318:連勤
今日も気持ちのいい目覚めだ。空も晴れているし今日一日を頑張って働くんだと布団の天使が俺にささやく。おはようございます、今日もありがとうダーククロウ。昨日の疲労は取れたと言っていいだろう。
昨日のたんぱく質祭りでしっかり栄養を取ったためか、体もどことなく活力に満ち溢れている。軽くポージングをキメながら全身に血液を回す。マッチョがやるポージングはそれ自体がトレーニングになっているとも聞いたことがある。つまり朝起きてポージングを決めるという事はそれ自体がラジオ体操のようなものになっていると考えていいだろう。
汗をかかない程度に全身の筋肉に力を入れると、いつものご機嫌な朝食を取った後、部屋干ししておいたテントとエアマットを片付けて保管庫にしまう。
パックライスを二つギリギリまで温めておき、そのまま保管庫に入れる。これで昼飯のライスの分は確保した。後はそうだな……シーズニングを使った肉料理と野菜があれば良いだろう。肉の在庫はあるので途中のコンビニで刻み野菜を二パック程確保しておくか。
後は……
万能熊手二つ、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
防刃ツナギ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
枕、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
十四層向けテント、ヨシ!
エアマット、寝袋、インナーシュラフ、ヨシ!
冷えた水、コーラ、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。マチェットとグラディウスはもう出番が無さそうなので指さし確認から外した。早速出かけよう。コンビニでさっき買おうと思っていた刻み野菜を念のため三パック購入する。一パックしか食べないかもしれないが、もしかしたら十四層でもう一回食べるかもしれないし、保管庫に丸一日入れたぐらいで品質の悪くなるものでもない。余ったら次の日の俺の食事に回せばいい。
吊革につかまり電車に揺られていると、小さな女の子に話しかけられる。
「おじちゃん、たんさくしゃなの? 」
ストレートに質問された。そりゃ家からツナギ着てリュック背負って背中に武器入れてればそう見えるか。まだスペースに余裕がある電車の中、屈んで正直に話しかける。
「そうだよ、おじさんは探索者だよ」
「もんすたーたおしたりするの? 」
「そうだよ、モンスター倒したり迷宮を歩いたりしてるんだ」
「もうかる?」
更にど真ん中ストレートな質問をされる。周りの乗客からクスクスと笑い声が漏れている。
「そうだな、ちょっと儲かってるかな」
「あたしもたんさくしゃになりたい! 」
「お嬢ちゃんはいまいくつなんだい」
「ごさい!」
「じゃあ、十八歳になるまで後十三年待たなきゃいけないね」
「うん、それまでまつ! そしてたんさくしゃになってわたしももうけるの! 」
「ただ十八歳になるだけじゃだめだよ。その間に勉強して、お母さんの言う事聞いて、ちゃんとしてないとなれないからね」
「がんばる! 」
「いい子だ。頑張るんだよ」
そっと頭を撫でてあげる。嬉しそうに子供は撫でられている。
「すいませんうちの子が。ほら、迷惑かけちゃいけないよ」
母親なのだろう。子供に知らない人に質問しないように注意している。
「別に構いませんよ」
「ありがとうございます。それで……本当に儲かるんですか? 」
真顔で母親が俺に聞いてくる。この親にしてこの子ありだった。こらえきれず噴出した客がいるらしい。
「あまり大きな声では言えませんが、頭一つ抜けたら中々に儲かります。ただ不規則な生活になるとは思うのでパート代わりに行くとかそういうのには向かないかと」
「なるほど……参考になります」
どうやら子供を預けてダンジョンへ……という母親の考えはもろくも崩れ去ったようだ。夢が無い話で済まない。ただ、その先で儲け口があるだけなんだ。頭一つ抜けるまでにいろいろ苦労も積み重ねもあるので、興味があったら探索者になってみるのも良いかもしれないが、大体の人はゴブリンあたりで折れる、そんな気はしている。
子供を持つ親なら猶更ゴブリンは殴りにくいだろう……いや、そういう人たちが稼ぐためにウルフ肉のドロップ率向上という手はあるのか。ふむ……儲け口は転がっているのかもしれないな。ダンジョン生活を辞めて人を雇う立場になって骨持たせてダンジョン潜らせて肉を集めて卸すというのも無い訳ではない。
自分がダンジョンで働けなくなったらそういう生活も有りかもしれないな。それまでは骨を適度に集めていく事にしよう。
突然の幼女との会話イベントが発生した電車を降り、バスに乗り小西ダンジョンへ。さすがにバスの中では何のイベントも起きなかった。偶にはああいうやり取りも面白いな。
バスを降りると受付前で若干不機嫌な面をした相棒がそこで待っていた。
「昨日は申し訳ありませんでした」
いきなり謝られた。多分色々思う所があったんだろう。
「今回はさし許す。注意されたし」
「ははっ、お代官様のご寛容に感謝いたします」
一芝居打ったところで何時もの調子に戻ろう。
「清州で真っ当なポーターとしての経験値を得て来たよ。荷物運び一つにしても色々細かく注意しなきゃいけない事が有ると学んできた。いかに保管庫に頼ってきてるかがよく解った」
「それで、デートは楽しかったですか? 」
若干不満そうな顔をしている。他の女にうつつをぬかしやがって……みたいな感じだ。
「だって、赤い顔して真正面からデートしてくださいって言われたら断れないだろ? 」
「向こうから誘われたんですか……やりますね。で、清州の十三層はどんな感じでしたか」
「ひたすら広かったな。モンスター相手にすることに関してはこっちのほうがよほど厳しい。後移動時間が長すぎるってのもあるかな。二人で巡るには清州ダンジョンは十四層までだと思う。七層までは人が多すぎてひたすら歩くだけだし、その後の道中のドロップも中々の量になるし、色々思う所は多かった」
「じゃあ今日中に十三層は攻略出来そうですかね。それともまた地図だけ埋めて帰りますか」
「攻略するまで帰らないつもりで行く。十四層は出来れば十五層への階段まで調べたい。清州ダンジョンの十四層の地図を見て気づいたんだが、十四層は細かい通路が少ない分広い部屋がいくつかある感じだ。階段を探すのにそう時間はかからないはずだ。十四層への道が早めに見つけられたら十五層への階段も探したい」
「十四層へ行く前にひとまず七層まで一気に下りて昼ごはんと仮眠にしますか」
「いつも通りに動いていつも通りに下りていく。そしていつも通りの探索が出来て報酬と次への道が見つかればそれに越したことは無いな。さぁ行く……前に念のため確認だけとっとくか」
受付で入ダン手続きをする前に支払いカウンターへ向かう。地図の更新があったかどうか確認するためだ。もしあったならその地図と手持ちを照らし合わせて、ほぼ同じものが載っているならその地図のほうが進んでいるという事になる。
支払い嬢に確認を取る。
「十三層と十四層の地図って、新しく更新されてたりしませんか? 既にわかっているところを二度探索するのは非効率に思いましてもしかしたら、と」
「ちょっとまってくださいね……いまのところ提出された地図はありませんね。もしそちらがお持ちなら、それが一番進んでる地図、という事になると思います」
「そうですか。ありがとう」
「ご安全に」
他に地図を提出した人は居ない。つまりこれが最新地図って事が確認できた。これで心置きなく探索できるな。
「どうやら他のパーティーに先を越されては居ないようだ。これで思う存分迷えるぞ」
「迷いたくは無いんですが……これで小西ダンジョントップ探索者の名は貰いましたね」
「あんまりそういう称号には興味ないんだがなぁ」
入ダン手続きをし、真っ直ぐ七層へ向かう。道中のスライムを雷撃で爆破しながら道を開け、二層へ真っ直ぐたどり着くと二層もそのまま向かう。
「そういえば田中君と偶然会ったんで二人で肉ドロップの検証をしたよ。二人で百三十回ぐらい試して結果はほぼドロップといった所だった」
「百パーセントではなかった? 」
「試しにやってみるが、グレイウルフの目に注目していて欲しい」
文月さんにグレイウルフの目を監視してもらいながら通りがかったグレイウルフに骨をやる。
「目ですか……あ、今一瞬とろんと蕩けましたね」
「この間に倒せば肉が落ちる。この間はパッシブモードに入っているようで、一撃で仕留めるのが大事だ。そうしなければ肉はドロップしない事が解った」
「なるほど、スライムにしてもグレイウルフにしても、パッシブモード……つまり非戦闘状態にするのがドロップ率向上のコツって事ですか。それじゃゴブリンでもなんかあるかもしれませんね」
「うまいやり方があればワイルドボアも確定で肉を落とすようになるかもしれんな」
一作業終えたところでまたグレイウルフを轢き逃げダイナミックして七層へ急ぐ。急ぐ必要は無いのだが、ここをゆっくり歩いて行って稼いだところで十三層でゆっくり歩くほうが実入りは大きい。六層で一稼ぎすることになるが、そこまでは急いで行っていいだろう。
三層へ下りてもそれは変わらない。ゴブリンがヒールポーションをくれるが、くれるまで狩り続ける事に比べたら確定でアイテムをくれる十三層のほうが美味しい。より高効率を目指すためには短縮するべきところは短縮するべきだ。通り道のゴブリンだけを殲滅し、くれるものは貰っておく。三層まで駆け足で走り抜けて一時間十分。十分時間は短縮できた。
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