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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第五章:自由を求めて深層へ

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341:ウルフしゃぶ・ボアしゃぶ・オークしゃぶ

 小西ダンジョン十四層。いわゆるセーフエリアだ。広さは七層に比べれば圧倒的に狭く、迷う心配は無い。その十四層の一角の中くらいの大きさの部屋にテントを立てっぱなしで置いてある。この部屋の主はこの俺安村である、という訳ではないが、ど真ん中に立てておいても邪魔だろうという配慮はした。


 椅子と机を保管庫から取り出し座って、まずはちょっと休憩を取る。ふー。椅子に座るとどっと疲れが押し寄せてくる感覚が出てくる。ついでにステータスブーストも切ろう。そしてしばし目を閉じ、のどを潤しながら飯を作るだけの体力を回復する。


「とりあえず飯の準備をしよう。今日は三種の肉しゃぶだ。それぞれの良さを楽しむために安い順から食べて行こう。多分それがいい」

「じゃあ私寝床の準備しておくね」


 芽生さんはテントの中でごそごそと準備をしだした。


 保管庫から鍋とカセットコンロを取り出す。芽生さんに鍋に水を張ってもらうと、だしの素を入れて軽く沸騰させる。そのあいだにそれぞれの肉を可能な限り薄切りにし、湯にくぐらせてすぐ食べれるようにする。


 薄切り肉を作るにしても、ある程度固定しないと上手く切ることが出来ない。机とまな板は偉大な発明だな。バイキングや専門店ででてくるほど丁寧に薄切りにすることは出来ないが、出来る限り薄切りにすることでそれっぽい演出をしてみる。


 本来なら白菜とか水菜とか色々用意しておくべきなんだろうが、そこまで準備をしていなかった。やはり冷暗室保存の野菜も気軽に持ち歩くべきなのだろうか。ここはダンジョン十四層。道中で拾ったとは言え肉を焼いて食えるだけでも贅沢ではないか。それを貴重な水を使ってしゃぶしゃぶにして食べる。とりあえず今日はもやしで我慢しておいてもらおう。


 その代わり、たっぷり肉の旨味を吸った湯に麺つゆを混ぜ込んで(しめ)のうどんを投入する事で全てを美味しくいただくことにしよう。おたまも……うん、ちゃんと調理器具として保管庫に入れてあるぞ。


 湯が沸騰してきたので早速しゃぶしゃぶとしゃれこもう。芽生さんを呼んでそれぞれ小皿と調味料……と言っても醤油とごまだれと麺つゆぐらいしかないが、本来ならここにもうちょっと選べる種類があるほうが食が捗るだろう。今度はポン酢も持って来よう。


「ではしゃぶしゃぶでーす。まずはグレイウルフの肉から」


 さっ、さっ、と沸騰したお湯にくぐらせる。肉は沸騰した湯の中ですぐ白くなり、しわっとなる。硬くなり過ぎない所で取り出そう。生でもいける肉なんだから多少赤くても問題は無い。大事なのはその後だ。


 まずは何も付けずに一口。純粋に肉とダシだけを味わう。やはりウルフ肉はしゃぶしゃぶには少々赤身が多すぎるな。だが間違った選択とも言い難い、これはこれで中々に美味しい。肉だけを噛み締めているという思いが強い。


「どうですか、ウルフしゃぶは」

「悪くは無い。だが諸手を上げて美味しいと言えるほどのものではないな。やはりたれの力が必要だ」


 そう言いつつ次の一枚を湯に潜らせると、ごまだれをちょいかけして食べる。うん、これぞしゃぶしゃぶであるという雰囲気になった。俺が無類のごまだれ好きであるという事もあるが。


 芽生さんも早速肉を取ってしゃぶしゃぶし始める。まずはめんつゆでいってみるらしい。口に入れると一瞬幸せそうな目になったがすぐに元に戻った。どうやらお気に召さなかったらしい。


「確かに悪くないですが……しゃぶしゃぶにはちょっと向いてない肉質かもしれません」

「そうかもしれない。次の肉に期待しよう」


 とりあえずウルフ肉を一通り食べきってから次の肉へ行く。その前に出汁の継ぎ足しと湯の沸かし直しをする。味見をしたが、ほんのりとウルフ肉の香りが移っている気がする。いやな香りじゃないのでそのまま次へ行こう。アクを取ったら次はボア肉だ。


 ボア肉をしゃぶる。直接じゃなくて、湯にくぐらせてから食べる。脂が適度に残っていて噛み応えも良い。これは中々いいしゃぶ肉だ。やはりこのぐらいの食感がしゃぶしゃぶするのに適しているような気がする。


「うん、良い。しゃぶしゃぶをしている感じがより強まった。やはり野菜をもっと持ってきて……いっその事冷蔵庫をまるごと保管庫に詰めてくればよかったな」

「なんかそれも本末転倒な気がしますが……なるほど、たしかにこれはしゃぶしゃぶですね」


 芽生さんも気に入ったらしい。生姜焼きのタレを直接かけてしゃぶしゃぶを楽しんでいるようだ。俺はもう一度ごまだれにチャレンジする。肉の薄さが十分ではないので多少しゃぶしゃぶ感が薄れるのは俺の腕のせいだから仕方ない。


「どうする? 次オーク行く? それとももう一つボアいっとく? 」

「もういっちょボア行きましょう。オークへ行って二度と帰ってこれなくなるかもしれませんし」


 これだけボア肉で美味しければオーク肉は更にうま味が増して大変なことになるかもしれない。それを危惧してだろう。早速もう一パックボア肉を開けて薄切りにする。ボア肉をもう一パックゆっくりと味わい、まだまだこれからだという所でオーク肉の御登場である。


「というわけでこちらがご用意されたオーク肉のしゃぶしゃぶ肉になりまーす」

「わーい楽しみー」


 若干棒読みだが乗ってもらった。さてオーク肉がお値段相応の実力を見せてくれるのかどうか、早速しゃぶしゃぶして……肉が消えていく。どうやら脂が湯に溶け出し手元には六割位の肉が残った。これだけの脂を秘めていたとは。そして何も付けずに肉だけの味に集中する。


 肉の脂が完全に消えていないので甘く、そして柔らかい。しゃぶる時間がちょうどよかったのか。口の中に肉の旨味が広がり花開く。これは勝負あったな。圧倒的な差だ。ボア肉を先にもう一回味わっておいて正解だった。これを味わってしまってはもう他のモンスター肉ではしゃぶれないだろう。


「……こうやって他人と鍋を囲んでしゃぶしゃぶをするのも久方ぶりだが、しゃぶしゃぶとは斯様に美味なるものであったか」

「なんか言葉遣いおかしくなってますよ」


 芽生さんのツッコミも放置して、次の肉に行く。芽生さんも俺の反応を見てしゃぶりはじめた。そして口に入れてモニュモニュした後、目にハートマークでも浮かんでそうなぐらい目を見開き、よく噛んで味わっている。


「もう一パック行けそう? 在庫はある」

「行ける! 是非! 」

「次はちゃんとした店で食ってみたいな。こんな所でこれだけの威力を発揮するという事は専門店ならよりいいものを喰えそうだ」


 オーク肉も二パックいく事になった。オーク肉を薄切りにして……よしさっきより慣れてきたぞ。更に薄くオーク肉を切る事が出来た。これはさっとくぐらせてさっと食べるのにきっと適している薄さだ。


 より薄切りになったオーク肉を二人無言で咀嚼する。もにゅもにゅと口の中で残った脂と肉の確かな味を楽しむ。これはもう一パックでもいける奴だな。しかし、(しめ)のうどんの分を忘れてはいけない。肉を少々残しておいて肉うどんとすることも可能だが、今日はそこまでの贅沢は止めておこう。


 肉を喰い終わるとアクを取り除き、クッキングペーパーに吸わせてポリ袋に入れて保管庫へゴミとして放り込む。いくら誰も居ないとはいえその辺にペッと捨てるのはマナー違反だ。何より寝てる間もそこにゴミが残っているというシチュエーションに俺が耐えられそうにない。


 おおよそのアクをとり終えるとそこには良い感じに肉の脂が溶け込んで出汁のきいたスープが出来上がっている。麺つゆを適量入れるとそこにうどんともやしを投入。うどんが茹で上がった頃に火から上げて完成だ。


(しめ)はうどんですか。肉のうまみが溶け込んでいて楽しみですね」


 出汁の味見をしてみる。うん、良い感じに美味しいのが出来上がった。(しめ)のうどんを二人で分けるとズルズルと啜る。たんぱく質も炭水化物も取った。ビタミンはこのうどん出汁に溶け込んでいるだろう。多分栄養はそこそこ取れている。もやしも入ってるし一日やそこらで壊血病にかかる事もないだろうし、温かいものを喰えるだけでも本来贅沢なのだ。


 二人満足したところで片づけをし、いつも通りコーヒーを一人分だけ淹れる。コーヒーを飲み終えたところで十分な仮眠を取ろう。おそらくいつもより深く眠り込んでしまいそうな気がする。いつもより余分に休憩すると考えて五時間ぐらいは欲しいかな。


「疲れがたまっていると思うので長めの休憩を取ろうと思うんだけど」

「わかりました。しっかり寝てると思うので起きたら起こしてください」

「了解。ぐっすりお休み。俺は疲れを自覚してるがそっちも疲労がたまってるかもしれないからね」


お互いテントに入るとふくらましっぱなしだったエアマットに横になり、お高級な枕を取り出す。寝てる間に疲れが抜けて汗をかくかもしれないな。目覚めたら体を拭くことを考えておいたほうがいいな。


それと、念のために胃袋に何か詰めることを考えよう。食パンと卵ぐらいはある。いつもの食事に比べれば少ないが何か胃に入れてから行動するほうが良いだろう。ともかく寝よう、それからだ。

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― 新着の感想 ―
電気が現代ほどに普及していなかった頃に使われていた、おっきな氷ぶちこんでその冷気で冷やす方式の氷冷式冷蔵庫があればどうにかなる、んですかね
[一言] しゃぶしゃぶしたくなってきた。こう言う飯テロ大好き
[一言] 冷蔵庫のコードをポータブル電源に繋いで保管庫に入れたら、使い物になるのかな?
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