353:ドローンで潮干狩り……はさすがにない
色々悩んだ結果、ウルフ肉を焼肉風にして食べる事にして腹を満たす。いつも通り野菜炒めでも良かったが、なんかこういまいち気が乗らなかったので少しだけ手間をかけてみた。味はまぁまぁ。いずれ研鑽を積もう。材料も時間もある。
最近はダンジョンで飯を食ってる機会が半々ぐらいで多いので、家でしか作れないレシピに挑戦する機会……具体的に言うと揚げ物に挑んでも良かったのだが、後片付けの面倒くささに負けた。ウルフカツやウルフ唐揚げが食いたくなったら中華屋まで足を延ばせばいいので、しばらくは揚げ物はスーパーか中華屋へ行く事にしようと決めた。
昼からは完全に暇なので、ドローンの練習をしたら買い物に出かけて探索用品とメモ帳に書いてあるものの消化、そして……寝よう。これで今日の予定は埋めた。なんだか毎日予定が埋まってないと落ち着かないようになり始めている。いや、これは昔仕事で埋め尽くされていた時間だったのかもしれないな。
今日は休み! 明日は仕事! でも仕事の準備をしてる! ふしぎ!
まぁ細かい事はさておき、いざ本番でドローン飛ばして思った通りに動かせないのはまずいからな。それなりにお金もかかっているからいきなり本番で破損しても困る。バッテリー一つで三十分ほど全力稼動できるらしいので、予備を含めると一時間は稼動させられることになる。方向が解らなくなったところでちょこちょこ飛ばして方角を確認していく形で運用しようと思う。
まずはちゃんと飛ばせるようにしないといけないな。早速ドローンの使用が禁止されていない公園まで移動してきた。ここなら問題ないだろう。スマホと連携させて、カメラの映像をスマホから確認できるように設定する。
さぁ、せっかくそれなりに広いところまで来たんだ、早速飛ばしてみるぞ。どうやら一緒に買った通信機を噛ませることでかなりの距離ドローンを飛ばせるようになっているみたいだ。上空百メートルぐらいまで上昇してくれればかなり広い地域が見渡せることだろう。草原マップがどこまで広がっているのかは解らないし、モンスターの湧き具合もまだ解らない。初マップというのは意外に労力を使う。
その点十三層から十五層にかけては閉鎖された区域というのだったので完全に迷うことは少なかった。その点は幸運であっただろうと言える。
買ったドローンはスマホとリンクさせれば百メートル程度なら通信が切れることは無いらしい。ダンジョン内は余計な電波が無さそうなので、予想よりも遠くを見据えることが可能であると思う。問題は天井だ。サバンナマップでは上空三百メートルほどに見えない天井があった。おそらく草原マップでも同じことになっているだろう。
今は法律なんかが厳しいらしく、目視可能距離より遠いところへ飛ばすと怒られるらしいが、そんな余裕は今の俺にはない。見える範囲で操縦と撮影を楽しむこととする。
上空百メートルの視界を手に入れられるのは地図埋めにおいて大事なことだ。自分の身長から算出される地球上で見渡せる最大距離は四キロから五キロメートルほどだが、上空五十メートルほどまで視界を広げれば二十キロオーバーの視界を得ることができる。
ダンジョンの曲率がどんなものかは解らないが、百メートルギリギリまで持ち上げることができるならどんな視界が得られる事だろうか。
サバンナマップみたいに上下左右がループしているかどうかまでは解らない。だがそういう可能性もあるという事は念頭に入れておきたい。ついでにモンスターの分布状況を調べるためにも、ドローンの操作はおぼつかなくない程度には慣らしておこう。
さすがに数時間歩き通してたどり着けないほど広いマップではないだろうが、ドローンがあるだけで行く方向とそこまでのモンスターの数をざっくりと確認できるだろうからそれに越したことはない。
ドローンの練習を続ける。上下左右いろんな方向に飛ばしながら、視界を確認する。中々に広い範囲を見渡すことができるな。これだけの距離を確認できるならおそらく迷う事は無いと予想しておく。十七層以降の探索の不安要素はこれで一つ減った。保管庫のおかげでドローンを現地まで破損することなく持っていくことができるのも大きい。
ゆっくりドローンの高さを上げていく。街が……訂正しよう、街っぽい田舎の風景が徐々に広く見渡せるようになってくる。結構広い範囲が見えるもんなんだな。これだけ見えてれば目標物も手早く見つけられるだろう。マップに高低差があるならそれほど見えるという事は無いだろうが、高いところに登れば全体を見渡すこともできる。それならそれで好都合だ。
ふと気が付くと足元に子供がいる。四歳か五歳ぐらいかな、何処の子だろう?
「おじちゃん、なにやってるの? 」
知らない人に声かけちゃいけないと教わってないのか? だが周りを見渡してもおじちゃんは俺しか居ないので間違いなく俺に聞いている。目線を子供に合わせるために座り込む。
「おじちゃんはねぇ。ドローンを飛ばしてるんだよ。ほら、これが今ドローンから見えてる景色だよ」
子供は俺の手元に興味津々らしい。コントローラの映像を見せながら動かしてみる。どうやら変わっていく映像に興奮しているようだ。鼻息が荒い。
「すごい! おじちゃん、うまい! 」
「君、お母さんかお父さんは一緒じゃないのかい? 」
「おかあさんあそこ! 」
少し離れた所を見ると、こっちを見ておどおどしている母親らしき人が見える。どうもこんにちは。会釈するとこちらへ近づいてくる。
「おじちゃん、おしごとは? ボクのパパはおしごといってるよ」
ちょっと痛いところを突かれるが、今日は休みの日だ。何も問題は無い。問題は無いのだ。
「おじちゃんのお仕事は今日はお休みなんだ。だからこうしてお仕事の練習してるんだよ」
「ふーん。おじちゃん、おしごとなにやってるの? 」
「おじちゃんはねぇ、探索者なんだ」
「たんさくしゃ! もんすたーたおしたりする? 」
「一杯するよ。モンスターを倒すのがお仕事なんだ」
「すごい! もうかる? 」
親の教育が良く行き届いているようだ。後ろを見ると話しが聞こえていたらしい、母親が肩を震わせて笑いをこらえている。
「儲かるぞ。このドローンも儲かったお金で買ったんだ」
会話で集中が乱されるので一旦ドローンを戻そう。スマホでこちらを確認しつつゆっくりと手元までドローンを戻し、停止させる。よし、着陸は上手くできたな。
「どろーんでもんすたーたおすの? 」
「ドローンでは倒さないかな。こうやってドローンで周りを見て、迷わないようにするんだよ」
「ひろきー、帰るよー」
「あ、かえるって。おじちゃんじゃあね~」
子供は母親に呼び戻されて母親のほうへ駆けて行った。そのまま何処かへ出かけていくようだ。子供か……俺も真っ当に生きて結婚してたら……してたらもっと大きいのが居ただろうな。傍から見ると微笑ましいが、家では家事に育児に大変だろう。
その点は独り者は気楽でいい。生物として最も重要である子孫を残すという行為をほぼ放棄した代わりにこうやって平日の昼間にドローンを飛ばしてのほほんとしているという自由を手に入れられている。それが幸か不幸かは本人が納得するかどうかであって人が決めるものではないだろう。
再びドローンを飛ばして三百六十度回転させたり手近な目標物に出来るだけ近づいたり遠ざかったりして、操作に慣れていく。これは中々楽しいな。見慣れた風景も視点を変えるとこのように様変わりするものなのか。目から鱗が一枚落ちたような気がする。
バッテリーを予備含め使い切るまでいろんな操縦をして、満足したので帰ることにする。そういえばあの子供も大きくなったら探索者になるんだろうか。それとも真っ当に敷かれたレールを歩んでいくんだろうか。どちらを選択するも自由な権利は彼にはある。
もしかしたら今俺は探索者というレールを敷設している最中なのかもしれない。探索者という道を否定するにも肯定するにも、答えを出すにはまだ早すぎるな。ただ、少なくとも楽な道ではない事は確かだ。
明日は……そうだな、十六層に顔見せに行こうかな。せっかく調べた内容を忘れる前に体になじませるんだ。どこまで地図の製作が進むかまでは解らないが、迷わない程度に階段の周りから熱心にしらみつぶしにしていこうと思う。
さて……腹減ったな。まだ夕食には早いはずだが、買い出しにも行くしその時の腹気分で決めようかな。あまり深く考えると余計に腹が減る。今日は気軽な気分でスキップでも決めつつ食べたいと思ったものを買って、そして喰おう。食欲があって胃袋が耐えられる間は元気であるに違いない。
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