322:出会いは突然に
変わらずの十二層。と思ったが先客がいるらしい。ほのかに戦闘の痕がある。おそらく十三層を目指していると思われる。小寺さん達かな? そういえば自転車も八層側にあった。ここまですれ違ったパーティーも居ないので今この階層に居るのは間違いないらしい。
「誰か居ますよね? 多分ですけど」
「あぁ、誰かいる。小寺さん達なら挨拶して先を行かせてもらおう」
「もし違ったら? 」
「その時は初めましてかな」
とりあえず追いつくか追い抜くかは解らないが、そこまでの間の戦闘はこなさなければいけない。十三層への階段へ向かって歩き出す。程なくしてオークが四体。こちらには一度痛い目にあっているからこその余裕がある。と思ったら二体同時に殴りかかってきた。これは同時に受けて殴りやすいほうから殴るしかないな。
左右からほぼ同時に棍棒が来る。直刀と盾でそれぞれ受け止め、棍棒に挟まれる形になる。衝撃は……うん、ちょっと痛かったが耐えれる。なら問題ないな。直刀側のオークを先に始末しよう。素早く懐に入り込んで棍棒を持っている腕を跳ね飛ばし、空いた懐から一閃胴体を半分以上切り飛ばす形でぶった切る。そのまま反転してもう一体のオークへ近寄る。
オークはもう一度棍棒をこっちへ振りかざしてくるが、俺の動きのほうが早い。オークは棍棒を空振りし、地面を殴りつける。その間にオークの首を刎ね飛ばし、もう一度反転。さっきぶった切ったオークの生死を確認する。オークは既に黒い粒子に還り始めていた。二体同時、なんとかなるな。
文月さんのほうは一体ずつだったらしく、二体目にかかる所だった。そういえば俺の周りの女性……と言っても二人しかいないが、どっちも槍だな。上手く体重を乗せているであろう一撃をオークの頭に向かって突き出し、頭に風穴を開ける。やっぱり狙うなら頭か心臓だな。
オークは魔結晶を二つくれた。四体で魔結晶二つは期待値的には美味しくないがドロップとしては悪くない。ヒールポーションをくれるからこそのオークの美味しさでもある。後肉も期待値より高く買い取ってもらえるので美味しい。
前のパーティーに追いつくかどうかは解らないが、とりあえず自分達のペースで歩く。先に居るパーティーのおかげでエンカウントする回数が少なく、その分歩く距離が伸びる。
「他のパーティーが居るとこんなに暇になるとは」
「狭さ故だ。清州ダンジョンは大体このぐらいの感覚だったぞ」
「でもあっちはマップが広いからですよね。もしかしてマップの広さと密度は相反するのかもしれませんね」
「狭くても広くても湧く量は同じってことか。なら清州と小西の中間ぐらいのダンジョンが欲しいところだな」
「でも、狭いほうが移動時間が短くなるので……ってそっか、モンスターと戦う時間があるから」
「そう、結局あんまり変わらない。でも、一層から七層移動する時間考えると小さいダンジョンのほうが得ではあるな」
話ながら歩いていくと前のパーティーに追いついてしまった。会釈をして通り過ぎ……
「ちょっと待った。あんたが潮干狩りおじさん……安村さんか? 」
呼び止められてしまった。この狭い小西ダンジョン、出会った人はみんな知り合い。どうやら素通ししてもらえるわけじゃないらしい。
「そう呼ばれる事も……最近呼ばれてないな。一応そうです」
相手は二十代前半だろうか、かなり若いと感じる。他の三人も同様に若い。四人パーティーか。バランスが取れてていいな。
「俺は相沢ってんだ。あんたもCランク探索者になったんだな」
「ってことは先輩って事でいいんですかね。よろしくお願いします」
「どうも、鈴木です」
「近藤です」
「池田です」
丁寧に四人とも名乗った。鈴木……あぁ、ノートにあった鈴木さんってこの人の事かな。
「私は文月です」
文月さんも名乗った。これで全員名前を名乗ったことになる。顔と名前が一致するかはまた別の問題だが。
「七層を好き勝手に改造してるのもあんただな? 」
「相沢さん、年上ですからもうちょっと敬意を」
「うるせぇ、黙ってろ鈴木」
若干乱暴な人の様だ。でもそういう人のほうがリーダーとしてまとめ役をやるには向いてるからな。性格故リーダーとなっている事も有るんだろう。
「好き勝手というか……まぁ当たらずとも遠からずって所だな。ただ便利になれば良いと思って色々やってるだけだよ」
「自転車もあんたが? 」
いきなり核心を突かれる。焦ったふりはしない、あくまで我関せずといった感じで言葉を紡ぎ出そう。
「いや、それは俺じゃないな。受付に気づかれずにそんなものを運ぶ手段がない。机とかシェルターとか枕とかノートは俺が確かに置いたが」
「気に入らないな。まるで自分が七層の管理人みたいなマネされるのは」
「七層の管理人……俺以外の顔が浮かぶんだが」
どっちかというと田中君のほうがその呼び方に適任なんじゃないだろうか。
「田中か? あれはただ住んでるだけだろう。勝手に私物を増やして共用化させてるのはむしろあんただろう。それを管理人面と呼んで何か悪い事も有るのか? 」
「俺はただ便利にダンジョンを使いたいだけだ。それ以上の事は求めてない」
「ふぅん? まぁいい。覚えておけ。この小西ダンジョンで一番最初に鬼殺しになるのは俺達相沢パーティーだって事だ。オッサンとそのおまけには務まらないって事を教えてやる」
文月さんがおまけ扱いされている。ちょっとカチンときた。
「おまけ……おまけ……まぁおまけでもいいや」
「いいのかよ! 」
文月さんと相沢君がボケと突っ込みを披露している。キレのある良いツッコミだった。あのタイミングはプロでも中々できない間合いだ。ちょっと尊敬する。
「ん~と、教えるってどうやって? 」
そもそもダンジョンでトップと言われてもピンとこない。俺自身そうなるつもりは無いし、そうであっても目立って主張するつもりもない。
「俺は今から十三層を攻略する。まだ誰も攻略してない十三層をだ。果たしてそれがお前らに出来るのか? こっちは四人、そっちは二人だ。二倍だぞ、二倍」
なるほど、人数が多い事を主張したいらしい。確かに人数は力だ。ドロップ品も多く持ち帰れるし、常に一対一で戦う事も十二層なら出来る。そこは俺も痛感している。二倍強い、うんそうだな。
「あ、十三層なら途中まで描いた地図有るけど写していく? 」
「何!? もう潜ったのか? 」
相沢君は驚いている。そもそも俺がCランクになって二週間ぐらいまともに活動してない時間があったのに、その間にちっとも進んでないのはなんでなんだろう?
「半分ぐらいだが……まだ階段は見つけられてないんだ。これからそれを見つけようと潜る所でね」
「ふ、ふん。そうか。なら言い方を変えよう。先に十四層へ到達するのは俺達だ! 」
「……で、地図要る?書きかけだけど」
相沢君はおいといて、話の通じそうな鈴木君に声をかける。
「あ、すいません。よろしいんですか? 探索情報を共有させてもらってしまって」
「おい鈴木、何地図写させてもらってるんだ。自分の力で攻略してこそだろ」
「いやぁでも解ってるところを探してしまうよりも効率的ですし。あぁすいませんね、リーダーこういう性格なもんで」
「いえいえいいんですよ。お気をつけて行ってくださいね。特に骨ネクロ……スケルトンネクロマンサーはダッシュ大会になると思うので」
「お気遣いありがとうございます」
腰が低くて丁寧な人だな、鈴木君。彼が外交窓口という事で良いんだろう。
「で、十三層の階段までどっちが先に行くんだ? 俺はどっちでもいいが」
肝心の事を聞いてみる。呼び止めた以上先には行かせたくないんだろうが……
「俺達が行くにきまってるだろ。なんせ俺たちが最初に十三層に……先には行かれたんだったな……先に十四層にたどり着くんだからな! 」
「そうか、じゃあ俺たちは少し休憩してから後ろをついていくよ」
「そうするといい、年取るとダンジョンもつらいだろうからな」
確かに、割ときついときもある。だがそこまで年寄り扱いしなくても良いだろう。俺より年上でダンジョン潜ってる人だっているんだからな。
散々騒いだうえで彼らは去って行った。主に相沢君が騒いでて残りは黙ってたが、あれでもちゃんとパーティーとしてCランク探索者として実績を上げているのは確かだ。色眼鏡で見るべきではないだろう。鈴木君とは……ゆっくり話す機会が有るといいな。
「で、おまけとしてはどう思う? 」
「安村さんがおまけって言わないでください。で、おまけとしては彼らの言動にも一理あるけど私たちの行動を邪魔される理由も無いですよね? 」
あ、自分で言うのは良いんだ。
「まあ向こうがズンズン進んで先に階段まで先ぶれをしてくれるって言うんだから、楽をして後ろをついていこう。大事なのはその先だから」
「十三層に入ってから……つまり先を越すと? 」
俺はニンマリすると作戦を話し始めた。
「既に回った箇所をわざわざ探索するような事をしないだろうから、まず最初の選択肢で地図に書かれてるのとは逆方向に向かうと思うんだよ。だからここをこうやって……」
「なるほど、完全に解らない所を回るんじゃなくて、解っている範囲の先で解らない所を巡ると」
十三層に下りると最初に二択を迫られる。相沢君も馬鹿じゃないだろうから、解ってて階段が見つかっていない所を丁寧に探索するとは考えにくい。その為”ある程度探索されているけど探索しきれてない場所がある”という部分、つまり歯抜けの場所は後回しにするだろうという予測だ。
いくら未踏破部分と言っても、階段のすぐ近くに階段があるような地形にはしないだろう。ならば先に見つけられるとしたら解ってる部分の先にある未踏破地域に階段があるのではないか? という予測だ。それなら道中で鉢合わせになる可能性もグッと低くなる。もし俺の読みが外れたら、その時は改めて探索しなおそう。
どうせ今日は一日地図作りで終わらせる予定だったのだ。多少楽をしてしまっても良いだろう。彼らが先に見つけてマッピングをしているなら後でコッソリ教えてもらう事だってできるはずだ。
「で、普段散々後追いで良いって言ってる割に出し抜こうと思ってるって事は、さっき煽られてやる気が出ちゃってたりするんですか? 」
「いや、俺はべつにおじさんだし年できついのは確かだから反論のしようは無いし問題ないんだけど……」
「問題ないんだけど? 」
「文月さんをおまけ扱いされたのはちょっと、ね」
「安村さん……ついに私の魅力に気づき始めたんですか。ちょっと嬉しいですね」
「文月さんは立派な相棒だ。おまけではない。そこを見せつけてやらないと」
「ねえ、魅力は? 」
「さ、そろそろ行こうか」
「魅力……」
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