343:転送エレベーター
十三層を一周し、十四層への階段へついた。結構な回数戦闘をしたので予定よりは遅れたが、元々時間ギリギリで動く予定ではないので問題ない遅れだ。地上に戻るのは午前十時ごろになるだろうか。
その分収入は一杯だ。今日もリヤカーのお世話になるだろう。まだ十五層での稼ぎも待っている。査定が楽しみだぜ。十四層に降りて真っ直ぐ十五層へ歩き続ける。ここのマップは狭いので歩く時間も短い。いくらセーフエリアと言ってもやはり七層と比べると手狭に感じる。
適当に作ったのか、それとも七層の広すぎるマップの反省を生かしたのか解らないが、少なくとも四十かそこらのテントを張るだけの余裕はある。いずれ小西ダンジョンが人で溢れかえる時が……あるとは到底思えないが、それだけのキャパを確保できる程度にはあるだろう。
ちょっと考え事をしてる間に一直線に貫かれたメインストリートを抜けて十五層の階段が見えて来る。十四層は階層間が近くてとても良い。ここのデザインは中々悪くないんじゃないか。いずれバレるであろう【保管庫】のスキルをフル活用した場合、ここにもシェルターを張って机と椅子を置き、情報のやり取りの場としても活用できるだろう。
それに緊急物資……たとえばここまで来るまでに水分を使い果たしてヘロヘロになりながらたどり着いたときの緊急用飲料水や食料なんかも置けるようになるだろう。その前にエレベーターの件が公になれば一気に人口が増えるかもしれない。
そうなればCランク以上の探索者が頻繁にここを訪れるようになるだろう。魔結晶を集める場としてはここは非常に効率がいい。なんせ倒せば出るのだ。これ以上に高効率な場所はそう無いだろう。
未だ商用までには発展していない発電ぐらいにしか使いどころがない魔結晶だが、一度商用化のメドが経てば様々なエネルギー源としての発展が見込めるだろう。そうなった場合纏まった量の魔結晶を入手する必要が出てくる。その際には現状地上にため込まれている魔結晶だけでは足りなくなるはずだ。
つまりダンジョンは巨大な鉱山と化す。いや、現状既にそうか。ただ採掘される鉱物にまだ価値が認められていないだけだ。現代のゴールドラッシュがここでもうすぐ始まる。
「ゴールドラッシュで一番儲けた奴はつるはしを売ってさっさと消えた人……か」
「何を考えてるかよく解らないですが、想像するに我々は坑夫の側では? 」
「金を掘りあてて早めに退場する側に回るかもしれない。先行者利益って奴だな」
「では精々今の内に稼いでしまわないと勿体ないですね」
十五層の階段を下りる。ここからまたエレベーターまで三十分ほどの戦いだ。階段から曲がってすぐにスケルトン。そこから小部屋までに三回、それから小部屋で骨ネクロ。小部屋を通り抜けた先でボス部屋までの長い通路で四連戦。その後ボス部屋前に四体。そこから左に曲がって骨ネクロ四連戦。その後二回戦ってゴール。最低これだけの戦闘をこなす必要がある。
それ以外に不定期エンカウントがあるのでエレベーターまで行くだけで十万ぐらいは稼げることになる。一層から七層までぬけるよりも多分儲けは多い。さすがに帰り道とは言え両手に荷物ぶら下げながら行き来できるほどここは甘くない。荷物整理はエレベーターの中で行おう。
最初のスケルトンは普通に肩から核まで無理やりぶん殴って一気に割り切った。さすがにこれで曲がったりするほど直刀は柔くないらしい。これから連戦になるので細かい事を考えて頭をパンクさせるよりは力押しで行くこともしばしば出てくるだろう。
その後三回、三体グループのスケルトンと対峙し、被弾することなく撃破する。個人的にはあの剣の切れ味がどんなものかを一度体感したいという思いがある。もし切られても跡が残る程度何だったらもっと押せ押せムードで倒していける。
防刃ツナギを着ていてステータスブーストもかけているんだから一発であの世行きという事は無いだろうけれど、そのために一着無駄にするのも……いや、それも経験としてはありかも? だがせっかく着慣れて来たツナギをダメにするのはもったいないな。ここは素直にきっちり回避なりパリィするなりして確実な方向性で行こう。
そんな事を考えていたら芽生さんが咳をしている。またよからぬ考えを……と言われる前に戦闘に集中しよう。
小部屋についた。コッソリ中を覗くと骨ネクロが三体。芽生さんと目を合わせて、指でカウントダウン。三、二、一、突入。一斉に入って三体居た骨ネクロ二体をすぐに沈黙させる。最後の一体は前から俺が、後ろから芽生さんが同時に殴って撃破。無事に一体も召喚させることなく突破する事が出来た。直刀と槍をこつんと合わせ、次へ向かう。
小部屋から突き出た通路を抜け、曲がったところで不定期エンカウントの骨ネクロ。ダッシュで撃破し、ボス部屋前の広い通路に出る。ここって他のダンジョンでも似たような構造してるのかな。清州ダンジョンだとより豪華な感じになっていたりするのだろうか。余所のダンジョンの十五層も見てみたいな。
通路にそってまるで通路を守る衛兵のようにスケルトンが並んでいる通りだ。一番手前のスケルトンの集団はもうこちらに気づいている。早速戦闘だ。
スケルトン三体セットが右手に剣を振りかぶったまま同じ姿勢で走ってこちらへ向かってくる。最初の一体はやり過ごそう。盾で受けてその重みを全力で弾いてスケルトンそのものを弾き飛ばして姿勢を崩す。その間に後ろから来ている二体目を相手にし、再び盾で軽く剣を弾いてがら空きの胴体に直刀で一発、胸骨を外す。そのまま返す刀で二発目、核を砕く。スケルトンは黒い粒子に帰る。
さっき往なしたスケルトンが再びこっちへ向かってくる。今度は振りかぶらず、盾を前に構えての突進だ。こういう時は盾を無理やり弾き飛ばすか姿勢を崩すかだ。今回は姿勢を崩すことにする。
こっちも盾を構えて体当たり。骨しかない奴と肉も脂身も付いてる俺では体当たりの威力が段違いだ。スケルトンは姿勢を崩して転ぶ。後は馬乗りになって……なんて無駄なことはしない。立ち上がる前に肋骨を外してそのまま核を潰して終わりだ。
その調子で三セット、ボス部屋までスケルトンを倒し続けると、ボス部屋を守る様に四体のスケルトンがたたずんでいる。いたずら気分で保管庫からパチンコ玉を四発射出する。全員の頭にヒットし、頭がい骨が転がっていく。
四体のスケルトンは自分の体と頭を拾いにそれぞれ行く……かと思いきや、頭が一番近くに転がっている奴がさっさと頭を拾うと、他の頭を拾っては適当に手渡している。どうやら頭と体は別のをくっつけても良いらしい。人間らしさがぐっと下がったな。
俺としては自分の頭と体を間違えてはめ込んでワタワタする様を眺めたかったんだが残念ながらそうはならないらしい。もう一度パチンコ玉を射出。再び四つの頭を吹き飛ばすと、その隙に四体ともやってしまおう。
頭が外れたまま対応できないスケルトンをまず一体。すると、頭がこっちに向いていたせいで俺を視認したスケルトンが頭をはめずにこちらに向かってくる。器用だな。しかしいつもの場所に視覚が無いせいかフラフラとした足取りで、とても戦闘が出来る状態では無さそうだ。素直に昇天していただく。
芽生さんのほうも二体倒したのを確認すると、ボス部屋を正面に見て左の道へ。こっちがエレベーターへの道だ。逆に右へ行くと階段に通じるという解りやすい構造をしている。こういう俯瞰して面白い構造で出来ていれば困らないのだが。
そして骨ネクロ四連戦。後ろの二体は倒すまでの時間的にスケルトンを召喚し終わってしまうので、養殖スケルトン二体を含めた戦闘になる。前の二体を手早く黒い粒子に還して、スケルトンと戦うつもりで駆け寄る。ちょうど召喚されると同時にスケルトンに肉薄、肋骨を潮干狩りして核を突き、そのまま骨ネクロまで走り抜けてこっちも撃破。
芽生さんもほぼ同じタイミングで撃破。この四連戦のダッシュは正直疲れる。が、確実な収入なのでこれは良いダッシュ。悪いダッシュは養殖スケルトンが一杯出てるダッシュ。これは心臓にも負担がかかるし大変だ。
そのまま道なりに曲がり、曲がり角に湧いていたスケルトンを倒せばぱっと見行き止まりのエレベーター前に着く。不可視化しているエレベーターの前にもスケルトンが二匹。倒して今日の探索は終了だ。
保管庫からゴブリンキングの角を取り出してもう一度壁を見ると、M社製と見間違うほど……というかそのもののエレベーターが現れる。どういう仕組みになっているかまでは知らないが、とにかくこれを持っていればエレベーターが見える。それでいいや、もう。
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