331:告白
お注射六回目行ってきます
小西ダンジョンギルド建物二階。課長室、通称ギルマスルームと応接室だけがある寂しいところだが、割と大事なことを話していたりもする場所らしい。ここには何回かお世話になっている。
緊急の呼び出しを受けた俺と文月さんは仕方なく二階へと赴くことになった。ギルマスルームの手前にある応接室へ入ると、ギルマスこと坂野課長が待ってくれていた。珍しい事にお茶まで用意してくれている。これは嫌な予感しかしない。
「やぁ、疲れてるところ悪いね。ボスを倒せたって知らせを聞いてね。早速表彰をしようという事になったんだ」
「表彰……ですか? それなら後日でも良かったんじゃ」
「こういうのは早いほうが良いんだ。この過疎地だった小西ダンジョンを十五層まで攻略して、ボスまで倒して帰ってくる。そこまでの探索者が育った。これを祝わずしてどうしようか」
「はぁ……まぁ頂けるものは頂く主義なのでそれは構いませんが」
「とりあえずボスを倒した証、角を見せてもらって良いかね? 」
「良いですよ、これです」
バッグからゴブリンキングの角を見せる。坂野課長……ギルマスは一通り眺めた後両手に抱きかかえた。
「ちょうだい」
「ダメです」
「えー」
「えーとか言っても可愛くないです。それに人数分あるわけじゃないですから、それを持ってないと証明にならないじゃないですか」
「じゃあしょうがないな。諦めよう。さて、冗談はこのぐらいにして本題に入ろう。会ったね? 」
ギルマスの目は突然笑わなくなった。会ったね? というのは多分ダンジョンマスターに対してだろう。とりあえずとぼけておく。
「会ったって、誰にですか? ボスになら会いましたけど」
「残念ながらダンジョンの仕組みについての情報は共有されていてね。これは課長級以上にしか知らされていない機密事項だが君はこのダンジョンで最初にボスを倒した。ならば会ってるはずだ、ダンジョンマスターに」
ギルマスの口からダンジョンマスターという言葉が出てくる。これは誤魔化すだけ無駄かな。
「……会いましたよ。十二歳から十五歳ぐらいの少年でした」
「そうか。で、何を聞いた? 内容によっては全ダンジョンで共有しなくてはいけない情報になる。さぁ、何を質問して何を答えてもらった? 」
「ドロップテーブルについて。少なくともこの小西ダンジョンでは、階層毎、モンスター毎に特殊なドロップテーブルが設定されており、そのテーブルに沿ってスキルオーブが排出される。そういう話をしました」
嘘は言っていない。確かにそういう会話はした。それ以外の事については小出しにしていこう。
「ほう……他所のダンジョンでもそれは有効なのか? たしか、そういう検証をしている集団が居るという情報はつかんでいる。もしかして、その情報の発生源、いや元凶と言っても良いな。それは君かね? 」
「ちょっとダンジョン外で他所のパーティーと対談する機会がありましてね。そこでそんな可能性がある、という仮説を話していたんですが、それを近くで聞いていた探索者が偶々いたみたいです。そこから漏れたという所でしょう」
「では、ここは正直に答えてもらおう。君たちが拾ったスキルオーブは今までに何個だい? 」
「ギルマスも覚えていると思いますが【火魔法】。そして私が覚えている【雷魔法】。隣の文月さんが覚えている【水魔法】。この三つです。それ以外では清州ダンジョンに潜っている時に何処かのパーティーが出しているのを見ましたが、これはカウントに入らないでしょう。ドロップした階層はそれぞれ五層、九層、六層ですね」
【保管庫】の情報はまだ出さない。いや、出せない。ここで天秤にかけていい情報ではない。その為にはギルマスからもっと情報を引き出す必要がある。
「なるほど、君が活動を始めてほぼ四ヶ月になるか。その間に三つのドロップか。君はダンジョンに好かれているようだな」
「それはダンジョンマスターに同じことを言われましたよ。陰ながら応援していると」
「では、四層、八層、十層、それ以降でのドロップはまだ見たことは無いと」
「潜っている探索者は俺だけではありませんからね。ちなみに四層についてはさっき話題にした他所のパーティーが遠征してきた結果【水魔法】のスキルオーブをドロップしています。あと一、二、三層については情報がありません。もしかしたら誰かがコッソリ拾って使っている可能性はありますが……」
ただ、その階層に潜った人たちが大金を手に入れるチャンスでもあるスキルオーブをそのまま売却する可能性は高いと考える。それでも情報が上がってこないという事は自分で使っているのか、よほどドロップしにくいテーブルを採用しているんだろうな。
「この事を知ってるのは……いや、確証に変わったことを知っているのは我々三人以外には? 」
「おそらく居ないかと。仮説という点で知っている人はかなりの数でしょうし、実際に出したパーティーは少なくとも一つ、それ以上は解りませんね」
「ふむ……この情報は拡散して良いものだと思うかい? 」
「ダンジョンマスターの言い様だと、探索者がたくさん来ることは望みだそうですので、一獲千金を狙って訪れる探索者はそれなりに増えるでしょうね」
「そうか、では小西ダンジョンが黒字化するのもそう遠くないな。これは良い情報を引き出してくれた」
「ありがとうございます。素直に受け取っておきます」
褒められたら素直に受け取る。そうして考えを反らしていくことで確信に近いところは黙っておくことにしよう。
「他には何か質問はしたかい? 」
「いくつか投げ込んでみましたが、ほとんどはまだ教えられないと言われましたよ。知りたければまた誰よりも早く二十一層まで来いと言われました……あぁ、何故ドロップの肉が真空無菌パックされてるかについては答えをもらいました。持って帰るまでに腐るようではドロップさせてる価値がないからだそうです」
「それについては他のダンジョンでも入手した情報だな。ネタ被りか……ボス部屋に挑むなら事前に知らせておけばよかったな」
「まぁ成り行きでボスに挑むことになりましたからね。勝てたのも……ほとんどは運が良かったから、という所でしょうか」
ここでお茶を啜る。程よく冷めたお茶が体全体に染み渡る。そういえば一層に戻ってからほぼ無休憩で戦っていたから喉が渇いていたんだな。ようやく体もダンジョンから抜け出して落ち着いたという感覚が戻ってきた。まだ保管庫の事は言わない。おそらくそれどころじゃない騒ぎになるからだ。
「後はそうですね、六層のワイルドボアと十層のジャイアントアントとワイルドボアの密度の濃い個所については、腕試しの関門みたいなものだそうです。それを攻略できない程度の腕ではボスに挑むのもそこより深く潜るのも難しいだろうからあえて設けた、と言っていました」
「小西ダンジョンの難易度は他に比べて高いらしいね。それについてはどう思っているんだい? 」
「おそらくですが、マップそのものが狭いわりにモンスターのリポップ量が清州ダンジョンや他のダンジョンと同じぐらいに設定されているからだと思います。時々清州ダンジョンに潜っては居ますが、明らかに清州ダンジョンのほうがモンスター密度は低く、その分マップが広いという形になっています。その辺にかかってるんじゃないかなと思います」
これは俺の感想だが、広いダンジョンでモンスターが密集しているところを見たことは無い。人数が多くて片っ端から倒されている可能性もあるが、遠からずだと思っている。多分ダンジョン運営の際のリソースにも限界があるんだろう。
「そんな所をよく二人で通り抜けてるね。やはりあれかい、ステータスブーストって奴のおかげかい? 」
「そうですね、そのおかげである事は間違いないでしょう」
「それを教えてもらったのは誰だい? 是非経緯について話を聞きたいところだ」
「師匠に関しては教えることは出来ません。誰に教えてもらったかを隠す条件として広めていいという許可を得てますから。おそらく清州ダンジョンでもこの小西ダンジョンでも、使えるようになっている人はかなりの人数居るんだと思います」
ありがとう架空の師匠。ここでも役に立ったよ。
「ステータスブーストか……ブーストするって事は元のステータスが高くなければ効果もそれなりになる、ということかな? 」
「体感ではそういう事になります。戦っているうちにどんどん速く強く硬くなっていく。おそらくですが、モンスターを倒した時に出てくる黒い粒子。アレを浴びることでステータスが強化されて行くのではないかと思っています」
ギルマスが茶を啜る。一時会話が止まる。静かな時間が流れる。俺も茶を飲む。温くて飲みやすい。もう一杯貰えるなら少しだけ熱い茶が出てくることだろう。
「そういう情報はどんどん上げてほしいのがこちらとしての希望なんだが……」
「できる限りの情報は今ひねり出してる感じですね。後は……あぁ、グレイウルフの肉がほぼ確定でドロップする方法は見つけましたよ」
「何だって? それは初耳だな。どうやるんだい? 場合によっては二層や三層で活動する探索者が大量にドロップを持って帰ってきて収入が増えることになる」
「九層以下に潜れるようになれば微々たる収入になる事は間違いないですが……ここに骨があります」
バッグの中から机の上にゴトッとスケルトンの大腿骨を見せる。
「何の骨だい? もしかしてスケルトンの骨だったりするのかい? 」
「そうです。こいつに食いつかせると、グレイウルフがパッシブモード……つまりこちらを攻撃してこなくなります。その間に一撃で倒すことが出来れば肉をほぼ確定でドロップすることになります。先ほど開場前に二時間ほどグレイウルフをこの方法で殲滅していましたが、骨が砕けることなく二百ほどのウルフ肉を手に入れることが出来ました」
「十分な数での実証も出来てるって事か。ちなみにその骨、今何本ぐらい持ってるんだい? 」
「五本ほどですかね。足りないなら取りに行く事も出来ますし、予備の予備ぐらいで数を持ってる感じです」
本当は十本持っていて五本は保管庫の中だ。とりあえず手持ちの五本を机に並べる。
「ギルドで買い取って流通に回すより、探索者に貸し出して返却してもらう形でレンタルサービスとして運用すれば稼げるかな」
「レンタル価格を買い取り価格より高く設定して、骨を返却された場合そのままお金も返す方式でやれば利用者も居るんじゃないでしょうか」
「それは良いな。考えておこう。安村さんには骨の確保に走ってもらうギルドクエストを発注するかもしれないからその時はよろしく頼むよ」
「まぁ、考えておきます」
所謂ご指名依頼って奴を受ける事になるのだろう。それなりに儲かる依頼だと良いが働き損という事もありうるからな。ちゃんと次は説明を聞いてから動くようにしよう。
「とりあえず聞き取り調査はこのぐらいで良いだろう。今日はご苦労さんだったね。ゆっくり休んで英気を養ってもらいたい。その間に私はダンジョン間会議で情報を共有することにするよ」
「その辺は私が口出しする事ではないでしょうからお任せしますよ。話せることはすべて話しました。これで良いですかね? 」
「あぁ、十分な情報を出してもらった。ありがとう。後は次にダンジョンマスターに会った時の質問を考えておくから参考にしてほしい」
「そのまま聞ける保証はありませんが、まぁ聞くぐらいなら出来るんじゃないでしょうか。ただ、私が最初に二十一層にたどり着く保証はどこにもありませんよ? なんたって私は十七層以降の情報を全く仕入れてないので」
「そうかね、まぁ、しばらくゆっくりしてくれ。案外こういう時は気分が高揚しすぎてたり逆に疲れがどっと押し寄せることがあるものだ。養生してくれたまえよ。話は以上だ。お疲れ様」
「そういえば、こういった機密に関する情報を話す場合、毎回ギルマスに報告するという形になるんでしょうか? 」
最後に気になる点を質問しておく。
「Cランクになった時に配られた冊子に連絡先が載っていたはずだ。そこへ連絡すればいいはずだよ」
「解りました。何かありましたらそちらへ連絡する事にしようと思います」
「ただ私としては毎回ここで答えてくれるとありがたいがね。私の評価も上がるし」
「覚えておきます。では」
残っていたお茶をグイッと飲み干すと、応接室を出る。思ったより長い話し合いになってしまったな。文月さんはずっと黙ったままだったが、下手な会話を挟んで余計なことを言わないようにという配慮をしてくれたんだと思っておこう。
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