344:遠いようで近い帰り道と依頼の報酬
エレベーターに入り、操作パネルの下にある台座にゴブリンキングの角をセットするとエレベーターの電源が入る。その後台座の下に開いている穴にスケルトンの魔結晶を六個、ポイポイと放り込むと階層表示ランプが付くので一層を選択、扉を閉めて、後は十分ほど待てば一層へ連れて行ってくれる。
動作中にエレベーターがモンスターに襲われてパニック映画見たいになることもなさそうなので、お互い休憩時間だ。水を飲み、カロリーバーを食べ、一息つく。
その間に保管庫の中身をエコバッグに整理。真珠は革袋へ、皮は背中へ、剣は保管庫のまま。肉はそれぞれで種類分けして、ジャイアントアントの牙も今日はエコバッグ行き。ポーションは二種類混ざることになるが色が若干違うので大丈夫だろう。残りは全て魔結晶だ。
全部で六つのエコバッグが出来上がった。両手で持った感じ、ダンジョン内にいる間は大丈夫だろう。俺の指は千切れることは無さそうだ。
「おいくら万円ぐらいになりそうですか」
「そうだなあ……このぐらいはあるかな」
指を一本立てる。百万はありそうだ。芽生さんは指の上にそっとペットボトルの蓋を乗せた。何すんねん。
「純粋に戦った時間を考えると一時間二十万円ぐらいですかね」
「そんなもんだな。ただ今回みたいに四時間ぶっ続けで狩りをするようなのは止めよう。移動時間込みで四時間。そのぐらいなら無理なくやれるはずだ。体調管理も大事な要素だからな」
「私は大丈夫なんですけど、やはり歳のせいですか」
「それもあるかもしれん。が、まだまだいけるはずだ。本当に辛くなったらそれまでにかき集めた資金で早めの老後でも過ごすかなぁ」
四十過ぎて業界での新人として迎えてくれる会社は探せばあるだろうが、ほとんどの求人は三十四歳に大きな壁があり、それを超えるとそもそも求人が無い。疾うの昔に越えてしまった以上新人では通らないし、収入面でもかなり厳しい会社ばかりだ。
それに比べて探索者は丸一日仕事をし続けるという所もあるが、今のところそれほど無理なく続けられている。後五年か、それとも十年か。その前にダンジョンというモノが消えてしまうかもしれない。
その間に稼げるだけ稼いで、布団と共に優雅な生活を送るというのも選択肢としては有りかもしれないな。だとしたら今のうちに精々稼いでおかないと。
やる事が有ると十分間でも割と短く感じられて、整理して雑談して今後の予定を少し話したところでポーンという音と共にエレベーターが止まった。一層に着いたらしい。ドアを開けるとゴツゴツした岩肌の壁が見える。どうやら到着事故とかは無いようだ。
台座からゴブリンキングの角を外し、エレベーターの電源を落とす。荷物をよっこらせと持ち上げ、ここからは芽生さんに露払いを……と言ってもスライムだからな、足元で明らかに邪魔をされない限りはスルーだろう。
予想通りよほど進行に邪魔な場所にいない限りスライムはスルーされ、出入り口までほぼ真っ直ぐ帰った。ちょっと寂しいが荷物が荷物だ。先に出入口からリヤカーを調達してきてもらい、荷物を乗せるとダンジョンを出る。
何時ものつぷんとした感覚と共にリヤカーにかかる荷重が一気に加わったのを手から感じ取る。このまま退ダン手続きをする。
「お帰りなさい、今日も大漁ですね」
「頑張ってきました。赤字脱出のために」
「皆さんがそうだと黒字も近そうですね」
「その辺は他の探索者に期待してあげてください」
受付嬢と二、三会話を交わしてリヤカーを唸らせながら査定カウンターに向かう。
「今日も大漁ですねー。仕事のし甲斐がありますー」
「袋ごとにある程度分けてありますが一応再確認もお願いします」
「任せてくださいそれがお仕事ですからー」
ぐっと腕まくりするポーズで査定嬢が張り切って選別、計量、計測をするのを待つ。あらかじめ分けておいた分早く終わったようで、十分ほどで終わったらしく、二分割されたレシートを受け取る。百三万千四十円。これが今日の収入だ。頑張った分だけ、走り込んだ分だけの収入にはなった。いや実際は多すぎるとも感じる。
だがまぁ……今この時点でこの仕事をしているものの価値がこれだけ、と自分を納得させておくか。それが一番心に重みが無くていい。一日で百万稼ぐ男だぜ。今だけな!
レシートを芽生さんに渡すとニヤリとしている。予想通り指一本分の収入が入ったのがよほど嬉しいらしい。
「今まで何十万と稼いできましたけど、一回で百万と言われると感動ひとしおですね」
「そうだな。毎回このぐらい稼げると……週一で通っても年間五千万になるのか。週二なら一億。十分すぎる稼ぎだな」
「あ、私夏季休暇になれば毎日でも通えますからその間にギッシリため込むという手もありますよ」
あぁ、大学には長い夏季休暇があるんだったな。まるっとダンジョンに籠って金稼ぎ……貴重な青春の時間をダンジョンに費やして、それでいいんだろうかとは思うが。でも夏季休暇にバイト掛け持ちで頑張ってる苦学生も居るんだし似たようなものか。
「さすがに毎日は疲れるかな……夏季休暇についてはその時が来たら相談しよう。なんなら遠征して他所のダンジョンへスキルオーブ探しの旅に出るなんて事も出来るかもしれない」
「それは楽しそうですねえ。事前に入念にドロップ情報を精査しておかないといけませんね」
随分先の話になるがそういうこともあるかもしれない、そういう話だ。ひとまずは二十一層まで潜るほうを優先させることになるだろう。その先は……何が有っても解らん。更に奥まで行かされる可能性もあるだろうが、まだCランクなりたてと言ってもおかしくないのだ。
何より二人だけのパーティーだ。保管庫があるから兵站は何とかなるとはいえ、物量で攻めてくるような環境がこの先あるなら頓挫せざるをえない。このすぐ後にそれが待っているかもしれないのだ。十六層の手ごたえというものを味わってから考えても遅くは無い。
「あんまり先の話をしても予定は未定だ。とりあえず手持ちの情報で解っている事は二つだ。一つ目、十六層の地図を作って十七層への階段を見つけなければいけない。二つ目、エレベーターの件について他所のダンジョンから鬼殺し相当のパーティーが来るそうだからその接待をしなくてはいけない」
指を二本立てて説明する。芽生さんが俺の指を片手ずつでむんずとつかみ取る。
「地図の件についてはその通りです。どのくらい細かい迷宮になっているかは解らないですが、一回のトライで綺麗に地図が出来上がる事は無いでしょうし、休憩を挟みながら上がったり下がったりしながら探していくしかないですね」
芽生さんが俺の指を折り倒していく。一本残った。
「もう一つの接待とは、具体的に一層のエレベーター設置個所まで連れていってエレベーターが見えるかどうかを確認して、見えなかった場合十五層のボス前まで付き合う必要がある、という事でしょうか」
「多分そんな感じだろうと想像しておく。なのでその時は……居るかどうか解らないか。こっちから日付を指定できれば良いだろうけど来るらしきパーティーの都合もあるだろうからなぁ」
どんな人が来るんだろう。より上のランクの探索者が来るんだろうか。それとも近場の清州ダンジョンから鬼殺しにあたる人物たちが来るのだろうか。そして彼らから見て、エレベーターに入っていくという現象はどういう風に観察されるんだろうか。謎が多いなあのエレベーターも。
そもそも魔結晶を直接動力源として運用できている時点で世界からすればオーバーテクノロジーの産物だ。これを研究のためだとかで分解されでもしたら帰り道が面倒くさいことになる。大体一万円分の費用で次元間転送というこれまた原理の分からない動きをしてくれるんだ。そのままそっとしておいて欲しい。
「さて、どうなることやら……十五層に行く往復分の魔結晶は取り置きがあるからいいとして、案内したあとどうすればいいのか。その辺も含めて対応を考えておこう。とりあえず……腹減らないか? 」
「お腹空きましたね。中華屋でも行きますか」
「今度は何喰おうかな……と、そうだ思い出した。依頼の報酬の件きっちり聞いておかないと。二十一層まで行く依頼の報酬が何になるのか、もう受理してしまった後だが場合によってはキャンセルさせてもらわなければならん」
もはや勝手知ったる、という感じで二階へ上がり、応接室のドアをノックする。ちゃんと返事が返ってきた。
「はい、ギルマスは居ますよ」
「安村です、入りますよ。ちょっと用事を思い出しまして」
ギルマスはまだパターの練習をしていた。昨日からずっとじゃなかろうな? だとしたら物凄い集中力だ。実際は家に帰ってちゃんと出勤してまたパターの練習をしているんだろうが……それが仕事で良いのかな。俺もパター打ってるだけで賃金が発生する仕事に就きたかった。
「依頼を受けた後に確認するのはおかしい話ですが、俺たちが二十一層まで到達してダンジョンマスターに会えて有用な情報を得られた場合、報酬は何になるんです? 」
「……気づいてしまったか……」
ギルマスはついにか……といった感じの諦めたような顔をする。
「とぼけて報酬無しにするつもりでしたね? 」
「いやあ、先に報酬の話をしなかったからこのままスルーしてくれるかなーと思ってたが、そうか、気づいてしまったならしょうがない。報酬の話をしよう。と言っても私の権限で出来る範囲では限られている。具体的に何が欲しい? 金とか名誉とか酒とか女とか」
さて困った。報酬確認の話を持ってきたはいいが、何も考えてなかった。何を要求しよう?
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