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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第四章:中年三日通わざれば腹肉も増える

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304/1245

304:中華屋、経費

 

 田中君と別れダンジョンを去ろうと帰り道に向かう。二層から一層に向かっていく間にグレイウルフもそこそこの数出たので、これはへそくりにしておこうと骨を新しく取り出してウルフ肉集めを続ける。後一時間半ぐらいは時間の余裕はあるが、スライムも狩りたいし真っ直ぐ二層を通りぬける事にする。


 二層の間にウルフ肉を新たに六個ほど手に入れた。中華でも食って帰るか、爺さんのところで必要なら納品しよう。


 一層に戻るとどやどやと人が帰っていくような感覚が伝わる。ギリギリまでスライムを狩ろうという人は居ないようだ。一旦出入口に向かってスライムを狩りながらまっすぐ帰る。やっぱり一日の最後にはスライム狩りだよな。


 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。

 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。


 何時ものリズムでスライムを狩る。このリズムが頭の中を反響するように広がり、今の俺なら多少の失敗やミスも許せそうになる。ドロップが全然でなくても良い。大事なのはこの心に豊かさを与えてくれるような時間だ。


 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。

 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。


 おや、五匹揃って仲良く並んでいるスライムだ。五匹兄弟かな? みんなまとめて一緒が良いよな。熊手を手から離し、素手で同時に五匹の核を抜くとそのまま握りつぶす。五匹は仲良く黒い粒子に還っていった。ヒールポーションがでた。おや、これは仲良く昇天させたお礼かな? 有り難く受け取っておこう。


 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。

 グップツッコロンパン。グップツッコロンパン。


 通り道を掃除しながら四十分。出入り口に着いた。名残惜しいが今日はここまでだ。今からまた七層に戻ってジャイアントアントなりを狩るのも出来るがせっかく地上目の前に居るんだしそのまま帰ろう。


 退ダン手続きをしに受付に行くと不思議な顔をされた。


「あれ、今日はお早いお帰りですね」

「七層キャンプを楽しんで来たってところですかね。一応往復してちょっと狩りして帰ってきたってところです」

「じゃあ今日はアレの出番は無かったんですね。ちょっと残念です」


 リヤカーを見ながら残念そうにしている。それは文月さんと一緒に潜りに来た時大いに活躍してくれる予定だから今日は大目に見て欲しい。


「今日は一人でしたからね。さすがにそこまでの荷物を集められるほどの密度の狩りは出来ませんよ」

「ですよね。お疲れ様でした」


 そのまま査定カウンターに行くとまた珍しいといった目線で見られた。


「この時間に帰ってこられるのは久しぶりなんじゃないですかねー。一泊してスライム狩りとかじゃなかったんですかー? 」

「今日は一応やりたいことがあってそれが終わったのでそのまま帰ってきました」

「そうですかー……って、グレイウルフの魔結晶はあるけど肉はありませんねー。誰かに渡しましたねー? 」


 田中君にありったけ渡したのを見抜かれている。どうやら魔結晶の大きさで何を狩ってきたか判断したらしい。恐ろしい観察眼だ。


「ちょっとしたペア狩りだったもんで、その相方に全部渡してしまいました」

「まぁ、良いんですけどねー。その分査定も早く終わりますしー。しばらくお待ちくださいねー」


 五分ほどして査定が終わる。さすがに量が量なので査定も早い。七万五千二百四十五円。まぁ、二層メインならこんなものだろう。いや、二層メインだったとしても充分な収入になった。それに加えて田中君に買い取ってもらった四万円があるからな。日帰り十一万なら悪くない。


 最近報酬の感覚に麻痺しかけているが、一日で十万稼ぐだけでも世の中でみれば稼いでいるほうなのだ。休みなしで毎日十一万稼いでるなら、年間で四千万稼ぐことになる。実際は週二回のほぼ一泊二日で五十万円以上稼いでいるのだから更に多い。


 こんなゆっくりした日があっても良いだろう。帰る前に飯を済ませていくか。駐輪場で自転車を保管庫から取り出しそのまま中華屋へ。久しぶりに爺さんの餃子と唐揚げが食いたい。そういう気分だ。


 自転車を店の前にササっと停めて久しぶりののれんをくぐる。客入りは自分以外に三人か四人ぐらい。そこそこってところかな。大繁盛しているという感じではない。他の探索者も帰りに寄って行けばいいのに……と、明らかに探索者な奴がもう一人いたわ。


「おう兄ちゃん。こんな時間に来るのは珍しいな。飯か、買い取りか? 」


 今日も爺さんは元気そうだ。頭に巻いた頭巾を直しながら俺の顔を見る。


「どっちもいけるよ。何が要る? 」

「ウルフ肉が数有ると嬉しいね。あとボア肉があれば二つほど欲しい。ボア肉使ったトンポーロウが結構好評でな。それに使うんだ」

「なるほど、じゃあウルフ六パックとボア二パックでどうよ」

「じゃあそれで。四千二百円だな。すぐ渡す」


 バッグから肉を取り出すと早速渡して先に費用をもらう。一応メモ帳に中華屋四千二百円とメモ書きしておく。


「注文、唐揚げ定食と餃子。後お任せで適当に一品。ウルフ肉じゃなくても良いよ」

「あいよ、ちょっとまっとってくれ。水はセルフでな」


 自分で水を勝手に入れおしぼりを取り、適当に空いてる席に座る。勝手知ったる……というほど通い詰めてはいないが、お互い気を使わない距離感で爺さんとはうまくやれていると思う。


 しばらく待つとまず餃子が届いたので熱いうちに早速いただくとしよう。どうやら今日は普通の豚肉のようだ。悪いという訳ではない。これもこれで美味しい。しっかり焦げ目がつくまでカリッと焼き上げられていて、焦げ目と餃子のたれの交わった部分なんか最高に美味い。もうここだけ食べていたい。


 餃子を食べている間に唐揚げ定食が運ばれてきた。さて、ご飯をモリモリ食いながら鶏をしっかり味わおう。鶏の唐揚げは良いぞ。定食についてきたスープで口の中をほんわかリセットしつつ、米、唐揚げ、キャベツと順番に回していく。


 ご飯のお代わりをしたタイミングで回鍋肉が届く。今日のお任せの一品はこれらしい。回鍋肉、子供の頃は混ざっているピーマンの苦みが嫌いで食べられなかった。青椒肉絲は言わずもがなだ。歳をくったせいかそれとも味覚の変化か、今では割と好きなほうのメニューにランキングされている。


 オイスターソースの香りが食欲をそそる。キャベツとピーマンと豚肉を口に入れ、肉とピーマンの苦みとキャベツの甘味を同時に味わう。ほのかに香る豆板醤も食欲をそそる。酒が飲めないので酒の良さは解らないが、ついビールが一杯飲みたくなるという気持ちだけは解る。いや、中華なら紹興酒か? どっちにしろ飲みたくなるんだろうな。


「兄ちゃんは酒飲めんのか? それとも飲まんのか? 」


 手の空いたらしい爺さんが世間話に来る。


「飲めないほうだな。一杯でフラフラになるし眠くなる。ちょっともったいないとは思うが体質だからしょうがない」

「そうか、そいつは酒のつまみ用としちゃ人気あるんだ。今度誰かと飲み食いに来る時はお薦めしといてくれや」


 来るとしたら小寺さんたちか田中君ぐらいしか選択肢は無いが覚えておこう。回鍋肉とご飯でモリモリ食えるようになった俺に負ける要素は無い。ご飯の一粒切れ端の一つも残さず綺麗に食べ終わった。


「ごちそーさん。今日も美味かったよ」

「おうさ、またな。ウルフ肉ならいつでも買い取りするからよ、また気が向いたら持ってきてくれ」


 会計を済ませ、また肉持って来いと暗に念押しされたが、とりあえず今度は今度だ。へそくりの分まで譲り渡すつもりはない。そういえば何かいい料理を思いついたかを聞いておくべきだったな。時間的余裕があるならそれも喰わせてもらえば良かったか。まぁ中華屋は逃げないんだ、今度で良いよ今度で。


 自転車で駅まで行き、見られないように保管庫にしまい込むと電車に乗り最寄り駅へ。帰る途中のコンビニで適当に雑誌を立ち読みしつつ、明日の朝飯の付け合わせを何にしようか考える。タンパク質と脂質は十分とってるからやはりサラダが必要か。サラダチキンと蒸し野菜に使い切らなかったサラダで一皿作るか。


 家に着くと先に明日の朝の飯の準備を今のうちに済ませてしまう。かぼちゃ・じゃがいも・人参の残りを細く刻んでサラダチキンはほぐしておく。耐熱皿に入れて水を一たらししてラップに包んでおく。これで明日レンチンするだけで簡単蒸し野菜の出来上がりだ。細かくしておいた分早く終わらせられるだろう。


 朝食の準備は整えた。後は着替えて洗濯して、ゴミの処理して、スキレットを綺麗にして、風呂に入る。……さて、明日は何しようかな。明日明後日もフリーだ。純粋な休日というのは意外と困る。特に今は予定も無いので一日ボーっとするのも良いかもしれないな。


 調べ物をする……そうだな、ウルフに骨を与えてウルフ肉を量産するという話が広まっているかどうかを調査する事も有りだな。小西ダンジョンでは知られていなかっただけで、他のダンジョンでは広まっている可能性だってある。その辺をゆっくり調べようかな。


 十五層の情報だって調べておいて損は無いだろう。ボス部屋というのがどう設置されているのか。他のダンジョンでの情報が欲しい。何の情報も無しに挑むことは危険が危ない。


 そういえば寝袋とインナーシュラフの値段を文月さんに請求しないといけないな。連絡送っとくか。


「寝袋とかエアマットとか買ったから次に潜る時にお金用意しててね」レインで連絡をつけておく。


 するとすぐに返信が来た。「今までの分の私の荷物の買ってもらった分、まとめて請求ください。細かく経費を管理してると信じてますので」


 ……寝る前にやっとくか。今までにかかった経費で文月さんの分を肩代わりしてた金額を算出して、その分をスマホで撮影。ちゃんと証拠のレシートを撮影した上で後日請求しよう。


 エアマット二枚・小さいテント・シュラフ・インナーシュラフ・それから……飯代は良いか。ボア肉なんかは経費に含まれないだろう。食費は経費に入れられないだろうからな。七層に設置してあるテントは俺もちで良いとして……十四層に設置する予定のものも俺の支払いで良いか。


 そうなると……合計で五万円ぐらいか。一円単位で請求するのは小銭が増えて邪魔だが、この辺はきっちりしておくのが大事なんだろう。ここはきっちりと計算しておこう。


 正直共有財産みたいな扱いだと考えていたので、そこまで気にする必要は無いのだが文月さんがきっちり分割したいと考えているならそれに従おう。


 寝る前に計算をしたおかげで少し目が冴えてしまったが、俺にはこの布団と枕がある。きっと今日も極上の眠りを与えてくれるだろう。細かい事は明日に回して今日は眠ろう。時間はある、ゆっくりと眠る時間が今の俺には必要だ。明日に疲労を残さないためにも早めに眠る事は大事だ。おやすみ。



作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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