328:ダンジョンマスターと出会った
「ご名答。ボクはここの管理者さ。ダンジョンそのものの生成、モンスターの湧き具合、その他色々はボクが管理している。君たちに話しかけたのは、このダンジョンで最初にボス攻略を達成した、いわば初回撃破ボーナスみたいなものだと思ってくれていい」
「それはダンジョンについていくつか質問して良いって事かな? 」
「構わないけど、ボクにも話す権限みたいなものがあってね。ダンジョンの根幹に関わるような話は出来ないよ。それでもいいなら」
質問権が与えられたようだ。質問したいことは色々ある。
「じゃあ、いくつか質問をさせてもらっても? 」
「初ボス撃破の権利だ。質問にも答えるし、何なら報酬を特別にあげても良い。なかなか面白いスキルを手に入れてるみたいだし、将来有望な……将来って年齢でも無さそうだね。でもこの先も探索者とやらを続けていくんだろう? 質問によってはそれの助力になると思うよ」
ふむ……何を聞こうか。いくつか候補はあるし、報酬が貰えるならそれに越したことは無い。今一番欲しいものか。よし、報酬は決めた。
「とりあえず、十層のモンスター密度はなぜあんなに濃いんだ? 抜けてくるだけで一苦労だったぞ」
「そこからくるんだね。答えよう。ちょっと危険な地帯があるほうが探索者の好奇心を満たせるし、自分の力量が試せるだろう? 六層のワイルドボアの大群だって同じこと。そこを突破できないようじゃ探索者としてやっていけないだろうからね。関門みたいなのを設けておいたのさ」
なるほど、いわゆる試金石だったか。六層のワイルドボアの大群とダーククロウの茂る木。そして十層のジャイアントアントやワイルドボアの密度。俺にとっては中々の難関だったことには違いない。四層のソードゴブリンもそうか。アレを突破できるようにならないと探索者として成長しないという事だな。
「次の質問だ。探索者を招き入れてモンスターを倒させて、ダンジョンにどんな利点があるんだ? 」
「すまないがそれは答えられない。少なくとも今の君たちに教えられる情報じゃないね。もっと深く潜れるように……そうだな、誰よりも早く二十一層まで来られたらまた助言を上げよう」
つまりBランク間近まで強くなれればまた飴をくれるという事だな。覚えておこう。
「さて、他に質問は? 」
「何でゲーム感覚でダンジョンが構成されているか、かな。ドロップ品が何故使いやすい形でドロップするのか。主に肉周りだ。わざわざ無菌真空パックなんてものを用意してまで探索者に利益を与えるのか」
「それも今の段階では答えられない。それも二十一層までたどり着いたら教えてあげるよ。ただ、肉はほっといたら腐るだろう? 腐ってしまう肉をわざわざ地上に持って行っても食べられないんじゃ意味がないからね。そこは君達の技術を参考にシステムとして組み込まれていると思ってくれていい」
色々質問はあるが、今知りたいのはこのぐらいだろう。
「さて、君たちへの報酬だが何が良い? ボクにできる範囲で、あまりダンジョンに影響を与えないなら何でもかなえてあげるよ」
望みか……今一番欲しい望みとは何だろう。ここまで移動してきてボスを倒して休憩して帰る。それではこの先に進む事は難しいだろう。時間的な意味でも、報酬を持ち帰る意味でも。だとしたら俺に思い付く選択肢はこれだ。
「エレベーターが欲しい。この十五層から一層まですぐに移動できるような奴が欲しい」
「エレベーター? 」
そこで、エレベーターとはどういうものか解る範囲で説明した。エレベーターの仕組み、どういう移動方法なのか。それによってどんな利益を得ることが出来るのか。
「口頭では解りにくいな。ちょっと頭を借りるよ」
ダンジョンマスターは俺の頭に手を当てる。すると、頭から何かが抜け出すような感覚を覚える。知識が吸い取られているようなそんな感覚だ。しばらくすると納得したように手を放した。
「ふむ……なるほど、これは興味深い」
暫くダンジョンマスターは考えた後、語り始めた。
「なるほどね。たしかに一層からここまで降りてきて何度かの休憩を取りつつ深層に挑むには相当の胆力と体力、それから兵站を整える必要があるだろうね。そこがネックになって深層に挑みにくくなっている、か……良いよ、大体わかったからボクにでも作れそうだ。ただ、どこに設置するかとどういう仕組みで動かすかを考えなければいけないね」
「それについてだが一つ案がある。ここにボスを倒した証拠であるゴブリンキングの角がある。エレベーターを使うための仕組みとして、このゴブリンキングの角をキーにしてエレベータを稼働させることは出来るだろうか」
「なら動力源には魔結晶を使うような形でどうだろう? 魔結晶はそれなりに量が必要になるけど、エネルギー源として使う分には問題ない。でも良いのかい? 帰り道でもモンスターは狩れるだろう? その分君たちの収入が減ることになるよ」
動力が魔結晶……つまり魔結晶は何らかのエネルギーの素として役立てることができることが一つ解った。
「構わない。それに、もっと深く潜ってこいというのに潜ること自体が難しくなっていくのはダンジョンマスターとして面白くないんじゃないか? もっと深く潜って……君が普段どこに居るかは解らないが、そこまで到達してくれる探索者は多いほうが良いんじゃないか? 」
「それもそうだね。よし、エレベーターを設置してみよう。エネルギーは……ここから一層までならスケルトンの魔結晶六個ぐらいあれば足りるかな。それから、エレベータの中にゴブリンキングの角をはめ込む台座を用意しよう。それが起動キーという風に設計すれば君も納得するし、エレベータを使える人材もある程度選別できる。ついでにゴブリンキングを倒したことがあるものが角を持ってないとエレベーターが見えないようにすれば隠蔽も完璧だな。面白い、いい案だ。早速改造してみよう。どこか、エレベーターを設置するのに良いところはあるかい? 」
話はとんとん拍子で進む。どうやらダンジョンマスターもサッパリ会いに来てくれる探索者が少なくて寂しい思いをしているのかもしれない。今後より深くでダンジョン素材を持ち帰るにも、保管庫スキルがばれないようにするにも、そういう移動設備はちょうどほしかったところだ。
「十五層の端っこに長い通路の先の小部屋に行き止まりの……ここだ、この辺にエレベータの乗降口を設置するのがいいんじゃないかな」
「確かにここなら知っている人じゃないとたどり着かないだろうし悪くないと思うね。で、十五層と何層に移動できるのが良いかい? 」
具体的な話に入った。ここでどこまで譲歩を引き出せるのか。
「贅沢を言えば一層まで直通だと嬉しい。十五層まで来るのにほぼ半日かかる行程を一気に短縮できる。帰り道の荷物はさすがに少なくなるけど、移動時間効率を考えたらものすごく楽が出来る。それに……」
「それに、何だい? 」
「エレベータの情報がもっと広まれば小西ダンジョンのお客さんも増えて、何を目的として探索者を呼び寄せようとしてるか俺には解らないが、そっちにも利益はあるはずだ。そうだよね? 」
「う~ん……確かにそうだね。しかし、もっと富とか名声を求めると思ったけど、案外地道だね。七層には途中下車しないのかい? 」
「七層かー。でも視界が切れる便利そうな場所が……あぁ階段の大岩の裏とかどうだろうか。七層には目立つものを置いてあるからそれをさておき裏側まで確認する人は居なさそうだし設置するならそこかな」
「なるほど。じゃあ早速作りに行こうか。七層までなら魔結晶三個ぐらいあればエネルギーは足りるね。とりあえずこの階層の設置地点まで移動していこうか。道中のモンスターは君らに襲い掛からないように今設定を変更したから安心して良いよ。ただ、エレベータ作り終わったら解除するからね」
どうやらこのダンジョンマスターは襲い掛かる人と襲い掛からない人を指定してしまうことが出来るらしい。ダンジョンマスターっぽさが一気に上がる。少年だけど。
「しかし、君は希少なスキルを手に入れたようだね。正直誰もドロップしないとタカをくくっていたんだけれど面白いものだ」
「ダンジョンマスターはスキルオーブのドロップ状況も操作しているのか? 」
「さっき頭の中を覗き込んだついでに得た情報だが、君が提唱したダンジョン毎、階層毎、モンスター毎にスキルオーブのドロップ率が決まってるんじゃないかという奴、すくなくともこのダンジョンでは正解だ。小西ダンジョンと呼ばれているんだっけ? ボクの設定できる範囲ではそういう事になっている」
仮説は正しかったか。だがこれはどこで情報を手に入れたのか、という話になるので黙っておくことになりそうだな。ダンジョンマスターと会いました、なんてことになったら上を下への大騒ぎになるだろうし、俺はそういうものを求めていない。ただ探索が楽しいだけのおじさんだ。
「さて、七層と一層までエレベーターで移動できるようにすればいいのだったね。早速設置できるようにダンジョンを組み替えてしまうよ」
「それでお願いします」
「解った。しばらく時間をくれるかい? その間のんびり休憩していると良いよ。モンスターも襲ってこないだろうし、戦って多少疲れたろう」
結構話の分かる人だ。しかし、ダンジョンマスターというものがどういう因果で生まれたのか、そもそも俺に姿を見せたのは初回特典とはいえ何故なのか。まだ色々と質問したいことはある。だが今日はこの辺でお開きだろうな。とりあえず疲れた。ゆっくりさせてもらおう。
カロリーバー片手に水を飲み、失った体力を徐々に回復させていく。ダンジョンマスターは頭の中で色々考え、現実の技術を吸収するべく作業に没頭している。時々質問をされるが解る範囲で答えていく。
彼の所作を見ていて分かったことが一つある。魔結晶をそのままエネルギー源として取り出す技術は存在する。人類がまだできていない、クリーンエネルギーの技術だろう。俺が眺めていてもそれを理解することは出来ないが、可能である、という事については大きな収穫だ。
文月さんはとりあえず置いてけぼりになっているので、サクサクと俺が取り出したカロリーバーを食べている、バニラ味だ。
「あ、それ巷で大人気になっているバニラバーという奴だね。僕にも一本くれるかい? 」
「いいですよ。どうぞ」
「ありがとう……なるほど、スライムはこの味で乱数バグを引き起こしている訳か」
一人納得している。どうやらスライムのドロップ確定はバグの産物らしい。じゃあグレイウルフに骨やったら肉を落とすのはあれもバグなんだろうか。
モンスターはダンジョンマスターの制御下にあるが、全てを管理できている訳ではないらしい。どうやら世界規模でバニラバーの儀式が行われているらしいので、これは何かのトリガーがあってその結果すべてのダンジョンにおいてバグが発生し続けていると考えたほうが良さそうだ。
「一層側のエレベーターは何処に設置しようかね? やっぱり目立たない所のほうが良いかい? 」
何かをいじっていたダンジョンマスターがこちらに質問を投げかけてくる。一層か……ならあそこが良いな。
「一層のここの隅っこに狭めの道があります。ここならそもそも人が通らないので隠れて使うにはちょうど良いんじゃないかと」
「なるほど、じゃぁそこにしよう。ちょっと設置してくる。しばらく待っててくれたまえよ」
ダンジョンマスターは目の前から消え去った。どうやらダンジョン内を自由に転移するスキル……かどうかは解らないがそれが出来るらしい。羨ましい。出来ればそっちのスキルのほうが欲しかった。願いを言われてとっさにエレベーターと言ってしまった俺の考えの無さにちょっと打ちひしがれる。
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