32:しばらく会わないつもりで別れてその後また顔を合わせるのは結構気まずい
ダンジョンで潮干狩りを
Renta!等いろいろなサイトで発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。
グッ、プツッ、コロン、パン。
テンポよくスライムを処理していく。もう慣れた。心は幽体離脱し天上の彼方へと旅立ち、スライムも黒い粒子となりダンジョンのどこかへ旅立つ。
グッ、プツッ、コロン、パン。
何かがドロップしないかどうかを気にすることは無い。ただただ無心にスライムを狩り続ける。潮干狩りと揶揄されたが潮干狩りで時給千円稼げるならみんな真面目に潮干狩りをして海岸から貝という貝はすべて淘汰されてしまうだろう。
実際の潮干狩りは小さい稚貝は大きくなるまで待てと言われて放流することになるし、場所によっては持ち出した重さに対して別料金が課せられるところだってある。
しかしこっちの潮干狩りは違う。
まず、大きさがみんな同じで価値も同じだ。たまにゼリーとか魔結晶とかくれる個体も居るが、それがどの個体かを見分けることは難しい。
もしも俺にスライムの違いが解る能力が与えられたとすれば、そのすべての悲鳴や嗚咽を一身に背負うことになるだろうが、同時に潮干狩りがより淡々と進むことになるだろう。ヒヨコの雄雌を見分ける仕事とどちらが高給になるかと言われればこちらであることは間違いない。
「あ~、ドロップ持ってるやつと持ってないやつ見分けられたら楽なのにな~」
そんなことを言って目を凝らしてからスライムを見ても、どこに違いがあるかなんてわからず、どのスライムもぽよぽよとしているだけにしか見えない。これは想像するだけ脳の無駄遣いだな。
◇◆◇◆◇◆◇
昼頃になってふと文月さんの様子が気になった。ちょっと様子を見に行ってみるか、でも帰ってたらどうしようかな。っと、今日は根詰めて狩りをする日じゃなかったんだったな。なら気晴らしに二層に行くのも何ら俺の日課を阻害するものではないな。
カロリーバー片手に二層への階段を降りる。階段の途中で休憩している探索者を見かけた。会釈して通り過ぎようとすると声を掛けられる。
「アンタもしかして潮干狩りおじさんか?」
「そう呼ばれることもある」
「今日の取れ高はどうだった?」
「ぼちぼちだよ」
「そうか。今日は二層のグレイウルフはちょっと多めだ。そんな装備で大丈夫か?」
言われて気が付いた。熊手しか手に持ってなかった。俺はバッグからマチェットを取り出す。
「大丈夫だ、問題ない」
「……みたいだな。一層で頑張ってくれるおかげで二層まで行きやすいんだ。おかげで二層に着くまで十五分は早くたどり着ける。有り難いからアンタには頑張ってほしいもんだ」
ダンジョンで潜ってることを初めて褒められた気がする。
「そうか。おかげでちょっとモチベーションが上がったよ」
「ハハ……ご安全に」
「ご安全に」
軽く別れを告げると二層への階段を下っていく。
◇◆◇◆◇◆◇
筋肉痛はまだ体のあちこちを蝕んでいる。午前中よりずいぶんマシになったが、今日は受動的な戦闘に努めよう。戦闘中にピキッてきたらヤバイしな、ピキッて。
無理しないようにマチェットを体を這わせるように軽く振りまわしながら小道を辿っていく。
道中一匹ずつグレイウルフが襲ってくるものの、相手の戦闘パターンが変わっていない以上もう俺の敵じゃない。出来るだけ筋肉で振り回さないように、マチェットの重さを利用して振りかぶっていく。うむ、これなら握力が無くならない限り体に不調は来ないな。
一匹、また一匹と現れる。確かに昨日より良くエンカウントするな。こりゃ息抜きのわりに収穫は多そうだ。リズムゲームのようにテンポよくマチェットを振っていく。
高校生のころ音ゲーにはまっていたのを思い出す。あの頃の難易度は音を紡ぎ出しているって感じが非常に心地よかったが、最近プレイしたときはただひたすらに叩く事に必死だった。
これが老化なのか劣化なのか、はたまたゲームに対する姿勢の変化なのかはわからない。もしかしたら真新しいものへの探求心だったかもしれない。
今ダンジョンに潜っているこの気持ちも似たようなものかもしれないな。俺はまだゲームの延長上としてこのダンジョンというファンタジー溢れる空間に対してアプローチしているのだろうか。
前方から戦いの音が聞こえる。邪魔しない程度のスピードでゆっくりと近づいていく事にする。戦っていたのは文月さんだった。槍を最小限の動きでグレイウルフに向けると一歩突き出した。胴を貫いた一閃でグレイウルフは消滅していく。
戦闘が終わり彼女が周りを見回すと目が合った。
「あ、安村さんじゃないですか。一層だけじゃなかったんですか?」
「気分変えるために散歩ですよ。なんか今日の二層は数が多いとも聞きましたから」
「そうですね、二割増しぐらいじゃないですかね。もう二層は慣れました?」
「お陰様で。よっぽど数で押されない限りは苦戦しないと思います」
実際、三匹ぐらいに囲まれても苦戦しなくなった自分がいる。一匹相手なら意識を集中しなくても、二匹なら作業感覚で戦う時の立ち位置を確立することができた。
すると文月さんが提案してきた。
「三層、覗いてみます?ゴブリンが出てくるんですけど」
結構魅力的な話だ。一人で三層まで潜るよりも二人で行くほうが安全マージンは十分取れている。
「う~ん、未体験なんですけど、初めてでも大丈夫な相手なら」
「じゃあ、少しレクチャーしながら行きませんか?」
「解りました。そこまでお薦めされるなら行ってみましょう。背中は任せますね」
だって初めてだもんしょうがないじゃん。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





