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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第四章:中年三日通わざれば腹肉も増える

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332/1236

332:約束~結局話す~

 

 一階に戻るとようやく文月(ふづき)さんが声を上げる。


「ずっと聞き手に回ってたけど良かったんでしょうか」


 おそらくギルマスに言質を取られないために交渉を全部俺に任せたという所だろう。


「いや、かえって助かったよ。おかげで本当に大事な部分は隠し通せた。下手に話に割り込んで変な言質を取られるよりはいい。英断だった。ありがとう」

「とりあえず、今度清州は行きましょう。この焦げた服の替えを奢ってもらう約束でしたから」

「そうだったな。今から行く?それとも後日にする?」

「今日は疲れましたし後日で良いです。またタイミングが合う時を探してそこで鬼ころしデートと行きましょう」

「最近デートによく誘われるなぁ」

新浜(にいはま)さんに負けてられませんから。それに、デート回数では私のほうが勝ってますし」


 結衣(ゆい)さんに対抗意識を燃やしているらしい。俺を取られて清州ダンジョンばかりに潜るとでも思っているんだろうか。


「俺は二人の男の趣味が解らない」

「本人は解ってなくても良いんですよ。私が納得するところがあればそれで良いんです」

「同じことを結衣さんにも言われたよ。ただ長く生きてる分積み重ねがあるからそれに憧れを持っているだけだと思うんだがなぁ」

「どっちを選ぶか、もしくは全然知らない第三者になびくかもしれませんが、少なくとも小西ダンジョンでは私に軍配が上がりますから。その間に篭絡して見せます」

「あまり期待せずに待っておくよ。それに、保管庫の事もある。秘密を共有してる限り文月さんに悪いようにはしないさ。そうだな……少なくとも後二年ぐらいは一緒に居てくれ」


 俺の中ではこのぐらいは大丈夫だろう、と思っていた期間を文月さんに提示する。


「つまり大学卒業するまでは……ってことですか」

「それまでは秘密を守り通していこう。その後どこぞの企業に勤めるなりすればこの関係でいられることは少なくなる。その時は改めて話し合うって感じでどう」

「そうですね、良い落としどころだと思います。その頃になれば保管庫を持つ人も増えるかもしれませんし、公に使って問題ない時代になっているかもしれません」


 皆が保管庫を持ち歩く時代か。それはそれでみんなハッピー……というわけにもいかないだろうな。


「その頃に拾って使いました! ってなれば俺も大手を振って生きていけるし秘密を守る必要もなくなるわけだ。その時までは、な」

「解りました。とりあえずパートナー契約は最短で二年ですね。その間に何かあったら随時話し合いと行きましょう」

「お互いの落としどころを見つけたところで改めてこれからもよろしく、文月さん」

「そうですね、一つ条件があります」


 また一つ条件か。今度は何だろう。前は餃子のお代わりだったかな。妙なことを言い出さなければいいが。


「私も名前で呼んでください。新浜さんだけ狡いです」

「それでいいのか? えっと……芽生(めお)さん」

「っ……それでOKです。なんか改めて名前で呼ばれると新鮮ですね」

「そういうもんか。名前呼びなぁ……俺にはピンと来ないよ」

「じゃぁ、私も名前で呼びます? えっと、洋一(よういち)さん」

「むっ」


 一瞬顔が熱くなる。そういえば下の名前で呼ばれる事なんて最近無かったな。なんか恥ずかしい。


「あれ、もしかして照れてます? 洋一さん」

「たしかに……今ピクンときた。これはちょっと恥ずかしいな」

「一つ弱みを握れた気がします。洋一さんは名前で呼ばれ慣れてない」


 急にキャッキャ言い出した。俺の弱点を見つけて喜んでいるんだろうか。


「慣れたら大丈夫だろう。弱みはまだ二つしか握られてないはずだ。とにかくよろしく、芽生さん」

「はい、これからもよろしく」


 握手して契約更改する。さて、帰るか。バス停まで歩いていくとバスは十分後。


「そういえば……」

「どうしました? 」

「相沢君達、俺に勝手なことするなと言いながら自転車はちゃっかり使ってたよね」

「そういえばそうですね。いや、彼ら四人パーティーでしたよね。相沢君だけ歩いてほかのメンバーは自転車で行動してたのかもしれません」

「あり得るな。彼が戻って俺が先に十五層攻略してたって事が解ったらどういう反応するだろう? 」

「楽しみが一つ増えましたね」


 芽生さんが悪い顔をしている。やはり人を簡単におまけ扱いしてはいけない。さて、今後どうするか。バスが来てからゆっくり考えるか。


 二人静かにバスを待つ。道は混んで居ないようなので時間通りに来るだろう。帰ったら一通りの家事をして……家の一斉掃除でもするか。と言ってもホコリを全部収納して射出するだけだからすぐ終わるな。昼食はジャンクに牛丼と行こうかな。それから……時間があるだろうから手持ちのダーククロウの羽根を納品しに行こうか。それから……早めに夕飯食べて、鬼殺しについて調べよう。


 バスが到着し、ほぼ定位置になった後ろの席に座る。バスが発進してすぐ位から隣で寝息が聞こえて来た。色々あって頭が疲れたんだろう、芽生さんは早速夢の世界へ。到着まで寝かせておこう。


 俺も色々なことがあって頭が疲れてはいるが、それ以上に今後を考えなくてはいけないな。エレベーターの使用頻度も毎回使うとなるとバレるだろう。先に奥へ行ったはずのパーティーが自分達より早く帰ってきている。そんな現象が多発すればもう一度ギルマスルームに呼び出し、ということになる。


 いや、それはそれで良いのか。そもそもダンジョンマスターももっと客が来てほしいと言っていた事だし、Cランク以上への情報として小西には二十分に一回十五層行きのエレベーターがある。利用料は片道魔結晶で一万円分ぐらい。これで十層以降に行きやすくなる。


 そういえばこのエレベーター、空荷のまま移動する時はどこからエネルギー供給受けるんだろう。それもダンジョンの不思議という奴だろうか。また一つ、二十四不思議に追加しておこう。


 いや、そもそもダンジョンマスターが不思議そのものか。人間……ではないんだよな。普通の人間は転移なんてできない。ダンジョンマスターとしてのスキルなのかもしれないし、彼の目的が何なのかもわからない。ただ、ダンジョンに探索者が来ること自体がダンジョン運営の目的であることと、ダンジョンマスターは複数人居るという事は解っている。


 そういえば「Cランクになったあなたへ」に機密情報連絡先についての情報が載っているんだったな。後で確認しよう。


 バスが駅に着く。横で口を開けて寝ている芽生さんを起こ……そうだ。耳元にそっと口を寄せる。そしてできる限りのイケボを駆使して囁く。


「芽生さん、着いたよ」

「ひゃっ!? え、あれ、寝てたっていうかそれ反則! 」


 かなり赤い顔をして怒っている。ボコボコ殴られている俺を見て乗客確認をしに来た運転手さんも苦笑いしている。


「はい、着きましたよ。ご乗車ありがとうございました」

「毎回ありがとうございます」

「いえいえ、おかげで面白いものも見れましたし」

「もーっ、もーっ! 」


 むくれている芽生さんをなだめつつバスを降り、改札へ行く。


「とりあえず次は服の買いなおしに付き合ってもらいますからね」

「それぐらいお安い御用だ。時間がある時に連絡くれ。ダンジョンに潜ってなければ……そうだな、明日は日帰りで茂君倒しに行こうかな。明後日以降で頼む」

「解りました。その日は全部おごりという事で良いですよね? 洋一さん」

「あんまり高いものねだってくれるなよ」

「私も稼いでますから。それぐらいのプライドはあります」

「じゃ、またダンジ……今度は鬼ころしで、か。またな」


 芽生さんと別れ自宅へ向かい電車に乗る……前に気づいてよかった。地図の更新してないや。自転車を自転車置き場でコッソリ取り出すと小西ダンジョンに向かって急がせる。


 二十分ほどで到着すると、自転車はそのままに建物へ舞い戻る。


「あれ、安村さんお帰りになったんじゃ? 」

「地図の更新を。ギルマスに呼び出されたおかげですっかり忘れてました」

「わざわざ戻ってきてくれたんですか。ご苦労様です。地図の範囲と階層を見せてもらっても? 」

「どうぞ。方眼紙に記録してあるのでちょっと見づらいかもしれませんが十三層・十四層・十五層の地図です」


 地図を渡し、とりあえずコピーを取ってもらう。階段の位置と最短経路、そして十四層の完全な地図、十五層の半分ほどを回って十六層への階段を記入してある、これで小西ダンジョンに潜って実力さえあればボス部屋までたどり着ける一連の流れが出来上がったことになる。ついでに……ギルマスにエレベーターも話してしまおう。


 軽く運動したことで冷静になり始めた。エレベーターの件はギルマスの手の中で握りつぶしておいてくれたほうが色々都合がいいのではないか。このまま連絡先に連絡して大々的に発表されたら、俺はエレベーターを動かすためだけのNPCとして生涯を終えてしまうんじゃないだろうか。そうなるぐらいならギルマスに判断をゆだねた方がまだマシだな。


「これでギルマスに更新依頼をかけておきます。お疲れ様です、情報提供ありがとうございました」

「まだギルマス二階にいますよね? ついでにもう一つ話をしておこうと思いまして」

「えぇ、居ると思います。用事でしたらそちらへ向かってください」


 地図を返してもらうと二階へ上がり、応接室のドアをノックする。


「はい、どうぞ」

「安村です。大事な話を伝えておこうとおもいまして」

「お、なんだい? まだ何かダンジョンについて情報かい? さっきはあえて言わなかったということは割と重要な話なんだろう? 」


 ギルマスはどんな話が出てくるのかと期待して、目が真面目モードになっている。


「これはCランク以上で、鬼殺しという称号を得た人限定か、もしくは小西ダンジョンで鬼殺しになった人限定の情報になると思うのですが」

「機密レベルの高そうな話だね。鬼殺し、というのが条件になるのかな。それで? 」

「一層と七層と十五層の直通エレベーターが設置されました」

「……え? 」

「一層と七層と十五層の直通エレベーターが設置されました」

「それは聞いた。どういう経緯でそうなったの? 」


作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] キュンキュンしちゃう!
[一言] 袖が焼け焦げた二人組が、バス、電車内で目撃されて、普通に移動できる世界…。 平和や。
[良い点] 名前呼びのやり取りが、 甘酸っぱ過ぎて 悶絶しそうに成った (¯﹃¯*) [気になる点] イケボだと!? けしからん!もっとやれ! \(^o^)/ [一言] 文月さん牛になるの巻
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