324:ボス階
アラームが鳴った。おはようございます、安村です。あまり疲れていなかったのもあるが、目覚めはばっちりだ。ありがとうダーククロウの枕。こんなダンジョンの底でも気持ちいい眠りだった。
早速外へ出ると水を二杯分沸かす準備をし、隣のテントをガサガサと揺する。中で動きがあったので安心してストレッチを始める。あちこち解していると文月さんがいつもより早く出てくる。服を着直す時間分だけ早いという事だろう。
「やっぱり寝慣れないですね。ちょっと寝付くまで時間がかかりましたよ」
「眠れなかった、という訳ではないんだろ? 慣れるまで頑張って」
「眠気は無いですね。なのでバッチリ眠っていたという事だと思います」
「良い傾向だ。そのまま頑張ってくれ」
「小さいほうのテントどうします? 片づけるんです? 」
「持ち歩き用だからな、片づけて持っていくつもり。ただエアマットとインナーシュラフは俺のほうのテントに放り込んでおいてくれていいよ」
湯が沸くまでもう少し時間があるのでその間に片づけてもらおう。ガサガサドサドサとテント周りを片付ける音が聞こえ、その音が終わったあたりで湯が沸いたのでコーヒーを淹れる。
相沢君達はどうしただろうか。さすがにまだ迷っているという事も有るまい。十四層を見つけたことで手前のところで休んでたりしないだろうか。地図埋めのついでにちょっと見回ってみよう。
「彼ら、どこ行きましたかね? もう先に進んでるとか? 」
「手前で安心して休んでるのかもしれないな。もしくは寝てる間にこっちのテントを見つけて消沈しちゃったか。何にせよこっちのほうが先に着いたのは間違いないだろうからな。どう動かれようと気にするところじゃないよ」
ストレッチを続けながら十四層の地図を取り出す。清州の十四層とも見比べてみる。う~ん、共通点があるっちゃあるが、十三層への階段と十五層への階段の位置はかなり違う。清州のほうがもう少し迷路めいている。これもダンジョン規模の違いって奴かな。
出立の準備は整えた。テントはそのまま放置だ。「外出中 安村」のいつもの札は貼り付けておく。小西ダンジョンならこれでいたずらする人は居ないだろう。居たならもう七層でいたずらをされている……あぁ、一人だけお土産をコッソリおいていった人が居たな。それぐらいだ。
十四層の埋めてない部分をまず埋める。十三層に比べれば単純な階層で、パパっと歩いて行き止まり、中規模の部屋、それから十四層を一周するような外側の回廊部分を描き切ると、地図は完成した。串って漢字みたいだなと最初は思ったが、どっちかというと匣というイメージだ。
十三層はまだすべて埋められていないが、十四層は埋めた。セーフエリアだけでも完璧に地図が出来ているのはそれだけでも便利だろう。
「さて、十四層の仕事は終わりだ。十五層で運動しながら地図を描こう」
「やっと食後の運動ですか。十五層はどのくらいの密度のモンスターが出ますかね」
「スケルトン四体の集団ぐらいは出そうだな。それ以上は……正直言うとそれ以上はあんまり出てほしくない。手数の問題で」
「二人ですからねえ。その点さっきの相沢さん達は楽でいいなと思いますけど」
「無いものを得ようとするより手持ちでどうするかを考えようや」
十四層を歩きつつ自分たち以外に人間の居たような形跡を探す。どうやら十三層から誰かが来た形跡はある。十中八九彼らだろう。ただビバークしたような風でも無かったので、小休止して上に戻った、といった所だろうか。十五層へ行くのは諦めたのかな。
「十五層は独り占めだな。今度こそ確実に一番乗りっぽいぞ」
「まだ拘ってるんですか。私はもう気にしてないのに」
「せっかくなら鼻を明かしたいとは思ってるからな。なんならボスに挑戦しても良い。……ん? 」
ちょっと落ち着こう。ステータスブーストを切り替える。時間が早く進み、そして周りが素早く動き出す。もう一度切り替え、再び元の感覚に戻る。
「……うん、問題ないな」
「どうしたんですか急に。またおかしくなったとか」
「いや、おれもそう思ってステータスブーストを切り替えてみたんだが判断に変わりがない。もしかして本当に行けるんじゃないかと思っているようだ」
「ボスですかー……鬼なんですよね? 」
「鬼としか聞いてないな。それでもこの階層まで難なく突破できているんだ。それだけの実力はあるんじゃないかと思うぞ」
「とりあえず十五層を巡って見てから決めません? 十五層で消耗しすぎるようならその時は諦めて帰るという事で」
「それでいい。せっかくのボス戦なら準備万端で臨みたいからな。それにまずボス部屋がどこにあるかもわからない」
とりあえず十五層へ向かって地図を作る。地図が出来てボス部屋を見つけたらそこで判断する。そういう事になった。
早速十四層を抜けて十五層へ下りる。早速小部屋に出た。マッピングを始め……ようとした矢先にスケルトン三体が目に入る。スケルトンもこっちを見る。あらお客さん? といった感じでお互いの目と眼窩が合う。方眼紙とペンを急いで保管庫放り込み直刀を片手にスケルトンへ向かっていく。エンカウントまで意外と早かったな。誰も来ていない故かもしれん。
難なくスケルトンを処理すると改めてマッピング開始だ。最初の小部屋にはスケルトンが居やすい、大事なので横っちょにメモとして記しておく。小部屋を出ると回廊に出た。どっちが上でどっちが右か解らないので方眼紙の中央に小部屋を記す。さて、左右どっちに行くべきか……
「とりあえず突き当たるまでまっすぐ進んでみるか。突き当ったら折り返して反対側に来る。曲がり角に来たらそのまま曲がる。三叉路や交差点が来たら……その時考えよう」
「とりあえず行ってみる精神ですね。よく解りました」
「途中小部屋があったらそっと覗こう。骨ネクロが座談会でも開いてるかもしれないし、戦闘中に横から乱入されても困るし」
願わくば小部屋の前で戦闘にならない事を祈るが、そうならない保証はどこにも無いからな。こればかりは天運任せだ。そのまま真っ直ぐ突き進み、道中にいたスケルトンを骨折させつつ向かう。十三層より数が増えてはいたが、時間をかけて丁寧に肋骨を折って核を潰してさしあげるとカタカタ言いながら次々に黒い粒子に還っていく。
今のところ消耗は無い。そして行き止まりにたどり着き、行き止まりのすぐ横にあった小部屋で病院の待合室宜しくカタカタと話し合う骨ネクロが三体。しめて医療費一万五千円。ごっつあんです。
さっきまでの道を逆にたどり、階段があった小部屋の反対側の道へ向かう。地味だがマッピングは楽しい。何よりうれしいのはここまでのダンジョンの階層で罠に当たるような要素が無かったからだ。大体のゲームだと壁や床にスイッチがあってそれを踏むと罠が作動して警報が鳴ってモンスターが大量に集まってきたり。
もっと原始的なものだと転んだり矢が飛んできたり岩が転がってきたりするものだが、このダンジョンというものにはそれが無いらしい。もっと深い階層は解らないが、少なくともここまでは無かった。この先も無いことを祈ろう。トラップ解除しつつ進む……なんてことをしてたら時間がかかって仕方ないし、トラップのど真ん中でモンスターと戦うのは御免被る。
反対側へ行くと小部屋をいくつか確認しつつ、小部屋の先に何かないかも確認し、小部屋のたびにスケルトンか骨ネクロが湧いている。テンポよく探索が進むのでこの環境は悪くない。順路を作るにしてもちょうどいい。
階段があった小部屋から数えて三つ目の小部屋で更に奥に続く道が見つかった。多分こっちが正解ルートかな。メモをしつつ、あえてその部屋は無視してまっすぐ進む。すると、何回かの戦闘の後にやはり行き止まりに当たった。さっきの小部屋のルートで正解だったらしい。
「わざわざ行き止まりまで来た理由は? 」
「地図埋めと、こっちが正規ルートで他のルートからは繋がってないかどうかを確認する為かな。何本か奥へ続く道があるならそれでもいいけど、どうやらここしか奥へ向かうルートは無いらしい」
「ではそっちへ向かいましょうか。地図埋めも時間がかかるものですね」
「十三層でもそんな感じだったろ? 最初に踏み入れた者の苦労って奴さ」
「ま、道が解った事ですし急ぎますか。どうせ倒したばっかりでリポップは間に合わないでしょうし」
「そうだな、ちょっと急ぎ足で行くか」
さっきの小部屋まで戻る。小部屋から奥の道へ進む。進んだ先は交差点。直進するか、左右に折れるか。ここまでの道筋を地図と見比べる。この階層、ほぼ左右対称になってないか?だとしたら直進するのが正解だろうな。とりあえず正解ルートを進んで階段を見つけるのが先か、それともそれ以外を埋めるのが先か。
「階段をまず探すか。何となくマップの構成が解ってきた気がする。この階層、多分直進するとボス部屋にたどり着く。そしてそこで左右に分かれて、左右どっちかに階段があるんだと思う」
「シンメトリーっぽいってことですか。そういわれたら確かにそうかもしれませんが……ま、行ってみますか」
「まず正解を引いてそれからそれ以外の場所を探索する。それが一番手間が無さそうだ」
「何は無くともまず階段ですか。たしかにそうですね、十五層をくまなく巡る義務は課せられてないはずですから」
直進する事に決めた。真っ直ぐの通路にでると、スケルトンが道中に当然のように居る。倒しながら進むが、まるで逐次投入のようにスケルトンが湧いて出てくる。この通路だけリポップしやすいのかな。
もしかしてボス部屋が近いからか? 同時にかかってくる数が少ないので割と楽に戦えているが、同時に来られてたら厄介だったな。合計十三体ほどのスケルトンを連続で相手取ることになり、さすがに呼吸を整える。
暫くすると立派な扉が目に入り、その左右をスケルトンが二体ずつ微動だにせず止まっている。ここがボス部屋か。ボス部屋の左右には通路が配置されていて、それぞれまた別の方向へ行く道がある。予想通りの構成だ。どっちかが階段でどっちかが行き止まり。まずは門前の掃除からだな。
「一対二、行ける? 」
「余裕。三でもいけそう」
「なら問題ない。行くぞ」
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