めていくのはもっと後で良いだろう。まずは全体像が知りたい。ここ十五層や上の十四層に比べてはるかに広い事だけは解っている。まだまだ迷宮は迷宮のままだ。
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