348:茂君スパイラル 2/3
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三十分経ったらしい。アラームが俺を起こしてくれる。たかだか三十分の休憩だが体に活力が戻りつつあるのを感じる。小休止というモノの大事さを再確認した。
身体を軽くほぐし、ストレッチすると荷物はそのままに背中にバッグだけ背負って六層へ戻る。他の荷物は要らない、どうせすぐ帰ってくるんだ。むしろ直刀や盾すら要らないとも言える。ひたすら【雷魔法】だけで戦うことができる今この環境下、直刀と盾は念のための武器でしかない。
自転車は相変わらずシェルターに停めたままだ。まぁ三十分では人もそう行き来するものではないだろう。自転車にまたがり六層へ。六層の階段を上がると、ワイルドボアはきっちり湧き終わっていた。これなら茂君も期待できるな。
今日は塩対応と決めているので足元にぶつかってくるワイルドボアを雷魔法を纏った身体で瞬時に焼き殺しドロップを拾う。それを複数回繰り返し茂らない君を通り越し、またワイルドボアを焼き殺し、茂君にたどり着く。
さっきと同じ……とまでは言い切れないが、良く茂っている事は確かだ。これだけ茂っていれば十分な量の羽根を回収できるだろう。サンダーウェブで文字通り一網打尽にしてドロップを拾う。ドロップを拾ったら百八十度回って七層に帰る。今日はもうこれしかやらないと心に強く決めた。
清州ダンジョンなら八層にもかなりの数が居るので両方回って美味しい思いをすることができるだろうが、小西ダンジョンの八層のダーククロウはそんなに数が多くない。その分スキルオーブに期待する事は出来るだろうが、今日のところは止めておく。
帰り道に湧きなおしていたワイルドボア四匹ほどを焼きながら七層へ帰った。自転車は当然ある。自転車に乗り自分のテントに帰ると、今回は……コーヒーは良いな、コーラにしよう。コーラで軽くのどを潤すと再び三十分の仮眠に入る。
三十分経った。体をほぐし、不調が無いか確認するとまた六層へ行き、道中のワイルドボアを焼き、茂君を焼き、ドロップを回収して戻ってきた。今日はひたすらこれを繰り返す。何とも単調な事か。普段の狩りのほうがよっぽど頭も体も使っている。とりあえずこれで茂君を三回討伐した。時刻は午後三時。後七回ぐらいは討伐できるかな。その前に体が音を上げるかもしれないが。
今日は己の忍耐と耐久力と睡眠欲との戦いである。とりあえず眠気は来ないので、椅子にでも座って月刊探索ライフを読もうと思う。
月刊探索ライフは探索・オブ・ジ・イヤーに比べて読者コンテンツが多めだ。日記的なものを投稿してそれを記載してもらうとか、ダンジョン内で思い付いたモンスター肉レシピなど、主に七層周辺で充実した生活を過ごすための知恵袋的な要素がある。
いくつか参考になりそうなものを探してみるが、特に見当たらない。こういうのはインスピレーション、ひらめきだからな。今思い付かなくても後日思いつくかもしれないし、死ぬまで気づかないかもしれない。とりあえず今緊急的に何か、というモノは無いようだ。
少々残念だとは思いつつもページをめくる。どうやら各ダンジョンから出たスキルオーブの状況みたいなものは載っているらしい。どうやって調べているんだろう? もしかしたらドロップ検証スレの住人がここの担当をやっているとか。さすがに先月号なので俺が書き記しておいたドロップに関してはまだ記載されていない。
記載されたら、ドロップ検証のおおもとの火種になったダンジョンがほぼ小西であると断定されることになるだろう。そうなった場合探索者が増えるのか減るのか、大いに気になる所だ。既に掘られているから、という理由で来なくなるのか、まだこの階層は出ていない、と特定の階層に探索者が詰めかけることになるのか。
ダンジョン庁は把握している案件だからそこから漏れるのが早いか、検証スレで検証されるのが早いかだけの問題だ。もう把握されてるかもしれないな。把握されてる前提で行動しよう。行動しようと言っても何をするかが変わるわけではない。ただ人が増えるかもしれないなぁと考えるだけだ。
……と、アラームが鳴った。そろそろ時間か、早速もう一度茂君狩りに出かけよう。自転車は……うん、変わりなしだな。今日の七層には俺だけらしい。田中君は普段こういうとき何をしてるんだろう。案外仮眠だけですぐ狩りに出かけたりしているのかもしれないな。
自転車で六層へ行き道中のワイルドボアを倒し茂君を狩り、そして帰ってくる。この間およそ九十分。三十分休憩を取って二時間に一回の茂君狩り作業だ。楽と言えば楽、移動時間が無駄と言えば無駄。もうちょっと駆け足で行けば十五分ぐらい縮められるだろうか。帰り道の茂君から茂らない君あたりは短縮できそうだな。もっと効率化を目指そう。
テントで休憩を取りながら皮算用の続きをする。茂君は二時間あれば充分リポップしなおすという事は解った。だとするとこの十五分を積み重ねておくことで一日八回予定の茂君狩りが九回出来ることになり、二万から三万ほど一日当たりの収入が増えることになる。
俺も儲かるしワイルドボアのドロップを査定にかける分だけダンジョン庁も儲かるし布団屋も儲かる。ウィンウィンウィンの関係を築ける。九層潜ったほうがもっと儲かるんじゃね? というツッコミは無しだ。
俺は薄くて効果のある布団が欲しい。その為にわざわざ宿泊を選んで七層と六層を行き来しているのだ。なので六層に連続で通うという行為自体が主目的だ。ボア肉やボア革のドロップはこの際副産物であってダンジョン庁が儲かるのはついでだ。と言っても普段自分たちのパーティーが持ち帰る金額に比べれば些細な物になってしまうのが残念なところだが。
再びコーラでのどを潤し、カロリーバーを一本貪っておく。こういう時はやはりバニラだな。バニラの在庫を確かめ、まだまだ自分はやれるという意気込みを得ると、再び三十分が経つのを待つ。
眠りはしなかったものの、横になっていたおかげで体はまだまだ大丈夫。次の一周へ行こう。自転車に乗り……あぁ、もう過程はどうでもいいや。四回目の茂君討伐が終わった。これで手持ちのダーククロウの羽根は六キログラムほどになった。一回卸すだけならこれだけあれば十分だ。
だが今回は布団の販売も頼む予定なのだ。その分多めに確保しておかなければならないと感じる。それがお互いの商売を円滑にする仁義というモノではないだろうか。前回訪問した時にしばらくペースが落ちますと言っておいた手前、次持っていくときは多めに持っていくほうが相手の受ける印象も変わるというものだろう。
せっかくいい信頼関係を築いてこれているのだ。相手の信頼にはできるだけ応えたいし、向こうもそう思っているものだと信じたい。その信頼を確実につなぐための今日一日、そう今日一日でその信頼が継続できるなら多少の苦行は織り込み済みにしておくべきだろう。
また横になって枕を使ってちょっとした疲れを取っていく。後五回はこれを繰り返すのだ。その間に二回ぐらい食事は挟むだろうが、結構タイトなスケジュールではある。飯の時ぐらい一時間休憩でもいいのではないだろうか。結局八回ほどしか集められないという事になるな。
高品質のダーククロウの羽根を提供するという事に手を抜く気は無いので、大人しく続けるとしよう。また三十分経ったらしくアラームが鳴る。さぁ、五回目へ行くか。
五回目はさっき考えた小走りで茂君まで駆け寄り……もちろん道中のワイルドボアはすべて殲滅しながらだが、行き帰りの時間が十分ほど短縮できた。ここで夕食にしようか。今日の夕食はウルフ肉のステーキとパックライスだ。
先にパックライスを温め、その後でウルフ肉を分厚く切って豪快に焼く。ワインを垂らしてフランベ、という訳にはいかないが、塩胡椒と焼肉のたれで味わいを整えるとさっそく食べる。赤身のステーキという感じだ。これはこれで胃に中々溜まる。炭水化物とタンパク質というとても安易な料理だが、腹は膨れるし活力はみなぎる。
料理が終わったらとっとと片付けてまた仮眠。そろそろ肉体的にちょっとずつガタつき始めるころだろうか。枕だけでは誤魔化しきれなくなってきたか? やはり睡眠は一時間ほどまとめてとったほうが年齢的にも疲れをとる目的でも効率的だろう。一日目標八回というのはあくまで目標であって実際は七回か六回ぐらいで抑えておくことも考えておくべきだな。
またアラームが鳴る。三十分の食後の休憩を取り終わり、胃袋もそこそこ活動してきたのでエネルギーは補充できたと思う。これでまた二回分ぐらいは活動できるだろう。こんな短時間睡眠と二時間おきの活動してる探索者他にいるだろうか?
ただでさえ嵩があって持ち出しにくいダーククロウの羽根だ。保管庫を使わない場合、エコバッグ両手両肩に抱え込んで背中のバッグにも詰め込んで、地上まで戻るというのはそれだけでも一苦労である。とてもじゃないが一人でやるような作業ではない。それに茂君をきっちり叩き落すという点でも同じだ。スキルでもないとアレを御しきる事は難しいだろう。
前は【保管庫】で、今は【雷魔法】で、それぞれダーククロウの羽根をわんさか拾い続けているが、本来ならこれに運搬という物資の移動がネックになっている。【保管庫】のおかげでダンジョン庁にも見つからずこっそり密輸のような事をやっているが、使える所では積極的に使って行こうという方針に変わりはない。
今日はダーククロウ祭りだが、もしも十七層でバトルゴートやレッドカウを相手にする時もこれは大きいアドバンテージだ。下層から荷物を持ち帰るという事は、そこまでに稼いだドロップ品を背負ってなお下層の持ち物を地上まで長い道を通り抜けられなければいけない。そうなるとパーティー人数が必要になり、なおかつ荷物持ちが戦闘に参加できないという足かせになる。
その辺をクリアできるのはやはり【保管庫】スキルはチートなんだろう。総額二百万円のドロップを地上まで持ち帰られるのもそのおかげだ。ありがとう【保管庫】。今更ながら感謝に堪えないし、これをくれたスライムには頭が上がらない。また狩りに行くからその時はよろしくな。
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