329:エレベーター
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もうちょっとで一区切りです。その後は……またダラダラと続きます。
「とりあえず、一層と七層と十五層を気軽に行き来できるようになる、という事で良いんですかね」
会話に入れなかった文月さんが現状を理解しようとしている。
「エレベータがどういうエネルギーやどういう原理で動くようになるかは解らないが概要は伝わったと思う。さすがに乗った瞬間急加速して床に押し付けられたりすることは無いと思う。思いたい。でもこれは流通革命でもあるな。ダーククロウの羽根集めも出来るし真珠と骨とオーク肉をひたすら集めてそれだけ持って帰る事も出来るし、その下、十六層以降へ移動するにも便利になる。出来上がりがちょっと怖くはあるが信じていいと思う」
「七層の場所を指定したのはいい案だったかもしれませんね。死角というかうまい具合に良い場所だったと思います」
「ど真ん中に突然エレベーターが出現してそこから俺たちが出てきたら大騒ぎだからな。茂君にはちょくちょく会いに行こうと思ってる」
「儲けを出すためのパイプ作りが却って足を引っ張る形になりますか」
「まぁ、どうしても必要になったら一泊してひたすら茂君を集めるって手もあるし、そこまで大きく変わる事は無いんじゃないかな」
「移動革命って奴に立ち会うとはこの文月の目をもってしても見抜けませんでした」
「そもそもダンジョンマスターというものが存在するという事と、彼が直接会いに来ること自体が想定外だ。もう後は彼がどういうものを作り上げてうまく稼働するか、それに賭けよう、ほらチョコでも食べて待とう」
文月さんにチョコを渡し懐柔する。文月さんは無言で受け取るとチョコを口に入れ、そして表情が少し柔らかくなった。
「しかし良いんですかね、私たちだけでこんな大それたことを勝手に決めてしまって」
「ダンジョンの管理者が良いって言ったんだから良いんじゃないかな」
「なんかとんでもないことに首を突っ込んでしまった気がします」
「それは保管庫スキルを知ってしまった時点でもう手遅れじゃないかなぁ」
「手遅れが更に手遅れになってしまいました。そういえば、これで七層と十五層に飛べるって情報は公開しても良いんですかね? 」
ダンジョンマスターとしてはバラしても問題ないと考えているだろうな。ただ突然エレベーターが出来たと話題になるだろうし、そうなったら間違いなく俺のせいにされるだろう。その際どれだけの関係各所へ情報を伝えるためにあっちへこっちへ行かされることを考えると、口をつぐんでおくほうが好都合じゃないだろうか。
「バレるか聞かれるまでは黙っておこうかなと思うが、少なくともギルマスには伝えておいたほうが……あぁでもそうなると口が軽そうなギルマスの事だからあっという間に広まってしまうな。とりあえず地上に戻ったら十三層から十五層の地図を提出した事とボスを倒したこと、この二点さえ伝えておけば良いと思うよ」
「鬼殺しかー。こんなか弱い女の子が鬼殺しねー……あんまり嬉しくないなぁやっぱり。私ボスそのものには触れてすらいないんですが……やっぱりおまけなのでは? 」
「結衣さんも鬼殺しだから少なくとも二人、若い女性が鬼殺しと呼ばれるだけの実力を持っている事になる。それに俺一人ではシャーマンを制しきれなかったのは間違いないからおまけではないよ。ちゃんと役に立ってくれた」
「この袖の焦げた服、後で奢ってください」
「それで機嫌を直してくれるなら」
鬼ころしへまた行く事になった。気が付くと、周りにスケルトンがリポップしている。焦って直刀を手にして対応しそうになるが、スケルトンはこっちに気づいていない。いや、気づいてはいるが襲ってこない、が正しいんだろう。おそらく、今この階層に居るモンスターは俺達を襲う設定になっていない。
ダンジョンマスターが襲われないのと同じように、保護機能が働いているんだろう。ダンジョンマスターって人類がなれるものなのかな。興味が湧いてきた。すると突然目の前にダンジョンマスターが現れた。文月さんはビクッと反応している。
「お待たせ。七層と一層に設置してきたよ。七層のエレベーターは六層側の階段の裏になるように設定してきた。さて今度はこっちの番だね。ちょっと待っててね」
ダンジョンマスターが壁に向かってブツブツ言い始めた。多分これは俺が保管庫を使っている最中と同じようなもので、ダンジョンマスター自身にだけ見えるのであろうコンソールを弄っているものと思われる。
段々外壁が色を変えていき……あーこれ見たことあるわ。メーカーも解るわ、M社のエレベーターだわ。石造りのダンジョンに似つかわしくない突然の現代技術の塊である箱が現れ始めた。やがて設定が終わったのか、ダンジョンマスターは中に入り色々とコンソールをいじっているらしい。
そしてしばらくすると、外へ戻ってきた。とりあえず暇だったので横に湧いたスケルトンは倒しておいた。スケルトンの魔結晶をエネルギー源に使うと言っていたしな。おそらく必要になるだろう。
「できたよ、外観は君の頭の中にあったものをそのまま利用してみた。入って使い心地を試してもらっていいかな」
ダンジョンマスターは自信作ですと言わんばかりにエレベーターの出来具合を試させようとしている。俺が知ってるエレベーターがそこにはあった。
「ちなみに一層まではどのくらいの時間が? 」
「君たちの時間軸で言う所の十分ぐらいかな。それ以上早くすると更にエネルギーが必要になるだろうし、君たちが箱の中で潰れてしまうと大変だからね。上手いところを調節したつもりではあるよ。さあ、そこの台座にゴブリンキングの角をセットしてみてくれ」
指された部分をみると、ちゃんと階層表示板とボタンが付いている。そしてその下にここに嵌めろと言わんばかりに穴が開いている。ゴブリンキングの角をはめ込むとピッタリとはまった。すると頭上の照明が点いた。
「その下の箱にスケルトンの魔結晶換算で六個入れてみてくれ。それでエネルギーは足りるはずだ」
「この魔結晶から直接エネルギーを取り出す技術、これが世の中に出回ったらダンジョン探索者はもっと増えると思いますよ」
「う~ん、それは自分たちの力でやってみて欲しいな。僕らから現状をみて、この原理を教えてあげるにはまだ早いと思う。だからこれは特別サービスだと思ってくれ」
今僕ら、と言ったな。つまりダンジョンマスターは他にも複数人居るって事だ。これは良い言質を取れたな。清州には清州のダンジョンマスターが居るという事だろう。他のダンジョンマスターに会う事もあるのだろうか。
「解りました。とりあえず起動してみますね」
保管庫からスケルトンの魔結晶を取り出し、台座の下にある穴にコロコロと入れていく。とりあえず六個ぐらいと言っていたので六個入れた。するとボタンが点滅しだした。
「ボタンが点滅したら行きたい階層を……と言っても一層か七層か十五層しかないんだけどね」
七層のボタンを押す。すると、扉が閉まり、エレベーターが動いている感覚が体を襲う。確かに動いている感覚はあるが、外は見えないし今自分がどこにいるかすら解らないちょっとした恐怖感を体が襲う。
「怖いかい? でも大丈夫だよ。エネルギーが足りないとそもそも動き出さないようにしてあるし、何かあったら僕も一緒に大変なことになってしまうからね」
「ええと……今どの辺を動いているんでしょう? 」
文月さんが恐る恐る質問をする。
「どの辺……というのは説明しにくいな。君たちの言葉でざっくり説明すると、ダンジョンは階層ごとに違う次元として存在している。その次元と次元を無理やりつなげて移動しているのがこの箱なんだ。だから途中で止まってしまったとしてもそこから中途半端な階に下ろされる事は無いよ。ただ……」
「ただ? 」
「どこの空間にも属さない謎の次元に取り残されてしまうことになるかな。そうなったらそこの呼び鈴を押すと良い。僕が暇なら助けに行くから」
「つまり階層をまたぐ階段を無理やり一列につなげてその長い階段を移動してるって事か。で、途中で止まった段階でどの階段に属するかは決まってないので何処に行くか解らない、と」
「だいぶ正解に近いね。その認識で合っていると思うよ。僕の作るものだから失敗はしていないと思うね」
それから暫く会話は止み、ただエレベーターの動く音だけが空間に流れる。しばらくするとポーンという音と共にエレベーターは止まり、そしてドアが開く。
「無事到着したみたいだね。実験は成功だ」
「今の実験だったの!? 」
文月さんは実験体にされたことに気づいてなかったようだ。
「あぁ、ドアは中にいる人がいなくなれば勝手に閉まる様になってるし、今エレベーターが何処に存在するかは……ほら、ドアの上に」
1・・・7・・・15 というエレベーターによくある表示が掲げられていた。今は7の所に表示がついている。細かいところまでよくできているな。
ドアが開くと、見慣れたサバンナの光景が広がる。どうやらサバンナマップにはたどり着いたらしい。試しに途中下車させてもらい辺りを確認する。確かに階段の裏だ。そして、表に回ると自分が作った見慣れたポールが目に入る。間違いないらしい。ここは七層だ。
「確かに七層だった。間違いなく俺たちはエレベーターで七層に来た」
「確認作業は終わりかい? じゃあ今度は一層に行こうか」
再びエレベーターに乗り今度は1のボタンを押す。またドアが閉まり、エレベーターは動き出したようだ。再び無言の時間が流れる。そして時間が経ち、エレベーターが止まった。ドアが開くと見慣れた洞窟めいた風景がそこにはあった。
「じゃぁ、初回特典はここまでだ。また君に会いたいね。探索者のサンプルとしても、友達としても? 」
「友達と思ってくれるのは光栄だが、俺にも俺の都合があるし他の探索者にも都合があるだろうから必ず約束を守れるとは言えないぞ」
「それでも構わないよ、ただ一つだけ伝えておくよ。僕は小西ダンジョンのダンジョンマスターとして君たちを応援している。じゃあね」
ダンジョンマスターは現れた時のように突然消え去った。そしてゴブリンキングの角を保管庫に収納して外へ出ると、今まであったエレベーターは岩の壁に変わった。
「夢では……ないですよね? 」
「少なくともここが一層なのは間違いないな。スライムばっかりだし。今後はエレベーターの往復電気代分だけ魔結晶を確保しておかないといけないな」
「すごい技術ですね……魔結晶の直接発電ですか。迂闊に知らせて分解でもされたらもったいないですね。しかしどうします? 戻ります? 」
「まぁ、ダンジョンを出るしかないだろうな。ここで潮干狩りしてていいなら何時間でもここに籠るけど」
「いえ、帰り……十五分だけですよ」
「やった~スライム~」
十五分スライムを狩る許可が出た。熊手をもう一本取り出すと文月さんに渡し、颯爽とスライムに駆け寄る。思わぬところで出来たスライムタイムだ。思う存分癒されよう。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
何時ものリズムが耳から聞こえる。落ち着いて素数を数えるまでもない、俺の精神に安らぎを与えてくれるいいリズムだ。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
さて……目下の目標を達成してしまった。これから何しよう? とりあえず鬼殺しになれたという事を報告しなければならないな。その後どうなるんだろう? 小西ダンジョン初めての鬼殺しとして表彰でもされるのかな。それともおめでとうございますで終わるのかな。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
まてよ、エレベーターが出来たって事は十四層にも重ための荷物を運び入れて何の問題も無いという事にならないか? そうなればまた適当に改造してやっても不思議は出なくなる。やはり公表するべきか、しないでおくか悩むな。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
とりあえずダンジョン庁の出方を見よう。もしも最初に十五層のボスを倒すことで初回ボーナスでダンジョンマスターが出る、という話をダンジョン庁として共有しているなら、何らかのアプローチが為されるはずだ。それを見てから情報を公開しても遅くは無いな。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
しかし、往復でスケルトンの魔結晶十二個か。高いのか安いのか判断に困るな。時間を金で買う事を考えたら七層から一層の間を移動する間に稼げるドロップ品と、その時間で十五層を回るほうが遥かに効率がいい。これで良かったの……かな。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
う~ん、自分の思いつきの薄さに呆れる所だな。今度はもっと建設的な話を持っていこう。その為にはあと六階層分深く潜らなければならないな。十七層以降はどんな風になっているんだろう。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。
今何時だ? ……午前七時。開場まで後二時間あるな。その間何をするか考えておかないとな。ウルフ肉でも集めるか?
「文月さん、今午前七時なんだけどどうする? 二層へ下りてウルフ肉でも集める? 」
「私としてはそのほうが良いですね。三層でゴブリン狩りでも良いですよ」
「じゃあゴブリン狩りとウルフ肉集めと両方できる三層まで下りよう。そこで一時間ぐらい粘ってそれから帰ろうか」
「そうしましょう。スライムに熱中して放置されているのかと思いました」
帰りの時間が早すぎた。元々夕方頃に帰る予定だったのだから大幅に予定は短縮されているが、それでも時間をただ過ごすよりは何かを倒してドロップ品を持ち帰るほうがより探索者らしい。そういう事になった。
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