317:回想
風呂に入った。かけ湯をした後頭を洗い頭皮に刺激を与える。それから全身をくまなくきれいに石鹸で包み、耳の後ろをこすって石鹸の匂いを確認する。加齢臭はまだ始まってない、始まってても清潔にしてればまだ何とかなる。そういう触れ込みを信じて丁寧に洗う。しかし丁寧に洗いすぎてもダメだという意見もある。どれを信用すればいいのだろう?
とりあえず泡を漏れなく押し付けた後全身を洗い流して各部の匂いを確認する。うん、ちゃんと石鹸の香りだ。綺麗に洗えているぞ。安心したところで泡を洗い流して湯船に浸かる。
今日は良い一日……実質一日半だが、良い日だった。清州ダンジョンでも充分な稼ぎを得られるという事が確認出来たし、結衣さんと色々話しながら各層を駆け巡るのも楽しかった。デートと言うには一般からかけ離れたものだったかもしれないが、楽しかったし楽しかったと言われた。一応デートは成功ってところだろう。
清州ダンジョンは小西ダンジョンより広い代わりにモンスター密度が薄いが広さの問題で移動に時間がかかる。時間的効率から言えば小西ダンジョンに比べれば効率は落ちる。ただ目的地まで移動する際に他のパーティーの援護というかモンスターの取り合いによって道中の狩り時間が短縮できるのは深い層での探索を目的にするならプラスになるだろう。
そうなると、十五層のボスに挑むのも清州ダンジョンで挑むか小西ダンジョンで挑むかは悩む所だ。ボスまで小西ダンジョン密度でのバトルになった場合、人数が少ない分圧倒的に不利であることは仕方ない。いずれにせよスキルをフル活用して戦う事になるだろうが、最悪の場合保管庫スキルをフル活用できるのは小西ダンジョンでの強みと言えるだろう。
それに、ボス部屋にはスキルを使ってくるモンスターが居るらしいからな。スキルを使ったことはあるがスキルを喰らった経験は無い。どのくらいの威力があるのかはちょっと想像つかない。どのくらいの強さのモンスターが出てくるのか。
小西ダンジョンではとにかく情報が足りない。それにボス部屋の内容は入ってみてのお楽しみらしく、表に情報が出てこない。行くなら覚悟を決めないといけないだろうな。いつ行く事になるだろう。少なくとも十四層、十五層のマップを作り上げて十六層へ行けるようにしてからだろう。十五層のモンスターより強いモンスターが存在するという事はあり得る。
だが相手はゴブリンだ。ゴブリンがたくさん出てくるなら範囲スキルで一気に黒い粒子に還すことは出来るが、想定以上の物量で攻められると厳しいかもしれない。たかがゴブリンだがされどゴブリンだ。まだ出会った事ないゴブリンシャーマンもそうだし、おそらくお付きのものとしてソードゴブリンあたりは配置されてるかもしれない。
何体出てくるんだろう。五人パーティーで鬼殺しの称号を得られるって事は、百体を超えるような事は無いだろう。が、それでもこちらの手数は二人、同時に複数攻撃できるのはチェインライトニングとサンダーウェブ、そして文月さんのウォーターカッターだ。
しかしサンダーウェブは出力が低いし動く敵には当てづらいデメリットを抱えている。やはりチェインライトニングでとにかく数を減らして未だ見ぬゴブリンシャーマンへ攻撃を集中させたいところだな。
ボス部屋……そこそこの広さがあるであろうことは予想が付く。ゴブリンキングはどういう戦い方をしてくるのか。一斉にかかってくるのか、それともまず部下を戦わせて全部倒してからゆるりと戦闘態勢に入るのか。喋ったりするのだろうか。
色々ボスには知りたいことがたくさんある。十三層から十四層、十四層から十五層に抜ける道を確認してその後だ。次の一回の探索で進めるとしたら十五層の地図を確認することまでが精々だろう。さすがにボスに対応するには体力的にも精神的にもまだ足りないと考えている。
ボスそのものの強さだって未知数だ。さすがに同じ階層をうろついているスケルトンと同等の力、という事は無いだろう。何倍も強いだろうし、こちらの攻撃が一切通じない所まで考えていくところだが、ステータスブーストの結果鬼殺しになれたという結衣さんの言葉を信じるなら、ワンチャンある、というところだろうか。
それにこっちには奥の手の【保管庫】がある。いざとなったらパチンコ玉ばら撒いて一気に倒すという手段も使える。あくまで奥の手なので出来れば使いたくはないが。
ボス部屋って事はアレなのかな、入ったら扉が閉まって終わるまで出れないとかそういう感じだろうか。だとすると確実に力が無いとボス戦中に人生が終わってしまう可能性もゼロではないって事か。う~ん、だとするとより慎重に事を動かすべきだろうな。やはりしばらくボス戦は考えずに行く事にしよう。
さて、そろそろ風呂から上がらないとのぼせてしまいそうだ。とっとと出るか。
風呂上がりの牛乳はやはりいいな。たんぱく質祭りの延長線みたいなもんだ。コップ一杯分一気に飲み干す。勝手に腰に手が回っているのは気のせいだろう。
清州ダンジョンと小西ダンジョンの十三層の地図を見比べる。どうやら全体として一番外側に大きな回廊があるらしいという事が読み取れる。十四層への階段の位置まで同じだという可能性は低いが、参考にはなるだろう。何となくこの辺にあるんじゃないか?的なものは見えた気がする。次はそこへ向かって進むか。
さて……文月さんに連絡取っておくか。
「次いつ潜る? 」送信っと。
「明日! 明日こそ十三層突破する! 」元気なことだな。
「解った。疲れは取っておく」
俺はダンジョン明けでほぼ三連勤みたいなところがあるが、今の体の疲れを見るに一晩寝れば元に戻るだろう。そうと決まればさっさと寝るに限る。陰干しして置いたテントとエアマットをそのまま家の中に戻し、屋内乾燥に切り替える。ちょうど除湿をかけているので朝までにはそれなりに乾くだろう。乾かなかったらそのままダンジョンに持ち込んで文月さんに乾燥をかけて貰えばいい。
予定が立ったところで寝る準備だ。さぁ、明日のためにいつもの高級布団で良い眠りを提供してもらうぞ。体の芯に溜まっているであろう疲れを解きほぐしてばっちりの快眠をかみしめ楽しむ準備はもうできている。
早速横になると間もなく眠気が襲ってくる。どうやらよほど疲れていたのか、時間もかからず瞼が重くなり、そのまま寝入る事になったらしい。
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