342:時間つぶしの周回
おはようございます、安村です。休憩は結局アラームを付けずに疲れが取れそうなところまで体力を回復しようと思ったら、五時間ほどの睡眠をとることになった。普段は三時間ぐらいの休憩で疲れは取れていたので、やはり疲れていたんだな、と感じる。
身体の重みは無くなっている。充分な休息は取れたという事だろう。しかし疲れがたまっていた分だろうか、それなりに汗をかいている。これは予備のツナギに着替えておくかな。軽く体を清めるとツナギを着直し、それから外に出る。
人の気配は無い。今十四層に居るのは我々だけか。さすがに十四層まで休憩セットを運んでくるのは大変らしく、十二層まで来るパーティー……主に小寺さん達か相沢君達かな。十三層の地図はギルドに提出してあるので、あまり迷わずにたどり着くことはできるだろうが、今のところ十三層で出会ったのは相沢君たちだけだ。
このアドバンテージを今のうちに利用して収入を得ておき、適度なところで十六層へ向かうための探索へ向かう機会も作らないといけないな。時刻は午前六時。朝ごはんの時間にはちょいと早いが、芽生さんを起こして食パンをトーストをして目玉焼きを作ろう。
いつものご機嫌な朝食に比べて野菜が無いが、いつもの朝食を食べてルーティンをこなしておくのは色々と捗るはずだ。十四層でも他の荷物に押されて潰れてない食パンを味わえるのは保管庫様様だ。
二人分の朝食を作ると芽生さんを起こすためにテントをガサガサと揺する。そしてタオルを放り込むとコーヒーを沸かす。その間にいつものストレッチ。コーヒーが沸くころに芽生さんはのそのそと起きて来た。
「私も疲れがたまってたんですかね。ぐっすりでした」
「疲れが取れてるなら何よりだ。これからちょいと十三層で一周してそれから十五層に向かって帰ろうか」
コーヒーが沸いたら次は軽食の時間だ。食って寝て起きてまた食って……という流れになるが、疲れを吹き飛ばした分いつもよりお腹が空いている。トースト一枚と卵ぐらいなら軽く入るだろう。
芽生さんの分を用意すると先に食べていてもらう。こんなところでトーストと卵を朝食として食べている風景は多分無いんじゃないかな。しゃぶしゃぶはそれ以上に無い気がするけれど。
自分の分も用意するとサクサクと食べ始める。若干面倒くさいと感じたので目玉焼きをトーストに直乗せして醤油を垂らして半分に折りたたんで口の中へ詰め込みながら片づけの準備も始める。
今から支度して真っ直ぐエレベーターまで帰って一時間。それでは二時間も時間が余ってしまう。そこで十三層で一周寝起きの運動をしてから十五層へ向かおうという予定だ。
「十三層へ上がって一周してそれから十五層に向かおうと思う。それでおちんぎんをもう少し溜めてから帰ろうという算段だ」
「思ったんですけど、魔結晶って結局何なんでしょうね」
「なんだろうな。魔結晶として何かしらの物質をドロップとして得られてるって事は、それを地上に持って帰らせて何かしらの消費に使わせたいというのが目的なんだろうけど……実際それで発電実験に成功しているんだからそうやって消費させて……消費させて何がしたいんだろう? 肉も喰えるし美容にもいいゼリーが出るし、ダンジョン産の物質を利用したり摂取させたりすることでダンジョンにおいて利益が発生しているのは間違いないんじゃないか? 」
「魔の結晶なんだから黒い粒子の塊が魔結晶、黒い粒子は魔素的な概念であってるんでしょうか」
「だとしたら地上で魔素を放出させること……形を変えれば美容品や食品として味わった際に、体内に魔素を取り込むことになるから、その魔素を地上に溢れ返らせることが目的って事になるのかな」
推論だが、多分そういう感じだろう。だとすると、エレベーターの動力として魔結晶を使うことについて教えてくれなかったのはなんでだろう? という疑問がわくんだが……それも二十一層までたどり着いたら教えてくれるんだろうか。それともこちらである程度把握したうえで質問をしたほうがいいのだろうか。
いずれにせよ、まずは二十一層にたどり着くまでにダンジョン庁が質問リストみたいなものを作って押し付けてくるだろう。その質問全てに答えてくれる保証はないが、俺の個人的な質問に答えてくれることぐらいはやってくれるだろう。友達だし。
「とりあえず、今日のところは素直にひたすらモンスターを倒して帰ることに集中しよう。あと、明日も俺は潜る予定だ。芽生さんは講義だろ? その間に茂君を討伐し続けて羽根をため込むことにするよ」
「何か羽根を大量に作る予定でもあるんですか? 」
「時期的に羽毛布団が暑い。夏用の布団を発注するつもり。その為にはちょっと多めに納品してそのついでに作ってもらうという流れのほうが良さそうだと思ってね」
芽生さんはちょっと考えてからなるほど、という顔をする。
「たしかに、枕であの威力を見せつけられるともう布団無しでは眠れないのでは? 」
「そう思ってる。なので手は早めに打とうと思って。具体的には茂君を倒して七層に戻って休憩して茂君を倒して休憩して……を繰り返す予定。割とスケジュール的にきつい気がするがまぁ何とかなるだろう。危険は無さそうだし」
茂君がリポップしきるまで何分かかるかを計測するためにも良い機会だ。まるでオンラインゲームの監視みたいな感じになるが、枕があれば快眠に困る事は無いだろうし、収入的には大きく落ちるが義理は通さなければいけない。
重さの四割位が素材として使える部分だと言っていたかな。羽毛布団の重さが六百グラムぐらいだとして千五百グラムは自分用として、それ以外を販売用に納品というあたりか。
片づけが終わって出立の準備は整った。とりあえず十三層へ上がって、まずは全体を大回りに一周する。ルートは大体頭に入っている。もし間違えそうになったら地図を見れば大丈夫だろう。
十三層は迷路にはなっているが。階段方向に向かわない場合大きく周回するようなルートが一つ、それとその半分ぐらいの大きさの半周するルートがある。一周すると戦闘抜きで五十分ほどで帰ってこれるだろうか。
これの大回りルートを一周してから帰ろう。その間に多少なりとも稼げる。さすがの十三層、金銭効率も中々にいいものだ。スケルトンも骨ネクロも早ければ二分そこそこでエンカウントしてくれる。曲がり角が来るたびにスケルトンと出会うことに覚悟さえしていれば驚かされる事も無い。ほら来た三体。
こっちに気づいて振り向くまでの間に近寄り後ろからいきなり刃を突き立て、上手く肋骨の隙間に捻じ込んで直接核を砕く。これで一体。二体目は振り向いて胴体ががら空きなところを熊手で肋骨を外して一突き。これで二体。後の一体は……芽生さんが処理している。ドロップはどれも天然ものだ。
この先は小部屋が二個、それぞれ骨ネクロが二、一体。そっと覗いてこちらに気づかなければダッシュで奇襲、気づかれたらダッシュで強襲、どちらにせよ走って襲い掛かるのは同じだ。はーいそこのおじいちゃんたち天国行きましょうね~。
召喚される前に近づいて倒すのと、召喚されるのを覚悟で近寄るのはどっちが楽か、と時々考えたりもするが、相手の姿勢を見極めて考えながら殴る手間と走る手間を天秤にかけて走る手間のほうを取った。
スキルでなんとかできないのか? とも試してみたが、スケルトンに【雷魔法】や【水魔法】は通じにくいらしい。上手く核に当てる という部分において【雷魔法】では精密性に欠けるし、なによりスケルトン自身に魔法耐性があるらしく、オークたちほど目に見えた効果がない。
なら【水魔法】はどうかというと、核を狙って切断するのは不可能ではないらしいが、殴ったほうが早いというのは芽生さんの談である。よって十三層から十六層にかけては主に物理攻撃がメインの編成になっている。
スケルトンもパターンが解ってきたのでライン作業化してくる。剣を振り上げたまま相対した時、まだ戦闘姿勢に入ってない時、盾で胸部を守っている時、こっちに気づいてない時。おおよそこの四パターンでこっちの姿勢が変わる。
どれにしてもまず着けたり外したりある程度自由が利くらしい胸骨を剥がして核を潰すための手順が変わるだけで最終的には黒い粒子にお還り頂くことになる。胸骨を外すことなく隙間に刃を差し込んで直接破壊するのは、全力で殴りつけて骨ごと砕くよりも難しい。
骨ネクロも同様だが、こっちは召喚に手いっぱいで防御すらまともにしてこないので戦うにあたっては時間だけが勝負になる。スケルトンを召喚するまでのおよそ十秒間の間に駆け付け、スケルトンと同じく核を割る事が出来るかどうか、それだけだ。
骨ネクロの居る小部屋をそっと覗き込む。おじいちゃんたちはカタカタと会話らしきものをしている。病院の待合室でよく見る光景だ。きっと、今日は肩の調子が悪いとか病気で病院に来れない骨ネクロが居るとかそういう話をしているんだろう。
そういうおじいちゃんたちには早めにくたばっていただき若者の負担を減らすために頑張るとしよう。小部屋の出入り口からダッシュで駆け付けサクッサクッと核を割る。真珠めいたものが後に残る。実際真珠なのかどうかは解らない。
本物の真珠なら胃に入れれば溶けて消えるが、ダンジョン産の食物でない物を胃に入れる実験は少し怖いし、そもそも真珠は食べ物ではない。食べたら何か体に変化があるかどうかは……帰ったら調べてみるか。もしかしたら既にどこかの馬鹿が試しているかもしれない。
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