327:ゴブリンキング2~勝負はあっけなく~
最近、前日に食べた食事を思い出せない
文月さんと共に一旦ゴブリンキングの居場所から入口付近まで離れて距離を取る。ゴブリンキングはゆっくりと玉座から立ち上がった。どうやらボス戦モードに切り替わったらしい。いつの間にか右手に体の大きさ相当の剣を持っていた。
「フレンドリファイアが無効なのはチートですチート」
「はいはい、早く治して。ここからが本番だぞ」
「お腹空きました」
「もう? 緊張感無いなぁ」
「一対二でしょ? 何とかなりますって」
ズシッという音すら聞こえてきそうな雰囲気だ。身長的に見ても見上げるタイプのモンスターは初めてだ。改めてデカいな。お肌もツヤツヤしている。ワセリンでも塗っているのだろうか。夢か幻か、ゴブリンキングが炎を纏っているかのように背景が揺らいでいる。右手には俺の直刀より長いであろう両刃剣をもち、掲げるでもなくぶら下げながらゆっくりとこっちへ近づいてくる。
「やる気満々みたいですよ、というか喧嘩売ったのはこっちからでしたね」
「一対二を卑怯とは思わないだろうな。なんせボスだ、多人数で戦うのが前提だろうし……でも」
これは……今までで一番危険な相手だな。俺の頭の中に備え付けられていたらしいアラームが警鐘を鳴らし始める。二人で挑むにはちょっとばかし厳しい相手であることを教えてくれている気がする。
どう挑む? ステータスブーストで一気に近づいて斬りにかかるか、向こうからの攻撃を誘って隙を作らせて一撃入れるか。だめだな、どれもちょっとダメージになるかどうかが思い浮かばない。……あれ、そもそも正面から真っ当に戦う必要あるのか?
とにかく倒せばいいなら苦戦する必要はない。いきなり奥の手を使うか。ぶっつけ本番だが何とかなるだろう。
「ゴメン文月さん、そしてゴブリンキング。この雰囲気とかを台無しにはしたくないんだけども」
「何ですか急に。こんな所で告白とか死亡フラグですよ? 何する気ですか」
「雷ア~ンド射出」
手持ちのゴブリンソード全てを音速を超えた速度で一気に射出しその通過経路上に雷魔法で作った領域を通過させさらに加速する。放たれたゴブリンソードは雷魔法で編み込んだ磁界により派手なエフェクトと共にさらに加速されゴブリンキングを串刺しにする。
ゴブリンキングはその三十本を超えたゴブリンソードの推力に耐えきれず後ろにそのまま吹き飛び、勢い余ってそのまま玉座に張り付け状態になる。
「え、え? 」
文月さんは混乱している。どうやらここで保管庫スキルを使うとは思ってなかったようだ。さらに追加で文月さんが普段使ってない槍を射出する。射出された槍はゴブリンキングの脳天を貫き、そのままゴブリンキングは黒い粒子になって還っていく。物凄い粒子の密度だ。その分強かったという事なのだろう。
唖然とする文月さん。グッとこぶしを握り締める俺。はー気持ちいい。久しぶりの一斉射出だった。効かなかったら今度こそ真面目に勝負を挑むところだったが、無事に効いてくれて何よりだ。
「……勝ち負けで言えば大勝利ですが、雰囲気ぶち壊しも良いところですね」
「すまない……でもこんなかっこつける場面で、射出が使えるようになって、雷魔法が使えるようになって、それからずっと憧れてた技を撃つなら今しかないと思ったんだ」
「いやでも、もっとこう、何か無かったんですか。ギリギリまで消耗させられたところまで追いつめられてから使うとか」
「消耗するだけ疲れるじゃん。それにダメージはちゃんと受けたし」
「えー……」
「まあそう言いなさんな。おかげでダンジョン戦闘における願いが一つ叶った」
「そんなしょうも無いことが願いの一つだったんですか……後、私の槍勝手に使った」
「普段使わないんだし良いじゃん、出番が出来て」
「私の槍で止めを刺す……これ私が倒したことになりませんか? 」
「共同戦果かな。結局スキルの力に頼ることになったし」
火傷負傷とこれまでの激闘は何だったんだと文月さんは呆れている。ヒールポーション二本が無駄になってしまったな。
「それならそもそも、全員相手に射出で対応すればよかったんじゃないんですか? ポーションと痛みを返してください」
「それはそれでボス戦に来たという雰囲気が台無しだったじゃん」
「結果的に大して変わらないじゃないですか! もう……まぁ、いいです。今更安村さんに何言っても無駄な気がしてきました」
「とりあえずドロップを確認しに行こう。なにくれたんかな」
ゴブリンキングが消え去った後には三十本のゴブリンソードと予備の槍、そして……大きな魔結晶だ。本当に魔結晶だろうか? 他の魔結晶に比べて球体度が高い。それと周りのモンスターが散らばらせた多数のドロップと、角が一本。鬼の角かな?
「鬼の角をゲットした。これで鬼殺しになったって証明かな」
「私の分は? 」
「欲しいなら持ってって良いけど、もし売りさばくぐらいなら記念品としてほしいかな。なんせ鬼の角だし」
「鹿の首を飾るようなものですか」
「あ、これ玉座はダンジョンオブジェクト扱いらしい。収納に入らないや。それ以外は……よし、曲がったり折れたりはしてないな。ゴブリンソードも引き続き使えるぞ」
範囲収納で玉座ごと収納しようと試してみたが、どの角度から収納しようとしても入る事は無かった。よく見ると傷一つついてない。さすがダンジョンオブジェクト。もし俺が【採掘】スキルを持っていたらこれもまとめて木っ端みじんに出来たんだろうか。そういう意味では採掘スキルが欲しくなってきたが、うっかりダンジョンを破壊する事を考えると微妙だな。
ゴブリンキングの魔結晶 x一
ゴブリンキングの角 x 一
まとめて範囲収納して保管庫を確認すると、ゴブリンキングの魔結晶という項目がちゃんと載っている。特別大きいし、売ったらさぞ価値があるものなんだろうが、せっかくなので残しておこう。
後はお掃除だ。掃除機で吸い込むかのように、フロア一帯を範囲収納しながら戦闘があった箇所を歩く。リストにはホイホイと拾ったアイテムの名称が更新され続ける。お、ヒールポーションじゃん。これで一本分は浮いたな。
ゴブリンシャーマンの魔結晶は……確定で落とすらしいな、八個ある。取り出してみるとこれも中々の重さだ。スケルトンよりちょっと大きく感じる。それなりにレアなのだろう。それにスキルオーブを落とすかどうかのチェックもしないといけないな。
何時もの流れならゴブリンシャーマンしか落とさない何かがあるはずだ。次回チャレンジする時があればまた倒してみよう。しかし、実際に戦っていたらどのくらいの被害が出ていたんだろう。単体で強い相手、というのは過去戦った覚えがあるのは初めてのソードゴブリンぐらいだ。十層の時は量で質を圧倒されたからまた違うだろう。やはり再戦して確かめるしかないか。
「さて、ボス戦も終わらせたし一旦十四層に帰るか」
「なんだろう……何か納得いかない……」
文月さんがブツブツ何かを言っているが、どんな手段を用いたとはいえボスを倒したことに間違いは無いのだ。ここは胸を張ってボス部屋から出よう。そういえばボスってどのくらいの間隔でリポップするんだろう? 帰ったら調べるか。
突然拍手の音が響く。
「あっはっは。まさかそう来るとは思ってなかったよ」
声に驚いて振り返ると目の前に少年が立っている。さっきまでは居なかったぞ。髪は短く白い服に黒いマントを羽織った、十歳から十四歳ぐらいだろうか。とにかくさっきまでは居なかった。ボス戦を見物していたとでも言うのだろうか。戦闘中には全く姿を見せなかった。突然ワープしてきたようなものか。
「誰だ? さっきまでは居なかったよな」
「そうだねえ、君たちの言葉で言う所のダンジョンマスターって奴かな。見物させてもらったけど戦闘としては高得点だけど雰囲気は台無しも良いところだったね」
透き通るような声で少年は語りだす。
「ダンジョンマスター……ダンジョン管理者って事か」
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