339:オーク肉祭りをここに開催するッ!
十一層での休憩を終えて、とりあえずオーク狩り三時間コースだ。わざわざ十二層に下りる理由も無ければここでも変わらず充分稼げるという見込みが立っているからだ。
「十二層で何処かのパーティーと出会って十一層に戻るぐらいなら、十一層で出会って十二層に下りるほうが若干建設的だと考える。よって十一層をグルグル回ろう。何か質問は」
「ないでーす。早速肉集めと行きましょう」
森マップは大きく分けて三つの周回ルートがある。一番外側の崖沿いを歩いて行く散歩ルートとより一歩内側に踏み込んでエンカウントする可能性を上げる中級者向けルート、そして森のすぐそばをあるく上級者ルートだ。
九層でも上級者ルートを選択したことは無い。十一層で上級者ルートを選択する事は今のところない。もし狩場が被って混んでいるような状態なら上級者ルートを選択することになるだろうが、今のところ小西ダンジョンでその心配はほとんど無い。安心して中級者ルートを選択してちょいと多めのモンスターと戦うのが無理せず儲けるポイントだと思っている。
早速オークが三体現れる。率先して一体を股から心臓にかけて切り上げて、早速一体を黒い粒子に還す。やはり直刀は切れ味が良い。そのまま二体目へ走り込むと、棍棒を振り上げていたオークの懐へ滑り込んで心臓へ直接直刀を捻じ込む。あっという間に二体。スタイリッシュな戦闘を心がけよう。そのほうが疲れないし楽でいい。
そのままモンスター密度の濃い戦闘を続ける。小指、三、一。ここのオークは三体ワンセットだ。近いほうが二体処理する。十二層になると四体ワンセットになってくるが、モンスター密度的にはそう変わりがない。さっさと処理して次へ歩く。十層ほど濃くもないが、かといって薄くもないちょうど良い感じの湧き具合を提供してくれる十一層中級者コースは絶好の稼ぎ場だ。
ジャイアントアントも六匹ぐらいまでしか湧いてこない。多すぎないので精神的にも非常によろしい。一匹あたりの期待値はジャイアントアントで千九百円、オークは三千三百円。一回エンカウントすると一万円ぐらいの収入が予測できる。ここの密度からして一時間で三十回エンカウントするなら三十万円が一時間で稼げる金額に相当する。
仮に一番密度の低い外側コースを巡っても一時間に二十万円ぐらいは見込めるだろう。疲労がたまらない程度にグルグル回れば美味しい路線だ。
親指、七、四。しかし今日の目標はお肉だ。三時間ここでグルグル回って何個肉が取れるのか。一時間ごとに休憩を取りつつ四時間ぐらい回ることが出来ればかなりの数を確保できるだろう。ここでは二分に一回ぐらいのペースでモンスターとエンカウントするので一周回る間に三十回はモンスターと戦うことが出来る。
オークとジャイアントアントの出現比率は四対六ぐらいなので一時間でオークは四十体、ジャイアントアントは九十匹ほど戦う計算になるだろうか。
さて、これ以上の皮算用は止めて狩りに集中しよう。後で計算するほうが喜びもひとしおに違いないからな。しかし、オークも楽々狩れるようになった。武器更新と日々積み重ねている経験値の差だろうか。オークから殴られても前ほど体に振動が走る事が少なくなった。それだけ体も強化されつつあるだろう。
今なら頭を殴られても脳震盪を起こさないかもしれない。が、ちょっと怖いので頭で受けるのは止めて盾できっちり防いで空いた懐を直接突き崩せば楽にオークを倒すことが出来る。
一回の戦闘で三十秒から一分。二分おきぐらいのペースでエンカウントする。良い調子だ。これなら退屈せずに済む。さて、一周戻ってくるまでにどれぐらいの稼ぎをくれるのかな……
◇◆◇◆◇◆◇
一時間があっという間に経ち、十層への階段の前に戻ってきた。ここで一旦休憩。一時間みっちりと戦ったおかげでこの一時間での稼ぎは三十万近くにまで達している。
「稼ぎは良い感じ? お肉は? 」
「稼ぎは良い感じだがお肉はいまいちだな。今日の目標は五十個ぐらいにしておこうか」
「五十個でも二十五万ですか。いいですね、十一層での目標はそれにしましょう」
「だとしたらいっそのこと四周するか」
「それもありですね。一杯稼いでギルドを黒字にさせましょう」
「リヤカーのおかげで指が痛くなることも無いしな。もし他のパーティーとぶつかったら移動する感じで」
休憩を終えて再びオークとジャイアントアントが跋扈する森……に近づくちょいと手前まで移動して狩りを再開する。しかし、基本同じ動作を繰り返していくだけの作業に一時間没頭できるという事は、芽生さんもライン工の才能が有るという事か。それとも俺みたいに意識を飛ばして色々と考えたりしているんだろうか。
十四層で休憩する時のご飯が何になるかとか色々考えているに違いない。人の頭を勝手に覗くことは出来ないが、自分が考えている以上に人は物事を考えている気がする。なのでこういう時、退屈してない? などと声をかけるのはよろしくない。相手の集中を切らしてしまう恐れがあるからな。
俺もせっかくここの階層ではシステム的に手足を動かす事が出来るようになったんだ。変な気遣いはせずにおこう。さて、どんな妄想をしながら戦おうか……
◇◆◇◆◇◆◇
side:文月芽生
洋一さんは狩りの最中は結構寡黙だ。前を見て横を見て、モンスターを相対しながらこっちを見て、その場全体を見回すような形で戦っている。余裕があるのか、それともまだ危なっかしいと注意してくれているのかどちらだろう。
どちらにせよ気を使ってくれている事は違いが無い。その気持ちは素直に受け取っておいて……でももうちょい腕のほうを信頼してくれても良いような気がしますねえ。結局ボス戦でも一人でなんとかやってしまったし、私のおまけ感はまだ完全に拭いきれてない。でもそれを聞いちゃうのはなんか違う気がするなぁ。
今はモンスター狩りに集中しよう。そして私の存在感というものをはっきり意識させないと。新浜さんにとられる心配は……今のところ微妙だわ。
仮に二人が付き合ったからと言って狩場を小西ダンジョンから清州ダンジョンに移すようなことはしないと思う。小西ダンジョンのほうが人口密度の低さのおかげで【保管庫】をフルに活用できるという余りあるメリットを享受できているし。
私にできることは……心配をかけないようにきっちりモンスターを倒す。そして時には会話をし楽しませる。素直に料理の感想を言って次に活かさせる。このぐらいかな。後は……変なことをまた始めないように適度に見張ってないと。
しかし……ちょっと飽きてきたわね。こういう時は体を動かして目は周りを見てそして思考だけ遊びに行かせるんだっけ……そうすれば時間だけが過ぎて行く、と以前洋一さんがぼやいていたような気がする。やってみよう。
◇◆◇◆◇◆◇
無言で十一層を回って合計四時間が過ぎた。お互い会話はほとんどない。一時間に一回休憩を取る時に体調や装備の確認とカロリーと水分の補給をするぐらいだ。これと言って話すことが無い、という時間は確かに存在する。それを再確認したような気がした。
おやつのチョコとカロリーバーをつまみながら保管庫の中身を確認していく。どうやら目標までは無事たどり着いたらしい。
「オーク肉、五十一個ある。目標は達成したぞ」
「思ったよりも時間かかりましたね」
「だが保管庫には確かな重みがカウントされている。今日もお賃金は期待できるぞ、今のところは」
「じゃあエレベーター経由で帰りますか、それとも今日は歩いて帰りますか」
時刻を確認する。午後十時半。ここから仮に七層へ戻っても零時半。十四層へ向かってもほぼ同じ。う~ん……時間的にどっちにしろ余裕が出来てしまうな。ここは十三層でしばし迷ってから十四層で仮眠して帰るルートを取るか。
「七層戻るにしろ十四層へ行くにしろ帰りの時間が中途半端になる。結局茂君を狩るか真珠を集めるかという差になってしまうが……金銭的に考えると十三層行きのほうが美味しそうだな」
「ではさらに潜ってエレベーター帰りってところですか」
「そんなところだな。とりあえず十三層を大回りに一周して、十四層で仮眠取って起きた時間でまた決めようか」
「そうしましょう。とりあえず十二層へ向かいますか」
そういうことになった。さっきまでの道を今度は湧きの少ない外側の道を歩きながら十二層への階段へ歩き出す。今日はもうオークは充分狩った。後は通り道に出てくるのをサクサク食べるだけで良いだろう。
さっきより緩いペースで湧いて出てくるジャイアントアントとオークをクールダウンでもするような感覚で対処していく。正直言って楽だ。
十一層をゆっくり回りながら十二層への階段へたどり着き、下りる。十二層のほうがオークの数が増える。純粋にオークだけを狩るなら十二層のほうが確実に美味しい目に会える事だろう。オークの一グループの数も三体から四体へ。そしてオークの密度が上がるその分ジャイアントアントの密度が低くなる。
かといってやる事が変わるかというとほぼ変わらないので、改めて気を引き締めて挑む必要も無い訳だが、相対したオークは確実に倒してから次へ向かうべし、という事ぐらいだろうか。一度痛い目にあっている分その警戒は怠らずに行こう。それだけだな、うん。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





