357:どんとこい十六層 2/5
十六層を迷い続ける。地図が出来あがっていないのだから迷っているという表現であっていると思う。ここに来るまでの地図はきちんと描けているはずだが、もしかしたら戦闘に遭遇した時に通路を見逃している可能性はある。しかしその手前までの地図は出来ている訳で、ここまで入り組んでいると逆に通った道かどうかは判別がつきやすいとも言える。
そろそろ潜り始めて一時間半が経とうという所。この辺で一旦撤収して休憩を取るべきだろう。
「芽生さん、そろそろ時間だ。一旦戻ろう」
「もうですか、意外と早かったですねえ。じゃあ続きは休憩した後で進めましょう」
来た道を逆に帰る。さすがに一時間半も経っているので階段に近いほうのモンスターはリポップしきっているだろう。同じだけモンスターを倒して帰るという事になるが、それを見込んでの一時間半という時間の区切りだ。
地図を逆にして道順を間違えないように戻る。モンスターと出会った場所は一応のチェックを済ませているし、帰りの小部屋は相手が反応しない限り無視していくので戦闘回数はそれなりに減った。
が、全体として減ったわけではなくさっき倒したばかりのモンスターがリポップしてない程度のもので、十五層への階段へ近づけば近づくほど元通りに湧きなおしている。湧きなおしてない所はランダムリポップだった可能性が高いな。もう一度次に通う時にチェックして、確定リポップ地域を確定させておこう。
「来た道を引き返すだけではなんか物足りないところがありますねえ」
「そうは言っても帰り道はこれしかわからないからなあ。他の道からもしかしたら近道できるかもしれないけど、この地図の出来では……ちょっと怪しい。もう少し巡って見てからかな」
「こことか近道できそうじゃありません? 絶対繋がってますって」
地図と地図の間が狭まっている区域を指して芽生さんが指摘する。しかしここは迷宮、繋がってそうだからと言って実は違う道につながっている可能性も低くはない。
「う~ん……行き止まりの小部屋がありそうな雰囲気なんだよな、広さ的に見て」
「じゃあ次この部分を探索してみるというのは? 」
「だとしたら……この辺からこう、行けそうじゃない? 」
「そうだな、次はそこを巡ってみるとしよう」
戦闘回数の少なさと一度往復したりしたルートを短縮して移動できている分だけ思ったよりも早めに十五層への階段にたどり着くことが出来た。階段の前には行きと同じく、スケルトン二体、骨ネクロ一体、骨弓一体のパーティーが雑談らしきものをしていた。
「スケルトン、どんな雑談してるんでしょうね。モンスター言語理解みたいなスキルもあったりするんでしょうか」
「あんまり聞き取りたくないなぁ。スライムが狩れなくなってしまうかもしれない」
「大量の悲鳴を聞きながら鼻歌交じりに潮干狩りしている洋一さんの姿しか浮かばないんですが」
「俺はそこまで神経図太くないぞ。さて、これを狩ったら十五層だ。十四層まで気を抜かず行こう」
早速スケルトンに飛びかかり、手慣れたパターンで黒い粒子に返すと続いて骨ネクロに向き直る。骨弓の矢が飛んできたが盾で弾けたので衝撃を往なしてそのまま骨ネクロを核ごと肩から殴り潰した。
防御力という意味ではスケルトンが一番硬く、次に骨弓、最後に骨ネクロという所だろうか。割と見た目通りと言えばそうだ。攻撃が厄介なのは骨弓、骨ネクロ、スケルトンの順番。
骨ネクロは周りに他のモンスターが居なければダッシュすれば召喚される前にほぼ勝てるので、他のスケルトン達が居るかどうかで厄介さが変わる。なので十六層の骨ネクロは若干厄介だ。
十六層に別れを告げ、十五層への階段を上る。階段を上ったところには当然のようにスケルトンが三体待ち構えていた。階段即戦闘とは忙しない。しかし予想は出来ていたところだ、落ち着いてスケルトンを処す。
ここらで突然「おおぉ? 」と芽生さんが声を上げ始めた。
「どうした、何かあったか」
「なんだか、周りがゆっくり見えるようになった気がします。あれですか、ステータスブーストの成長って奴ですかねえ」
「つまり身体能力がもう一段階上がったという事だな。次の戦闘で試してみよう。そうならなかったらステータスブースト酔いの可能性がある」
「りょーかい」
ステータスブーストの成長には俺も何回か立ち会ったことがあるし、初めて使った時も味わった感覚でもある。そういえば最近成長してないな。だとしたら成長はもうちっと先って事かな。そういえばここまでに何回ぐらい成長を刻んだんだったか。ちゃんと数えてればよかったかな。
次の確定湧き場で動きのほどを見せてもらおう。そう思いながら十五層を十四層へ向けて抜ける。ボス部屋前までに戦闘が何回かある、そこだな。等と考えているうちにスケルトン二体と出会う。芽生さんは我先にとスケルトンに追いつくと槍を素早く二回突き出し、そして手元に手繰り寄せた。
スケルトンは防御姿勢に入る前に核を割られ、黒い粒子へ還る。うん、確かに早くなった気がする。そのまま二匹目へ殴りかかり、思いっきり槍を振るうと頭から骨をバキボキと折り始め、そのまま核まで到達、一発殴るだけで終わらせるのは相変わらずだが、前より更に乱暴な手順でも倒せるようになったらしい。
「なるほど、より手抜きが出来るようになったと。確かに一段階上がってるような気はする」
「これで骨ネクロも簡単に倒せるようになればいいんですが、いかがでしょうか」
「そうだなあ……倒し方については今更いう事も無いと思う。楽で長続きすると思える手法でいいんじゃないかな」
「じゃぁしばらくはこれで行きます」
力の限りぶん殴る方向性で行くらしい。まあいいけど。
ボス部屋前まで戻ってくるとやはりいる四体のスケルトン。同時に相手するのも面倒なので四体とも頭をパチンコ玉で飛ばして混乱してる間にササっと倒した。頭が無いほうがより楽に殴れるらしく、芽生さんは絶好調の模様だ。
そのままボス部屋の通路を抜けつつ、さっきスキルオーブをくれたあたりに差し掛かる。しばらくはここのスケルトンにこれと言った用事は無いはずだ。ただ倒されて行くだけにしてもらいたい。狙うとすれば次は骨ネクロだろう。何をくれるのか期待しつつ向かうと、くれなかったときにしょんぼりするのでスキルオーブの事は頭から切り離しておく。
ボス部屋前の通路を抜けて通路から小部屋に入る。小部屋にはスケルトン三体。難なく処理し小部屋を出て、通路のスケルトンを順番に倒しながら階段のある所まで戻る。階段のある小部屋にはまたまたスケルトンが三体。十五層は小部屋にスケルトンというパターンが多め。階層ごとのクセって奴だろうか。
十三層だと骨ネクロ二体ってパターンのほうが多かったかな。多分、ボス部屋守護の兵士がスケルトンでそれの駐留所みたいなことになっているんだろう。そう思う事にする。
何事もなく十五層を抜け、十四層のセーフエリアへたどり着いた。さすがに地図とにらめっこしながら新しいマップを開拓していくというのは目にも来るらしい。若干視点がぼやけている。今度は目薬も補充物資に入れておこう。メモメモ。
「ふー、楽しかった」
芽生さんがやっと一息という感じで感想を漏らす。
「行く先も解らないところだから鬱憤が溜まってるかと思ったが、それは何より」
「パワーアップもしたし好きなだけスケルトン殴れたし、今日はご飯が美味しく食べれそう。お昼何? 」
「いつものシーズニング。肉は在庫がたんまりあるウルフ肉でサッパリと。それと米」
今日は何味にしようかな。どの味でも対応できるように小分けにしていろんな調味料をそろえてあるから対応がしやすい。とりあえず自分たちのテントに向かい、食事の支度をする。気分的にサッパリしたものが食べたい。レシピを色々と思い出し、ローズマリー風味の奴があったことを思い出す。
ローズマリーウルフ。なんだか語感が可愛い。本当は鶏肉を使うらしいがまぁウルフ肉でチャレンジしてみよう。後は野菜炒めにも別の食感を与えたい。こっちもアンチョビ風にしてみよう。そうと決まれば調理開始だ。
調理の内容は手軽で簡単。肉の厚みを均等にして適当にプスプスと穴をあけて、パウダーをまぶして焼く。以上だ。たったこれだけでおしゃれな肉料理をこんなダンジョンの中で味わえる。贅沢だな。
アンチョビ風野菜炒めも簡単。野菜がしんなりするまで炒めたらパウダーをまぶして全体に馴染ませる。以上だ。たったこれだけでおしゃれな野菜をこんなダンジョンの中で味わえる。贅沢だな。
もっといろんなパウダー系を在庫としてストックしておけば食事に対する欲を落とさずに済む。こんな所だからこそせめて食事は出来るだけ豪華に食べたい。ストイックにカロリーバー片手に探索する俺の心境はもはや何処かへ旅立った。
アツアツに温めて放り込んでおいたパックライスを保管庫から取り出し、並べれば三品も食べるものがある。ただ肉を焼いて野菜炒めを胃に詰め込んでいた七層での生活も、何故か十四層へもぐりこんだ今のほうが若干良い思いをしている。ありがとうスライム、俺に保管庫をくれて。
寝る準備をしていた芽生さんを呼び出し、早速実食に入る。いただきます。
「そういえば、この三時間ちょいの稼ぎはおいくらぐらいになりましたか」
食事時でもお金のことは忘れない。大事な事だ。
「う~ん……九十万ぐらいかな。後二回トライするとして二百七十万。税金引いて二百四十三万。キュアポーションのランク2を予備として持っておくかで大きく変わるな」
「一応二本予備としてほしいところですね。その分引いても百万超えですか。ますます金銭感覚が狂いますね」
もぐもぐと咀嚼しながら山分けの相談。飯と金の話しかしないのは若干のオッサン臭がしなくもないが金額が金額だ、ちゃんとしておいたほうがいいに決まっている。狩りながら金の話をして油断するよりは食事中にしているほうが集中が切れている分いくらかマシであると言えよう。
「あ、そこから往復のエレベーター代抜くから更に取り分は減るかな」
エレベーターの利用料の事を思い出した。往復で二万。安い金額ではないが、一層から十四層を抜ける時間と比べたら何とも安いものだ。スケルトン十二体分の費用で賄えるんだから負担にはならない。
「しかし、このシーズニングシリーズは中々やりますねえ。スパイス色々使う系の食事は用意するのが面倒ですから」
たしかに、簡単調理系のスパイスやシーズニングの満足度は高い。
「俺が子供の頃はこんなものなかったからな。ハンバーグ一つにしても冷凍食品そのものが少なかったから選択肢は一個か二個ぐらいしかなかった。今はチーズインでもデミグラスインでも色々選べる。便利な世の中だよな」
小さなころの食卓を思い出す。ハンバーグを食べられるだけで大いに喜んだものだ。おふくろの手作りも嬉しかったが、出来合いのハンバーグ製品も美味しく感じたものだ。
「その内探索者向けのそういう商品も開発されるようになるんでしょうか」
「もう開発してるんじゃないかな。宇宙食開発と同じ軸線上で考えれば良いからな。火と水を使うかどうかが悩みどころだろう」
「水が貴重であまり使えない事を考えると湯煎が結構なコストですから、水を入れて温めるだけで……という方向性は若干難しいような気がしますね」
だとすると……空気と接触して温まる系の強めの奴が出てくるんかな。それともごく少量の水で済むタイプが出てくるのかな。何にせよまだまだ発展途上である事に違いは無いと思う。
「芽生さんも俺もやっぱり、時々清州ダンジョンで潜って保管庫に頼らない一般的な探索というものを定期的に忘れないようにしなきゃならんな。毎回これだけに慣れてしまうとお互いが居ない時に困るかもしれないし」
「そうですねえ。清州かどうかはともかく、他所のダンジョンへ潜る時はよく考えて行動しないといけませんから、慣れておくことは大事かも」
とりとめのない会話をしながら食事は終わりに差し掛かり、早速仮眠の時間となる。四時間ぐらい眠れば良いだろうか。アラームをセットして眠りにかかる。あ、スキルオーブの価格調べるの忘れてるな。起きたらやるか。とりあえず次の探索のためのエネルギー回復をするのが先だ。
そのまま価格を調べず眠りに入る。結構疲れていたのか、それともインナーシュラフの温かさのせいか、寝入るのは早かったと思う。
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