340:縦走十二十三層
十二層をただ十三層の階段に向かって歩く。実際は戦闘を行いながらなんだが本人達、いや一緒にしてはいけないな、俺にとっては慣れた道を歩く感覚で襲ってくるモンスターを返り討ちにしている。目で確認する限り芽生さんにもキツイといった雰囲気は感じられない。
オークが四体編成でやってきても、どっちかが一対二で戦っていたのを二対二になるだけなので大きく戦術が変わる事は無い。ジャイアントアントも匹数が増えるわけではない。しいて言えば以前喰らったように、倒しきれなかったオークが棍棒を投げてでも追撃に来ることを警戒するぐらいだろうか。
流石に何度も通えば対策ぐらいは出来ている。と言っても二人きりのパーティー、お互いに打ち合わせをしておけばそれ以上のことはせず、ただ黙々と来たモンスターを叩き続けることになる。
「楽、ですね」
「楽、だな。かといって歯ごたえがありすぎても困るが」
いつもより言葉も少なく階段を目指す。少し疲れてきているんだろうか。十三層に到着したらまず休息を取るべきだな。
四十分ほど無言の時間が過ぎ、十三層への階段にたどり着いた。ここでしばし長めの休憩を取ることにした。おそらく、だが見えない疲れがたまってきているように感じる。普段のこういう所作からそれを見抜くことは大事だと感じる。特に二人しかいないパーティー、どちらかが疲れたと言い出した時には既に手遅れとまでは行かないがヒヤリハットに足を突っ込んでいる可能性が高い。
「さすがに五時間半ほど動きっぱなしは疲れたな。十三層をグルグル回る前に十四層行って仮眠するか」
「そう……そうかもしれませんね。そういえばいつもより更に言葉が少ない気がします」
「さすがに十一層とはいえ四周したのは初めてだからな。歳のせいもあるかもしれんが徐々に体に無理が来る可能性がある。ここは早めの休息と行こう。お腹もすいてきたし」
十四層までたどり着けばしゃぶしゃぶが待っているが、その前にハンガーノックを起こしても困る。今の内に少しだけ腹を満たしておこうとカロリーバーを食べ、芽生さんにも差し出す。少し考えた後、芽生さんはカロリーバーを受け取った。
時間をかけて入念に体をチェック。十三層で息切れしないかどうか確かめて、ストレッチを念のためしておく。ここからはシャトルランが始まる場所だ。うっかり足がつったりしても困る。ふくらはぎあたりから丁寧にもみほぐしておく。大分引き締まってきた気がするな、やはり痩せるのは足からか。
さて、十三層だ。もう何度目かは数えていないがマップはまだ頭に入り込んでいない。さすがに戦いながら迷宮の地図を叩きこめるほどの回数はまだ潜り込んでいないし、そこまで物覚えがいいわけでもない。手持ちの地図とにらめっこしながらの探索だ。
ただし手持ちの地図にはこの辺にスケルトンとかこの部屋に骨ネクロとか、簡単なリポップがほぼ確定している場所も記してあるので地図を見ながらのほうがより安全ではある。
等と言ってる先からスケルトンと出会う。こいつも結構な回数戦っているから対策は万全。戸惑うことなく真っ直ぐ突っ込むと、相手の大ぶりな攻撃を盾で逸らせて胴をがら空きにすると、熊手で肋骨を外して核を直刀で突き割る。向こうも盾を持っているが防ぐ時間は与えない。
接敵してから十秒も立たぬ間にスケルトン一体は黒い粒子に還っていく。後には魔結晶が残らなかった。これは養殖物だ。近くに骨ネクロ……スケルトンネクロマンサーが居るはずだ。
「近くに骨ネクロが居る。探そう」
辺りをよく観察すると、次のスケルトンを召喚しようとしている最中の骨ネクロを発見。……さすがに二体目も間に合わないな。仕方ないので二体目も相手にし、骨ネクロの相手は芽生さんに任せる。
同じ手順で養殖スケルトンを黒い粒子に還すと芽生さんのほうを向く。全力で上から槍を叩き込まれた骨ネクロが黒い粒子に還っていくのが見えた。後には真珠のようなものが一粒。革袋に回収するとスケルトン二体分の体力を浪費したという結果が残った。
「珍しくコソコソと召喚された気がします」
「同感だ。普通の骨ネクロなら正面に来た後で召喚を始めるところだが、珍しいパターンに当たった。そういう事もあると覚えておこう。さぁ次はこっちだ。曲がり角にスケルトン三体居るはず」
俺の手描きの地図だとそうなっている。覚悟を決めつつそっと角を覗くと、予想通りスケルトン三体が何をするわけでもなくたたずんでいる。これを見ると、骨ネクロのほうがちょっと人間くさいそぶりを見せるな。違いはどの辺にあるんだろう。
曲がり角ごとにほぼ存在するスケルトンを相手に、魔結晶とたまに骨を集めながら十三層の迷宮を迷わず進む。今のところ地図通りに来れてるぞ。曲がり角や交差点、三叉路等迷宮では視線が切れる場所が多い。その度にモンスターが湧いていないかどうかを確認しながら進むため、他のマップに比べて歩みは少し遅い。
しかし、召喚された養殖物スケルトンでない限り百パーセントなにかしらのドロップをくれるこのマップは稼ぎとしてはとてもわかりやすい。リポップ地点を描き込んだ地図はそのまま儲ける道順となって俺達を導いてくれるし、行く先までにあと何回戦闘をしなければならないかを熱く語ってくれる。
この次は小部屋に骨ネクロ二体だ。無視して行く事も出来なくは無いだろうが、気づかれて後ろから養殖スケルトンが追いかけてくるのは避けたい。
芽生さんと呼吸を合わせて三、二、一、ゼロで小部屋に突入する。全力疾走で骨ネクロに近づき、召喚途中で黒い粒子に還す。これで一万円。走って叩いて一万円。骨が出たならさらに倍。う~ん、美味しい!
そのまま小部屋を出て元の道に戻り、進んで三叉路を右折してスケルトン三体。また少し進んで左折。そこでまたスケルトン三体。そしてまっすぐ進む間に小部屋が二つ。それぞれに骨ネクロが二体ずつ。この辺はちょいと密度が高い。
スケルトンはともかくとして骨ネクロは放置してスケルトンを召喚したままうろつかれたら他のパーティーにも迷惑になるだろうし、倒せば倒しただけ確実に収入になるので探索としても高効率だ。密度分だけきついが、これもおちんぎんを得るためだ。自分で選んだ稼業なのだから文句を言わず戦おう。
疲れが徐々に溜まってきている感覚がする。暖かい飯を食ってゆっくり眠りたい。そんな気配が少しずつ忍び寄ってきている気がする。後三十分ほどで十四層へたどり着けるだろうか。ふと足を止め、手を握って開いて確認する。まだガタは来ていない。緊急でやばい事にはなっていないな。よし。
「うん、今日の探索はあまりよろしくないな。戦果はしっかり稼いだが探索としてはよろしくない」
「どうかしたんですか? トイレですか? 」
芽生さんが突然の俺の言い分に戸惑っている。
「早く休憩したいという気持ちが湧いてきた。普段はそんなことは考えない。さっき休憩した時点で早めに十四層に戻ろうと思った点もあるが、早く休憩したいと考えるという事は精神か肉体か、どちらかが休憩を欲しているという事だ」
「なるほど、本来ならその前に休憩を取るのが正しいと? 」
「そう、つまり俺は疲れているんだ。年齢のせいもあるかもしれないができるだけ早めに十四層へ戻ろう。このまま探索を続けると何処かで凡ミスがでそうだ」
「それは……考えすぎ、という訳でも無さそうですねえ。落ち着いて十四層まで行きましょう」
「これは肉に目がくらんで十一層で働きすぎたな。次に活かそう。そんでもって肉しゃぶで体力を回復しよう。確かもやしは残ってたな……野菜は少ないが肉は売るほどある。ここは精をつけて後半戦への体力を残そう」
目標を立てるのは大事だがそれにかかる時間も考えなければいけない。本来ならここにもてる荷物の量も考えて行動しなければならないんだろうが、それを無視して戦える分だけ気づくのに時間がかかったのだろう。
落ち着いて十四層までの道を急ぐ。落ち着いて急ぐとは矛盾しているが、焦って急いでモンスターを見逃して後ろから追いかけられてる間に前からエンカウント……という状態はまずい。それを防ぐためにも慎重に、かつ急いでいく。
分かっているエンカウント地点は念入りに確認をして覚悟を決めて戦いに挑み、居るかどうか分からない所はこっそり確認していないならそっと移動する。
後二回曲がり角を曲がれば十四層へたどり着ける。戦闘も二回。スケルトンが三体ずつ。最後の一頑張りだ。気合を入れてスケルトンの肋骨を外して核を突く。気合を入れても入れなくてもやる事は変わらないのだが、最後の最後に怪我をする、なんてことは防ぎたい。
三体一セットのスケルトンを倒し、最後のスケルトンの団体へ。するとスケルトンが盾を構えたまま大振りで剣を構えてくる。このパターンはちょっと面倒くさい。盾を正面からうまく弾き飛ばす必要がある。さてどうするか。
少し考えた結果、保管庫からパチンコ玉を射出、額に当てて首を刎ね飛ばす。その衝撃とおそらく眼窩についていたであろう視覚を奪われ、スケルトンは一瞬怯みガードが下がった。その隙を見逃さずに駆け寄ると盾を直刀で弾いて肋骨を露出させた後、熊手で肋骨を掻き下ろして核を露出させ核を突く。
スケルトンは核を破壊されて黒い粒子に還った。このコンビネーションは使えるな、今後も人の見てない所で使って行こう。しかし、熊手は万能だな。スライムでもダーククロウでもスケルトンでも使える。まだまだ使いどころがありそうだ。今後もよろしく頼むよ。
残りのスケルトンも同様に倒すと、目の前には十四層へ下りる階段が。後ろを振り返ってモンスターがこっちに近寄っていないかを確認すると安心して下りる。これでじっくり休憩できるな。まずは飯、そして寝る。
良ければ評価お願いします。次回お腹空くかも





