311:清州ダンジョンデート~肉祭りならず~
十二層手前での休憩を終えて十二層へ入る。十二層ではジャイアントアントよりオークのほうが多くなってくる。つまり肉祭りが開催できるという事だ。お肉一パック五千円。ヒールポーションなら四万円。ドロップ運が上がるように神社でお祈りでもしてくれば良かったか。
神社と言えばダンジョン信仰みたいな宗教は現れてたりはするんだろうか。ダンジョンとは神が遣わされた人類を新たな段階へ導くその第一歩である、みたいな。そういう新興宗教はもうあっても不思議じゃないな。
「小西ダンジョンだと階段の位置が角と角なんだよね。ここはどうなんだろうと思ってはいたが……」
「方向はこっち。こっちのほうがわずかに早くたどり着ける」
「という事はそれほど大きく違いは無いって事か。ここには何か時計回りに回るみたいなローカルルールが有ったりするの? 」
「グルグル回るなら一応階段に近いほうに向けて歩き回るのがローカルルールと言えばそうかな。そんなわけで階段に近いほうに向けて行きましょう。十一層より密度は濃いのでそこそこの収入は得ることが出来ると思う」
結衣さんに従い十二層を回る。オークは時々四匹編成で出てくるのが十二層。ついでに足を切り飛ばして戦闘力を無くしても、棍棒を投げてでも応戦してくるほど戦意が高い。十分注意する価値がある。
早速オークが四体セットでお出ましだ。まだ距離がある。
「確実に一体ずつ処理しないと足を切り落としたぐらいだと棍棒投げてくるんだよね」
「知ってる。平田さんが一発食らったことがあるから対策は十分。片っ端からぶん殴って仕留めていけば大丈夫」
「なんか同じセリフを言ってた人が居た気がするなぁ」
対策が出来てるなら問題ないな。オークを近づいてくる順番に攻撃を受け止め、そのまま棍棒を持つ側の腕を斬り飛ばしてそのまま懐に入り心臓に一撃突きを食らわせる。それで一匹目は終わり。続いて二匹目に入る。同じようにパターン化させた攻撃手段でオークを黒い粒子に還す。残念ながら二匹ともドロップは無し。まぁそんな事も有るさ。
結衣さんのほうは二匹とも肉が出たらしく、笑顔でこっちに肉を渡してくる。これで一万円。良い収入になった。
「やっぱり十二層のほうが肉出やすいとかあるのかな。帰りの分も含めて結構な量になりそうだ」
「体感上無いと思う。それよりまだ重さは大丈夫? さすがにそろそろ重さを感じ始めるころになると思うんだけど」
「まだ大丈夫。バッグに入りきらなかったらエコバッグを入れてあるから、それに移しながらの移動になるんでちょっと戦闘を任せ気味になるかもしれないかな」
「じゃあその辺はこっちに任せてもらおうかな。後、本当にきつかったら言ってね。私のバッグにはかなりの余裕があるので」
「重くなったらその辺を相談しよう。とりあえず今は大丈夫」
実際はかなり大丈夫であるが、バッグを覗かれるような事が無い限りは問題ないだろう。スケルトンの骨が手に入るあたりから徐々に相談していこう。
引き続き密度の薄いところを二人歩く。文月さんと歩くときとはまた違った、ほんわかとした空気の中で道を行く。結衣さんはずっと機嫌が良いようで、時々槍をグルグルと回しながら楽しそうにしている。
俺はいつも通り関係ない事を考えつつも常にモンスターが近寄ってこないかどうか確かめながら移動し、そろそろ暇だなと思った頃に少しだけ森に近づきモンスターを釣ってくる。
順調と言えば順調だが、刺激はちょっと足りない気がする。もっと厳しい狩りをしているのに体が慣れてしまっているようだ。
逆に結衣さんにはちょっと厳しいと感じるところがあるかもしれないな。冷静に考えれば普段ここを五人で回っている訳だから、一人一殺という所だろう。それが今日は一人で二匹三匹を相手する必要がある。普段回っているのとは違った刺激があるかもしれないな。
「もしかして、数が多く感じてちょっと厳しい? 」
「そんなことはないけど、普段より動くからなんだか新鮮かも。それに安村さんは普段からこんな感じなんでしょう? 」
「正直なところをいうと普段より楽。十二層のこの辺を歩いてても四匹普通に出てくるし、もうちょっとエンカウントも早いかな」
「なるほど。それなら慣れてても不思議はないね。こっちは普段は一体ずつしか相手しないからちょっと考えながら動かなくちゃいけなくて。まだ慣らし運転って感じ」
「そのままで行こう。まだ目的の十三層にもたどり着いてない訳だし」
無理に数が多いほうへ行く必要は無い。このまま十三層まで行ってスケルトンを狩るのが今日の目的だ。オーク肉を数を集めたいなら帰り道の十一層でも問題は無い。よってこのままのペースで行く事にした。
十三層への階段はまだ見えない。さすがに焦りすぎだとは思うが、清州ダンジョンは広いんだなぁ、という感想が頭の中で漏れる。
「もしかして、暇だとか考えてない? 」
「割と考えてる。でもたまにはいいなとも思ってる。普段はこうしてゆっくり周りの景色を楽しむ余裕も無いし」
「そこまで忙しかったっけ……あぁでも二人だと忙しくてもしょうがないか」
「それにこうしてるとデートっぽいしな」
結衣さんの顔がまた赤く染まりつつある。ちなみに周りの景色を見まわしたりしているのは本当だが、同時にモンスターの気配も探っているので決して手を抜いている訳ではない。
ただ、小西ダンジョンに比べてモンスターの気配、つまり足音とか森の中から抜け出てくるような音が少ないため緊張感もその分少ない。十一層で後ろから付いてきていた探索者はそのまま十一層へ残ったのかそれとも十二層のより森側へ行ったのか、見えなくなってしまっている。
長閑に歩きつつ森林浴でも楽しむがごとく二人で歩き、たまに出てくる敵を倒す。そんな行程を四十分ほど楽しんだところで階段が見えてきた。
「あそこが十三層の階段か。ここより気温低くてちょっと体冷えるんだよね」
「十四層で仮眠取る時もちょっと肌寒いのよね。私は毛布にくるまって寝てるけど」
「やっぱりここまで頑張って寝袋とか毛布とか持ってきてるのか」
「気合で乗り切って休憩する探索者も居るみたい。後は寄り添って眠るとか」
「運動して汗かいたところで人肌にぬくもりを求めるのはちょっとなぁ」
最後と思われるオーク三体を待ってましたと言わんばかりに黒い粒子に還す。結局十二層でもそれほど多いモンスターとは出会わなかった。これから同じ分だけの荷物を持ってまた七層まで戻らなくてはいけないのだから、そう考えるとモンスターが少なかったと感じるのはラッキーだと言えよう。
とはいえ、保管庫の中身を結衣さんに気づかれないようにそっと計算してみる……うん、十分すぎる稼ぎになっている。これを往復すると考えると普段と同じぐらいの金額になる可能性があるな。十三層にどのくらい滞留する事になるかは解らないが、ほどほどにしておかないとな。帰り道で怪しまれても困るし。
「虚空を見つめてどうしたの? 頭の休憩? ステータスブーストの調節とか」
「そんな感じ。後今からちょっと寒いエリアに入るんだという覚悟を決めてる」
保管庫のリストを眺めている様は人からはそういう風に見えるらしい。何もない虚空を見つめてる人。それが俺。今からはスケルトンの魔結晶でバッグが埋まっていく事になる。ちょっとバッグの中身を確認しつつ、とりあえずポーション類だけ預けてしまうか。
「ちょっとポーション類だけ預かっててくれない? 今からスケルトンの骨と魔結晶を入れていく事を考えるとちょっと空きが欲しいと思うので」
「わかった、こっちにちょうだい。後それ以外も何かあったら受け取るよ」
「じゃあボア肉を。オーク肉はこっちで引き取っておけば後で分別せずに済む」
十三層に入る前に休憩がてら、バッグ経由で保管庫からドロップのポーションと、ついでにボア肉を預かってもらった。お互い多少動きが悪くなるが本来の探索とはそういうもののはずだ。ちょっと今日は試しに全ドロップ品をバッグに戻してその状態で狩りに興じてみよう。
保管庫から荷物を出すと背負いなおした。一気にバッグの重さが加算される。外目からはそう変わりないように見えるはずだが、しかし魔結晶の多さよ。これが全体の半分ぐらいの重さになっている。この状態で骨ネクロダッシュをしなければならない。
これも訓練の内と思い、ステータスブーストをより一段階引き上げて対応していく事にする。背中の荷物が再び軽く感じるようになった。これでいい、これでいこう。ステータスブーストが効かない地上の事はまたその時考えればいいや。
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