352:その日は夕方から朝だった 2/2
レビューいただきました。ありがとうございます。
だいぶ暇をつぶした。しかしまだ暇と言えば暇である。かといって昼食にするにはまだ早すぎる。このままだと昼食もコンビニ弁当かウルフ肉を適当に焼いて食うぐらいになるだろう。
仕方なく買ってきたばかりの探索・オブ・ジ・イヤーを眺めるも、いまいち文字が頭に入ってこない。こう、書いてある文字が全て滑っていく感じだ。いやそれを越えて何語が書いてあるかすらも解らない状態と呼んだほうが正確だろう。手持無沙汰なのか、まだ頭が疲れているのか、それとも体が何かを待っているのか。とりあえずコーヒーを淹れようかな。
コーヒーを飲んで少し頭をスッキリさせて、それから内容を読む。特集記事を無理をして読み込んでみるが、スキルオーブのドロップに特定の癖みたいなものがあるのではないか……つまりさっきまで読んでいたスレの内容がざっくりと書かれている。
同じ内容を読んでもしょうがないな。飛ばすか。次の話題はステータスブーストに関してだ。この謎の技術を体得する事でCランクに上がろうとする探索者が増えつつある。東海地方を中心に広まりつつあり、わざわざ教えてもらいにこっちのほうまで来る探索者も少なくない……との事。実際に使える探索者にインタビューしてその効果を文章で説明されている。
また、現在Cランクの中でも中間以上、つまり鬼殺しと呼ばれる層についてはかなりの探索者がこれを使えているのではないか? という注釈文も付いている。実際には全員が全員……という訳ではないだろう。この技術を知らないまま鬼殺しに成れるほどまで己を高めた人だっているはずだ。その努力と力量には敬意を表する。
文章で説明するより実際にやったほうが遥かにわかりやすいというこの技術。おそらくだが今高位で、少なくともBランク以上の探索者は当たり前のように使っている技術ではないだろうか。教えなかったのではなく、教えられなかった可能性のほうが高い。
例のCランク以上機密に引っかかるかどうか、そこがネックになっているのではないだろうか。この手の技術を一般に広く広めても良いのかどうか。それを毎回ダンジョン庁にお伺いを立ててからわざわざ自分の持ち出しで広める……そんなアフターサービス溢れた探索者はそう居ないだろうと思う。
そして、己の限界を更に超えるようなイメージを持ちながら行動する……この一文だけでそれを体感できるかと言われたら俺は思い付きで出来てしまった以上イエスと答えるしかないのだが、ここに記載された文面でやり方を理解し使えるようになるのは一種の秀才ではなかろうか、とも思っている。
それでも直接教えて中々モノに出来なかった人を幾人か見ている。妄想力というのは時に大事なんだな。そして最初の教え子でもある芽生さんがいかに優秀な生徒だったかを思い知らされる。
ギルマスが言っていた、ダンジョン庁が考えているとするインストラクターとして技術を広めに行く役目が必要なんだろう。そしてそれが一通り終わった時、探索者全体のレベル向上によって今手持ちにある稼ぎ時のドロップ品たちは商品価値が下がっていくだろう。
みんながみんな強くなればより深い階層が混みだし、特定のドロップ品を集める役目以外はどんどん稼ぎを上げていく。その分回収されて行くダンジョン産の品物たちは市場に並び、飽和するかもしれない。その飽和を受けて徐々に商品価格が下がっていくのは自然な流れだと思う。
まずダンジョンの七層以降が混み始め、やがて十層を抜けてCランクになり、更に鬼殺しになっていく。みんながみんなそうではないだろうが、同じ時間で稼げるなら稼げる金額が多いほうに行くのは自明の理だ。
こうやって書籍の形で情報が散布される以上、俺の持ってるアドバンテージはスキルとエレベーターだけになった。後は積み重ねてきた経験か。エレベーターの件が公になれば小西ダンジョンの探索者数も収益も大幅に上がるだろう。そうなった時、俺はまだ小西に執着する理由はあるのだろうか。
いや、今はまだある。二十一層まで行くというクエストを受注してる最中だからな。エレベーターの件はそれまで隠匿されている可能性もある。あのギルマスがどこまで気を使ってくれるかは解らないが、しばらくは大丈夫だろう。
そのいくらかを稼いでくれるであろう時間で二十一層まで攻略する。具体的には十六層の地図を作り、十七層以降の草原を抜け、二十一層……どんなマップになっているかは解らないが、そこへたどり着く。はっきりした目標は定まっている。後はいつ着手するかと何時頃終わりそうか。そこだな。
当面の敵になりそうなのはスケルトンアーチャーとスケルトンネクロマンサーが同時に出てきたとき、どういう優先順位で倒すべきか。敵が複数種集まってのグループ戦闘になるのはボス戦以外ではなかった。倒す手順や順番、一番楽な方法。考えることはそれなりにある。多くは無いが大事な話だ。
まずはぶつかって見て後は流れでお願いするしかあるまい。スケルトンアーチャー……骨弓の矢のダメージ・衝撃・矢の速度がどのぐらいのものとして感じ取れるかも含めて慎重に進めなければならないが。
もっと情報を集めよう。他のダンジョンで十六層以降に潜っている探索者は確実に居るのだ。もの好きな探索者や、探索以外でも副業で動画上げて配信していたりするものは必ず居る。映像で残っているかもしれない。十四層まで映像で撮っている動画は以前見つけられたので、今度は十六層以降で活動している探索者を見つけよう。
事前情報は大事だからな。攻略の最先端を行ってまだ誰も見ぬ景色をその手にしたい……という欲は俺にはない。芽生さんはどうかは解らないが、とりあえず儲かっている間は大丈夫だろう。
どうやら十六層以降を撮影しているパーティーはそう多くない。ボス戦に撮影しながら挑むようなパーティーは居なかったが、出入り口でカメラを待ち構えてボス戦が終わったら疲労困憊の状態で戻ってきて感想を言う、みたいな動画は見つけることは出来た。
何処のダンジョンも同じボスなら、まぁあの数相手にするのはなかなかに骨の折れる戦闘だよなという感想が浮かぶ。そういえばボス部屋の間取りは……清州ダンジョンと小西ダンジョンの地図を見比べてみたが、大小の違いはあれど大まかには似通った形で、十六層へ行く階段へはボス部屋の前を通らなくてはいけないルールがあるらしい。
十六層で活動している探索者の動画も無事に発見する事が出来た。紫色に怪しく光る矢が探索者に対して打ち込まれている姿が見える。動画の秒数と到着までの秒数を考えると、矢としては非常に緩やかな速さだと言えるだろう。実物の矢ならもっとピシャッと飛ぶもんな、ピシャッと。見てから避ける、という行動は十分取れそうな気がする。
しかし、乱戦状態に持ち込まれた時に同様に避けられるかはまた別な話の様で、スケルトンにかかりきりの探索者が矢を腰に受けている。どうやら衝撃はかなりのものらしく、足がふらつき腰を落としている。その間にスケルトンに態勢を整えられて仕切り直しという形になっている。ちょっと厄介かもしれないな。
この矢、弾いたり逸らしたりは出来るんだろうか。喰らったらアウトなのか逸らせば何とかなるのか。回避以外に防御手段があるかはどうかは……あ、一応受け止めるとその場で衝撃は受けるが、上手く弾き飛ばすことはできるらしい。どうやらそれなりの重さみたいなものはあるらしいが直撃を喰らうよりははるかにマシだろう。
当たらなければどうという事は無い、というより当たってもステータスの持ちようによっては充分防御が出来る。まずは一発食らってみて対処を考えるほうがいいな。どうやら刺さったまま抜けないとかではなく、当たったら霧散して消滅する。これ矢というよりもいわゆるエネルギー弾に近いものなのではないだろうか。
骨ネクロが使ってきそうなスキルではあるが、スキル名をつけるとしたら何と付けられるんだろうか。エネルギー魔法? カロリー魔法? いや骨なんだからカロリーはゼロか。エネルギー弾、というほうが実態に近い気はする。ただ、そんなスキル名称のスキルオーブは聞いたことが無い。魔法弓とかそんな感じだろうか。謎は深まる。
実物みたいに見えているだけで実は弓もスキルの一部……なんてこともあるかもしれん。細かい事はいいや、とにかく遠距離攻撃手段を行使してくる敵がもう一種類増えた、とだけ頭に入れておこう。実際に戦ってみないと解らない事のほうが多いんだ、せめて動画で実際の動きを見れただけでも儲けものである。
二十一層の様子は……また今度で良いな。楽しみは後日に取っておこう。そもそも二十一層まで潜ってそこを拠点に活動するかどうかすら決めてないのだ。到達クエストを終わらせて、それでもってまだ奥底へ行きたいという欲が出るか、それともそこより上の段階で満足して生活の糧を得続けるか、その後でも良いだろう。二十一層よりもまず二十層へたどり着かないといけないんだからな。
その為にはドローンをうまく活用して十七層以降の地図を作っていく必要がある。操縦練習でもするかな。この手のラジコン系統の趣味は持ったことが無い。つまり初心者も良いところだ。河原とか公園とかで禁止されていない所を見繕って練習しよう。スマホとの連携もしたいし。
昼からの予定は決まった。バッテリーの予備もあるしそこそこ長い時間触っていられるはずだからいい暇つぶしにはなるだろう。今日はドローンおじさんになるぞ。
そうと決まれば昼飯の準備だ。今日は何喰うかな……
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