326:ゴブリンキング1~雑魚戦~
ボス部屋に明かりが点く。奥の……そうだな、二メートル以上はあるだろうか。明らかに体の大きい、しかしでっぷりとしている訳ではない、そう、比較的スマートな筋肉で覆われたイケメンであろうゴブリンが、玉座に座っていた。その額に生えた一本の角が鬼であることを証明しているかのようだった。
その玉座の傍らには大きい一本の剣が傾けられている。剣は王権の象徴とも言うからな。やはりゴブリンの王なのだろう。
そのゴブリンを囲うように見たことが無いゴブリン、これがゴブリンシャーマンって奴か。手にはスタッフを持ち、こし蓑一丁というゴブリンとはまた違った、これはゴブリン的に偉いゴブリンが装着する物なのだろうきらびやかだがセンスの無い装飾品を纏っている。これが八体。
その前には綺麗に整列したソードゴブリンとゴブリンが……ざっと七十以上待ち構えていた。玉座に座るゴブリンがさっと左手を上げる。その瞬間からゴブリンたちは一斉に動き出し、こちらへ攻撃を加えんと駆け出してくる。ゴブリンキング本人は動かず、肘は玉座に添えたまま右手はグーで頬杖をついている。どこぞの聖帝みたいなポーズだ。
ゴブリンキングが左手を上げて前へ突き出す。それを合図にゴブリンたちはこっちに向かってきた。
「ゴブリン数七十以上! あと魔法使いそうな奴が八! 広々としたリビングを有効活用したお部屋づくりの模様! 」
「物量で攻めてくるとはさすがボスですね。で、どうします? 」
「とりあえず数減らす。それから考えよう。奥の奴は見た目からして魔法使ってきそうだから打ってきたら避けよう……っと早速お出ましだ」
ゴブリンシャーマンは早速後ろから【火魔法】らしきものを放ってくる。味方が前に居るにもかかわらずだ。
「どうやらここではゴブリンの雑兵に命の価値は無いらしいな」
「後ろから撃たれるなんてどこの督戦部隊ですか」
「可哀想だからこっちで処分してあげよう。文月さんは奥の魔術師らしき奴狙って」
全開チェインライトニングの連発でターゲット数を考えずにとにかく放ち、まず数を減らす。ゴブリン自身が強化されているという事は無いようで、当たった先から黒い粒子に返還されて行く。
ここまで威力をあげて使っても最初の数匹は消し炭にすることが出来るが、七、八匹目あたりから効果が落ちて行く。やはり均等に当てていくには技量が足りないか。もしくはゴブリンキングが居る事で彼らも強化されているのか。
しかし、この密度と局面を切り抜けるには全力で撃ち続けてとにかく数を減らすのが先だ。どこまで持つかは解らないが、眩暈が起こるまでチェインライトニングを撃ち続ける。
文月さんも複数枚のウォーターカッターで近づいてくる奴を次々真っ二つにしていく。あっちも近寄る余裕はあんまりなさそうだ。
「作戦変更、まずは数を減らす! 魔法使いは後! 」
「了解! そのほうが避ける手間が無くて楽! 」
大き目のウォーターカッターでまとめて六匹ほどを真横に切り刻むと文月さんは手元の槍を回転させながらソードゴブリンに叩きつける。まだ余裕はあるな。
七十匹以上いたゴブリン達も残り十匹ぐらいまで落ち着いたころ、視界がブレる。さすがに高威力で連発すると……っと、【火魔法】が飛んでくる。避けないと……と回避行動を取ろうとしたが眩暈の始まりのせいか、足元がもつれる。
ついでに倒したゴブリンの魔結晶で足元を取られた。まずい、この角度は正面から受けるぞ。とっさに腕で庇う。炎の玉が俺の両腕を包み込んでツナギを燃やしていく。腕が痛い。熱い。
酸とはまた違った熱さを体験する。これが【火魔法】か。一千万円の価値のあるダメージを受けたな。両腕を確認して燃え移った火を消す。皮膚は赤くなっている。これはまだ普通の火傷だな。ステータスブーストのおかげで多少和らいでいてくれていると考えておこう。
火傷で済む程度の威力でこの際助かったとみるべきだろう。痛みのおかげか、視界も元に戻った。ここからは肉弾戦勝負だ。ステータスブーストを最高段階まで上げて目の前のソードゴブリンを三体連続で倒すと、その奥にいるゴブリンシャーマンに肉薄する。
ゴブリンシャーマンは【火魔法】を俺に当てたものの、次の行動が突進だと気づいて二射目の火魔法をくみ上げ始める。さっきの威力は覚えた。飛んでくるスピードも解る。なら……直前まで引き付けて避ける! 避けれた!
回避したその足で更にゴブリンシャーマンに肉薄すると、頭の上から股間の間まで一直線に直刀で切り落とす。耐久力はゴブリンとそう変わらないのか、それともソードゴブリンと同程度なのか、ゴブリンシャーマンは素直に真っ二つになってくれた。ドロップは何かある。だが今は拾う時間すら惜しい。
ゴブリンキングはまだ動かない。どうやら部下にすべてを任せて本人はニヤニヤと笑っている。二人だから余裕だろうという感じらしい。
その頃文月さんは手前のソードゴブリンを殲滅し終わり、俺とは逆方向に居るゴブリンシャーマンと水魔法で応戦している。が、どうも【火魔法】の密度よりも文月さんのウォーターカッターのほうが密度が高く、【火魔法】をスパっと切り抜けてそのままゴブリンシャーマンに刺さる。ゴブリンシャーマンは顔を真っ二つに割られ黒い粒子に還った。
残り六匹。ゴブリンシャーマンの【火魔法】が風雲なんとか城みたいにバレーボールの代わりに二人に降り注いでくる。回避しながら距離を詰める。どうやらこちらがゴブリンシャーマンに肉薄してようがお構いなしに放ってくるらしく、後ろからの砲撃にも気を付けなければいけないようだ。くそう、後ろに目が欲しい。
目の前まで駆け寄ったゴブリンシャーマンを掴んで盾にして【火魔法】をフレンドリーファイアさせる。……つもりだった。
しかし、ゴブリンシャーマンの放った【火魔法】はゴブリンシャーマンに傷をつける事は無く、当たったら当たっただけで掻き消えてしまった。どうやらこのゴブリンシャーマンには【火魔法】に耐性があるらしい。俺聞いてない!
……まてよ、つまりいくらでも盾にして良いって事だな。 俺はゴブリンシャーマンの両腕を飛ばすと口にゴミをぶち込み、何もしゃべれなくする。ゴブリンシャーマンはなんだかわめいているようだが口に物が入って上手くしゃべれないようだ。そのほうが静かで助かる。
ゴブリンシャーマンを片手で担ぎ上げ、そのまま盾として次のゴブリンシャーマンに走り込む。ゴブリンシャーマンは焦って【火魔法】を乱打してくるが、ゴブリンシャーマン同士なら少なくともダメージは無いんだろう。この戦法は効果的だな。
そのままゴブリンシャーマンの肉塊という盾でゴブリンシャーマン三匹目に肉薄し、直刀で心臓を貫く。三匹目を屠ったところで限界が来たのか、俺の左手に装着されていたゴブリンシャーマンは黒い粒子に還った。短い間だったが君はいい装備だったよ……
「あっつ! これあっつ!! 」
向こうで文月さんが被弾している。どうやら火は消し止めたみたいだが、おたがいこれでダメージ一だな。熱いという感覚が有るという事はそこまで深いやけどではない事を確認する。後二発までなら被弾してもまだ大丈夫だろう。焼かれた腕が痛い。ポーションで回復する暇があれば良いんだが。
被弾した分痛みがあるのでこちら側の攻撃は鈍っていく。これは……どこかで一旦回復タイムを取らなきゃいけないな。これぐらいならランク1のポーションで事足りるだろう。
事は時間勝負だ。相手は眩暈を起こしてでも【火魔法】を使い続けるだろう。そもそもゴブリンに眩暈が解るかどうかが疑問だが向こうにとっては王の御前だ、恥ずかしい真似はできないだろう。
だったら、ここはもうゴブリンシャーマンを磨り潰していったん文月さんと合流するのが最善かつ最短の選択肢だな。
文月さんのほうを見る。文月さんは無言でうなずくと、速度を上げてゴブリンシャーマンに到達する。そのまま槍で顔に穴をあけて黒い粒子へ還すと、速度を落とさずに三匹目のゴブリンシャーマンに肉薄しながら【火魔法】を避けている。こっちも負けてられないな。
お互いに四匹ずつ倒すとしてこっちは残り一匹。これは俺が早めに勝負を決めて文月さんのほうに駆け寄るほうが良いな。敵の残りは三匹とでかいのが一体。これでゴブリンキングが戦闘に参加してきたら全力で後退して回復の時間を取る所だが、まだゴブリンキングはこちらを見ているだけで動く様子はない。どうやら動き出すのはすべてを倒してかららしい。にくい演出だな。クソッ。
四匹目のゴブリンシャーマンと対峙する。身体能力はこっちが上、相手はこちらに【火魔法】を打ち込むぐらいしか対処法が無い。ならあとは近寄って斬るだけだ。
一瞬時間が止まったように感じたが、そんなことは無く、それでも無音の時が一瞬だけ過ぎ去ったような気がした。その瞬間放たれる【火魔法】と走り出す俺。【火魔法】を体スレスレに回避するとそのまま肉薄し、ゴブリンシャーマンを駆け抜ける形で一閃する。
ゴブリンシャーマンは俺の後ろで黒い粒子に還っていく。これでこっち側は片付いた。文月さんは……今三匹目を処理したところらしい。
俺は遠距離から雷撃をお見舞いし、ゴブリンシャーマンの注意を反らす。雷撃に反応しこっちを向いたのが運の尽きだ。その間に文月さんが駆け寄ると脳天一発、槍を叩きつける。頭蓋の凹んだゴブリンシャーマンはそのまま黒い粒子へ還った。
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