325:ボス戦前の準備運動
スケルトン同時四体との戦闘だ。向こうがこっちに反応する前に勝負をつけたかったが、ある程度の範囲に入ったことで気づいたらしい。さすがにあの剣はまともに受けたくないな。出来るだけ回避に専念しつつ、スキを見せたところで肋骨を外し核を割る。やる事はいつもと同じ。
文月さんも同じ。スキルを使わず槍でぶんなぐって無理やり核まで割り切っている。ああいう動きが出来る分槍には利点があるらしい。怒らせないようにしないとああなるのか。気を付けよう。
スケルトン四体にも普通に勝てる。五体だとより回避に専念する必要が出てくるだろうが、手傷を負わずに勝てるかと言われたら多分なんとかなるだろう。より自信が付いた。これならボス戦も行けそうだ。多分気のせいじゃなく、自分の実力としての確信だ。骨もくれたし懐は温まる。
「とりあえず左右の道を確認しよう。階段があるかどうか、行き止まりがあるかどうか」
「階段有ったら下りますか? 」
「今日は下りない。階段がある事を確認できればいい。さて、左右どっちへ行くか……文月さんに決めてもらおうかな」
「じゃぁ左で。何となくそんな気がします」
左へ行く事になった。正直外れていても当たっていてもどっちでもいい。外れていたらきっと反対側に階段はあるはずだろうという予想をしているからだ。
左へ折れると早速シャトルランの時間になった。間隔を開けて四体、骨ネクロが居る。二体ずつではなく一体ずつバラバラに居るのがもどかしい。
「向かって右側二体連続でお願い、こっちは左側二体やる」
「オッケー了解、ダッシュ! 」
二人それぞれの目標に向かって全力で走り込む。追いついて倒すのが早いか、召喚されるのが早いか。一体目、セーフ! その次の奥の……ああっ、もう腰まで出てる! これは倒さないといけない奴だ、スピードを緩めることなく駆け付け、せめて二体目が召喚される前に倒さなければ。
一体の養殖スケルトンが生み出されてしまったが、戦闘状態に入る前に肋骨を熊手で外し核を突き黒い粒子に還る。当然ドロップは落とさない。次の召喚を始めていた骨ネクロをすぐさま処理し、なんとか一体で済ませた。
「ふーっ、一体でなんとかセーフ。そっちは? 」
「こっちも一体で済んだ。二体出されると流石に手間だから頑張った」
「さて……よし、もう居ないな。曲がり角まで敵なし、と」
そのまま真っ直ぐ行くと曲がり角でスケルトンと対戦し撃破。更に歩くと小部屋に着いた。スケルトンも骨ネクロも湧いてはいなかった。だが、行き止まり。文月さんの選択は当たりでもあり外れでもあった。
「よし、戻ろう。行き止まりを確認できたのが利益だ」
「収入もありましたし無駄にはなりませんでしたね」
再びボス部屋の前まで来る。どうやらスケルトンはリポップしていないようだ。まだ時間的に早いからか。ボス部屋へ来るまでの道も確認するが、どうやら湧いていない。それなりに時間がかかるのだろう。安心して今度はさっきの選択肢で言う右折を選ぶ。するとスケルトンが三体。難なく倒すと剣を落としてくれた。
「コレクションがまた増えたな」
「それ、使うことあるんですか? 」
「俺の予想が当たっていればすぐ使うよ」
「その予想の当たり具合に深刻なエラーが有ったりしませんか」
「当たるか当たらないかだ、五十パーセントの精度を誇っている。中々だろ? 」
「ゲームだったら自分が攻撃する時は外れて相手が攻撃する時は当たる奴ですね」
何のゲームかは言わなかった。多分配慮する事柄があったんだろう。そのまま真っ直ぐ進み曲がり角でスケルトンとこんにちは。これも排除して骨を頂く。また奥に小部屋があり、小部屋の先には探し求めていた階段があった。
「な、階段有っただろ。これで十五層の地図としては最低限のものが出来上がった。タスクを一つこなしたって奴だな」
「最後のタスクどうします? ボスと戦ってみるかどうかって言うタスクがありますけど」
「う~ん、とりあえず部屋の前まで戻って休憩かな。その後考えよう」
「あんな広いところで休憩して大丈夫ですかね。物陰でリポップしたりしません? 」
「背中合わせで休憩してたら多分大丈夫。三百六十度監視してたらきっと湧かないさ」
戻りながらこの後の予定を詰める。とりあえず一呼吸置いて、行けそうだったら行く、行けなさそうだったら行かない。だが、俺個人の内心として鬼殺しという称号をもらえるかもしれない、というかすかな期待感が存在する事を否定できない。
「スキルがほぼ無い状態の結衣さん達でも攻略できたんだ、二人ともスキル持ちでステータスブーストも使える。多分、ステータスブーストに全力で頼ることになるだろうけど何とかなるんじゃないかな」
「つまり、行く気満々って事ですね。覚悟を決めます。でもその前に確認したいことが」
「何? 下準備できるものは出来るだけ準備するけど」
カロリーは補給しておくし休憩は取る。後出来る準備は体操ぐらいだが、ここまで体を動かしてきたのでしっかり温まっている。
「ボス部屋って入ったら最後倒すまで出られないとかじゃないですよね? 」
「それは……入ってみないと解らないかな。もしかしたら勝手に閉まるかもしれないけど……多分大丈夫じゃないかな。パーティーが分断されてボスが倒せなくて人が死んだ、という話をまだ聞いたことが無い」
「つまり出入りはある程度自由が利くって事ですね」
「一人ずつ順番に倒さなきゃいけないという事も無いだろうし、大丈夫だと思うよ」
そろそろ自分の欲を隠し切れなくなってきたな。正直に言ってしまおう。正直に話してちゃんとコンセンサスを取ったほうが良いはずだ。何せ大事な相棒なんだからな。
「文月さん。俺は鬼殺しという称号にとても興味がある」
「ぶっちゃけましたね。そしてボスに挑みたくて仕方ないという事も解りました。勝算はさっき言った通りってところですか」
「全力出せるかもしれない相手に挑みたいという気持ちはあるんだ。負傷したくないという避ける理由もあるけど、ダンジョンで一番最初にボスを倒す。これってとても気持ちのいいものじゃないかと」
「たまにはお日様に晒さないとおじさんも腐ってしまうという事でしょうか……って、すでに潮干狩りおじさんという立派な称号があるじゃないですか」
言われてみればそうである。すでに潮干狩りおじさんという唯一無二の称号持ちだった。
ボス部屋の前に戻ってくる。モンスターはまだ湧いていない。ここは湧きがそう早くないという所なんだろう。背中合わせに座って、休憩してカロリーを取りながらさっきの話を続ける。
「もう一つぐらいまともな称号が有っても良いと思うんだよね。それに倒せたら文月さんも鬼殺しだよ」
「女の子に鬼殺しって名前がついてもあまりうれしくは無いんですが……ステータスブーストなしでダンジョン潜ってる人たちからすると強いボスなのかもしれないけど、私たちにとっては苦戦する程度でしかないかもしれないと? 」
「それに結衣さんはボスに挑むことを止めなかった。つまりそれだけの実力は既に持ってるんじゃないかと思う訳よ。心配ならまだ早いとちゃんと忠告してくれそうだし」
「あれですか、もう一回ここまでボス倒すためだけに潜ってくるのは面倒くさいとか思ってません? 」
「確かに面倒くさいな。でもあれよ。体調とか鑑みて、今と同じだけのスペックを維持できるなら今挑んでも後で挑んでも同じじゃないか? 」
「確かにそうですね……スケルトンをあと何百体倒さなきゃ難しいかどうかも測りかねますし」
「それに最悪逃げればいい。逃げて再戦という可能性があるならそれも選択肢だ。どう、チャレンジしてみない? 」
「安村さんがそこまで熱意をもってダンジョンに潜るのは初めて見るかもしれません。ならやってみるのも面白そうですね。戦闘は辛そうですが」
文月さんのやる気を上げさせることには成功した。後は十分な休憩、十分な体調、それからカロリーだな。俺はバニラバーを二本同時に食べた。ここでカロリー不足でガス欠になったりしたら不味いからな。
「私にもください。バニラで二本。あとコーラも」
文月さんにも大盤振る舞いだ。背中越しで渡すと一気にグビグビと飲み込む音が聞こえる。げふっというゲップの音は聞かなかったことにしよう。
俺は立ち上がると全身を伸ばし始める。いざ動き出してアキレス腱が痛いだの言えないからな。念入りに体各所の動きをチェックする。
よしこれなら行けるだろう。文月さんに目線を送るとコクリと頷く。ボス部屋へつながる大きめの扉はすんなりと開き、俺たちを中へ招き入れてくれた。後ろで扉が閉まる。試しに扉を開けようとして見たが、普通に開くようだ。よし、退路は確保できたな。
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