305:現在地++
気持ちのいい目覚めの朝だが雨だ。そろそろ梅雨も明けてくれるだろうか。ダンジョン内でも雨が降るわけではないので行き帰りに少々濡れるかどうかというところだ。出来る事なら晴れてるほうが精神的にも気楽だ。雨は気が滅入りやすい。テンションを維持するにも晴れ間を有効活用していきたいところだな。夜には一旦雨は止むらしい。
昨日は出来るだけ早く寝たおかげで自然に目が覚めた。疲れは……もう残ってないな。今日は一日元気に活動できそうだ。ありがとうダーククロウ。まだまだ俺の眠りを気持ちよく迎えさせてくれている。
今日の朝食はトースト二枚に目玉焼き、そして昨日のうちに用意しておいた蒸し野菜予定の皿をレンジで温める。いつもよりちょっと豪勢な朝飯だ。何ならサラダチキンの代わりにバラ肉風に細かく切ったウルフ肉でも良かったな。また考えておこう。
食事を終えて片づけをすると普段着に着替える。たまには香水でも振ってみようかとも思うが、匂いも香りが気になって物事に集中できなくなる事も有るからな。精々柔軟剤の香りを味わうぐらいに留めておく。新浜さんは多分香水を軽く着けていたんだろう。あれはいい香りだった。なんて香水だろう。
少なくとも今日明日は俺の予定表はフリーだ。文月さんは本業が立て込んでいるらしくしばし学業に専念する事になっている。本業を疎かにしてはいけないからな。いくら稼げるとはいえせっかく通った大学を中退してまで探索者になれなんて俺には言えるはずも無いし本人もそのつもりは無いだろう。文月さんが選んだ進みたい道をそっと後押しするのが俺のやるべきことだと思う。
そんなわけで朝一から調べものだ。十五層、十六層のダンジョンの特性の確認と、ウルフ肉のドロップ確定情報があるかどうかを調べることにした。
まず、ウルフ肉のドロップに関する事だ。田中君との検証の結果。骨を咥えてパッシブ状態になっているグレイウルフからはほぼ確実にウルフ肉が落ちることを確認することができた。
まずネットでグレイウルフについて調べると、グレイウルフの生態について調査している探索者が居た。すると、グレイウルフにはパッシブ状態に戻るタイミングがあるかもしれない、という情報を引き出すことが出来た。だが、骨を使うという所については言及されてなかった。
犬に骨。ありきたりと言えばありきたりだが、意図的に情報を隠しているようなそぶりが見える。パッシブ状態にできる、という点でどうやら俺と同じ行為を続けている可能性が高い。やはり気づく人は気づくし、そういう遊び要素を楽しみながら探索をしている人はそれなりに居るようだ。
とりあえず鶏や羊の骨、豚の骨や牛の骨なんかで餌付けが出来ないか試しているような探索者は居たが、これじゃ多分ダメだわ、という結論で終わっているブログを書いている人が何人も見受けられる。やっぱりみんな犬に骨で試すんだろう。これは一般アクセスのネットでは同じようなものだった。
続いて探索者ネット、つまりCランク以上のアクセスが出来るネットワークで同じ情報を収集してみると、結構簡単なワードで求めていた情報にたどり着くことが出来た。スケルトンの骨でグレイウルフを飼いならすとまでは行かないがアクティブモードからパッシブモードに変化させることが出来る。そしてその状態のまま一撃で倒すとグレイウルフの肉が高確率で出るとはっきりと書かれている。
良かった。俺以外にも同じことを考えた人はいっぱいいたんだな。ブログのコメントにもやってみたら出たよありがとうという声がいくつか聞こえてくる。骨を確保するにも一苦労あるからな。ただ、十三層まで潜れる探索者がそこまでウルフ肉を集中して集める必要があるかどうかと言われると、報酬の点ではまず無いだろう。
田中君みたいな食肉を集めるお抱え探索者でDランクまで取ったけど会社からはウルフ肉拾って来いと言われる……みたいな需給バランスの為に二層三層で活動している探索者にとっては大事な情報だな。
今日はパーティーメンバーも都合が悪いけど俺は暇、しょうがないから軽く浅いところで狩ろうとなる時に六層へ行くか、四層へ行くか、二層でウルフ肉を集めるか……と選択肢を一つ増やす事も出来る。
俺だけが思いついた訳じゃないという確証みたいなものを得られたところで十五層十六層の内容を確認する。地図の形は違うとはいえ、傾向みたいなものはつかんでおきたい。
まず、十五層。ひときわ大きなボス部屋が真ん中に鎮座しているのは何処のダンジョンも同じらしい。ボス部屋にはかなり重そうだが実際には結構軽い扉が用意されており、その扉を開けて中に入るとボス戦、という感じのようだ。覗くだけ覗いてお邪魔しました……みたいなことは出来るんだろうか。
解りやすいダンジョンでは、ボス部屋を囲むように回廊みたいな構造になっていて、半周回って反対側に十六層への階段、みたいな所もあるらしく迷う事は無いらしい。むしろ十四層のほうがクネクネしていることもあるようだ。十四層で迷うと戦闘も無い分純粋に時間のロスだな。出来るだけ早く階段を見つけておきたいところだ。
手元にある作りかけの十三層の地図を見る。さぁ、この何処に十四層への階段があるのか。出来る事なら十三層と十四層同時に地図を完成させて大手を振って地上に帰りたいものだ。
十六層は迷宮化がさらに激しくなる。曲がり角が多い分モンスターの視界外リポップも増えるだろう。それにスケルトンアーチャーという新しい敵が出る。ただこいつは実弾としての矢ではなくエネルギー弾みたいな矢を放ってくるらしく、矢というよりは魔法に近いらしい。
連射速度はそこまで早くなく、ダメージもそこまで大きくは無い……と書かれているが、ステータスによってダメージ量に違いはありそうだ。エネルギー弾のダメージがどんなものかは喰らってみないと解らないだろうな。そもそもエネルギー弾の攻撃、というものが人体に対してどう作用するんだろう?
そのエネルギー弾の速さや正確さを調べるために動画を漁り始める。十六層まで潜って撮影をしに来ている探索者が居るかどうかだ。検索ワードを色々試し、日本語ではなく外国語を翻訳アプリを通してそれっぽいワードを放り込んで検索したところ、海外の探索者で十六層に潜っている動画を見つけた。
海外の探索者たちは何処まで自分が潜っているかをアピールするのが割とメジャーな探索ライフらしく、各階層各ダンジョンでそれぞれ違った風景を見せてくれながらも戦闘の様子を冷静に伝えてくれている。何語か解らない解説を話しながらだが、翻訳字幕でなんとか追える程度にはなっている。
十五層のボス部屋の様子を映している動画はあったが、さすがに中に入ってまで撮影を続ける探索者は居ない模様だ。つまり十六層の敵よりも厄介だということか、それともボス戦は映してはいけないローカルルールでもあるのか、ボス戦中の動画は探したが無かった。
やはりあれか、探索者たるものその先は自分の目で確認しよう、みたいなものなんだろう。なんだかワクワクしてくるな。そう遠い日の話ではなくなってきたボス戦も見えるところまでやってきた。焦る必要は無いがなんだかダンジョンに行きたくなってきたな。ちょっとダンジョン行ってくるか。
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