319:ウルフ肉のタンドリーチキンアブラスクナメ
二千五百万PVありがとうございます。
四層へ下りた。ここも少しペースを落としながらも駆け抜けていくが、通り道にモンスターが湧きやすい。一撃で倒していけるとはいえ、うっかり囲まれても……いや、それもそれで練習台にはなるか。トレインにならない事だけ意識しつつやはり駆け足で過ぎ去る。
途中ゴブリンがヒールポーションをくれたのでそれはバッグのうるおいになった。それ以外にはゴブリンが魔結晶を合計六つ程くれた程度だ。一万二千円ぐらいにはなるか。パートで八時間働いてもこの金額にはならないだろう。電車で出会った親子には悪いが、ここが頭一つ抜けたポイントという奴だ。ここから更に深く潜ればもっと儲かる。
文月さんもそろそろちょっと一息入れたいんじゃないかな? というあたりで四層を歩き終わったので、五層へ下りて小休止を取る。ここからは歩いて行こう。
「ふ~。ここまでまっすぐ駆け抜けるだけって行程は初めてですねえ」
「歩いても走っても同じなら多少早くたどり着けるほうが下層での効率が良いからな。とはいえちょっと飛ばし過ぎたか」
「このぐらいならまだまだ。ここからはゆっくり行けますし、ダーククロウもありますし」
「ほい、口休めのチョコレート」
保管庫からチョコを直接出して渡す。
「わーい甘い奴~。なんかの心変わりですか? 急にお菓子なんか持ち込みだして」
「今まで思い浮かばなかったというか、それだけ探索する事にのめり込んでたというか。精神的に余裕が出て来たんじゃないか。さすがにポテチとか嵩張ったり途中で袋が破れそうなものはバレそうだから持ち込めないけど、これぐらいなら持ち込んでもおかしくは無いなって今頃気が付いた」
「ならもっと早く要求するべきでしたね。こういうの欲しかったんですよ」
我慢……という訳ではないだろうがそういう欲求もあったのか。今後はよく相談していこう。水分を取り俺もチョコを口の中で溶かしつつ五層を歩く。ワイルドボアが三匹仲良く突進してきたのでペシンと殴って黒い粒子に還す。早速肉が二つ出た。
「お昼はウルフ肉とボア肉どっちが良いかね? 今日も刻み野菜とどっちかの肉にシーズニング振って食欲の増しそうなご飯にするつもりだけど」
「ボア肉……といいたいところですがウルフ肉にしましょう。多少サッパリしたもののほうが食べたいです」
まぶして焼くだけタンドリーチキンみたいなものがあったはずだ。脂も少なめでこれが良いだろう。昼食は決まりだな。
ダーククロウを片付けワイルドボアを片付け、またダーククロウを片付けワイルドボアを片付け……五層をゆっくり歩くと四十分ほどかかるが、ダーククロウの羽根という確実な換金アイテムを手に入れていくためにきちんと道すがらのモンスターを処理していく。
ダーククロウも地道に倒せば五羽で二千六百円ぐらいの価値にはなる。これは道中でゴブリン追いかけまわして魔結晶とたまに出るヒールポーションを狙うよりも高効率で美味しい。五層とはいえダーククロウもそこそこ居る。人目にさえつかなければ保管庫に放り込んでしまえるので下手に九層へ潜るよりも七層往復のほうが最終的に収入になる事だってあるのだ。
五層を普通の時間で抜けたらお待ちかねの六層茂君タイムだ。茂君が今日も元気に茂っているか確認しないとな。
何時ものハグ会を今日は塩対応の足での雷撃キックで終わらせる。つま先をこつんと当ててバツン。わざわざ会いに来てくれるワイルドボアには可哀想だが六層のアイドルとしての俺の今日の機嫌はそんなに良くは無い。十三層を突破する事で頭が一杯だ。ファンのことまで構っていられない。ボア肉と魔結晶を拾うとさっさと木まで移動する。
ダーククロウをバツン。羽根がゆらゆら、魔結晶がボトボト。範囲収納でササっと拾う。こっちも塩対応で行こう。
「今日はなんか機嫌悪い? 」
「そういう訳じゃない、十三層をどういう順番で埋めていくかを考えてるんで他に回す脳みその余裕がないんだ」
「寝て起きてそれから決めてもいいのでは? 」
「今気になるから考えてるところなんだ。なので今日はファンサービスも最小限」
「ワイルドボアが可哀想。もしかしたらスキルオーブ持ちが居るかもしれないのに」
「む……それもそうだな。もうちょっと丁寧に扱ってあげるか」
塩対応を止めてハグ会再開だ。今度はちゃんと両腕で抱えてからバツン。どっちにしろ雷撃で済ませるには変わらない。文月さんはうんうん、と一人で謎の納得をしている。なんだろう?
そしていつもと変わらない茂り具合を見せてくれる茂君にたどり着いた。六層のボスだ。倒し方は簡単。雷魔法で投網作ってそれを投げつけて全員一発で感電させ終了。あたりには一面のダーククロウの羽根と魔結晶が舞い落ちる。そして……ポーション?
「あれ、キュアポーションだ。久しぶりー。これはあれか、外れくじの中身か」
「あの仮説が正しいならそういう事になるんじゃないですかね」
「儲けたな。有り難くいただいておこう」
前にドロップしてからそう日がたったわけではない。二週間やそこらでスキルオーブが再び棚に陳列されるようなことは無いだろう。これからもちょくちょく茂君討伐をしてスキルオーブガチャの残弾を減らしていかないとな。
再びハグ会。キュアポーションが落ちたおかげで懐も少々温まり、笑顔でのお出迎え。文月さんもそれに対して笑顔。さっきから何なんだろう?
茂らない君に一発蹴りを入れて毛根を刺激しておく。
「その蹴り意味があるんですか? たまにやってますが」
「毛根を刺激して柔らかくすると毛の代わりにダーククロウが生えてこないかなと」
「多分完全に無駄ですね。まだ切り落として薪にしたほうが役立つと思います」
「七層への目印無くなっちゃうだろ。ただでさえ何もないのに」
最後のハグ会だ。気合を入れてハグしよう。何時もより強めの電撃でワイルドボア達を迎え入れると、革や肉や魔結晶をバッグに詰め、七層への階段へと進む。いつもより三十分ほど早いのでちょうどお昼にするにはいい時間である。
七層に着くと階段のところに自転車は無い。歩いて向かうとしよう。そういえば自転車のタイヤは誰か交換してくれたんだろうか。交換して元のタイヤがシェルターにあればベストだ。しかしあまり日にちが経ってないので交換できる人が来た保証はない。期待せずにおこう。
「そういえば今日のお昼は何ですか」
「ウルフ肉のタンドリーチキン風味と刻み野菜とまだホカホカのはずのライス。十四層を上手に探索出来たらオーク肉でも夕食に食べるか」
「それも楽しみですね。あの肉の旨味はまだ覚えてます」
「うまくいったら、だからな。十四層にはたどり着くまで帰るつもりはないが、仮眠、キャンプするのにちょうどいい場所を見つけるのが先だ」
「わかってますよぅ。まずは十層、それから十三層、十四層。密度の濃いところへは行かず十三層探索が最優先、ですよね」
「よろしい、ご褒美に食後のお菓子をもう一つ上げよう」
「わーい」
シェルターに着いた。どうやらタイヤはまだ誰も触れてないようだ。ノートの書き込みのログをさかのぼる。どうやらタイヤ交換に自信がある人は今のところ来ていないらしい。まあそのままでもそう困らないし気長に待つか。
自分のテントに戻りいつもの昼食の準備を始める。お昼のメニューは決まっているのでスキレットとバーナーとまな板で早速調理。肉と野菜を適当な大きさに切ると保管庫に入れてあったチャック袋にシーズニングと肉を一緒に入れて振って揉む。全体的に馴染んだら焼き始める。
スキレットに軽く油を引いて肉が焦げ付かないようにしつつ、中まで火が通るまで加熱し、火が通って良い感じに焼き色が付いたら火から下ろして終了。簡単!手抜き料理とまでは言わないが無駄を省いた良い一品が出来上がった。二パック分開けたので量もちょうどいい。野菜を更に散らして肉をドン。
スキレットを食パンで綺麗に後片付けするついでにトーストすれば味は同じだがもう一品できた。量的には十分だろう。本日三品、ライス、パン、肉、野菜。バランスは多分大丈夫。
食事の用意が出来たので文月さんを呼ぶ。仮眠準備を整えたのであろう文月さんは急いでこっちへ来る。どうやら香りで何を作っていたかは察したらしく、早速目を輝かせている。
「いただきます……んー、スパイシーだけど脂が少なめでヘルシーさも感じられる良い一品ですね」
いただきます、と。ふむ……カレー屋で頼むタンドリーよりこっちのほうが好みかもしれないな。鶏皮に当たる部分が無いのはちょっと口にアクセントが足りなくなるが、ボア肉だと脂が多くてこってりとした感じになってただろう。これは良い選択だった。
野菜と共に食し、口の中をサッパリさせたままパンが進む。美味い、美味い。まだシャキシャキさを保っているサラダも含めていいコンビネーションプレイを見せてくれる。
気が付くと全部食べ終わってしまった。もう一皿……と言いたいところだがスキレットも掃除してしまった。まぁ、腹は膨れたからいいとしよう。食後の甘いものを文月さんと口の中で楽しむと、調理器具を片付けてコーヒーを淹れる。これを飲んだら仮眠の準備だ。
文月さんは自分のテントの中で既にお休み中らしい。身動きする音が聞こえてこない。
ここまでまともに探索してないがこれからたっぷり戦闘をする予定だ。六時間ぐらいは仮眠をとって疲れを完全に消しておいたほうが良いだろう。六時間ぐらい眠る事を伝えるとアラームをセットして横になる。飯食った後にすぐに横になると牛になるという迷信を頭の隅に置きつつ、眠る。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





