334:また今度~阪神関係ない~
最寄りのショッピングモールへ着いた。早速ショッピングだ。必要な物はワンサイズ小さくて膝周りの可動に不具合が無いズボンとベルト。ジャケットはまだまだ着まわせる。インナーは……そろそろ変え時か。首回りがちょっとビローンとして来ている。
特にブランドや服装にこだわりがあるわけでもないので、鏡を見てけだるそうに見えなければそれで十分だろう。よし、これでいい。適当に着合わせて色味が悪くなければ問題なしだ。それにただの無職のオッサンがファッションにそこまで拘る必要は無いだろう。清潔感らしきものがあればそれで良い。
早々にファッションコーナーを立ち去ると、百円ショップや小物を扱っているコーナーへ行く。今ダンジョン用品として持ち歩いているものは大体小瓶に入れたりそのまま放り込んだりしているが、便利に持ち歩けるようなものがあればそれに詰め替えてしまえばいい。例えばコーヒーとか。
いくら保管庫の中では湿気る事をあまり考えなくていいとはいえ、見た目的に袋から直で行くよりはタッパー容器に計量スプーンと共に入れておいたほうがそれっぽくなる。小麦粉とか片栗粉もそうするべきかな? ちょっと多めに買って行って家に帰って整理するか。余ったら保管庫に放り込んでおいて使う必要があると感じたら移しておけばいいしな。
後は適度な大きさのタッパー容器に袋菓子やチョコをまとめて入れておこう。これで嗜好品のバリエーションが増える。段々探索らしさが無くなっていくがまぁ、細かい事は気にせずに行こう。
本屋にもよる。探索者特集と言うコーナーがあった。探索・オブ・ジ・イヤー以外にも探索者雑誌は何冊かあるらしく、それぞれ見分けて特徴をよく観察しておく。また、探索者の自伝みたいなものを出している人も居るらしく、チラ読みした範囲ではダンジョンの情報を出しつつも機密事項には触れない範囲でこういう探索してます、と言った感じの内容だ。
出版でも稼ぐ……そういう手もあるんだな。しかし俺の自伝なんて需要があるのだろうか。この自伝はそれなりの高さに積み上げてあるが、これだけ積み上げても売れるのか、積み上げられているだけで売れていないのかは定点観測しないと解らない所だな。
とりあえずもう一冊ぐらい探索者専門誌を仕入れてみるか。どれがいいかな……お、料理に着目した雑誌がある。何々……セーフエリアで後悔しないための料理作りと材料の調達、か。調達って事はワイルドボアかウルフ肉だろうな。レシピがいくつか載っているから参考にできるかもしれん。これにしよう。月刊探索ライフか。覚えておこう。
流石に週刊誌として紙面をにぎわすには探索者という仕事はまだパイが狭いのだろう。探索を題材にした漫画も載っているようだ。探索しながら漫画家か……締め切りが近づいたら七層に逃げ込んで編集者から逃れる姿が見れるダンジョンがあるんだろうか。編集者も探索者だったら逃げられないが。
雑誌を確保したところで食料品コーナーへ向かおう。新しい入れ物を確保したのだから新しい中身も補充しなければ。出来るだけ喉が渇かずに胃袋と気持ちを満たせる、チョコ以外のもの……クッキーとかビスケットは無しだな、あれはやたら水分を吸い取られる。
余り塩味の強くないポテチとかせんべいとか、そういうもののほうが良いな。味は濃いほうが良いが濃すぎると喉が渇く。そこそこ良いラインを攻めていこう。
後は……念のため水を一カートン。それでしばらくは大丈夫だろう。生理用品・排泄用品・その他はこの間チェックしたので必要ない。探索用品として購入する物は今日のところは無いな。
ここのショッピングモールにもたい焼き屋はある。とりあえず餡子とカスタードを一つずつ買っておく。毎回食欲と戦い続けるぐらいなら今日は最初から降伏しておく。そのほうが悩む時間がないだけ建設的である。ズボンのサイズが一つ落ちた祝いだ、今日ぐらいはちょっとカロリーをあげよう。
ふと太もも周りを触って確かめてみる。多く歩く分だけ太ももの脂肪は間違いなく減っている。ズボンのサイズが落ちたのは主にこれのおかげだったりする。太ももが太いとサイズがどうしても大きくなる。歩きまわってかえって太くなるんじゃないかとも思うんだが、それ以上に脂肪がついていたら脚は痩せる物らしい。
腹も少し摘まんでみるが前ほど摘まめなくなった。このペースで毎日探索を続けるならきっとそのうち六つに割れてくるだろう。毎日行くほど気力が持つかは解らんがダンジョンダイエットは割と効果的なのかもしれん。
買い物も済ませたし今度こそ家に帰る。さて、夕食はこのたい焼きと冷蔵庫の中のものを適当に見繕って済ませるか。家に着くと買い物をしたものをそれぞれの場所に配置し、コーヒーを容器に詰め替えたり調味料を小分けにしたり、細々としたものを済ませる。
それでも夕食にするにはしばらく時間が空いたので早速鬼殺しという称号について調べる。Cランク探索者として一人前として見られるのがこの鬼殺しという称号らしい。明確に鬼殺しであるというランクがあるわけではないが、倒しても居ないのに鬼殺しを名乗るのは禁止されている。
鬼殺しであることで解禁される情報なんかもあるらしく、そのためダンジョン毎に証拠を見せる事でそうであるという認識がされるという事になる。小西ダンジョンで今回鬼殺しになったが、他のダンジョンでも鬼殺しの証……つまりゴブリンキングの角を提示する事で清州ダンジョンに関しても同様に扱われるという事か。それとも一度ギルドで申請すれば全ギルドに通達されるのか。
探索者証に何らかの書き込みを加えることで鬼殺しの称号が公式証明になる。そんなシステムならより便利なんだが、探索者証をひっくり返しても運転免許証の取得免許欄みたいに取得称号を書きこむような場所は無いようだ。各ダンジョン毎に管理されているのだろうな。
また、鬼殺し以上の探索者に頼まれる依頼というものがあるらしく、見合った挑戦と報酬が課せられるという事だ。断れればいいんだがな……依頼と言われるとあまりいい思い出が無いが、小西ダンジョンのギルマスが言っていたスケルトンの骨を取ってこいなんかがダンジョン庁の依頼として行われることになるんだろうか。
まぁとにかく色々変わるって事だろう。少なくとも鬼殺しパーティー、という扱いになったはずだ。知られて行けば周りの見る目も変わっていくんだろうが、小西ダンジョンでは相変わらず潮干狩りおじさんで通りそうな気もする。わざわざ名乗らなければいけない状況にはならないだろうから、そのままでいいのか。
うん、今まで通りで良いんだな。そう考えると少し気が楽になった。そうとなれば気持ちは軽くなってきた。別に鬼殺しだからスライムを倒していてはいけないというルールがあるわけではないし、エレベーターに行くためにも道中のスライムは潮干狩らなければならない。
エレベーターで七層を往復して六層で茂君をひたすら焼き、四層で肩ポン爆破ばかりしている鬼殺しが居ても良い。ゴブリンだって小鬼なんだし鬼殺しが小鬼を殺しても何の問題が有ろうか。オーク肉を集めて十四層で毎回焼いて食うレシピももっと考えていきたいと思う。やってみたい事はまだまだある。その先に十六層十七層と進んでいけばいい。
急ぎで時間制限のある仕事ではないんだ。”友達”との約束はあるが、好きで破るわけではない。ただできるだけ努力はしてみようと思う。今まで通り無理をせず、出来る範囲で探索をする。それでいい、そうしよう。
とりあえず明日は日帰りでダーククロウを狩りに行こう。そして七層で軽く休んで、また帰り道でダーククロウを狩って、そして四層で好きなだけ肩ポン爆破をして記録更新を目指そう。今度こそ三十分、一時間と時間を伸ばしていく。もしくは九層でソロで活動しても良い。探索者稼業は自由であるべきだ。
それでまた……また潮干狩りをしよう。そんな時間をゆっくりと過ごしていきたい。
一日お休み貰います。その後はまたしばらく……といういつもの感じで今後ともよろしくお付き合いください。





